6 / 98
6 入浴
しおりを挟む
やがて侍女は廊下を進んだ先の扉を開けるとその中へと私をいざなった。
…ここは脱衣所かしら?
孤児院にはお風呂場はあったが、脱衣所なんてものはなかった。
小さい頃は芋の子を洗うような状態でお風呂に入れられ、さっさと服を着せられた。
年長者になると先生達と一緒に小さい子供達の面倒を見なくてはならなかったから、ゆっくり入ってもいられなかった。
おまけに冬場はお湯を沸かす回数を減らす為に、二日に一回の入浴と決められていた。
孤児院を出てジェシカと住んでいた部屋にはお風呂なんてなかったから、生活魔法のクリーン魔法で身体を綺麗にしていた。
前世の時でもこんなに広い脱衣所なんて普通の家庭には無かったわ。
キョロキョロと脱衣所の中を見回していると、侍女の一人が私の服を脱がせにかかった。
「ジェシカ様、失礼いたします」
あっという間に服を脱がされて素っ裸になった私はそのまま浴室へと連れて行かれた。
そこに置いてある椅子に腰掛けさせられ、お湯をかけられる。
数人がかりで髪や身体を洗われると、ようやく浴槽へと身体を浸した。
…こんなふうにゆっくりとお湯に浸かるなんて、この世界に生まれてから初めてだわ。
もしも孤児として生まれなかったら、もっと普通の生活をしていたのかしら…。
目を閉じてそんな事を考えていると、不意に目頭が熱くなった。
涙が零れそうになり、慌ててお湯をすくうとバシャッと顔を洗う。
「ジェシカ様、どうかされましたか?」
私の様子に驚いたように侍女が声をかけてきた。
「何でもないわ。…そろそろ上がっても良いかしら?」
そう尋ねると侍女が手を貸して私が浴槽から出るのを手伝ってくれる。
浴槽から上がるとそのまま脱衣所に連れて行かれて全身をタオルで拭かれて着替えさせられた。
身に付けられるのは触った事もないような上質の生地で作られたドレスだった。
こんな綺麗なドレスが私に似合うのかしら?
そんな事を考えている間にもドレスを着せられると、今度はドレッサーの前に座らされた。
髪をくしけずられた後でヘアスタイルが整えられ、軽く化粧が施される。
「まあ、お綺麗ですわ、ジェシカ様」
正面の鏡に映っていたのは先程までのみすぼらしい少女ではなくて、どこからどう見ても貴族のお姫様だった。
…これが私?
思わず頬に手をやると、鏡の中の少女も同じポーズを取る。
そこでようやく鏡に映っているのが紛れもなく自分自身だと実感した。
足にも真新しい靴が履かされたけれど、いつの間にこんなにピッタリな靴を用意したのかしら?
あのまま生活していたら、一生かかっても履けそうもないような高級そうな靴だ。
全ての準備が整うと一番年配者らしい侍女が満足そうに頷いた。
「それでは参りましょうか。ジェシカ様、お立ちください」
そう言うと侍女は私に手を差し出して椅子から立ち上がるのを手伝ってくれた。
初めて履いた少しヒールのある靴に恐る恐る立ち上がったが、ピッタリとフィットした靴は痛みを感じなかった。
そのまま侍女に手を取られて脱衣所から出ると、廊下を元来た方へと戻って行く。
そのまま玄関ホールに出るとそこには執事のモーガンが待っていた。
「ジェシカ様、旦那様の所に行く前に一つだけお伝えしておきたい事がございます」
私が近付くとモーガンがそう切り出した。一体何を言われるんだろう?
「この度、ジェシカ様の行方を探されたのは奥様のラモーナ様です。残念ながらジェシカ様が見つかる前にお亡くなりになりました。もしかしたら旦那様もジェシカ様を歓迎されないかもしれません。その事を心に留めておいてください。…準備はよろしいですね。それでは旦那様の所へ参りましょう」
…つまり、先程のハミルトンのように辛辣な言葉を投げられるかもしれないって、事ね。
モーガンが先導する後を侍女に手を取られて進んで行く。
廊下にもカーペットが敷き詰められていて、足音がしない。
広いお屋敷の中をどこまでも歩いて行くと、ようやくモーガンが一つの扉の前で足を止めてノックをした。
「旦那様、ジェシカ様をお連れしました」
モーガンが声をかけると一呼吸置いたところで返事が返ってきた。
「入れ」
…これがジェシカのお祖父様の声?
…このままジェシカのフリを続けられるのかしら?
私はゴクリと唾を飲み込んで、モーガンが開けてくれた扉の中に足を踏み入れた。
…ここは脱衣所かしら?
孤児院にはお風呂場はあったが、脱衣所なんてものはなかった。
小さい頃は芋の子を洗うような状態でお風呂に入れられ、さっさと服を着せられた。
年長者になると先生達と一緒に小さい子供達の面倒を見なくてはならなかったから、ゆっくり入ってもいられなかった。
おまけに冬場はお湯を沸かす回数を減らす為に、二日に一回の入浴と決められていた。
孤児院を出てジェシカと住んでいた部屋にはお風呂なんてなかったから、生活魔法のクリーン魔法で身体を綺麗にしていた。
前世の時でもこんなに広い脱衣所なんて普通の家庭には無かったわ。
キョロキョロと脱衣所の中を見回していると、侍女の一人が私の服を脱がせにかかった。
「ジェシカ様、失礼いたします」
あっという間に服を脱がされて素っ裸になった私はそのまま浴室へと連れて行かれた。
そこに置いてある椅子に腰掛けさせられ、お湯をかけられる。
数人がかりで髪や身体を洗われると、ようやく浴槽へと身体を浸した。
…こんなふうにゆっくりとお湯に浸かるなんて、この世界に生まれてから初めてだわ。
もしも孤児として生まれなかったら、もっと普通の生活をしていたのかしら…。
目を閉じてそんな事を考えていると、不意に目頭が熱くなった。
涙が零れそうになり、慌ててお湯をすくうとバシャッと顔を洗う。
「ジェシカ様、どうかされましたか?」
私の様子に驚いたように侍女が声をかけてきた。
「何でもないわ。…そろそろ上がっても良いかしら?」
そう尋ねると侍女が手を貸して私が浴槽から出るのを手伝ってくれる。
浴槽から上がるとそのまま脱衣所に連れて行かれて全身をタオルで拭かれて着替えさせられた。
身に付けられるのは触った事もないような上質の生地で作られたドレスだった。
こんな綺麗なドレスが私に似合うのかしら?
そんな事を考えている間にもドレスを着せられると、今度はドレッサーの前に座らされた。
髪をくしけずられた後でヘアスタイルが整えられ、軽く化粧が施される。
「まあ、お綺麗ですわ、ジェシカ様」
正面の鏡に映っていたのは先程までのみすぼらしい少女ではなくて、どこからどう見ても貴族のお姫様だった。
…これが私?
思わず頬に手をやると、鏡の中の少女も同じポーズを取る。
そこでようやく鏡に映っているのが紛れもなく自分自身だと実感した。
足にも真新しい靴が履かされたけれど、いつの間にこんなにピッタリな靴を用意したのかしら?
あのまま生活していたら、一生かかっても履けそうもないような高級そうな靴だ。
全ての準備が整うと一番年配者らしい侍女が満足そうに頷いた。
「それでは参りましょうか。ジェシカ様、お立ちください」
そう言うと侍女は私に手を差し出して椅子から立ち上がるのを手伝ってくれた。
初めて履いた少しヒールのある靴に恐る恐る立ち上がったが、ピッタリとフィットした靴は痛みを感じなかった。
そのまま侍女に手を取られて脱衣所から出ると、廊下を元来た方へと戻って行く。
そのまま玄関ホールに出るとそこには執事のモーガンが待っていた。
「ジェシカ様、旦那様の所に行く前に一つだけお伝えしておきたい事がございます」
私が近付くとモーガンがそう切り出した。一体何を言われるんだろう?
「この度、ジェシカ様の行方を探されたのは奥様のラモーナ様です。残念ながらジェシカ様が見つかる前にお亡くなりになりました。もしかしたら旦那様もジェシカ様を歓迎されないかもしれません。その事を心に留めておいてください。…準備はよろしいですね。それでは旦那様の所へ参りましょう」
…つまり、先程のハミルトンのように辛辣な言葉を投げられるかもしれないって、事ね。
モーガンが先導する後を侍女に手を取られて進んで行く。
廊下にもカーペットが敷き詰められていて、足音がしない。
広いお屋敷の中をどこまでも歩いて行くと、ようやくモーガンが一つの扉の前で足を止めてノックをした。
「旦那様、ジェシカ様をお連れしました」
モーガンが声をかけると一呼吸置いたところで返事が返ってきた。
「入れ」
…これがジェシカのお祖父様の声?
…このままジェシカのフリを続けられるのかしら?
私はゴクリと唾を飲み込んで、モーガンが開けてくれた扉の中に足を踏み入れた。
37
あなたにおすすめの小説
拾った指輪で公爵様の妻になりました
奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。
とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。
この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……?
「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」
公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる