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応接室は既に私達が入る事を想定されたような配置がされていた。
玄関ホールで揉めている間にモーガンが他の使用人に手配していたのだろう。流石はやり手の執事殿だわ。
当然の事ながら上座はユージーンが躊躇う事なくドサリと腰を下ろした。
その向かい側に私を挟んでお祖父様とハミルトンが座る。
お祖父様は車椅子なのでちゃんとそれを考えてスペースが空けてある。
少し遅れてお義母様までもが応接室に入って来た。
「まあ、ユージーン様。今日来られるとは聞いておりませんけれど、一体どのようなご用件でしょうか?」
お義母様がまるで笑っていない笑顔でユージーンに笑いかける。使用人から粗方の話を聞いているようだ。
「パトリシア叔母様、突然の訪問を申し訳ありません。今から詳しく説明しますのでお座りください」
ユージーンに勧められてお義母様がお祖父様の横の一人掛けのソファーに腰を下ろした。
皆が揃ったのを見てユージーンがおもむろに話し出す。
「先ずは父上である国王が以前付き合っていた女性の行方を探すように命じたのが発端です。その結果、その女性は既に亡くなっており、その女性が産んだ娘がそこにいるフェリシアです」
そう言ってユージーンが私を指差す。
ジェシカでなくフェリシアと呼ばれた事で私は思わず俯いてしまう。
「しかし、フェリシアはそれよりも前にこちらのダグラス叔父上の忘れ形見であるジェシカを捜しに来たベイル弁護士によって、このアシェトン公爵家に連れて来られていました。どうやらフェリシアはジェシカが亡くなっている事を伝えられずに、ジェシカの代わりにこの家に来たようです。…そうだよね、フェリシア」
どうやらユージーンは私がジェシカのフリをしているのは、悪意を持っての行動ではないと言いたいようだ。
あながち間違いではないんだけれど、そこに打算が無かったとは言い切れない。
けれどこの場合はユージーンの言葉に乗っかった方が無難だろう。
ユージーンの発言にお祖父様とお義母様は驚いたような表情を見せるが、ハミルトンだけはあまり驚いていないみたい。
もしかして、既に私がジェシカじゃない事を知っていたのかしら?
「ジェシカ、本当なのか? お前はジェシカではなくてフェリシアなのか?」
「そう言われればダグラスよりは陛下に似ているような気もするけれど、ユージーン様の言う事は本当なの?」
お祖父様とお義母様が口々に私に問いかけて来るけれど、ハミルトンだけは何も言ってこない。
皆の視線が集まる中、私はこれまでの事をポツリポツリと話し始める。
「私がフェリシアだと言うのは本当です。ジェシカはベイルさんが捜しに来られる前に亡くなりました。突然の事で私もジェシカが死んだ事を受け入れられなくて…。ベイルさんにジェシカが死んだとは言えなかったんです」
そこまで話した所で言葉を区切ると、隣に座るハミルトンがそっと私の肩に手を添えた。
ハッとして横を見るとハミルトンの優しそうな目が私に注がれている。
その視線に思わずキュンとなるけれど、私の事を怒っていないのかしら?
「ベイルさんに連れられてこの屋敷に来てジェシカの事を言うつもりだったのに、結局言えなくて…ごめんなさい…」
頭を下げた途端、ポロポロと涙が溢れる。
どうしてジェシカのフリをしようなんて思ったんだろう。
ろくでもない結果になる事は目に見えていたのに…。
泣きじゃくる私の背中を今度はお祖父様が優しくさすってくれた。
「ジェシカ、いやフェリシア。お前がジェシカのフリをした事を怒ってはいないよ。私達がもっと早くダグラスの事を探していればこんな事にはならなかったんだ。それにフェリシアが私の為にこのような車椅子を作ってくれたのは、私の事を考えてくれたからだろう? ありがとう、フェリシア」
お祖父様にお礼を言われて私は更に泣くのを止める事が出来なくなった。
罵倒されて追い出されたって文句は言えないのに、それをしないばかりかお礼まで言われるなんて…。
俯いて泣きじゃくる私の上からユージーンの明るい声が降り注ぐ。
「これでわかっただろう。彼女がフェリシアだって。だから彼女は僕が王宮に連れて帰るよ」
「ちょっと待て、ユージーン! フェリシアが君の妹だとどうして断定出来るんだ? ただ陛下に似ているだけかもしれないだろう?」
王宮に私を連れて行こうとするユージーンとそれを阻止しようとするハミルトン。
先程のように一触即発の雰囲気にお祖父様とお義母様はオロオロしている。
「仕方がない。それならばハミルトンも一緒に来い。フェリシアが父上の娘だという証明をしようじゃないか」
ユージーンはそう言って立ち上がるけれど、私が国王の娘だってどうやって証明するのかしら?
玄関ホールで揉めている間にモーガンが他の使用人に手配していたのだろう。流石はやり手の執事殿だわ。
当然の事ながら上座はユージーンが躊躇う事なくドサリと腰を下ろした。
その向かい側に私を挟んでお祖父様とハミルトンが座る。
お祖父様は車椅子なのでちゃんとそれを考えてスペースが空けてある。
少し遅れてお義母様までもが応接室に入って来た。
「まあ、ユージーン様。今日来られるとは聞いておりませんけれど、一体どのようなご用件でしょうか?」
お義母様がまるで笑っていない笑顔でユージーンに笑いかける。使用人から粗方の話を聞いているようだ。
「パトリシア叔母様、突然の訪問を申し訳ありません。今から詳しく説明しますのでお座りください」
ユージーンに勧められてお義母様がお祖父様の横の一人掛けのソファーに腰を下ろした。
皆が揃ったのを見てユージーンがおもむろに話し出す。
「先ずは父上である国王が以前付き合っていた女性の行方を探すように命じたのが発端です。その結果、その女性は既に亡くなっており、その女性が産んだ娘がそこにいるフェリシアです」
そう言ってユージーンが私を指差す。
ジェシカでなくフェリシアと呼ばれた事で私は思わず俯いてしまう。
「しかし、フェリシアはそれよりも前にこちらのダグラス叔父上の忘れ形見であるジェシカを捜しに来たベイル弁護士によって、このアシェトン公爵家に連れて来られていました。どうやらフェリシアはジェシカが亡くなっている事を伝えられずに、ジェシカの代わりにこの家に来たようです。…そうだよね、フェリシア」
どうやらユージーンは私がジェシカのフリをしているのは、悪意を持っての行動ではないと言いたいようだ。
あながち間違いではないんだけれど、そこに打算が無かったとは言い切れない。
けれどこの場合はユージーンの言葉に乗っかった方が無難だろう。
ユージーンの発言にお祖父様とお義母様は驚いたような表情を見せるが、ハミルトンだけはあまり驚いていないみたい。
もしかして、既に私がジェシカじゃない事を知っていたのかしら?
「ジェシカ、本当なのか? お前はジェシカではなくてフェリシアなのか?」
「そう言われればダグラスよりは陛下に似ているような気もするけれど、ユージーン様の言う事は本当なの?」
お祖父様とお義母様が口々に私に問いかけて来るけれど、ハミルトンだけは何も言ってこない。
皆の視線が集まる中、私はこれまでの事をポツリポツリと話し始める。
「私がフェリシアだと言うのは本当です。ジェシカはベイルさんが捜しに来られる前に亡くなりました。突然の事で私もジェシカが死んだ事を受け入れられなくて…。ベイルさんにジェシカが死んだとは言えなかったんです」
そこまで話した所で言葉を区切ると、隣に座るハミルトンがそっと私の肩に手を添えた。
ハッとして横を見るとハミルトンの優しそうな目が私に注がれている。
その視線に思わずキュンとなるけれど、私の事を怒っていないのかしら?
「ベイルさんに連れられてこの屋敷に来てジェシカの事を言うつもりだったのに、結局言えなくて…ごめんなさい…」
頭を下げた途端、ポロポロと涙が溢れる。
どうしてジェシカのフリをしようなんて思ったんだろう。
ろくでもない結果になる事は目に見えていたのに…。
泣きじゃくる私の背中を今度はお祖父様が優しくさすってくれた。
「ジェシカ、いやフェリシア。お前がジェシカのフリをした事を怒ってはいないよ。私達がもっと早くダグラスの事を探していればこんな事にはならなかったんだ。それにフェリシアが私の為にこのような車椅子を作ってくれたのは、私の事を考えてくれたからだろう? ありがとう、フェリシア」
お祖父様にお礼を言われて私は更に泣くのを止める事が出来なくなった。
罵倒されて追い出されたって文句は言えないのに、それをしないばかりかお礼まで言われるなんて…。
俯いて泣きじゃくる私の上からユージーンの明るい声が降り注ぐ。
「これでわかっただろう。彼女がフェリシアだって。だから彼女は僕が王宮に連れて帰るよ」
「ちょっと待て、ユージーン! フェリシアが君の妹だとどうして断定出来るんだ? ただ陛下に似ているだけかもしれないだろう?」
王宮に私を連れて行こうとするユージーンとそれを阻止しようとするハミルトン。
先程のように一触即発の雰囲気にお祖父様とお義母様はオロオロしている。
「仕方がない。それならばハミルトンも一緒に来い。フェリシアが父上の娘だという証明をしようじゃないか」
ユージーンはそう言って立ち上がるけれど、私が国王の娘だってどうやって証明するのかしら?
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