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その途端、ミランダは私から手を離すと両手で目を覆った。
「ギャアアア! 目が…目が…焼ける!」
ミランダの叫びに私は唖然とした。
そんなに目に影響のあるような光だったろうか?
私には普通に眩しいだけの光だったのに、ミランダにとっては違ったようだ。
ミランダが離れたせいか、先程まで動けなかった身体も普通に動かす事が出来るようになっている。
それはお父様とお兄様にとっても同じだったようだ。
動けるようになったお兄様の行動は早かった。
剣を持ったままミランダに踊りかかったかと思うと、目を押さえているミランダの胸を一突きにした。
「グッ!」
胸を剣に貫かれたまま、ミランダはその場に倒れた。
お兄様は私の側に駆け寄ると、ミランダから私を庇うように立ち塞がる。
けれどミランダは起き上がる事も出来ずに、顔を私に向けたまま息絶えた。
見開かれたままの目がこちらを見ているが、その目に光はなかった。
「フェリシア、傷は大丈夫か?」
ミランダの死を見届けたお兄様が、私の傷を心配してくれる。
「大丈夫、かすり傷です。私よりもお父様の方が…」
私の言葉にお兄様が慌ててお父様の元に駆け寄った。
お父様も身体が動けるようになったためか、その場にうずくまっている。
剣によってつけられた傷から、血がとめどなく溢れている。
「早く止血しないとお父様が死んでしまうわ」
「だけど、この場にヒールを使える魔術師はいないぞ。こんな時間じゃ王宮に残っている魔術師もいないだろう」
「そ、そんな…」
お父様は既に顔面蒼白で息も絶え絶えになっている。
ヒールを使える魔術師を探しに行っても間に合うかどうかわからない。
(私にヒールが使えたら…)
うずくまっているお父様の傷に触れながらそんな事を考えると、突然私の手がぼうっと光った。
その光によってお父様の傷が消えていく。
「フェリシア? まさかヒールが使えたのか?」
お兄様が驚きの声をあげるが、驚いているのは私も一緒だ。
傷が塞がっていくにつれて、お父様の顔色もだんだんと良くなってくる。
傷は治ったけれど、切り裂かれた衣服までは修理出来ないみたいね。
お兄様に手を取られて立ち上がったお父様だけれど、少しふらついてお兄様にもたれかかっている。
「ありがとう、フェリシア。まさかお前がヒールを使えるなんて知らなかったよ」
「私も今日初めて知りました。…もっと早くわかっていたらジェシカも死なずにすんだのかしら…」
私は自分の手を見つめながら、日に日に弱っていったジェシカを思い出していた。
魔法がある世界に転生したのに、どうして「ヒール」を試さなかったのかしら…。
ごめんね、ジェシカ。
「フェリシア。ジェシカだってわかってくれているよ。そんなに気に病むことはない」
お兄様が優しく頭を撫でて私を慰めてくれる。
「それにしても、ミランダが私の妹だったとは…」
お父様の呟きに私ははっとミランダの遺体に目を向けた。
「すみません、父上。生かしておいて色々と聞かなければいけない事があったのでしょうが、手加減出来ませんでした」
「いや、あの場合は仕方がない。それにたとえ生かしておいても結局は死刑になるのだからな」
お父様が憐れみの目をミランダに向ける。
前国王の娘と認められていれば、こんな事態にはならなかったのだろうか?
復讐など考えなければミランダはもっと別の幸せを掴めたかもしれない。
「…う…」
倒れているアガサからうめき声が聞こえて、私は急いでアガサを助け起こした。
「アガサ、大丈夫?」
「フェリシア様。大丈夫です。それよりミランダは?」
起き上がったアガサは倒れているミランダを見て何があったのかを察したようだ。
「まさかミランダがフェリシア様を襲ってくるなんて思いもしませんでした。こんな事になって残念です」
アガサは視線をお父様に向けると不思議そうに首をかしげた。
「ところで陛下。どうしてそんなにお召し物が破れているのですか?」
「ギャアアア! 目が…目が…焼ける!」
ミランダの叫びに私は唖然とした。
そんなに目に影響のあるような光だったろうか?
私には普通に眩しいだけの光だったのに、ミランダにとっては違ったようだ。
ミランダが離れたせいか、先程まで動けなかった身体も普通に動かす事が出来るようになっている。
それはお父様とお兄様にとっても同じだったようだ。
動けるようになったお兄様の行動は早かった。
剣を持ったままミランダに踊りかかったかと思うと、目を押さえているミランダの胸を一突きにした。
「グッ!」
胸を剣に貫かれたまま、ミランダはその場に倒れた。
お兄様は私の側に駆け寄ると、ミランダから私を庇うように立ち塞がる。
けれどミランダは起き上がる事も出来ずに、顔を私に向けたまま息絶えた。
見開かれたままの目がこちらを見ているが、その目に光はなかった。
「フェリシア、傷は大丈夫か?」
ミランダの死を見届けたお兄様が、私の傷を心配してくれる。
「大丈夫、かすり傷です。私よりもお父様の方が…」
私の言葉にお兄様が慌ててお父様の元に駆け寄った。
お父様も身体が動けるようになったためか、その場にうずくまっている。
剣によってつけられた傷から、血がとめどなく溢れている。
「早く止血しないとお父様が死んでしまうわ」
「だけど、この場にヒールを使える魔術師はいないぞ。こんな時間じゃ王宮に残っている魔術師もいないだろう」
「そ、そんな…」
お父様は既に顔面蒼白で息も絶え絶えになっている。
ヒールを使える魔術師を探しに行っても間に合うかどうかわからない。
(私にヒールが使えたら…)
うずくまっているお父様の傷に触れながらそんな事を考えると、突然私の手がぼうっと光った。
その光によってお父様の傷が消えていく。
「フェリシア? まさかヒールが使えたのか?」
お兄様が驚きの声をあげるが、驚いているのは私も一緒だ。
傷が塞がっていくにつれて、お父様の顔色もだんだんと良くなってくる。
傷は治ったけれど、切り裂かれた衣服までは修理出来ないみたいね。
お兄様に手を取られて立ち上がったお父様だけれど、少しふらついてお兄様にもたれかかっている。
「ありがとう、フェリシア。まさかお前がヒールを使えるなんて知らなかったよ」
「私も今日初めて知りました。…もっと早くわかっていたらジェシカも死なずにすんだのかしら…」
私は自分の手を見つめながら、日に日に弱っていったジェシカを思い出していた。
魔法がある世界に転生したのに、どうして「ヒール」を試さなかったのかしら…。
ごめんね、ジェシカ。
「フェリシア。ジェシカだってわかってくれているよ。そんなに気に病むことはない」
お兄様が優しく頭を撫でて私を慰めてくれる。
「それにしても、ミランダが私の妹だったとは…」
お父様の呟きに私ははっとミランダの遺体に目を向けた。
「すみません、父上。生かしておいて色々と聞かなければいけない事があったのでしょうが、手加減出来ませんでした」
「いや、あの場合は仕方がない。それにたとえ生かしておいても結局は死刑になるのだからな」
お父様が憐れみの目をミランダに向ける。
前国王の娘と認められていれば、こんな事態にはならなかったのだろうか?
復讐など考えなければミランダはもっと別の幸せを掴めたかもしれない。
「…う…」
倒れているアガサからうめき声が聞こえて、私は急いでアガサを助け起こした。
「アガサ、大丈夫?」
「フェリシア様。大丈夫です。それよりミランダは?」
起き上がったアガサは倒れているミランダを見て何があったのかを察したようだ。
「まさかミランダがフェリシア様を襲ってくるなんて思いもしませんでした。こんな事になって残念です」
アガサは視線をお父様に向けると不思議そうに首をかしげた。
「ところで陛下。どうしてそんなにお召し物が破れているのですか?」
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