75 / 98
75 凶行(ユージーン視点)
しおりを挟む
ミランダとフェリシアの前で宙に浮いていた剣が僕に近寄ってきた。
僕の目の前でピタリと止まった剣がキラリと光り、本物の剣だと主張している。
僕は頭の中でその剣を手に取りミランダに斬りかかる事をシミュレーションしてみた。
だが、これだけ距離があれば、僕が剣を持った時点で、ミランダはそのナイフをフェリシアの首に突き立てるだろう。
それにミランダも僕が斬りかかる事を想定して身構えているはずだ。
身動きもせずに剣を凝視していると、ミランダから一番聞きたくない言葉が発せられた。
「ユージーン、その剣でエリックを斬りなさい!」
ふざけるな!
僕にそんな真似が出来ると思っているのか!
返事の代わりに思いっきりミランダを睨みつけるが、彼女は涼しい顔だ。
「あなたがエリックを斬らないのならば、私がこのフェリシアを斬るわよ。自分の父親と、ほんの少し前に現れたばかりの妹。あなたはどちらを選ぶのかしら」
僕にどちらも選べない事をわかっていて、ミランダはわざとそんな事を聞いてくる。
「ユージーン! 私の事はいいからフェリシアを助けてやってくれ」
父上が必死の形相で僕に訴えてくる。
父上だってこの状況ではそう言わざるを得ないだろう。
一国の国王が息子に命乞いをするなんて、プライドが許さないはずだ。
そんな父上をミランダは小馬鹿にしたようにせせら笑う。
「どう、エリック? 自分の息子に殺されるのと、自分の娘が目の前で殺されるのと、どっちが好みかしら?」
そんな選択肢を突きつけてくるなんて、この女は人間の皮を被った悪魔だ。
なおも動かない僕にミランダはしびれを切らしたようだ。
「こんな手は使いたくなかったんだけど、仕方がないわね。…さあ、ユージーン。剣を持ちなさい」
ミランダが命令すると、自分の意志に反して手が勝手に剣に向かって伸びていく。
必死に抗おうとするが、ブルブルと震える手は剣の柄を握っていた。
「やめろ! ミランダ! 僕に父親殺しをさせる気か!」
「勿論よ。エリックは息子に殺されて死亡。息子は父親殺しの罪で処刑。この国はフェリシアが継ぐけれど、後見人として私が側にいてあげるわ。フェリシアはただ玉座に座っていればいいだけよ」
ミランダはフェリシアを傀儡にしてこの国を牛耳るつもりなのだろう。
抵抗も虚しく僕が剣を振り下ろすと同時に、父上の身体から血飛沫が上がった。
「くっ!」
父上の顔が苦痛に歪むが、身体は硬直したように微動だにしない。
「大丈夫。ひと思いに殺したりはしないわ。じわじわとなぶり殺してあげる」
「やめろ、ミランダ! これ以上はやめてくれ!」
何とか止めさせようとミランダに懇願するが、ミランダは「チッ」と舌打ちをする。
「ギャアギャアうるさいわね。少し静かにしてちょうだい」
なおも呼びかけようとしたが、口が開くだけで言葉を発する事が出来なくなった。
更に僕の剣は父上に向かって振り下ろされ、飛び散った血が僕の頬に張り付く。
僕の目から溢れる涙が、その血を洗い流していく。
「うふふ、楽しいわね。本当はこれを前国王とエリックでやりたかったのよ。ねぇ、エリック。殺す方と殺される方とどちらが良かったかしらね」
ミランダの目が狂気に染まっている。
当事者は前国王夫妻とミランダの母親で、僕達は何の関係もないはずだ。
僕達はただ、そのとばっちりを受けているだけに過ぎない。
何とかミランダの魔法から逃れてこの状況を打破したいのに、身体が言う事を聞かない。
このまま僕は父上を斬り殺してしまうのだろうか?
父上は既に諦めたような表情をしている。
かなり出血しているようで顔面は蒼白だ。
僕の意志とは裏腹に腕が勝手に振りかぶる。
「もう、止めて!」
フェリシアが叫んだ途端、まばゆい光が辺りを照らした。
僕の目の前でピタリと止まった剣がキラリと光り、本物の剣だと主張している。
僕は頭の中でその剣を手に取りミランダに斬りかかる事をシミュレーションしてみた。
だが、これだけ距離があれば、僕が剣を持った時点で、ミランダはそのナイフをフェリシアの首に突き立てるだろう。
それにミランダも僕が斬りかかる事を想定して身構えているはずだ。
身動きもせずに剣を凝視していると、ミランダから一番聞きたくない言葉が発せられた。
「ユージーン、その剣でエリックを斬りなさい!」
ふざけるな!
僕にそんな真似が出来ると思っているのか!
返事の代わりに思いっきりミランダを睨みつけるが、彼女は涼しい顔だ。
「あなたがエリックを斬らないのならば、私がこのフェリシアを斬るわよ。自分の父親と、ほんの少し前に現れたばかりの妹。あなたはどちらを選ぶのかしら」
僕にどちらも選べない事をわかっていて、ミランダはわざとそんな事を聞いてくる。
「ユージーン! 私の事はいいからフェリシアを助けてやってくれ」
父上が必死の形相で僕に訴えてくる。
父上だってこの状況ではそう言わざるを得ないだろう。
一国の国王が息子に命乞いをするなんて、プライドが許さないはずだ。
そんな父上をミランダは小馬鹿にしたようにせせら笑う。
「どう、エリック? 自分の息子に殺されるのと、自分の娘が目の前で殺されるのと、どっちが好みかしら?」
そんな選択肢を突きつけてくるなんて、この女は人間の皮を被った悪魔だ。
なおも動かない僕にミランダはしびれを切らしたようだ。
「こんな手は使いたくなかったんだけど、仕方がないわね。…さあ、ユージーン。剣を持ちなさい」
ミランダが命令すると、自分の意志に反して手が勝手に剣に向かって伸びていく。
必死に抗おうとするが、ブルブルと震える手は剣の柄を握っていた。
「やめろ! ミランダ! 僕に父親殺しをさせる気か!」
「勿論よ。エリックは息子に殺されて死亡。息子は父親殺しの罪で処刑。この国はフェリシアが継ぐけれど、後見人として私が側にいてあげるわ。フェリシアはただ玉座に座っていればいいだけよ」
ミランダはフェリシアを傀儡にしてこの国を牛耳るつもりなのだろう。
抵抗も虚しく僕が剣を振り下ろすと同時に、父上の身体から血飛沫が上がった。
「くっ!」
父上の顔が苦痛に歪むが、身体は硬直したように微動だにしない。
「大丈夫。ひと思いに殺したりはしないわ。じわじわとなぶり殺してあげる」
「やめろ、ミランダ! これ以上はやめてくれ!」
何とか止めさせようとミランダに懇願するが、ミランダは「チッ」と舌打ちをする。
「ギャアギャアうるさいわね。少し静かにしてちょうだい」
なおも呼びかけようとしたが、口が開くだけで言葉を発する事が出来なくなった。
更に僕の剣は父上に向かって振り下ろされ、飛び散った血が僕の頬に張り付く。
僕の目から溢れる涙が、その血を洗い流していく。
「うふふ、楽しいわね。本当はこれを前国王とエリックでやりたかったのよ。ねぇ、エリック。殺す方と殺される方とどちらが良かったかしらね」
ミランダの目が狂気に染まっている。
当事者は前国王夫妻とミランダの母親で、僕達は何の関係もないはずだ。
僕達はただ、そのとばっちりを受けているだけに過ぎない。
何とかミランダの魔法から逃れてこの状況を打破したいのに、身体が言う事を聞かない。
このまま僕は父上を斬り殺してしまうのだろうか?
父上は既に諦めたような表情をしている。
かなり出血しているようで顔面は蒼白だ。
僕の意志とは裏腹に腕が勝手に振りかぶる。
「もう、止めて!」
フェリシアが叫んだ途端、まばゆい光が辺りを照らした。
39
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
皇帝とおばちゃん姫の恋物語
ひとみん
恋愛
二階堂有里は52歳の主婦。ある日事故に巻き込まれ死んじゃったけど、女神様に拾われある人のお世話係を頼まれ第二の人生を送る事に。
そこは異世界で、年若いアルフォンス皇帝陛下が治めるユリアナ帝国へと降り立つ。
てっきり子供のお世話だと思っていたら、なんとその皇帝陛下のお世話をすることに。
まぁ、異世界での息子と思えば・・・と生活し始めるけれど、周りはただのお世話係とは見てくれない。
女神様に若返らせてもらったけれど、これといって何の能力もない中身はただのおばちゃんの、ほんわか恋愛物語です。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
拾った指輪で公爵様の妻になりました
奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。
とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。
この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……?
「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」
公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。
【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~
青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた
そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた
しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう
婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ
婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか
この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話
*更新は不定期です
*加筆修正中です
妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。
バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。
瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。
そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。
その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。
そして……。
本編全79話
番外編全34話
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる