16 / 57
16 母上の目覚め
しおりを挟む
アーサーとグィネヴィアは母上のベッドへと移動していた。
ベッドに横たわる母上の体の上に2本のペーパーナイフが浮いてその上に半透明のアーサーとグィネヴィアの姿がある。
ふと、ペーパーナイフの柄の部分に付いている魔石に目がいった。
アーサーは青、グィネヴィアは赤だった魔石が今はどちらも虹色に輝いている。
二人が自分のペーパーナイフを手にした途端に剣の大きさへと変化した。
母上の頭上でお互いの剣の切っ先を合わせるとそこから虹色の光が降り注ぎ母上の体を包み始めた。
虹色の光は幾度となく切っ先から降り注ぎ、母上の体に吸い込まれるように消えていく。
僕と父上とシヴァは固唾を呑んでその様子を眺めている。
やがて虹色の光が出なくなり、母上の体を包んでいた光が全て母上に吸収されるとアーサーとグィネヴィアの姿が消えた。
剣の大きさだったのが元のペーパーナイフに戻ると虹色に輝いていた魔石も青と赤に戻った。
宙に浮いていたペーパーナイフはバタリとベッドの上に落ちる。
「魔力を使い切ったか。しばらくは静かになるな」
父上がポツリと呟いた。
確かにいつもなら何か言ってくるはずのアーサーが一言も発しない。
父上は母上の体の上に落ちた2本のペーパーナイフをベッド脇のテーブルに置いた。
それが合図だったかのように母上の目がゆっくりと開いた。
「ジュリア。目が覚めたか?」
父上が声をかけると母上はゆっくりと父上の方に顔を向けた。
「…アルフレッド様? …私はどうしたんでしょう?」
母上は何かを思い出すように視線をあちこちさまよわせていたが、突然ガバっと起き上がった。
「ジェレミー! ジェレミーは何処? 」
そう叫んだ途端にクラリと体が前のめりになるのを父上が慌てて支えてベッドに横たえた。
「落ち着きなさい。ジェレミーはちゃんといる。それよりも君が眠りについて9年が経つが理解しているか?」
目覚めたばかりの母上にそんな事実を突きつけるのもどうかと思うんだけど、そういう所は直らないんだろうね。
「9年? そんなに経つのですか? それではジェレミーは?」
父上は僕を手招きすると母上に顔が見えるように僕の体を引き寄せた。
僕は正面から母上の顔を見つめた。紫色の瞳が驚いたように僕を見つめていたが、やがてその瞳はウルウルと涙に滲んでくる。
「本当にジェレミーなの? あんなに小さかった子が大きくなって…。」
母上の手がそっと僕の頬を撫でてくれる。少しひんやりとした手が母上の体調がまだ万全でない事を告げているようだ。
父上は母上の手を包み込むように握った。
「ジュリア。君がこの家を出ていった時の事を話してくれるか?」
父上の問い掛けに母上は一度目を閉じたが、意を決したように目を開けると、ゆっくりと語りだした。
「あの日、わたくしはエレインを連れてランスロットと待ち合わせたカフェへと向かいました。カフェには入らずに路地を抜けた先に待っていたランスロットの馬車に乗ったのです」
これはアーサーが言っていた事と一緒だな。
「隣の街に着いた時、馬車では見つかりやすいからと、馬で移動すると言われました。いくら何でもお腹にジェレミーがいるのにそんな事は出来ないと言ったのですが、並足だから大丈夫だと言われて承諾しました。それなのに並足から徐々にスピードをあげて走り出したんです」
アーサーから聞いたときも腹が立ったけれど、母上から聞くと更に怒りが増してくる。
「驚いて止めてくれるように頼んだのですが聞いてくれず、そのうちお腹に痛みが出て来たんです。ランスロットはそんなわたくしの様子を見てようやく次に辿り着いた街でわたくしを医者に連れて行きました」
その時の事を思い出したのか、母上はきつく目を閉じた。次に目が開けられた時は薄っすらと涙に滲んでいた。
「その医者から産婆の所に連れて行かれて、更にランスロットが借りた空き家へと移動してそこでジェレミーを出産しましたが、わたくしの体は既に限界でした。起き上がる事もジェレミーにお乳をやることも出来なくなっていました。最初はわたくしが持ち出した宝石を売って乳母を雇っていたのですが、ある日目覚めたらジェレミーがいませんでした。ランスロットに聞くと神殿に連れて行ったと言うのです」
父上は母上の手を優しく撫でていたが、そっと母上の額にキスを落とした。
「ジュリア。落ち着いて聞いてほしい。ランスロットがジェレミーを連れて行った先は神殿ではなく孤児院だった」
父上の言葉に母上は一瞬ポカンとした顔を見せたが、すぐに両手で顔を覆って泣き出した。
「…なんて、…なんて事を…。わたくしのジェレミーを孤児院に連れて行くなんて…。申し訳ありません、アルフレッド様。あんな男の甘言に乗ったばかりに…」
昨日の父上の怒りもそうだが、こうして母上が悲しんでいるのを見ると、僕が孤児院に入れられたのが貴族としてはありえない事だと言うのを思い知らされる。
父上は母上に覆いかぶさるようにしてその体を抱きしめた。
「落ち着きなさい。ジェレミーは大丈夫だ。アーサーがジェレミーの為に神獣様を連れてきてくれた」
えっ? 神獣? シヴァが?
父上の言葉に驚いてシヴァを見ると、シヴァはニヤリと笑った。
「まぁ、そういう事だ」
ベッドに横たわる母上の体の上に2本のペーパーナイフが浮いてその上に半透明のアーサーとグィネヴィアの姿がある。
ふと、ペーパーナイフの柄の部分に付いている魔石に目がいった。
アーサーは青、グィネヴィアは赤だった魔石が今はどちらも虹色に輝いている。
二人が自分のペーパーナイフを手にした途端に剣の大きさへと変化した。
母上の頭上でお互いの剣の切っ先を合わせるとそこから虹色の光が降り注ぎ母上の体を包み始めた。
虹色の光は幾度となく切っ先から降り注ぎ、母上の体に吸い込まれるように消えていく。
僕と父上とシヴァは固唾を呑んでその様子を眺めている。
やがて虹色の光が出なくなり、母上の体を包んでいた光が全て母上に吸収されるとアーサーとグィネヴィアの姿が消えた。
剣の大きさだったのが元のペーパーナイフに戻ると虹色に輝いていた魔石も青と赤に戻った。
宙に浮いていたペーパーナイフはバタリとベッドの上に落ちる。
「魔力を使い切ったか。しばらくは静かになるな」
父上がポツリと呟いた。
確かにいつもなら何か言ってくるはずのアーサーが一言も発しない。
父上は母上の体の上に落ちた2本のペーパーナイフをベッド脇のテーブルに置いた。
それが合図だったかのように母上の目がゆっくりと開いた。
「ジュリア。目が覚めたか?」
父上が声をかけると母上はゆっくりと父上の方に顔を向けた。
「…アルフレッド様? …私はどうしたんでしょう?」
母上は何かを思い出すように視線をあちこちさまよわせていたが、突然ガバっと起き上がった。
「ジェレミー! ジェレミーは何処? 」
そう叫んだ途端にクラリと体が前のめりになるのを父上が慌てて支えてベッドに横たえた。
「落ち着きなさい。ジェレミーはちゃんといる。それよりも君が眠りについて9年が経つが理解しているか?」
目覚めたばかりの母上にそんな事実を突きつけるのもどうかと思うんだけど、そういう所は直らないんだろうね。
「9年? そんなに経つのですか? それではジェレミーは?」
父上は僕を手招きすると母上に顔が見えるように僕の体を引き寄せた。
僕は正面から母上の顔を見つめた。紫色の瞳が驚いたように僕を見つめていたが、やがてその瞳はウルウルと涙に滲んでくる。
「本当にジェレミーなの? あんなに小さかった子が大きくなって…。」
母上の手がそっと僕の頬を撫でてくれる。少しひんやりとした手が母上の体調がまだ万全でない事を告げているようだ。
父上は母上の手を包み込むように握った。
「ジュリア。君がこの家を出ていった時の事を話してくれるか?」
父上の問い掛けに母上は一度目を閉じたが、意を決したように目を開けると、ゆっくりと語りだした。
「あの日、わたくしはエレインを連れてランスロットと待ち合わせたカフェへと向かいました。カフェには入らずに路地を抜けた先に待っていたランスロットの馬車に乗ったのです」
これはアーサーが言っていた事と一緒だな。
「隣の街に着いた時、馬車では見つかりやすいからと、馬で移動すると言われました。いくら何でもお腹にジェレミーがいるのにそんな事は出来ないと言ったのですが、並足だから大丈夫だと言われて承諾しました。それなのに並足から徐々にスピードをあげて走り出したんです」
アーサーから聞いたときも腹が立ったけれど、母上から聞くと更に怒りが増してくる。
「驚いて止めてくれるように頼んだのですが聞いてくれず、そのうちお腹に痛みが出て来たんです。ランスロットはそんなわたくしの様子を見てようやく次に辿り着いた街でわたくしを医者に連れて行きました」
その時の事を思い出したのか、母上はきつく目を閉じた。次に目が開けられた時は薄っすらと涙に滲んでいた。
「その医者から産婆の所に連れて行かれて、更にランスロットが借りた空き家へと移動してそこでジェレミーを出産しましたが、わたくしの体は既に限界でした。起き上がる事もジェレミーにお乳をやることも出来なくなっていました。最初はわたくしが持ち出した宝石を売って乳母を雇っていたのですが、ある日目覚めたらジェレミーがいませんでした。ランスロットに聞くと神殿に連れて行ったと言うのです」
父上は母上の手を優しく撫でていたが、そっと母上の額にキスを落とした。
「ジュリア。落ち着いて聞いてほしい。ランスロットがジェレミーを連れて行った先は神殿ではなく孤児院だった」
父上の言葉に母上は一瞬ポカンとした顔を見せたが、すぐに両手で顔を覆って泣き出した。
「…なんて、…なんて事を…。わたくしのジェレミーを孤児院に連れて行くなんて…。申し訳ありません、アルフレッド様。あんな男の甘言に乗ったばかりに…」
昨日の父上の怒りもそうだが、こうして母上が悲しんでいるのを見ると、僕が孤児院に入れられたのが貴族としてはありえない事だと言うのを思い知らされる。
父上は母上に覆いかぶさるようにしてその体を抱きしめた。
「落ち着きなさい。ジェレミーは大丈夫だ。アーサーがジェレミーの為に神獣様を連れてきてくれた」
えっ? 神獣? シヴァが?
父上の言葉に驚いてシヴァを見ると、シヴァはニヤリと笑った。
「まぁ、そういう事だ」
56
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~
下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。
二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。
帝国は武力を求めていたのだ。
フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。
帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。
「ここから逃げて、田舎に籠るか」
給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。
帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。
鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。
「私も連れて行ってください、お兄様」
「いやだ」
止めるフェアに、強引なマトビア。
なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。
※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる