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翌日朝食を食べているとお祖母様がこう切り出した。
「ジェレミー、このあと仕立て屋が来ますからね。来週のパーティの衣装を注文しましょう」
来週のパーティだって?
お祖母様がそういうからには僕の出席は確定なんだろう。
だけどわざわざ衣装を新調しなければならないものなのか?
「お祖母様。パーティはわかりましたが、持ってきた衣装の中にはパーティ用の物もあったと思うのですが…」
やんわり断ろうとすると、お祖母様は目をウルウルさせて僕を見つめてきた。
「まあ、ジェレミー! あなたがいつ帰って来るのかわからないまま過ごしてきて、一度もあなたの衣装を誂える事が出来なかったのに…。こうしてようやく帰って来てくれたから、あなたの衣装を誂えるのを楽しみにしてたのに…」
最後の方は涙で声が途切れがちになっていて僕は慌てた。
前世でも祖父母の田舎に帰省するたびに祖母がいろいろと服を買いに連れて行ってくれた事を思い出す。
毎年会っていた祖母でもあんなに楽しそうだったのだから、ようやく会えた僕にお祖母様が衣装を誂えたいと思うのは当然だろう。
僕だって今まで会えなかった分、祖父母孝行をしたいと思っているのだ。
「わかりました、お祖母様。でもあまり華美なのは苦手ですからね」
こう言ったのにはわけがある。
公爵家に戻ってから約一年以上過ぎたが、その間に母上が仕立て屋に作らせた衣装の殆どがフリルのついた物やキラキラと光る金糸を使った物が多いのだ。
誰も彼もがお似合いだと言ってくれるし、鏡を見てもこの顔なら確かに似合っているとは思えるけれど、前世が地味顔の日本人だった僕にはやはりハードルが高すぎる。
実際、今まで持ってきている衣装もなるべく地味な物を選んできたが、それでも僕には派手名衣装でしかない。
今日来てもらう仕立て屋にはこれよりも地味なのを作って貰おう。
そう考えたらこの後の衣装作りが楽しみになってきた。
そして仕立て屋が来て、採寸から始まり生地選びになったのだが、全てお祖母様の独壇場となった。
最高級の生地を選び、デザインも僕の意見を挟む間もなく決められ、気がつけば持ってきた衣装よりも派手なデザインになっていた。
抵抗しようにもお祖母様に涙目で見られては断りようがない。
怒涛の衣装作りが終わって自室でぐったりしていると、シヴァとアーサーが笑いながら話しかけてきた。
「ジェレミー。随分と派手な衣装になりそうだな」
アーサーの言葉にシヴァもニヤリと笑ったように口を歪ませる。
「なかなか楽しそうな衣装作りだったな。聞いているだけで笑えたぞ」
二人ともお祖母様を止めてくれればいいのに仕立て屋がいるから出てこなかったんだろう。
最もこの二人の場合は出てきてもお祖母様を止めそうもないけどね。
そして無事に衣装も出来上がり、パーティ当日となった。
前日に父上と母上も公爵領に到着し、一家揃っての夕食を取った。
家出してから初めての母上と祖父母の対面だったが、特にこれといった確執は見られなかった。
僕がいるからなのか、それともあの家出が母上の意志ではないと思っているからなのかはわからない。
とりあえず修羅場にならなかっただけ良しとしよう。
パーティ用の衣装を着付けられて皆の前に顔を出すと、母上がキラキラとした目で僕を見つめてきた。
「まぁ、ジェレミー、素敵だわ。こちらで誂えた衣装なのね。流石はお義母様ですわ」
言われたお祖母様も嬉しそうに目を細めていた。
「ジェレミーは地味な物をって言ったけれど、やはりこの顔だからそれなりの衣装にしないとね。地味な物を着たら逆に嫌味になるわ」
…そんなものかのかな?
お祖父様と父上に目をやると、二人に首を横に振られた。
「諦めろ」という心の声が聞こえたから、二人とも衣装には苦労をさせられたんだろう。
やがて続々と招待客が屋敷の中へと案内をされてきた。
祖父母の同年代の方達が主にやってくるようだ。僕も祖父母達と共に出迎えの挨拶を行っていた。
食事はバイキング形式で、席は固定せずに皆思い思いに好きな料理を取ってきては、自由に席に付き話に花を咲かせている。
お祖父様とお祖母様はあちこちのテーブルを回ったりしているが、僕と両親は席に付き時々訪れる人達と話をしたりしていた。
挨拶に訪れる人が途切れたので、料理を取りに行こうと立ち上がって歩いていると、誰かの視線を感じた。
その視線にゾッとするような冷たさを感じて思わず振り返ったが、その先には誰もいなかった。
しばらく辺りを見回したが、誰も僕を見ている気配はない。
気の所為、で片付けるにはあまりにも視線が強すぎた。
「どうした、ジェレミー?」
僕が動かないのを訝しげに思ったアーサーが声をかけてきた。
「今、誰かの視線を感じたんだけど向こうには誰もいなかったんだ」
僕の言葉にアーサーはちょっと考えていたが、すぐに僕の懐から透明の姿で飛び出した。
「ちょっと見てくる」
そう言ってすうっと何処かへ飛んでいった。
僕は何事もなかったように料理を取ると自分の席へと戻って行った。
「どうした? アーサーは何処へ行ったんだ?」
父上にはアーサーが何処かへ行ったのがわかったようで、僕にこっそりと話しかけてきた。
「僕が誰かの視線を感じたと言ったら、見てくるって行っちゃったんだ」
「視線?」
父上が怪訝な顔をして聞いてきた。
今日、集まっている人達は公爵家とは中の良い人達ばかりだ。
そんな中に敵がいるとは父上も思いたくはないのだろう。
ジリジリとした気持ちで待っていると、やがてアーサーがスッと姿を現した。
「特に怪しい奴は見当たらなかったが、用心に越したことはないぞ」
その後はパーティを楽しむどころではなくなったが、特に何事もなくパーティは終了した。
「ジェレミー、このあと仕立て屋が来ますからね。来週のパーティの衣装を注文しましょう」
来週のパーティだって?
お祖母様がそういうからには僕の出席は確定なんだろう。
だけどわざわざ衣装を新調しなければならないものなのか?
「お祖母様。パーティはわかりましたが、持ってきた衣装の中にはパーティ用の物もあったと思うのですが…」
やんわり断ろうとすると、お祖母様は目をウルウルさせて僕を見つめてきた。
「まあ、ジェレミー! あなたがいつ帰って来るのかわからないまま過ごしてきて、一度もあなたの衣装を誂える事が出来なかったのに…。こうしてようやく帰って来てくれたから、あなたの衣装を誂えるのを楽しみにしてたのに…」
最後の方は涙で声が途切れがちになっていて僕は慌てた。
前世でも祖父母の田舎に帰省するたびに祖母がいろいろと服を買いに連れて行ってくれた事を思い出す。
毎年会っていた祖母でもあんなに楽しそうだったのだから、ようやく会えた僕にお祖母様が衣装を誂えたいと思うのは当然だろう。
僕だって今まで会えなかった分、祖父母孝行をしたいと思っているのだ。
「わかりました、お祖母様。でもあまり華美なのは苦手ですからね」
こう言ったのにはわけがある。
公爵家に戻ってから約一年以上過ぎたが、その間に母上が仕立て屋に作らせた衣装の殆どがフリルのついた物やキラキラと光る金糸を使った物が多いのだ。
誰も彼もがお似合いだと言ってくれるし、鏡を見てもこの顔なら確かに似合っているとは思えるけれど、前世が地味顔の日本人だった僕にはやはりハードルが高すぎる。
実際、今まで持ってきている衣装もなるべく地味な物を選んできたが、それでも僕には派手名衣装でしかない。
今日来てもらう仕立て屋にはこれよりも地味なのを作って貰おう。
そう考えたらこの後の衣装作りが楽しみになってきた。
そして仕立て屋が来て、採寸から始まり生地選びになったのだが、全てお祖母様の独壇場となった。
最高級の生地を選び、デザインも僕の意見を挟む間もなく決められ、気がつけば持ってきた衣装よりも派手なデザインになっていた。
抵抗しようにもお祖母様に涙目で見られては断りようがない。
怒涛の衣装作りが終わって自室でぐったりしていると、シヴァとアーサーが笑いながら話しかけてきた。
「ジェレミー。随分と派手な衣装になりそうだな」
アーサーの言葉にシヴァもニヤリと笑ったように口を歪ませる。
「なかなか楽しそうな衣装作りだったな。聞いているだけで笑えたぞ」
二人ともお祖母様を止めてくれればいいのに仕立て屋がいるから出てこなかったんだろう。
最もこの二人の場合は出てきてもお祖母様を止めそうもないけどね。
そして無事に衣装も出来上がり、パーティ当日となった。
前日に父上と母上も公爵領に到着し、一家揃っての夕食を取った。
家出してから初めての母上と祖父母の対面だったが、特にこれといった確執は見られなかった。
僕がいるからなのか、それともあの家出が母上の意志ではないと思っているからなのかはわからない。
とりあえず修羅場にならなかっただけ良しとしよう。
パーティ用の衣装を着付けられて皆の前に顔を出すと、母上がキラキラとした目で僕を見つめてきた。
「まぁ、ジェレミー、素敵だわ。こちらで誂えた衣装なのね。流石はお義母様ですわ」
言われたお祖母様も嬉しそうに目を細めていた。
「ジェレミーは地味な物をって言ったけれど、やはりこの顔だからそれなりの衣装にしないとね。地味な物を着たら逆に嫌味になるわ」
…そんなものかのかな?
お祖父様と父上に目をやると、二人に首を横に振られた。
「諦めろ」という心の声が聞こえたから、二人とも衣装には苦労をさせられたんだろう。
やがて続々と招待客が屋敷の中へと案内をされてきた。
祖父母の同年代の方達が主にやってくるようだ。僕も祖父母達と共に出迎えの挨拶を行っていた。
食事はバイキング形式で、席は固定せずに皆思い思いに好きな料理を取ってきては、自由に席に付き話に花を咲かせている。
お祖父様とお祖母様はあちこちのテーブルを回ったりしているが、僕と両親は席に付き時々訪れる人達と話をしたりしていた。
挨拶に訪れる人が途切れたので、料理を取りに行こうと立ち上がって歩いていると、誰かの視線を感じた。
その視線にゾッとするような冷たさを感じて思わず振り返ったが、その先には誰もいなかった。
しばらく辺りを見回したが、誰も僕を見ている気配はない。
気の所為、で片付けるにはあまりにも視線が強すぎた。
「どうした、ジェレミー?」
僕が動かないのを訝しげに思ったアーサーが声をかけてきた。
「今、誰かの視線を感じたんだけど向こうには誰もいなかったんだ」
僕の言葉にアーサーはちょっと考えていたが、すぐに僕の懐から透明の姿で飛び出した。
「ちょっと見てくる」
そう言ってすうっと何処かへ飛んでいった。
僕は何事もなかったように料理を取ると自分の席へと戻って行った。
「どうした? アーサーは何処へ行ったんだ?」
父上にはアーサーが何処かへ行ったのがわかったようで、僕にこっそりと話しかけてきた。
「僕が誰かの視線を感じたと言ったら、見てくるって行っちゃったんだ」
「視線?」
父上が怪訝な顔をして聞いてきた。
今日、集まっている人達は公爵家とは中の良い人達ばかりだ。
そんな中に敵がいるとは父上も思いたくはないのだろう。
ジリジリとした気持ちで待っていると、やがてアーサーがスッと姿を現した。
「特に怪しい奴は見当たらなかったが、用心に越したことはないぞ」
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