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49 父上との話し合い

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 僕は剣の稽古をやめて庭から部屋へと戻る。

 流石に湯浴みをする時間はないので、クリーン魔法で全身を綺麗にして服を着替える。

 身だしなみをチェックしていると、使用人が僕を呼びに来た。

 部屋を出ようとするとすかさずアーサーとグィネヴィアが僕の懐に潜り込んで来る。

 グィネヴィアはともかく、アーサーは絶対に父上との話に口を挟んで来るだろうな。

 使用人の後について食堂に顔を出すと、父上と母上は既に着席していた。

「遅くなりました」

 両親に声をかけて僕も着席する。

 僕が席に着いたのを見計らって、父上が給仕の合図を出した。

 いつものように静かな食事の時間が始まる。

 それでも今日は王宮で王妃様に会ってきた事を知っていて、その話題が少し上る。

 食後のお茶がそれぞれに給仕された時、父上がおもむろに口を開いた。

「ジェレミー、話があるのでこのあと部屋に来なさい」

 僕はチラリと母上に目をやったが、母上は素知らぬ顔でお茶を飲んでいる。

 馬車でのアーサーの発言を父上に告げたかどうかはわからないまま、僕は父上に頷いた。

「わかりました」 

 父上は僕の返事を聞いて軽く頷くと、お茶を飲み干して食堂を出ていった。

 僕もすぐに後を追いかけようとしたが、母上に視線で止められた。

 立ち上がりかけた体を元に戻してお茶を飲んでいると、バトラーが僕を呼びに来た。

 バトラーに先導されて案内された所はアーサー達を保管する部屋だった。

 もっとも最近は二人とも僕にずっとべったりで、壁に収まったりはしていない。

 バトラーが扉をノックして僕の到着を告げると、「入れ」と父上の声がした。

 僕が部屋に入るとすぐに扉は閉ざされ、父上と二人きりになる。

 父上は既に一人がけのソファーに座っていて、向かいの席に座るように僕に促した。

「失礼します」

 僕が向かいのソファーに腰掛けると、父上がしげしげと僕の顔を見つめてくる。

「…僕の顔に何かついてますか?」

 あまり見られるので少し気恥ずかしくなって父上に問うと、フッと笑みを零した。

 父上がこんなふうに笑うなんて珍しいな。

「いや、最近良く似てきたと言われているからな。…確かに似ているが、私にはどことなくジュリアにも似ているように感じられる」

 後半の台詞にどことなく甘い響きを感じたんだけど、気の所為だよね。

 その台詞は僕じゃなくて母上に言うべき言葉じゃないの?

 僕が反応に困っていると、父上がキラリと視線を僕に向けた。

 途端に場の空気がひんやりとしたものになる。

「ところでそろそろ高等科のコースを決める時期だろう。ジェレミーはどのコースを選択するのか決めたのか?」

 僕は居住まいを正して、父上の顔を見つめた。

「はい。僕は騎士コースを選択するつもりです」

 たとえ反対されてもこの考えだけは曲げないぞ。

 そんな気構えで父上の返事を待っていたが、帰ってきた言葉は「そうか」というあっさりしたものだった。

「何を考えている!」 

とか

「私は認めないぞ!」

とかいう返事を想定していたので、あまりの事に僕はしばらく目をパチクリとさせたままだった。

「…え、あの…。 反対されないんですか?」

 拍子抜けした僕が父上に聞き返すと

「何だ。反対してほしかったのか?」

 少しからかうような口調が返ってきて僕は慌てて首を横に振った。

「いえ。母上が僕が父上の跡を継がない事を少し残念がっていたので…」

 流石に馬車の中で泣かれた事は告げられない。

 するとそこへ相変わらず空気を読まないアーサーがしゃしゃり出てくる。

「ジュリアは今日、ジェレミーが騎士を目指すと聞いて泣いていたからな」

 途端に父上がキラリと目を光らせる。

「ほう。それはジェレミーが直接ジュリアに伝えたのか?」

 父上の冷えた口調に気づかないアーサーは得意気に話し続ける。

「いや、私がジュリアに伝えたんだよ。ジェレミーに任せておくと何も言わなそうだったんでね」

 父上はふよふよと浮いているアーサーをガシッと鷲掴みにした。

「つまり、アーサーがジュリアを泣かせたと言うわけか。…今すぐこの刃をへし折ってやりたいな」

 父上はそう言うと両手でアーサーの刀身を曲げようとする。

「わわっ! アルフレッド、止めろ! 私が悪かったってば!」 

 見た目はペーパーナイフでもその刀身は非常に硬い。曲がったりはしないけど、父上の怒りを受けてアーサーは平謝りだ。

 父上の攻撃から逃れたアーサーはそそくさと僕の懐に戻って行った。

 やれやれ。最初から大人しくしておけばいいのに。

 父上との話に水をさされたが、僕は気を取り直して父上に向き直った。

「ジュリアは私の父上も宰相だったから、そんな発言をしたんだろう。だが、我が家がずっと宰相をしていたわけではない。ジェレミーののように騎士を目指して騎士団長になった方もおられる。何事も向き不向きがあるからな。こうと決めたならしっかりやりなさい」

 父上に僕の考えを肯定されて、ほっと息を吐く。

「わかりました、父上」

 そう返事をしたものの、何か凄い事を言われた事に気付いた。

 ご先祖様の中には騎士団長になられた方もいるのか。

 果たして僕にそこまで登りつめる事が出来るんだろうか?

 
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