35 / 52
35 エイブラムさんの現状
しおりを挟む
とりあえず着替えをするためにお父様達には部屋の外に出て行って貰った。
「アリス様、申し訳ございません。この度の件についてはいかような処罰でもお受けいたします」
着替えをするよりも先にセアラは床に跪いて私に謝罪をしてくる。
セアラを処罰?
そんな事は微塵も考えていなかったわ。
「ちょっと待って、セアラ。私はあなたに処罰なんて与えないわよ」
「ですが、私がもっと気を付けていれば、あの本に仕掛けがしてあったと気付けたはずです」
セアラはそう言うけれど、あの本にはきっと私が触れなければ発動しないような仕掛けがしてあったはずだ。
「セアラ、お願いだからもう気にしないで。どうしても罰則が欲しいって言うのなら…」
そう言うとセアラは跪いたまま、姿勢を正した。
「セアラには罰として一生私の側にいる事、いいわね」
「アリス様…。わかりました。一生お側に仕えさせていただきます」
セアラは深々とお辞儀をすると、サッと立ち上がり私の着替えを手伝ってくれた。
着替え終わって部屋の外に出ると、お父様とお兄様が待ち構えたように私の両手を取った。
「おまたせいたしました。それではエイブラム様の所に案内してくださいませ」
お父様とお兄様にエスコートされてエイブラムさんが眠っている部屋への向かう。
エイブラムさんは今、騎士団長室の横に設えてある寝室に寝かされているそうだ。
扉の前には警備の騎士が二人立っていたが、私達が揃って現れたので非常に驚いていた。
騎士が開けてくれた扉を私とお父様とお兄様、そしてセアラが部屋の中に入る。
それなりに高価ではあるがシンプルな造りのベッドにエイブラムさんが横たわっている。
枕元にある椅子には侯爵夫人が座り、その傍らにはジェンクス侯爵が立っている。
お二人共、目覚めないエイブラムさんを心配そうに見つめているが、私達が入って来た事に気付いて侯爵夫人が慌てて立ち上がり、ジェンクス侯爵も私達に向けて腰を折る。
「これはこれは。陛下自らこちらにいらっしゃるとは…。アリス様はお目覚めになられたのですね。息子も早く目覚めて事情聴取が出来ればいいのですが…」
「ジェンクス侯爵。そんなにかしこまらなくとも良い。それよりエイブラムに変化は無いのか?」
「はい。一向に目覚める気配がありません。回復魔法をかけても何の変化も見られないのです」
ジェンクス侯爵がグッと唇を噛み締め、侯爵夫人も悲しそうに俯くだけだ。
お二人共、目の下に隈が見えるからエイブラムさんに付きっきりであまり眠られていないのだろう。
私がベッドに近寄ると侯爵夫人が、先程まで自分が座っていた椅子を私に勧めてくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言って腰掛けると、すぐ側に眠っているエイブラムさんの顔が見えた。
こうして眠っているエイブラムさんの顔を見るのは初めてだわ。
もっと違う形でこの寝顔を見れたら…
いけない!
こんな不謹慎な考えをしてちゃ駄目ね。
目も口も固く閉じられたまま、規則正しい呼吸だけが、エイブラムさんが生きている事を告げている。
エイブラムさんの唇を見て、不意にあの時のグレンダさんとのキスを思い出した。
グレンダさんがキスでエイブラムさんを操っていたとしたら、またキスで解除が出来る?
そんな考えが頭に浮かんだけれど、私はエイブラムさんにグレンダさんとキスをして欲しくない。
子供の頃に読んだお伽話で王子様のキスで白雪姫は目を覚ました。
じゃあ、王女である私がエイブラムさんにキスをしたら?
そんな突拍子もない行動を許されるような環境でないのは十分承知している。
だけどエイブラムさんや侯爵夫妻にこれ以上辛い思いをさせたくはない。
ダメ元でやってみてもいいわよね。
これでエイブラムさんの意識が戻らなくても、彼とキスをしたという事実だけは残るなら、私にとっては役得だわ。
だけど記念すべきファーストキスを人前でやるなんて…
いや、キスじゃなくて人工呼吸だと思えば…
「皆様。私がこれからすることを黙って見ていてください」
そうまくし立てた私は、すかさず立ち上がるとエイブラムさんに覆いかぶさり、その唇にキスをした。
「アリス様、申し訳ございません。この度の件についてはいかような処罰でもお受けいたします」
着替えをするよりも先にセアラは床に跪いて私に謝罪をしてくる。
セアラを処罰?
そんな事は微塵も考えていなかったわ。
「ちょっと待って、セアラ。私はあなたに処罰なんて与えないわよ」
「ですが、私がもっと気を付けていれば、あの本に仕掛けがしてあったと気付けたはずです」
セアラはそう言うけれど、あの本にはきっと私が触れなければ発動しないような仕掛けがしてあったはずだ。
「セアラ、お願いだからもう気にしないで。どうしても罰則が欲しいって言うのなら…」
そう言うとセアラは跪いたまま、姿勢を正した。
「セアラには罰として一生私の側にいる事、いいわね」
「アリス様…。わかりました。一生お側に仕えさせていただきます」
セアラは深々とお辞儀をすると、サッと立ち上がり私の着替えを手伝ってくれた。
着替え終わって部屋の外に出ると、お父様とお兄様が待ち構えたように私の両手を取った。
「おまたせいたしました。それではエイブラム様の所に案内してくださいませ」
お父様とお兄様にエスコートされてエイブラムさんが眠っている部屋への向かう。
エイブラムさんは今、騎士団長室の横に設えてある寝室に寝かされているそうだ。
扉の前には警備の騎士が二人立っていたが、私達が揃って現れたので非常に驚いていた。
騎士が開けてくれた扉を私とお父様とお兄様、そしてセアラが部屋の中に入る。
それなりに高価ではあるがシンプルな造りのベッドにエイブラムさんが横たわっている。
枕元にある椅子には侯爵夫人が座り、その傍らにはジェンクス侯爵が立っている。
お二人共、目覚めないエイブラムさんを心配そうに見つめているが、私達が入って来た事に気付いて侯爵夫人が慌てて立ち上がり、ジェンクス侯爵も私達に向けて腰を折る。
「これはこれは。陛下自らこちらにいらっしゃるとは…。アリス様はお目覚めになられたのですね。息子も早く目覚めて事情聴取が出来ればいいのですが…」
「ジェンクス侯爵。そんなにかしこまらなくとも良い。それよりエイブラムに変化は無いのか?」
「はい。一向に目覚める気配がありません。回復魔法をかけても何の変化も見られないのです」
ジェンクス侯爵がグッと唇を噛み締め、侯爵夫人も悲しそうに俯くだけだ。
お二人共、目の下に隈が見えるからエイブラムさんに付きっきりであまり眠られていないのだろう。
私がベッドに近寄ると侯爵夫人が、先程まで自分が座っていた椅子を私に勧めてくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言って腰掛けると、すぐ側に眠っているエイブラムさんの顔が見えた。
こうして眠っているエイブラムさんの顔を見るのは初めてだわ。
もっと違う形でこの寝顔を見れたら…
いけない!
こんな不謹慎な考えをしてちゃ駄目ね。
目も口も固く閉じられたまま、規則正しい呼吸だけが、エイブラムさんが生きている事を告げている。
エイブラムさんの唇を見て、不意にあの時のグレンダさんとのキスを思い出した。
グレンダさんがキスでエイブラムさんを操っていたとしたら、またキスで解除が出来る?
そんな考えが頭に浮かんだけれど、私はエイブラムさんにグレンダさんとキスをして欲しくない。
子供の頃に読んだお伽話で王子様のキスで白雪姫は目を覚ました。
じゃあ、王女である私がエイブラムさんにキスをしたら?
そんな突拍子もない行動を許されるような環境でないのは十分承知している。
だけどエイブラムさんや侯爵夫妻にこれ以上辛い思いをさせたくはない。
ダメ元でやってみてもいいわよね。
これでエイブラムさんの意識が戻らなくても、彼とキスをしたという事実だけは残るなら、私にとっては役得だわ。
だけど記念すべきファーストキスを人前でやるなんて…
いや、キスじゃなくて人工呼吸だと思えば…
「皆様。私がこれからすることを黙って見ていてください」
そうまくし立てた私は、すかさず立ち上がるとエイブラムさんに覆いかぶさり、その唇にキスをした。
10
あなたにおすすめの小説
山賊な騎士団長は子にゃんこを溺愛する
紅子
恋愛
この世界には魔女がいる。魔女は、この世界の監視者だ。私も魔女のひとり。まだ“見習い”がつくけど。私は見習いから正式な魔女になるための修行を厭い、師匠に子にゃんこに変えれた。放り出された森で出会ったのは山賊の騎士団長。ついていった先には兄弟子がいい笑顔で待っていた。子にゃんこな私と山賊団長の織り成すほっこりできる日常・・・・とは無縁な。どう頑張ってもコメディだ。面倒事しかないじゃない!だから、人は嫌いよ~!!!
完結済み。
毎週金曜日更新予定 00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
モンスターを癒やす森暮らしの薬師姫、騎士と出会う
甘塩ます☆
恋愛
冷たい地下牢で育った少女リラは、自身の出自を知らぬまま、ある日訪れた混乱に乗じて森へと逃げ出す。そこで彼女は、凶暴な瘴気に覆われた狼と出会うが、触れるだけでその瘴気を浄化する不思議な力があることに気づく。リラは狼を癒し、共に森で暮らすうち、他のモンスターたちとも心を通わせ、彼らの怪我や病を癒していく。モンスターたちは感謝の印に、彼女の知らない貴重な品々や硬貨を贈るのだった。
そんなある日、森に薬草採取に訪れた騎士アルベールと遭遇する。彼は、最近異常なほど穏やかな森のモンスターたちに違和感を覚えていた。世間知らずのリラは、自分を捕らえに来たのかと怯えるが、アルベールの差し出す「食料」と「服」に警戒を解き、彼を「飯をくれる仲間」と認識する。リラが彼に見せた、モンスターから贈られた膨大な量の希少な品々に、アルベールは度肝を抜かれる。リラの無垢さと、秘められた能力に気づき始めたアルベールは……
陰謀渦巻く世界で二人の運命はどうなるのか
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する
雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。
ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。
「シェイド様、大好き!!」
「〜〜〜〜っっっ!!???」
逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。
氷の騎士と陽だまりの薬師令嬢 ~呪われた最強騎士様を、没落貴族の私がこっそり全力で癒します!~
放浪人
恋愛
薬師として細々と暮らす没落貴族の令嬢リリア。ある夜、彼女は森で深手を負い倒れていた騎士団副団長アレクシスを偶然助ける。彼は「氷の騎士」と噂されるほど冷徹で近寄りがたい男だったが、リリアの作る薬とささやかな治癒魔法だけが、彼を蝕む古傷の痛みを和らげることができた。
「……お前の薬だけが、頼りだ」
秘密の治療を続けるうち、リリアはアレクシスの不器用な優しさや孤独に触れ、次第に惹かれていく。しかし、彼の立場を狙う政敵や、リリアの才能を妬む者の妨害が二人を襲う。身分違いの恋、迫りくる危機。リリアは愛する人を守るため、薬師としての知識と勇気を武器に立ち向かうことを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる