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42 お付き合い

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 突然の宣言にエイブラムさんもお兄様も口をポカンと開けている。

 お兄様なんて口から魂が抜けたみたいになってるわ。

 エイブラムさんも何をどう答えていいのかわからないみたい。

 その内に復活したお兄様が私とエイブラムさんの間に割り込んてきた。

「ちょっと待て、アリス! 結婚を前提にとはどういう事だ!」

 ん?

 結婚を前提?

 何でそんな話になってるの?

「嫌だわ、お兄様。どうしてそんな話になるのかしら?」

「何を言う、アリス! 今お前がそう言ったんじゃないか!」

 あれ?

 私がそんな事を言ったの?

 頭に疑問符を浮かべたままお兄様の後ろにいるエイブラムさんに目を向けると、コクリと頷かれた。

 しまったー!

 焦るあまり、言葉を間違えてしまったようだわ。

「も、申し訳ございません、エイブラム様! いい間違えてしまいました。『結婚を前提に』ではなく『結婚はともかく』と言いたかったのです!」

「アリス! いい間違えるにも程があるだろう!」 

 お兄様ったら、顔が茹でダコみたいに真っ赤になってると指摘した方がいいかしら。

 余計な事を口にしてこれ以上お兄様の血圧を上げさせるわけにはいかないので、それについては黙っている事にした。

 お兄様の事は放っておいて、エイブラムさんの様子を覗うと、真剣に考え込んでいるようだ。

 私としては軽いノリで返事をしてほしかったのだけど、エイブラムさんって真面目過ぎるわね。

 お兄様はクルリと後ろを振り返ると、エイブラムさんの肩をガシッと掴んだ。

「エイブラム、アリスの戯れ言など真面目に聞かなくていいからな! な!」

 お兄様ったら何でそんなに念を押しているのよ。

 お兄様の態度にムッとしていると、エイブラムさんはお兄様の手を下ろさせると、お兄様の身体を脇へ押しやり、私に手を差し伸べてきた。

「わかりました、アリス様。お互い知り合ったばかりで、どのようなお人柄なのかわからないまま結婚するよりはお付き合いをする方がいいでしょう。ただし、決して二人きりにはならない事をお約束いたします」

 …うわぁ、固いわー…

 だけど、とりあえず一歩は進んだ感じかしら。

「だ、駄目だ! そんな事は断じて許さないぞ! なぁ、アリス。考え直してくれよ」

「何を言っているのですか。お付き合いと言ってもお茶をしたり、会ってお話しをしたりする程度ですよ」 

 そうお兄様を諭すと苦虫を噛み潰したような顔で渋々と承知してくれた。

「それくらいならば許してもいいか。…だが、絶対に私か父上が同席するからな!」

 ピシリとエイブラムさんに指を突きつけて宣言するお兄様に私は目眩を覚える。

 同席はいいけど会話には入って欲しくはないわね。

 だけど、何を思ったのかお兄様は私の手を取るとニコリと笑って告げる。

「それじゃあ、さっそくお茶をしに行こうか。今の時期は庭園の花が見頃なんだよ。エイブラムも付いておいで」

 そう言って私とエイブラムさんの返事も聞かずに歩き出す。

 困惑した私はエイブラムさんに目を移したが、エイブラムさんは諦めたように肩をすくめてみせる。

 気が付けば、私達三人は庭園の中にある四阿のテーブルを囲んでいた。

 妙に気詰まりな空間に耐え切れず、エイブラムさんに話しかけると、エイブラムさんよりも先にお兄様が答えるという事が繰り返される。

 これじゃあ、エイブラムさんの事を知るよりもお兄様の事に詳しくなってしまうわ。

 どうにかしたいと考えていると、お兄様の後ろに救世主の姿を見つけた。

「おや、アンドリュー王子。こんな所で油を売っておいででしたか。さあ、書類の山があなたをお待ちですよ」

 お兄様専属の文官がお兄様の首根っこをひっ捕まえると、有無を言わさずに連れ去って行った。

 やれやれ。

 これでようやく落ち着いてエイブラムさんと話が出来るわ。

「ごめんなさいね。いきなりお付き合いなんて言ってしまって迷惑だったかしら」

 エイブラムさんに頭を下げようとすると、エイブラムさんが慌ててそれを遮った。

「迷惑ではありません。私の方こそ先日は失礼な事を言ってしまいました。よく考えればアリス様がそんな事を望まないのは明白でしたのに…」

 そしてエイブラムさんは私にスッと手を差し出してきた。

「少し歩きませんか?」

「…はい」

 エイブラムさんにエスコートされて庭園の中を歩く。

 流石は騎士団長。

 お兄様とは違って鍛えていらっしゃるわ。

 こうして少し見上げる横顔も素敵。

 うっとりと見とれていると、後ろからドタドタと足音が近付いて来て、私とエイブラムさんの手を引き剥がした。

「アリス! 庭なら私が案内してやろう」

 …お父様、もう復活したの?
 
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