72 / 179
第3章
第72話 殺人放火犯
しおりを挟む
「何っ!! アウーリエの町の領主邸が全焼しただと!?」
「はいっ!」
アデマス王国との第2戦の開戦間近。
部下からの報告を受けたクラレンス伯爵は、目を見開き大きな声を上げた。
これまでアデマス王国との戦いで、ラクト帝国は敷島の連中により煮え湯を飲まされてきた。
それに対抗するために、クラレンスは自分の領地を利用して、オリアーナたちの生物兵器開発に助力をして来た。
その生物兵器開発の本拠地であるアウーリエの町の領主邸が全焼したというだから、驚くのも無理はない。
「突如研究施設で火災が起こり、領兵が駆けつけた時には手遅れだったと……」
驚いているクラレンスに対し、報告に来た部下の男は書類を見ながら説明を始める。
クラレンスの指示により、今後の戦いのために生物兵器の強化薬の補充をおこなおうと、そう記した書類をアウーリエの町へと転送させると、帰ってきた答えがこの書類だった。
この書類を見たこの男も、最初は信じられない思いだった。
しかし、こんな書類を冗談で送ってくるはずはないため、信じざるを得ない状況だ。
「転送の魔道具が壊れ、これまで情報が上がってこなかったようです」
生物兵器とその強化薬の情報は、矢鱈に広まらないようにするため地下の研究所内に設置していた。
しかし、その火事により魔道具は故障。
代わりの魔道具を手に入れるために時間がかかり、被害の報告が遅れたということだった。
「残っていた研究員たちはどうした!?」
「……全員死亡とのことです」
「なっ……!」
今回、アデマス王国との戦いのために半分近くの研究員がこの場に同行している。
残った研究員たちには、さらなる研究と今回必要とした強化薬の製造を任せていた。
側に居たオリアーナが研究仲間たちがどうなったのかを問いかけるが、返ってきたのは最悪の答えだった。
「研究資料は!?」
「……何もかも焼けてしまいました」
「そんな……、研究にどれだけの金額をかけたと思っているんだ……」
クラレンスからすると、研究員の生死も気になるがそれ以上に気になるのは、これまで積み重ねてきた研究資料の方だ。
そのことを問いかけると、部下の男は言いにくそうに返答した。
クラレンスが落ち込みつつ呟いたように、この部下の男もかなりの資金が研究に投入されていることを知っていたからだ。
それが台無しになってしまったのだから、落ち込むのも仕方がない。
「そこまで落ち込むことはありませんよ閣下……」
「……何?」
「仲間は非情に残念ですが、兵器作成のノウハウはこの中にあります。施設さえ整えていただければ、また作り出すことも可能です」
クラレンスと同様に落ち込んでいたオリアーナだが、すぐに慰めるような言葉をかける。
仲間と共に研究資料まで無くなてしまったというのに、切り替えが早すぎる。
そのことをクラレンスが訝しみつつ問いかけると、オリアーナは自分の頭を指差して返答した。
つまり、生物兵器の作成法と強化薬の製法は、自分が記憶しているということだ。
「……ハハッ! そうか……、流石オリアーナだ! 研究員たちと資料のことは残念だが、それが聞けて安心したぞ!」
この研究においてリーダー的立場のオリアーナ。
そのオリアーナなら、たしかに兵器作成法と強化薬の製造法を覚えていてもおかしくない。
何もかもが無駄になってしまったと思い余裕がなくなっていたクラレンスは、オリアーナの言葉によって冷静さを取り戻した。
生物兵器がなければ、今後も続くであろうアデマス王国との戦いで苦戦することは間違いない。
更には、ラクト帝国内での自分の地位向上も難しくなる。
自分には鉱山資源の収入がある。
それを使えば、また研究所を作成することも不可能ではない。
最悪の状況にならなくて済むと分かり、クラレンスは心から安堵した。
「その死んだ研究員たちのことですが……」
「んっ? どうした? まだ報告があるのか?」
クラレンスの機嫌が直ったことは良いことだが、書類を持つ部下の男はまだ研究員たちのことで伝えないといけないことが残っていた。
言いにくそうにしている部下の男に、クラレンスは問いかける。
「一酸化炭素中毒による死などではなく、何者かによって斬られて死亡した形跡が確認されているそうです」
「…………何だと?」
火事の報告を受けた時、てっきり煙を吸い込んだことにより死亡したのかと思っていた。
しかし、その報告だと完全に違う。
そのことに気付いたクラレンスは、眉間に皺を寄せる。
「それはつまり、火事が起こる前に何者かによって殺されたということ?」
「恐らく……」
オリアーナもクラレンスと同じことに気付き、男に問いかける。
すると、部下の男は、確認のようなオリアーナの問いに頷きで返した。
書類の文章を読み解くと、オリアーナの言うように、研究員たちは火事が広がるより前に何者かによって殺されていたことになる。
「じゃあ、その火事も……」
「その殺人犯による放火の可能性が高いかと……」
火事の前に研究員たちが殺されていたということは、研究中に火事が起きた訳ではなく、何者かによって引き起こされた可能性が高くなった。
クラレンスの疑問ともとれる呟きに、部下の男は返答した。
「……おのれ!! 許さんぞ!!」
実験中の事故などではなく、何者かによる意図的な災害だということが分かり、クラレンスは怒りが込み上げてきた。
先ほども言ったように、アウーリエの町の領主邸には大金をつぎ込んできた。
地下に広大な研究施設を作り、様々な薬品や実験体を国中からかき集めた。
その全てが、その者の手によって焼失したということだ。
オリアーナの記憶力によって全てが無に帰すことなく済んだが、それがなかった立ち直れたか分からない。
「この戦争の後に何としても犯人を見つけ出し、地獄を味わわせてやる!!」
今はアデマス王国との戦争があるため、アウーリエの町に向かうことはできない。
しかし、この戦いを勝利して終息した暁には、犯人を見つけ出すことをクラレンスは誓った。
そして、犯人を見つけた時には、楽には死なせないことに決定した。
「人体実験に使うというのも良いですわね」
「そうだな……。それもいいかもしれないな」
ある程度完成された生物兵器。
今更人体実験のデータが必要になるとは思えないが、様々な情報があった方が更なる強化に役立てられるかもしれない。
仲間を殺された上に研究施設と資料も失うことになった。
その怒りから、人体実験のデータ採集にその犯人を利用することをクラレンスに提案する。
オリアーナならたしかに犯人に生き地獄を味わわせることができると考え、クラレンスはその案も候補に入れておくことにした。
「はいっ!」
アデマス王国との第2戦の開戦間近。
部下からの報告を受けたクラレンス伯爵は、目を見開き大きな声を上げた。
これまでアデマス王国との戦いで、ラクト帝国は敷島の連中により煮え湯を飲まされてきた。
それに対抗するために、クラレンスは自分の領地を利用して、オリアーナたちの生物兵器開発に助力をして来た。
その生物兵器開発の本拠地であるアウーリエの町の領主邸が全焼したというだから、驚くのも無理はない。
「突如研究施設で火災が起こり、領兵が駆けつけた時には手遅れだったと……」
驚いているクラレンスに対し、報告に来た部下の男は書類を見ながら説明を始める。
クラレンスの指示により、今後の戦いのために生物兵器の強化薬の補充をおこなおうと、そう記した書類をアウーリエの町へと転送させると、帰ってきた答えがこの書類だった。
この書類を見たこの男も、最初は信じられない思いだった。
しかし、こんな書類を冗談で送ってくるはずはないため、信じざるを得ない状況だ。
「転送の魔道具が壊れ、これまで情報が上がってこなかったようです」
生物兵器とその強化薬の情報は、矢鱈に広まらないようにするため地下の研究所内に設置していた。
しかし、その火事により魔道具は故障。
代わりの魔道具を手に入れるために時間がかかり、被害の報告が遅れたということだった。
「残っていた研究員たちはどうした!?」
「……全員死亡とのことです」
「なっ……!」
今回、アデマス王国との戦いのために半分近くの研究員がこの場に同行している。
残った研究員たちには、さらなる研究と今回必要とした強化薬の製造を任せていた。
側に居たオリアーナが研究仲間たちがどうなったのかを問いかけるが、返ってきたのは最悪の答えだった。
「研究資料は!?」
「……何もかも焼けてしまいました」
「そんな……、研究にどれだけの金額をかけたと思っているんだ……」
クラレンスからすると、研究員の生死も気になるがそれ以上に気になるのは、これまで積み重ねてきた研究資料の方だ。
そのことを問いかけると、部下の男は言いにくそうに返答した。
クラレンスが落ち込みつつ呟いたように、この部下の男もかなりの資金が研究に投入されていることを知っていたからだ。
それが台無しになってしまったのだから、落ち込むのも仕方がない。
「そこまで落ち込むことはありませんよ閣下……」
「……何?」
「仲間は非情に残念ですが、兵器作成のノウハウはこの中にあります。施設さえ整えていただければ、また作り出すことも可能です」
クラレンスと同様に落ち込んでいたオリアーナだが、すぐに慰めるような言葉をかける。
仲間と共に研究資料まで無くなてしまったというのに、切り替えが早すぎる。
そのことをクラレンスが訝しみつつ問いかけると、オリアーナは自分の頭を指差して返答した。
つまり、生物兵器の作成法と強化薬の製法は、自分が記憶しているということだ。
「……ハハッ! そうか……、流石オリアーナだ! 研究員たちと資料のことは残念だが、それが聞けて安心したぞ!」
この研究においてリーダー的立場のオリアーナ。
そのオリアーナなら、たしかに兵器作成法と強化薬の製造法を覚えていてもおかしくない。
何もかもが無駄になってしまったと思い余裕がなくなっていたクラレンスは、オリアーナの言葉によって冷静さを取り戻した。
生物兵器がなければ、今後も続くであろうアデマス王国との戦いで苦戦することは間違いない。
更には、ラクト帝国内での自分の地位向上も難しくなる。
自分には鉱山資源の収入がある。
それを使えば、また研究所を作成することも不可能ではない。
最悪の状況にならなくて済むと分かり、クラレンスは心から安堵した。
「その死んだ研究員たちのことですが……」
「んっ? どうした? まだ報告があるのか?」
クラレンスの機嫌が直ったことは良いことだが、書類を持つ部下の男はまだ研究員たちのことで伝えないといけないことが残っていた。
言いにくそうにしている部下の男に、クラレンスは問いかける。
「一酸化炭素中毒による死などではなく、何者かによって斬られて死亡した形跡が確認されているそうです」
「…………何だと?」
火事の報告を受けた時、てっきり煙を吸い込んだことにより死亡したのかと思っていた。
しかし、その報告だと完全に違う。
そのことに気付いたクラレンスは、眉間に皺を寄せる。
「それはつまり、火事が起こる前に何者かによって殺されたということ?」
「恐らく……」
オリアーナもクラレンスと同じことに気付き、男に問いかける。
すると、部下の男は、確認のようなオリアーナの問いに頷きで返した。
書類の文章を読み解くと、オリアーナの言うように、研究員たちは火事が広がるより前に何者かによって殺されていたことになる。
「じゃあ、その火事も……」
「その殺人犯による放火の可能性が高いかと……」
火事の前に研究員たちが殺されていたということは、研究中に火事が起きた訳ではなく、何者かによって引き起こされた可能性が高くなった。
クラレンスの疑問ともとれる呟きに、部下の男は返答した。
「……おのれ!! 許さんぞ!!」
実験中の事故などではなく、何者かによる意図的な災害だということが分かり、クラレンスは怒りが込み上げてきた。
先ほども言ったように、アウーリエの町の領主邸には大金をつぎ込んできた。
地下に広大な研究施設を作り、様々な薬品や実験体を国中からかき集めた。
その全てが、その者の手によって焼失したということだ。
オリアーナの記憶力によって全てが無に帰すことなく済んだが、それがなかった立ち直れたか分からない。
「この戦争の後に何としても犯人を見つけ出し、地獄を味わわせてやる!!」
今はアデマス王国との戦争があるため、アウーリエの町に向かうことはできない。
しかし、この戦いを勝利して終息した暁には、犯人を見つけ出すことをクラレンスは誓った。
そして、犯人を見つけた時には、楽には死なせないことに決定した。
「人体実験に使うというのも良いですわね」
「そうだな……。それもいいかもしれないな」
ある程度完成された生物兵器。
今更人体実験のデータが必要になるとは思えないが、様々な情報があった方が更なる強化に役立てられるかもしれない。
仲間を殺された上に研究施設と資料も失うことになった。
その怒りから、人体実験のデータ採集にその犯人を利用することをクラレンスに提案する。
オリアーナならたしかに犯人に生き地獄を味わわせることができると考え、クラレンスはその案も候補に入れておくことにした。
1
あなたにおすすめの小説
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる