エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第13章

第329話

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 魔王の出現。
 それはハイメの言ったように世界各地に起きていた。
 その中には、ケイの子供や孫たちが住むエルフ王国にも及んでいた。

「……何だろ?」

「本当だ……」

 その異変を見つけたのは、島に2つしかない海岸のうち、住宅街となっている東の海岸で遊んでいた子供たちだった。
 東の方角から翼をはためかせ、一体の生物がこの島へゆっくりと向かって来ている。
 飛んでいる姿は鳥には見えないため、子供たちは首を傾げた。

「僕、見てみる」

「エルミニオ?」

 海岸で遊ぶ子供たちのなかには、ケイの曾孫であるエルミニオがいた。 
 エルフの特徴となる長い耳はほぼなくなり、見た目は獣人でしかないが、魔力を扱うことが得意な子だ。
 近付いてくる生物のことを見るため、エルミニオは目に魔力を集めて望遠の魔法を使用した。

「っっっ!?」

「大丈夫? エルミニオ……」

 向かって来る生物を見たエルミニオは、腰を抜かしたようにその場にへたり込む。
 そして、小刻みに震えているのを見て、他の子供たちは何が起きたのかと心配そうに声をかけた。
 しかし、その声が聞こえていないのか、エルミニオは目を見開いたまま震えるだけだった。

「……に、逃げ…ないと……」

「えっ?」

 みんなが心配していると、エルミニオはようやく何かを呟く。
 ただ、その内容は途切れ途切れのため、みんな何が言いたいのか分からない。

「みんな逃げて! おじいちゃんに知らせないと!」

「えっ?」「う、うん……」

 エルミニオの尋常じゃない様子に、戸惑う子供たちは勢いに圧されるようにその指示に従う。
 そして、海岸にいた子供たちは住宅街の方へと向かい、エルミニオの祖父であるレイナルドの所へと向かっていった。






「おじいちゃん!」

「エルミニオ!! みんな戻ってきたか!?」

 エルミニオたちが住宅街の方へと向かっていくと、大人たちが武器や防具を装備している様子が目に入った。
 そのなかには、目的の祖父も混じっている。
 海岸へ遊びに行っていた子供たちが自分たちの意思で帰ってきたことに、レイナルドを始めとする大人たちは安堵したように笑みを浮かべた。

「東から変なのが……」

「あぁ、分かっている! とんでもない魔力を感じ取った」

 エルミニオが近付く生物のことを伝えようとしたのを、レイナルドは途中で何が言いたいのか察しているように返事をした。
 大人たちが集まっているのもそれが原因だ。
 突然とんでもない魔力を持った生物が探知内に入ってきたため、レイナルドは慌てて呼び集めたのだ。

「セレナ! みんなと西海岸まで避難してくれ」

「なっ!! そんな相手なの!?」

「あぁ……」

 人族の来襲があってから、ケイは島の改造を始めた。
 西と東の海岸には、島民の避難施設を作っておいた。
 ケイの息子であるレイナルドやカルロスも協力して作り上げた施設で、大量の魔石を使ったりして強固な結界を発動する地下シェルターとなっている。
 以前のように火山噴火の落石やマグマですらものともしない結界のため、緊急時にはそこへ逃げるよう村のみんなには指導されている。
 今では人も増えて戦力も高まったため、その施設に逃げ込むのは超緊急事態くらいのものでしかない。
 その施設に逃げろということは、その超緊急事態ともいえる相手が来たということを意味する。
 そのため、レイナルドのその指示に、妻のセレナは驚きの声をあげた。

「恐らく父さんが言っていた魔王とか言う奴だ」

「っ!! ケイ様が言っていた……」

 ハーフエルフの自分は、純血のケイ程ではないとは言っても、他の誰にも負けない魔力量をしているという自信があった。
 その自信はレイナルドのうぬぼれなどではない。
 弟のカルロス以外で、レイナルドに脅威を与えるような魔力量を持っている人間は存在しない。
 人間どころか魔族ですら及ばないかもしれない。
 それが、まだ遠くにいるというのにビリビリと伝わってくる魔力に、冷や汗が止まらないでいた。
 そんな生物と考えると、レイナルドにはすぐに思い至った。
 ケイが言っていた魔王とか言う存在だ。
 その言葉を聞いてセレナは息を飲んだ。

「分かったわ。みんな避難するわよ!」

 義父のケイが、島のダンジョンを強化して島の男たちを鍛えていた。
 それは魔王という存在がそのうち現れた時のためのものだと、みんなに話されていた。
 女性たちも戦闘力に自信のある獣人たちだが、その訓練に参加するのは躊躇われるような厳しさだった。
 あれほどの訓練をしなければならないような相手がとうとう来たのだと、気を引き締めたセレナはすぐさまみんなと共に西へ避難を開始することにした。





◆◆◆◆◆

「獣人とエルフか?」

 そのうち畑を作ろうと、東の海岸沿いに土魔法で作った人工島。
 レイナルドと村の獣人たちは、近付く危険生物を迎え撃とうとその場所へと集まった。
 飛んできた生物もそれを発見したのか、レイナルドたちの集まる地へと降り立った。
 レイナルドたちを見たその生物は、面白そうに呟く。
 そして、レイナルドを見て首を傾げる。
 真っ白な肌に真っ黒な服と翼。
 人の形をしているが、とても人間には見えない。

「耳が短いな。もしかして雑種か? 純血のエルフが見たかったのだが、残念だ」

「っ!? 不愉快な奴だな」

 耳の長さを見て、この生物はレイナルドがハーフだということを見抜いたようだ。
 母である美花が亡くなった時の落ち込みようから、父は心底母に惚れていたのが分かる。
 その父と母が愛し合って自分が生まれたのだと、レイナルドは自負している。
 それを雑種呼ばわりされ、いつもは冷静なレイナルドはカチンときて睨みつけた。

「何にしても、この地が気にいった。俺はここを本拠地にするとしよう」

「何っ?」

 その生物はレイナルドたちがいる背後に目をやり、楽しそうに呟く。
 まるで、寝床を見つけたかのような呟きだ。

「俺はソフロニオ、魔王ソフロニオだ」

「……やっぱりか。よりにもよって、父さんやカルロスがいないときに……」

 来る前から分かっていたが、やはりこの生物は魔王のようだ。
 分かってはいたが、改めて目の前にすると更に魔力量に脅威を感じる。
 まさかの魔王の来訪に、レイナルドは後悔していた。
 先日、新しい刀が欲しいカルロスを連れて、ケイが日向に向かってしまった。
 こんな事なら、止めるべきだった。

「みんな落ち着け! 父さんがいなくても、俺たちが力を合わせれば何とかなる」

「「「「「おう!!」」」」」

「アンヘル王国の力を見せてやる!」

 魔王と名乗るソフロニオ。
 たしかに魔力量はとんでもないが、まだ負けると決まったわけではない。
 ケイとカルロスがいないが、ここにいるのは魔王討伐のために訓練を重ねてきた者たちばかりだ。
 彼らと共にならきっと何とかなる。
 そう考え、レイナルドは仲間を鼓舞したのだった。

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