主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

文字の大きさ
25 / 281
1学年 前期

第25話

しおりを挟む
「ふん!」

「す、すごい!」

 空いた穴から出てくる巨大モグラの魔物。
 その魔物たちに対し、伸は刀を振り回して倒していく。
 その戦う姿を見て、綾愛は驚きで固まっていた。
 学園に出た時は、睡眠魔術によって意識がしっかりしていなかったため、伸の戦闘をはっきり見れていなかった。
 あの時でもすごいと感じていたのだが、しっかりと目の前でおこなわれる戦闘に感心しきりだ。

「ん~……、前回よりかは強いかな……」

 学園に出たのと同じ種類の魔物でありながら、伸は前回との違いを感じていた。
 数が多いと言うだけではなく、何となく魔物同士で連携しているような動きをしているように感じる。
 同じ種類の魔物ならそうしたこともあり得るが、前回以上の連携度合いに感じる。
 それが伸にとって戦いにくさとなって出ているのかもしれない。

「まぁ、俺からすればたいした差はないがな……」

 連携力が違うのは気になる所だが、それでも伸にとっては微々たる差でしかない。
 魔物たちはバッサバッサと斬り伏せられ、死骸の山を増やしていた。

「っ!!」

「っと!」

 出現した魔物の中には、仲間が殺されているというのに、綾愛を狙って行動する個体がいた。
 その魔物を、伸は小さい魔力弾を飛ばすだけで仕留める。

「速い……」

 綾愛を狙って倒された魔物の頭部には、小さい穴が空いている。
 その鮮やかな仕留め方に、綾愛はまたも感心していた。
 自分が使っている魔力弾よりも小さいにもかかわらずこの威力というのもすごいが、発射速度に加え、これほどの威力を出せるほどの魔力を練るのも一瞬だった。
 伸が言っていた魔力のコントロールの差が、自分とは雲泥の差だというのが理解できた。

「手は出さなくて良いから、魔物の死体を収納してくれるか?」

「う、うん」

 魔物と戦っているのは伸だけで、言いたくないが綾愛は足手まといでしかないため、戦うよりも側で見ているだけでいてくれる方がありがたい。
 穴から出てくる魔物を倒していたことで、死骸で段々と坑道が狭くなってきた。
 このままでは戦いにくくなるので、伸は手の空いている綾愛に手伝ってもらうことにした。
 やることは簡単、魔物の死骸の収納だ。
 
「まだまだ出てくるか……。一気に吹っ飛ばしたいが難しいな……」

「なんで?」

 倒しても出てくる魔物の量に、伸はうんざりしたように呟く。
 戦う伸の邪魔をしないように収納をしながら、綾愛はその呟きに反応する。
 戦闘開始してから、伸はほとんど身体強化して刀での攻撃しかおこなっていない。
 魔術を使った攻撃をした方がもっと楽なのではないかと思っていたため、そうしてそうしないのか綾愛には理由がわからなかった。

「これだけの数を一斉にってなると、ミスったら洞窟が壊れる」

「あぁ……」

 魔物を全滅させるだけなら難しいことではない。
 自分1人で戦っているのなら、この洞窟ごと魔物を潰してしまうという力技も出来なくないが、今は側に綾愛もいることだし、他の柊家の人間たちが逃げきれているか分からない。
 綾愛としても生き埋めは嫌なので、魔術による一掃は勘弁願いたいため、今は地道に減らしていくしかないようだ。

「転移はできないの?」

 魔物の数が尋常じゃない。
 しかし、悔しいが自分は足手まといでしかないため、戦う訳にはいかない。
 せめて自分だけでもいなくなれば、伸がもう少し戦いやすいはずだ。
 そう考えた綾愛は、先日見せてもらった転移の魔術を思いだして問いかけた。

「この数相手じゃいくら俺でも時間が足らない」

 この世界で転移魔術を使いこなせる者はかなり少なく、しかも伸のように無理なく使いこなすような人間はいない。
 それだけ難しく、多くの魔力を消費する魔術だ。
 転移魔術はなら、行ったことある場所へ一瞬で移動できる魔術だが、その移動する場所のイメージをしっかりして魔力を練らないとないといけない。
 それを魔物を相手にしながらでは、いくら伸でも難しいため、無理だということを綾愛に伝えた。

「ったく! 数が多いな……」

 一通り倒し終えた通ったら、また穴から魔物が出てくる。
 少しの間を利用して、ちょっとばかり探知してもまだ地下には魔物が潜んでいるように見える。
 早く綾愛を柊家の人間に渡してしまいたいところだが、まだ時間がかかりそうだ。

「これだけの魔物がいるってことは、本当に魔族がいるのかな?」 

「いくら俺でも、魔族だけは勘弁してほしいな……」

 魔物ならこれまで何度も倒してきたため、恐ろしいと思うことはないが、魔族の強さは伸でも未知数だ。
 しかも、今は綾愛もいる状況なので、絶対に遭遇したくない。

「……もしも出たら?」

「変な事聞くなよ」

 この状況でそんな事を言われると、何だかフラグになりそうで嫌な気分になる。
 そのため、伸は綾愛の質問にツッコミを入れる。

「もしも……の話よ」

「まぁ、出たら、君を抱えて何とか逃げ切ってみるよ」

「……、そう……」

 綾愛の言うように、もしも魔族が出たら逃げ1択だ。
 置いて逃げるという選択を取ると思っていたため、綾愛としては意外な答えだ。
 しかも、抱えてという言葉で、さっきの御姫様抱っこのことを思いだしてしまったため、ほんのり顔が赤くなってしまった。

「あっ! あっちは……」

「無理無理。流石に外へ向かうのまで止めてられないよ」

 穴から出てくる魔物の中には、綾愛を狙うのは無理だと判断したのか、外へと向かう方角へと向かう魔物も出始めた。
 しかし、それまで伸が倒すとなると、綾愛を危険に晒すことになる。
 そのため、外へ出てしまった数体は、外で控える柊家の人たちに任せることにした。





「田中! 綾愛はどうした!?」

「魔物が出現し、出て来られなくなってしまいました!」

「なっ!!」

 異変を聞いて、柊家当主の俊夫も出張ってきた。
 柊家の屋敷からそれほど離れていない山だったのが幸いしたという所だろうか。
 戦闘面においてはそれ程でも、移動速度に自信のある田中に綾愛の避難誘導を任せたのだが、戻ってきたのは田中だけだった。
 顔を青くしながら問いかけた俊夫に、田中は洞窟内で何が起きたのかを簡単に説明した。
 その説明で、俊夫は更に血の気が引いた。

「せめての救いは、当主様が目をかけていた新田殿にかけるしか……」

「新田……、あの少年か……」

 恐らく自分以上の実力を持った少年。
 彼が綾愛の側にいるということを聞いて、俊夫は少しだけ安堵した。
 魔物に襲われている状況だとしても、彼なら綾愛を守り切れるかもしれないからだ。

「あっ!?」

「魔物だ!!」

「連携をとって戦え!!」

 綾愛たち以外にも、柊家に仕えている数組の班が戻って来ていない。
 彼らも魔物に襲われているのかもしれない。
 外にいた者だちは、大人数の隊を組んで全員の救護に中へと入ろうと思っていたのだが、それより先に魔物が洞窟の入り口から出てきた。
 それを見て、集まった柊家の面々は、武器を持って戦闘を開始した。

「全員! 仲間の救助優先だ! 魔物を倒して中へと進め!」

「「「「「了解!!」」」」」

 魔物の殲滅は後回し、まずは仲間の救出が最優先だ。
 そのためには、まず出てくる魔物を倒しつつ中へと進んで行くしかない。

「くそっ!! 綾愛や中に入った者を救いに行きたいというのに……」

 出てくるのは結構な数の巨大モグラの魔物たち。
 伸が逃したのだけでなく、他の坑道からも外へと向かっている魔物がいたようだ。
 その魔物を倒さないと、中へと入ることもできそうにない。
 洞窟が崩れるといけないため、伸と同様に魔術でドッカンとやる訳にはいかない。
 娘や部下を救いに、一刻も早く中へ入りたい俊夫だったが、魔物に邪魔されてイラ立っていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...