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1学年 前期
第36話
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「魔人が逃げた!?」
護送中の魔人の逃亡。
そのことは、すぐさま大和皇国中に知れ渡った。
平日のため、伸に伝わったのはその日の放課後だった。
綾愛によっていつもの料亭に呼ばれた伸は、魔人の逃亡に驚きの声をあげた。
「逃げ出さないように魔闘組合の魔術師たちが配備されていたんじゃないのか?」
魔人のモグラ男最大の武器である爪は、伸が腕ごと斬り飛ばした。
そのうえで、魔力封じの枷も装着していたはず。
魔力も使えないその状態なら、もしもモグラ男が暴れたとしても魔闘組合の魔術師たちですぐに制圧できるはずだ。
「その通りよ。でも予想外のことが起きたの……」
「予想外?」
伸の問いに頷き、綾愛はバツが悪そうに呟く。
柊家から皇都の担当者へ受け渡したので、そこから先のことはよく分からない。
綾愛もこの情報は柊家の人間から聞いた話だ。
「護送中にもう1体同種の魔人が出現したそうよ」
「もう1体だと……」
綾愛の説明を受けて、伸は言葉を失う。
護送中を狙ってもう1体現れるなんて、誰も想像していなかったことだろう。
魔人がどのようにして誕生しているのか分からないが、1体誕生することすら滅多になく、2体も誕生しているなんて聞いたことがない。
魔人の護送を魔人に阻止されるなんて、誰も想像していなかったことだろう。
「証言によると、その魔人たちは兄弟という話らしいわ」
事件が起きて、早々に近隣の魔闘組合支部から魔術師たちが派遣された。
駆け付けた者たちによると、護送に従事していた者たちは全員死亡。
辛うじて息の合った運転手の男は、残りの力を振り絞って証言をしてくれた。
彼の死際の証言によると、魔人の2体は兄や弟という言葉を話していたことから、兄弟であるということが分かった。
「……それで? その魔人たちはどこへ行ったんだ?」
逃げられてしまったのは分かったが、問題なのはその魔人の行方だ。
せめて行方が分かっていれば、そこへ包囲網をかければいい。
そう思って問いかけたのだが、綾愛の表情は暗い。
「分からないわ。どこへ逃げたのか見つかっていない状況よ」
「……最悪だな」
綾愛から返ってきた答えに、伸は思わず天を仰いだ。
逃げたのがモグラの魔人だということも良くなかった。
彼らの能力から考えると、地中へ逃げることも可能だ。
地中深くに隠れられたら、伸でも広範囲の捜索は難しい。
相当な人数で捜索に当たらないと、国中どこに出てもおかしくない状況になってしまう。
「でも、魔闘組合の魔術師によってすぐに緊急配備をかけたから、官林地区と八郷地区のどちらかに逃げたのは間違いないわ」
魔人が逃げ出したのだから、当然すぐさま捜索に入った。
緊急配備により、検問のように探知している。
余裕を持って広範囲を探知しているが、その探知に魔人のような膨大な魔力を持つ者が引っかかったという話は出ていないそうだ。
それにより、魔人たちがいるのは八郷地区の西、もしくは官林地区の東のどこかに潜伏しているということだ。
「両地区は厳戒態勢がとられることになったわ。特に皇都はこの国の中枢があるから、多くの魔闘組合員が配備されているそうよ」
「だろうな……」
国家の象徴たる天皇陛下の住まう皇都。
そのため、官林地区は当然のようにこの国で1番発展している地区だ。
他の地区以上に警戒を高めるのは当たり前のことだろう。
「八郷地区ってなると、また戦うことになるかもしれないのか……」
隣の八郷地区とは山を隔てているため、東側は緑が残っている。
しかし、それもたいした大きさではないため、魔人たちが隠れるのは難しいだろう。
それに、両腕を斬り飛ばした伸のことを狙ってくる可能性もあるため、逃げるなら八郷地区の方が高い気がする。
「面倒だな……」
八郷地区にいるとなると、モグラ男とまた戦うことになるかもしれない。
柊家の当主の俊夫でもいい勝負するだろうが、自分が戦う方が確実に勝てるだろう。
伸はなんとなく気が重くなりつつ、再戦する可能性が高いことを頭に入れていた。
◆◆◆◆◆
「……という訳で、鷹藤家の方に動いていただけないかと……」
「なるほど……」
伸が綾愛に今回の説明を受けている時、皇都にある藤代家には客人が来ていた。
せっかく捕縛した魔人に逃亡されるなんて、魔闘組合の大失態だ。
それを帳消しにできるとは思わないが、何としても汚名を濯ぎたい。
そのためには、魔術師として最大の名家に協力を望むのが一番と判断したのか、魔闘組合の本部のトップである園橋は藤代家へと足を運んでいた。
そして、逃亡の経緯、魔人の特徴や逃走範囲などの説明し、鷹藤家の当主である康義の顔色を窺う。
「魔人が2体も出るなんて、たしかに誰も考えもしなかったこと。仕方がないとしか言いようがないですな……」
「面目ない……」
報告を受けた康義は、魔闘組合の顔を立てるためか、魔人に逃げられたことを咎めるようなことはしない。
しかし、その方が情けなく感じ、魔闘組合の男は頭を下げた。
「この国のことを考えれば当然協力いたしましょう」
「おぉ! ありがとうございます! 鷹藤殿!」
鷹藤の協力が得られることが決まり、園橋は頭を下げて感謝を述べる
そして、そのことを報告するためか、それともいつまでも居るのがためらわれたのか、そそくさと鷹藤家から退散していったのだった。
「柊家が捕まえられたのだ。我々でも不可能ではない!!」
「その通りだ!!」
その日の夜、鷹藤家には親族の面々が集められていた。
そして、魔人討伐に向けての話し合いがもたれることになった。
参戦する者の自薦を求めると、多くの者たちが手を上げて希望を示してきた。
中には、魔人の捕縛をした柊家の株が上がっているのが気に入らないらしく、今回のことで鷹藤家こそ大和皇国でトップだということを示したいようだ。
「おじい様! 俺も参加させていただけないでしょうか?」
「何を言っているんだ! お前はまだ高校生だ。ダメに決まっているだろ!」
「魔物との戦闘は何度もおこなっています!」
室内が魔人討伐に盛り上がる中、1人の少年が参戦に手を上げた。
伸や綾愛と同い年の文康だ。
息子の突然の発言に、父の康則は声を荒らげる。
しかし、父に咎められても文康は止まらない。
これまでの魔物退治で、一度として苦戦したことがなかった。
それが、無駄に文康の自信を膨大させる要因となっているのだろう。
周囲から天才扱いされて、少々天狗になっているようだ。
「それは……」
「いいだろう……」
「っ!? 父さん!」
「本当ですか!?」
たしかに父である自分から見ても、文康は高校生にしては強い。
魔物との訓練をもう何度かおこなっている。
父である自分を抜き、祖父である康義にまで届くかもしれないといわれるだけはある。
しかし、それでも魔人になったら話は別だ。
自分に及ばない人間が魔人と戦おうなんて、自殺行為でしかない。
そのため、康則は文康を止めようとしたのだが、それを父の康義に遮られた。
文康は祖父からの許可が得られて、嬉しそうに声をあげた。
「その代わり魔人と戦うようなことだけはしないことが条件だ。お前に才があるといっても、康則の言うように所詮は高校生だ。魔人に通用する程ではない」
「分かりました……」
文康は参戦できると知って喜んだが、すぐにその喜びが沈むことになった。
魔人と戦うにしても、自分はその周りに出るであろう魔物の相手のみで、魔人との直接戦闘は許可されなかった。
祖父から半人前扱いされて納得いかないのか、文則は渋々頷いたのだった。
護送中の魔人の逃亡。
そのことは、すぐさま大和皇国中に知れ渡った。
平日のため、伸に伝わったのはその日の放課後だった。
綾愛によっていつもの料亭に呼ばれた伸は、魔人の逃亡に驚きの声をあげた。
「逃げ出さないように魔闘組合の魔術師たちが配備されていたんじゃないのか?」
魔人のモグラ男最大の武器である爪は、伸が腕ごと斬り飛ばした。
そのうえで、魔力封じの枷も装着していたはず。
魔力も使えないその状態なら、もしもモグラ男が暴れたとしても魔闘組合の魔術師たちですぐに制圧できるはずだ。
「その通りよ。でも予想外のことが起きたの……」
「予想外?」
伸の問いに頷き、綾愛はバツが悪そうに呟く。
柊家から皇都の担当者へ受け渡したので、そこから先のことはよく分からない。
綾愛もこの情報は柊家の人間から聞いた話だ。
「護送中にもう1体同種の魔人が出現したそうよ」
「もう1体だと……」
綾愛の説明を受けて、伸は言葉を失う。
護送中を狙ってもう1体現れるなんて、誰も想像していなかったことだろう。
魔人がどのようにして誕生しているのか分からないが、1体誕生することすら滅多になく、2体も誕生しているなんて聞いたことがない。
魔人の護送を魔人に阻止されるなんて、誰も想像していなかったことだろう。
「証言によると、その魔人たちは兄弟という話らしいわ」
事件が起きて、早々に近隣の魔闘組合支部から魔術師たちが派遣された。
駆け付けた者たちによると、護送に従事していた者たちは全員死亡。
辛うじて息の合った運転手の男は、残りの力を振り絞って証言をしてくれた。
彼の死際の証言によると、魔人の2体は兄や弟という言葉を話していたことから、兄弟であるということが分かった。
「……それで? その魔人たちはどこへ行ったんだ?」
逃げられてしまったのは分かったが、問題なのはその魔人の行方だ。
せめて行方が分かっていれば、そこへ包囲網をかければいい。
そう思って問いかけたのだが、綾愛の表情は暗い。
「分からないわ。どこへ逃げたのか見つかっていない状況よ」
「……最悪だな」
綾愛から返ってきた答えに、伸は思わず天を仰いだ。
逃げたのがモグラの魔人だということも良くなかった。
彼らの能力から考えると、地中へ逃げることも可能だ。
地中深くに隠れられたら、伸でも広範囲の捜索は難しい。
相当な人数で捜索に当たらないと、国中どこに出てもおかしくない状況になってしまう。
「でも、魔闘組合の魔術師によってすぐに緊急配備をかけたから、官林地区と八郷地区のどちらかに逃げたのは間違いないわ」
魔人が逃げ出したのだから、当然すぐさま捜索に入った。
緊急配備により、検問のように探知している。
余裕を持って広範囲を探知しているが、その探知に魔人のような膨大な魔力を持つ者が引っかかったという話は出ていないそうだ。
それにより、魔人たちがいるのは八郷地区の西、もしくは官林地区の東のどこかに潜伏しているということだ。
「両地区は厳戒態勢がとられることになったわ。特に皇都はこの国の中枢があるから、多くの魔闘組合員が配備されているそうよ」
「だろうな……」
国家の象徴たる天皇陛下の住まう皇都。
そのため、官林地区は当然のようにこの国で1番発展している地区だ。
他の地区以上に警戒を高めるのは当たり前のことだろう。
「八郷地区ってなると、また戦うことになるかもしれないのか……」
隣の八郷地区とは山を隔てているため、東側は緑が残っている。
しかし、それもたいした大きさではないため、魔人たちが隠れるのは難しいだろう。
それに、両腕を斬り飛ばした伸のことを狙ってくる可能性もあるため、逃げるなら八郷地区の方が高い気がする。
「面倒だな……」
八郷地区にいるとなると、モグラ男とまた戦うことになるかもしれない。
柊家の当主の俊夫でもいい勝負するだろうが、自分が戦う方が確実に勝てるだろう。
伸はなんとなく気が重くなりつつ、再戦する可能性が高いことを頭に入れていた。
◆◆◆◆◆
「……という訳で、鷹藤家の方に動いていただけないかと……」
「なるほど……」
伸が綾愛に今回の説明を受けている時、皇都にある藤代家には客人が来ていた。
せっかく捕縛した魔人に逃亡されるなんて、魔闘組合の大失態だ。
それを帳消しにできるとは思わないが、何としても汚名を濯ぎたい。
そのためには、魔術師として最大の名家に協力を望むのが一番と判断したのか、魔闘組合の本部のトップである園橋は藤代家へと足を運んでいた。
そして、逃亡の経緯、魔人の特徴や逃走範囲などの説明し、鷹藤家の当主である康義の顔色を窺う。
「魔人が2体も出るなんて、たしかに誰も考えもしなかったこと。仕方がないとしか言いようがないですな……」
「面目ない……」
報告を受けた康義は、魔闘組合の顔を立てるためか、魔人に逃げられたことを咎めるようなことはしない。
しかし、その方が情けなく感じ、魔闘組合の男は頭を下げた。
「この国のことを考えれば当然協力いたしましょう」
「おぉ! ありがとうございます! 鷹藤殿!」
鷹藤の協力が得られることが決まり、園橋は頭を下げて感謝を述べる
そして、そのことを報告するためか、それともいつまでも居るのがためらわれたのか、そそくさと鷹藤家から退散していったのだった。
「柊家が捕まえられたのだ。我々でも不可能ではない!!」
「その通りだ!!」
その日の夜、鷹藤家には親族の面々が集められていた。
そして、魔人討伐に向けての話し合いがもたれることになった。
参戦する者の自薦を求めると、多くの者たちが手を上げて希望を示してきた。
中には、魔人の捕縛をした柊家の株が上がっているのが気に入らないらしく、今回のことで鷹藤家こそ大和皇国でトップだということを示したいようだ。
「おじい様! 俺も参加させていただけないでしょうか?」
「何を言っているんだ! お前はまだ高校生だ。ダメに決まっているだろ!」
「魔物との戦闘は何度もおこなっています!」
室内が魔人討伐に盛り上がる中、1人の少年が参戦に手を上げた。
伸や綾愛と同い年の文康だ。
息子の突然の発言に、父の康則は声を荒らげる。
しかし、父に咎められても文康は止まらない。
これまでの魔物退治で、一度として苦戦したことがなかった。
それが、無駄に文康の自信を膨大させる要因となっているのだろう。
周囲から天才扱いされて、少々天狗になっているようだ。
「それは……」
「いいだろう……」
「っ!? 父さん!」
「本当ですか!?」
たしかに父である自分から見ても、文康は高校生にしては強い。
魔物との訓練をもう何度かおこなっている。
父である自分を抜き、祖父である康義にまで届くかもしれないといわれるだけはある。
しかし、それでも魔人になったら話は別だ。
自分に及ばない人間が魔人と戦おうなんて、自殺行為でしかない。
そのため、康則は文康を止めようとしたのだが、それを父の康義に遮られた。
文康は祖父からの許可が得られて、嬉しそうに声をあげた。
「その代わり魔人と戦うようなことだけはしないことが条件だ。お前に才があるといっても、康則の言うように所詮は高校生だ。魔人に通用する程ではない」
「分かりました……」
文康は参戦できると知って喜んだが、すぐにその喜びが沈むことになった。
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