主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

文字の大きさ
37 / 281
1学年 前期

第37話

しおりを挟む
「音沙汰無しだな……」

「そうだね……」

 気温も上がり、もうすぐ前期の期末試験の時期が近付いている。
 魔人が逃げてもう1ヵ月が経つというのに、大きな事件は起きておらず、それが不気味に感じるところだ。
 未だに厳戒態勢は解かれておらず、官林地区と八郷地区の住民は恐々とした思いをしたまま日々を過ごしている。
 いつものように休みを利用して、伸は回復薬の販売をしに故郷である花紡州の供応市の魔闘組合支部に来ていた。
 そこで、支部長の紅林と話しているうちに、姿を消した魔人の話へとなった。

「地下にいる可能性もあるから慎重に範囲を狭めなければならない。だから捜索に時間がかかっているんでしょ?」

「その通りだ」 

 この1ヵ月、魔闘組合の魔術師たちにより、モグラの魔人の捜索が続けられていた。
 魔人の逃亡直後に緊急配備をおこなったことで、官林地区と八郷地区の中に抑え込んでいると思われ、その範囲を少しずつ狭めている状況だ。
 しかし、相手はモグラの魔人。
 地下に潜っている可能性もあり、その探知が難しい。
 探知を地下へと広げる場合、抵抗を受けるため魔力を結構な量使用することになる。
 そのため、捜索範囲を狭めたくても少しずつしかできず、これだけ長い時間がかかっている状況だ。

「ここまでの範囲なら、お前見つけられるんじゃないか?」

 支部長室の部屋の壁にかけられている地図を使って、紅林はこれまでで狭められた範囲を示す。
 官林地区の東、八郷地区の西側の端の方が魔人が隠れているであろう範囲とされている。
 伸の実力のことを知っている紅林は、若干冗談交じりに伸に探ることを促す。

「勘弁だね。その範囲を調べるのは骨が折れる」

「……無理とは言わないんだな」

 伸が強いというのは知っているが、全力を出したところは見たことがない。
 しかし、いくら何でも無理だと承知で言ったのだが、伸から返ってきた答えは自分の予想したのとは違うものだった。
 てっきり無理だと言って来ると思っていたのに、疲れるからいやだというのは、出来るけどやらないと言っているためだ。

「まぁ、この辺には来ていないのは確認できているから安心していいぞ」

「それが分かって良かったよ」

 魔人が潜伏しているとされている範囲には花紡州も入っている。
 だが、花紡州の中でも東の供応市は範囲外になった。
 故郷の地が危険に晒されていると思うと気になっていたため、その範囲から抜けたことを知って伸は安心した。

「他には何の情報も入っていないかい?」

「柊家の嬢ちゃんから聞いていないのか?」

 伸はこれまで何度も魔物を倒したりしてきたが、情報源はこの紅林だった。
 しかし、高校生になって柊家と関係を持つことができた。
 田舎の支部の情報よりも、名門の柊家の方が情報網は広いはず。
 そのため、伸の質問に対し、紅林は質問で返した。

「今日呼ばれてるんだ。そろそろ行くよ」

「そうか」

 同じ学園に通っているが、クラスが違うので綾愛と毎日会っている訳ではない。
 伸の方から用事がある訳でもないので、もしも魔人を発見したのなら綾愛の方から話しかけてくると思っていた。
 そして、昨日綾愛から柊家に来るように言われていたので、その予定時間の前にここに回復薬を届けに来たのだ。
 紅林と話していると、いつの間にかその時間も近付いていたため、伸は帰る用意を始めた。

「回復薬また頼めるか?」

「もちろん。じゃ!」

「おう!」

 支部長室から出る伸に、紅林はまた回復薬の製造を頼む。
 魔人は出ないと思うが、もしもの時に回復薬はあるに越したことはない。
 それと同時に、伸の顔が見たいという思いもある。
 まだ数年の付き合いでしかないが、年齢的に自分の息子でもおかしくない年齢の伸が気にかかるのだ。
 そんな紅林の思いを知らず、伸は軽い返事をして部屋から出ていった。





「よく来てくれた」

「どうも」

 紅林と別れた伸は、供応市の支部から柊家へと転移した。
 転移用に与えられた部屋から出ると、使用人の人が待ち受けていた。
 その使用人の案内で、そのまま当主である俊夫のいる部屋へと案内された。

「メールなどだと傍聴される可能性も考えないといけないからね」

「分かっています」

 俊夫にはスマホのメールアドレスを教えている。
 しかし、それが100%安心とは言えないため、秘匿するために綾愛を通しての報告が続いている。
 今日ここに呼んだのも、直接話すことで情報が漏れないようにするための予防策だ。
 伸もそのことが分かっているので、すぐに了承の返事をする。 

「お話は魔人に関することですよね?」

「あぁ……」

 和室で向かい合った状態に座った2人。
 まだ慣れない邸の空気に、伸は早々に住ませようと話に入る。
 呼び寄せておいて世間話などと言う訳もなく、当然魔人の話だ。

「まず、魔人の捕縛に鷹藤が動いているらしい」

「……そうですか。官林地区ですからね」

 魔人に逃げられ、魔闘組合は早々に動いた。
 この国のトップに立つ魔術師を要する鷹藤家へ、魔人捕縛の依頼を頼んだそうだ。
 そもそも官林地区は鷹藤家の庭のようなもの、魔闘組合が依頼するのは当然予想できたため、伸は特に驚くことなく納得した。

「次に、魔人の潜んでいそうな場所は把握できた」

「っ!! どこですか?」

 紅林は魔人の発見情報は受けなかった。
 彼の言うように、やはり柊家の方が情報網は広いようで、魔人の居場所を探し出したようだ。

「寸滝町で医者数名が1ヵ月近く行方不明になっている」

「医者ですか? ……そうか!」

「あぁ、再生魔術師を捕まえているんだろう」

 官林地区の中で東にある亜久州。
 柊家が地盤としている戸谷雷州に隣接していている亜久州の中で東の端にある町が寸滝町だ。
 その町の医者が行方不明なのだとして、どうして魔人発見の要因になったのか分からず首を傾げたが、伸はすぐにその理由に思い至った。
 伸が理由に気付いたのを見計らって、俊夫は確認の意味で答えを述べた。
 捕まえた魔人の片方は、伸との戦闘で両腕を損失している。
 それを回復するため、再生魔術のかけられる医者を攫ったのだろう。
 再生魔術とは、手足などの四肢を欠損を再生する魔術で、一回でかなりの魔力を消費することから、片手の再生なら通常1ヵ月ほどかかる。
 少しでも早く治そうとするなら、毎日数人から再生魔術をかけてもらうしかないため、魔人も両手を再生するために医者を捕まえたのだろう。

「このことは恐らく鷹藤家も気付いているらしく、鷹藤家の面々が集まっているという話だ」

「鷹藤が魔人を捕まえるなり倒したとなると、またでかい顔されることになりますね。柊家が先に仕留めるってことはできないのですか?」

 鷹藤家の当主は、伸の大伯父に当たる。
 しかし、伸としては魔術の才がなかったという理由で祖父につらく当たった鷹藤家が嫌いだ。
 出来れば今以上に権力を持つようなことにはなって欲しくない。
 ならば魔人を先に柊家が倒してしまえば、それが阻止できると思った。

「悔しいことに、寸滝町はギリギリ官林地区だ。それもあって、手を出せないでいる」

「縄張り意識ですか?」

「あぁ……」

 魔人が潜んでいるのが八郷地区なら、鷹藤家のことなんか気にしないで一族総出で捕縛に向かう所なのだが、官林地区ではどうしようもない。
 そこに手を出すと、名前を上げるために鷹藤家を出し抜いたと思われることになる。
 逃げられたとはいえ、魔人を捕縛した柊家は評価されているのだから、俊夫としては余計なことをして鷹藤家と揉めるようなことはしたくない。

「不満だろうが、こう言ったことは面倒なんだよ」

「……仕方がないですね」

 一般市民からすれば、魔人を捕縛なり討伐できるなら、どっちが倒そうが関係ないと思うだろう。
 しかし、そう言った縄張りにこだわる者も少なくないため、これを破ると両家にとって小さな火種になる。
 揉めて痛手を負うのは柊家の方だ。
 高校生の伸にはこんなこと納得できないかもしれないが、諦めてもらうしかない。
 鷹藤と揉めるのは避けたいのは伸も同じのため、俊夫の言葉を仕方なく受け入れることにした。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...