主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

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2学年 後期

第164話

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「どうやら、今のあなたでも苦労する相手のようですね?」

「あぁ、私1人ではちょっと無理だ」

 姿を現した伸は、柊家当主の俊夫に近寄り話しかける。
 俊夫の姿を見ると、大怪我はしていないまでも所々小さい怪我を負っている。
 一緒に戦っていたと思われる、鷹藤家当主の康義も同様だ。
 その姿から、2対1で戦っているにもかかわらず、苦戦していることが窺える。
 去年、俊夫の体を操作して現れた魔人を倒した。
 それによって、俊夫の魔力操作技術が上昇し、かなりの戦力アップを図ることができた。
 伸の前にいる魔人は、そんな俊夫ですら苦戦する相手だということだ。
 正しい伸の状況判断に、俊夫は小さく頷いた。

「去年のように私を使うかい?」

 自分と鷹藤ではナタニエルを倒すのは少々難しいが、いまだに実力の底が分からない伸ならばなんとかなるはず。
 実力は合っても、自分の娘と同じ年の少年に任せのは気が引けるが仕方がない。
 しかし、問題がある。
 この場には鷹藤家の康義がいることだ。
 伸の祖父と康義との間に因縁があることは、伸本人の口から聞いている。
 そのことがあるから柊家を隠れ蓑に利用して、高校を卒業するまで実力がバレないようにしていたはずだ。
 バレたくない張本人である康義の前でナタニエルと戦うことは、伸としては避けたいはず。
 そう考えた俊夫は、去年のように自分を操作してナタニエルと戦うことを提案した。

「……いや、今のあなたで苦労するなら、操作で倒すのは難しいですね。俺がやりますよ」

 俊夫の考えている通り、康義の前で実力を見せるのは控えたい。
 そのため、提案を受け入れ、俊夫の体を操作して倒せるならばそうしたい。
 だが、去年から戦力アップした俊夫と、伸が操作した俊夫を比べた時、大幅な差が出ることはない。
 そうなると、俊夫が大怪我を負う可能性もあるため、伸は俊夫の提案を断った。

「……良いのかい?」

「……まぁ、仕方ないでしょう」

 康義がいるのに実力を見せてしまっては、鷹藤家に引き込もうとすることは間違いない。
 祖父のことがあり、伸はそれが嫌なはず。
 そのため、俊夫はその方法しかないとはいえ、自分で戦うという選択をすることに後悔しないか尋ねた。
 自分がナタニエルを倒したとして、その後に鷹藤家が寄ってくることは間違いないだろう。
 しかし、魔人をこのままのさばらせておくことの方が、この国にとっては問題でしかない。
 ナタニエルを倒せるのが自分しかいないのだから、伸は康義に実力がバレるのは仕方がないと諦めることにした。

「おいっ! 何だそのガキは!?」

「……柊殿、私も説明を求める」

 伸と俊夫が小声で話しているのが我慢できなくなったのか、ナタニエルが不機嫌な顔で問いかけてくる。
 敵であるナタニエルと同じ思いなのが気に入らないが、康義としても色々と気になるため、俊夫に説明を求めた。

「…………娘の婚約者です」

「え゛っ!?」

 どう説明するのが一番良いのか、俊夫は少しの間考える。
 そして、思いついたことをそのまま口に出した。
 しかし、その発した言葉の内容が内容なだけに、伸は戸惑いの声を上げた。

「こんな時に何で嘘つくんですか?」

 柊家に世話になっていることはたしかだが、婚約者なんて完全な嘘だ。
 こんな時にそんな嘘を言う意味が分からず、伸は康義に聞こえないように俊夫へ問いかける。

「こう言っておけば、鷹藤家が手を出しにくいだろ?」

「……そうですか?」

 いくら鷹藤家でも、世間の醜聞を考えれば他家の婚約者を奪い取ろうなんて考えないだろう。
 咄嗟に思いついた発言ではあるが、よく考えると伸にとって都合が良い嘘のように思えるため、問いかけられた俊夫は平然とした様子で答えた。
 鷹藤家が寄ってこれないとなると、伸としてもその嘘に乗っかった方が良いのではないかと思えてくる。
 そのため、伸はそれ以上否定することはやめた。

「確かに、夏休みの時に見たような……」

 それが嘘だと分からず、康義は俊夫の説明を受け入れる。
 というのも、夏休みに若手の魔闘師たちを集めて合宿を行った時、柊家の綾愛は2人の人間を推薦として連れてきた。
 その1人が伸だった。
 鷹藤家の主催でおこなった合宿なだけに、康義も顔くらいは覚えていたようだ。
 孫の道康が学園での決闘で不覚を取り、負けた相手とは聞いていたが、伸が手を抜いているとは知らず、康義は実力自体はたいしたことないと判断した。
 何であの程度の実力の人間を連れてきたのか疑問に思う所があったが、婚約者だから合宿に連れてきたのだろうと、今になって納得した。

「いくら娘の婚約者でも、この場に来たのは間違いでは?」

 名前は忘れたが、実力はたいしたことがないという印象は残っている。
 そのため、ナタニエルという危険な魔人がいる所に来て良い存在ではない。
 今すぐにでも逃がすべきだと、康義は遠回しに忠告した。

「大丈夫です。むしろ、彼に任せれば問題ないです」

「……何だって?」

 伸の実力を知らないが故の忠告だと分かるが、俊夫はそれを受け入れない。
 そのやり取りに反応したのは、康義ではなく黙って聞いていたナタニエルだった。 

「お前はそいつが俺の相手をするって言っているのか?」

「あぁ」

 ナタニエルは、伸を指差して俊夫に問いかける。
 それに対し、俊夫は当然と言うかのように頷きで返した。

「ハハッ!! 面白い冗談だな。こんなガキが俺の相手になる訳ないだろ?」

 この国最強の2人を相手にして、自分の方が有利の状況になっている。
 見たこともないような、しかも子供が、そんな自分の相手になる訳がない。
 時間稼ぎにもならないようなことを俊夫がさせようとしていることに、ナタニエルは思わず笑い声を上げた。

「うるさい犬だな……」

「っ!!」

 ナタニエルの笑い声に、伸が小さく呟く。
 その呟きが聞こえたのか、ナタニエルはすぐに笑みが消え、一気に表情が歪んでいった。

「……犬じゃねえ! 狼だ!」

 一番腹が立つ犬呼ばわりされ、ナタニエルは伸を睨みつけて殺気を放つ。

「どうせ全員殺すんだ。ムカつくそのガキから始末してやる」

 俊夫も康義も最初から殺すつもりだった。
 その邪魔をする者がいたとしたら、その者も殺してしまえば良いと、襲撃前から考えていた。
 ガキであろうと、この場にいるのなら殺せば良いだけ。
 そう判断したナタニエルは、伸に向かって刀を構えた。

「かかって来いよ。犬っころ!」

 殺気と共に刀を向けられ、伸も刀を構える。
 そして、手招きのジェスチャーをおこない、ナタニエルを挑発した。

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