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3学年 前期
第185話
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「チッ!!」
「んっ? どうした?」
官林地区のある廃屋。
魔人軍幹部で眼鏡をかけた男性のテレンシオが椅子に腰かけて待つところに、同じく魔人軍の幹部である女性のカサンドラが近づく。
そして、カサンドラは遠くを見つめて舌打ちをする。
その不機嫌そうなカサンドラの態度に、きになったテレンシオは理由を問いかけた。
「ゴブリンクイーンが殺されたみたい」
「何? マジかよ?」
「えぇ……」
渋い表情で返答するカサンドラの言葉に、テレンシオは驚きを含んだ様子で再度問いかける。
それを、カサンドラは頷きで返した。
「柊家か?」
「そうよ」
この2年、多くの魔人がこの大和皇国で命を落とした。
主に、大和皇国の中でも名家と呼ばれている鷹藤家と柊家によってだ。
ゴブリンクイーンがいたのは八郷地区。
そのため、テレンシオはすぐに柊家によって倒されたのだと判断した。
確認すると、カサンドラは短く返事をした。
「近々調査が入るって話だったけど、まさかその調査で掃討されるなんて……」
柊家の中には、変身した手下が潜り込んでいる。
その手下から得た情報だと、ゴブリンクイーンの巣がある山に柊家の調査が入るという話を聞いていた。
ゴブリンの数も相当なものになっていたし、カサンドラはそろそろ近くの村や町に攻め込ませるつもりでいた。
そうして、柊家の管轄である八郷地区に大ダメージを与えるつもりでいたというのに、これではせっかくの計画が水の泡だ。
「こんなことなら、調査の正確な日付や人数を調べさせておけば良かったわ……」
柊家に潜り込んでいる手下からは、日付までは知らされていなかった。
日付さえ分かっていれば調査前にゴブリンたちを動かしていただけに、カサンドラは失敗に終わってしまったことを後悔していた。
「それはちょっと難しいだろ……」
「……そうね」
テレンシオも手下の魔人を鷹藤家に潜り込ませている。
しかし、いくら本物そっくりの姿に変身できたとしても、中身まではそうはいかない。
違和感を覚えれば魔人が変身している疑惑を持たれるため、長期間潜入していることは難しい。
情報は手に入れたいが、詳しいことまで調べていれば疑われるため、テレンシオは手下に深く踏み入らないように指示している。
なので、日付や人数を調べるまでは無理なことだ。
そのことを分かっているため、カサンドラはこれ以上の情報入手を諦めるしかなかった。
「……それにしても、相当な人数で調査に向かったんだな?」
「そのようね」
ゴブリンクイーンの出産スピードを考えると、巣には相当な数のゴブリンがいたはずだ。
そのゴブリンたちを掃討したということは、柊家も相当な数で調査に向かったということになる。
でなければ、掃討することなんて不可能だ。
テレンシオの疑問に、カサンドラはすぐに返答した。
「ゴブリンの巣があることがバレていたのか?」
「そんなはずはないけど……」
今回柊家がゴブリンの巣がある山の調査をする前に、事前調査が行われた。
その段階で巣が発見されなかったのは、単純に事前調査を行った者がカサンドラの手下で、変身した魔人だったからだ。
そのため、巣があることは気づかれていなかったはずなので、カサンドラはテレンシオの疑問を否定した。
「よく考えるとおかしいな……」
「……たしかに」
巣があることが気付かれていないのに、どうして大人数で調査に向かったというのだろうか。
その考えが浮かんだため、テレンシオは首を傾げた。
テレンシオの考えを聞き、カサンドラも不思議に思い始めた。
「う~ん。分からないわね」
「そうだな……」
いくら考えても、答えが分からない。
少しの間考え込んでいた2人は、お手上げといった様子で考えるのをやめた。
「まぁ、考えても仕方がない。次のことを考えるわ」
「そうだな。夏までまだ時間がある」
いくら考えても答えが出ないのは当たり前だ。
そもそも、大人数で調査に向かったという前提が間違っているからだ。
たった5人で調査に向かい、伸がほぼ1人でゴブリンたちを殲滅しただなんて想像できるはずもない。
今回のことは失敗になってしまったが、2人が共同で決行する予定の夏までは時間がある。
そのため、カサンドラは次の策に移ることにした。
「今回のことで、あなたの考えに乗ることにしたわ」
「あぁ、そうした方がいい」
ゴブリンクイーンを利用しようと考えたのは、あくまでもカサンドラによるものだ。
しかし、テレンシオとしては、弱い魔物を大量に利用するよりも、実力のある魔人を作り出すことを重視するべきだとカサンドラに提案していた。
今回の失敗で、カサンドラはテレンシオの考えの方が正解だったのかもしれないと思うようになっていた。
そのため、質より量から量より質に変更することにした。
考えを改めてくれたカサンドラに、テレンシオは安堵の笑みを浮かべた。
「俺たちまで失敗に終わるわけにはいかないからな」
「そうね」
この2年で、多くの魔人が策を失敗して殺された。
自分たちまで失敗したとしたら、運よく生き残ることができたとしても魔人の王であるバルタサールに殺されることになる。
そうならないためにも、2人は夏まで全力で策を実行することを合意した。
「んっ? どうした?」
官林地区のある廃屋。
魔人軍幹部で眼鏡をかけた男性のテレンシオが椅子に腰かけて待つところに、同じく魔人軍の幹部である女性のカサンドラが近づく。
そして、カサンドラは遠くを見つめて舌打ちをする。
その不機嫌そうなカサンドラの態度に、きになったテレンシオは理由を問いかけた。
「ゴブリンクイーンが殺されたみたい」
「何? マジかよ?」
「えぇ……」
渋い表情で返答するカサンドラの言葉に、テレンシオは驚きを含んだ様子で再度問いかける。
それを、カサンドラは頷きで返した。
「柊家か?」
「そうよ」
この2年、多くの魔人がこの大和皇国で命を落とした。
主に、大和皇国の中でも名家と呼ばれている鷹藤家と柊家によってだ。
ゴブリンクイーンがいたのは八郷地区。
そのため、テレンシオはすぐに柊家によって倒されたのだと判断した。
確認すると、カサンドラは短く返事をした。
「近々調査が入るって話だったけど、まさかその調査で掃討されるなんて……」
柊家の中には、変身した手下が潜り込んでいる。
その手下から得た情報だと、ゴブリンクイーンの巣がある山に柊家の調査が入るという話を聞いていた。
ゴブリンの数も相当なものになっていたし、カサンドラはそろそろ近くの村や町に攻め込ませるつもりでいた。
そうして、柊家の管轄である八郷地区に大ダメージを与えるつもりでいたというのに、これではせっかくの計画が水の泡だ。
「こんなことなら、調査の正確な日付や人数を調べさせておけば良かったわ……」
柊家に潜り込んでいる手下からは、日付までは知らされていなかった。
日付さえ分かっていれば調査前にゴブリンたちを動かしていただけに、カサンドラは失敗に終わってしまったことを後悔していた。
「それはちょっと難しいだろ……」
「……そうね」
テレンシオも手下の魔人を鷹藤家に潜り込ませている。
しかし、いくら本物そっくりの姿に変身できたとしても、中身まではそうはいかない。
違和感を覚えれば魔人が変身している疑惑を持たれるため、長期間潜入していることは難しい。
情報は手に入れたいが、詳しいことまで調べていれば疑われるため、テレンシオは手下に深く踏み入らないように指示している。
なので、日付や人数を調べるまでは無理なことだ。
そのことを分かっているため、カサンドラはこれ以上の情報入手を諦めるしかなかった。
「……それにしても、相当な人数で調査に向かったんだな?」
「そのようね」
ゴブリンクイーンの出産スピードを考えると、巣には相当な数のゴブリンがいたはずだ。
そのゴブリンたちを掃討したということは、柊家も相当な数で調査に向かったということになる。
でなければ、掃討することなんて不可能だ。
テレンシオの疑問に、カサンドラはすぐに返答した。
「ゴブリンの巣があることがバレていたのか?」
「そんなはずはないけど……」
今回柊家がゴブリンの巣がある山の調査をする前に、事前調査が行われた。
その段階で巣が発見されなかったのは、単純に事前調査を行った者がカサンドラの手下で、変身した魔人だったからだ。
そのため、巣があることは気づかれていなかったはずなので、カサンドラはテレンシオの疑問を否定した。
「よく考えるとおかしいな……」
「……たしかに」
巣があることが気付かれていないのに、どうして大人数で調査に向かったというのだろうか。
その考えが浮かんだため、テレンシオは首を傾げた。
テレンシオの考えを聞き、カサンドラも不思議に思い始めた。
「う~ん。分からないわね」
「そうだな……」
いくら考えても、答えが分からない。
少しの間考え込んでいた2人は、お手上げといった様子で考えるのをやめた。
「まぁ、考えても仕方がない。次のことを考えるわ」
「そうだな。夏までまだ時間がある」
いくら考えても答えが出ないのは当たり前だ。
そもそも、大人数で調査に向かったという前提が間違っているからだ。
たった5人で調査に向かい、伸がほぼ1人でゴブリンたちを殲滅しただなんて想像できるはずもない。
今回のことは失敗になってしまったが、2人が共同で決行する予定の夏までは時間がある。
そのため、カサンドラは次の策に移ることにした。
「今回のことで、あなたの考えに乗ることにしたわ」
「あぁ、そうした方がいい」
ゴブリンクイーンを利用しようと考えたのは、あくまでもカサンドラによるものだ。
しかし、テレンシオとしては、弱い魔物を大量に利用するよりも、実力のある魔人を作り出すことを重視するべきだとカサンドラに提案していた。
今回の失敗で、カサンドラはテレンシオの考えの方が正解だったのかもしれないと思うようになっていた。
そのため、質より量から量より質に変更することにした。
考えを改めてくれたカサンドラに、テレンシオは安堵の笑みを浮かべた。
「俺たちまで失敗に終わるわけにはいかないからな」
「そうね」
この2年で、多くの魔人が策を失敗して殺された。
自分たちまで失敗したとしたら、運よく生き残ることができたとしても魔人の王であるバルタサールに殺されることになる。
そうならないためにも、2人は夏まで全力で策を実行することを合意した。
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