主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

文字の大きさ
186 / 281
3学年 前期

第185話

しおりを挟む
「チッ!!」

「んっ? どうした?」

 官林地区のある廃屋。
 魔人軍幹部で眼鏡をかけた男性のテレンシオが椅子に腰かけて待つところに、同じく魔人軍の幹部である女性のカサンドラが近づく。
 そして、カサンドラは遠くを見つめて舌打ちをする。
 その不機嫌そうなカサンドラの態度に、きになったテレンシオは理由を問いかけた。

「ゴブリンクイーンが殺されたみたい」

「何? マジかよ?」

「えぇ……」

 渋い表情で返答するカサンドラの言葉に、テレンシオは驚きを含んだ様子で再度問いかける。
 それを、カサンドラは頷きで返した。 

「柊家か?」

「そうよ」

 この2年、多くの魔人がこの大和皇国で命を落とした。
 主に、大和皇国の中でも名家と呼ばれている鷹藤家と柊家によってだ。
 ゴブリンクイーンがいたのは八郷地区。
 そのため、テレンシオはすぐに柊家によって倒されたのだと判断した。
 確認すると、カサンドラは短く返事をした。

「近々調査が入るって話だったけど、まさかその調査で掃討されるなんて……」

 柊家の中には、変身した手下が潜り込んでいる。
 その手下から得た情報だと、ゴブリンクイーンの巣がある山に柊家の調査が入るという話を聞いていた。
 ゴブリンの数も相当なものになっていたし、カサンドラはそろそろ近くの村や町に攻め込ませるつもりでいた。
 そうして、柊家の管轄である八郷地区に大ダメージを与えるつもりでいたというのに、これではせっかくの計画が水の泡だ。

「こんなことなら、調査の正確な日付や人数を調べさせておけば良かったわ……」

 柊家に潜り込んでいる手下からは、日付までは知らされていなかった。
 日付さえ分かっていれば調査前にゴブリンたちを動かしていただけに、カサンドラは失敗に終わってしまったことを後悔していた。

「それはちょっと難しいだろ……」

「……そうね」

 テレンシオも手下の魔人を鷹藤家に潜り込ませている。
 しかし、いくら本物そっくりの姿に変身できたとしても、中身まではそうはいかない。
 違和感を覚えれば魔人が変身している疑惑を持たれるため、長期間潜入していることは難しい。
 情報は手に入れたいが、詳しいことまで調べていれば疑われるため、テレンシオは手下に深く踏み入らないように指示している。
 なので、日付や人数を調べるまでは無理なことだ。
 そのことを分かっているため、カサンドラはこれ以上の情報入手を諦めるしかなかった。

「……それにしても、相当な人数で調査に向かったんだな?」

「そのようね」

 ゴブリンクイーンの出産スピードを考えると、巣には相当な数のゴブリンがいたはずだ。
 そのゴブリンたちを掃討したということは、柊家も相当な数で調査に向かったということになる。
 でなければ、掃討することなんて不可能だ。
 テレンシオの疑問に、カサンドラはすぐに返答した。

「ゴブリンの巣があることがバレていたのか?」

「そんなはずはないけど……」

 今回柊家がゴブリンの巣がある山の調査をする前に、事前調査が行われた。
 その段階で巣が発見されなかったのは、単純に事前調査を行った者がカサンドラの手下で、変身した魔人だったからだ。
 そのため、巣があることは気づかれていなかったはずなので、カサンドラはテレンシオの疑問を否定した。

「よく考えるとおかしいな……」

「……たしかに」

 巣があることが気付かれていないのに、どうして大人数で調査に向かったというのだろうか。
 その考えが浮かんだため、テレンシオは首を傾げた。
 テレンシオの考えを聞き、カサンドラも不思議に思い始めた。

「う~ん。分からないわね」

「そうだな……」

 いくら考えても、答えが分からない。
 少しの間考え込んでいた2人は、お手上げといった様子で考えるのをやめた。

「まぁ、考えても仕方がない。次のことを考えるわ」

「そうだな。まだ時間がある」

 いくら考えても答えが出ないのは当たり前だ。
 そもそも、大人数で調査に向かったという前提が間違っているからだ。
 たった5人で調査に向かい、伸がほぼ1人でゴブリンたちを殲滅しただなんて想像できるはずもない。
 今回のことは失敗になってしまったが、2人が共同で決行する予定の夏までは時間がある。
 そのため、カサンドラは次の策に移ることにした。

「今回のことで、あなたの考えに乗ることにしたわ」

「あぁ、そうした方がいい」

 ゴブリンクイーンを利用しようと考えたのは、あくまでもカサンドラによるものだ。
 しかし、テレンシオとしては、弱い魔物を大量に利用するよりも、実力のある魔人をことを重視するべきだとカサンドラに提案していた。
 今回の失敗で、カサンドラはテレンシオの考えの方が正解だったのかもしれないと思うようになっていた。
 そのため、質より量から量より質に変更することにした。
 考えを改めてくれたカサンドラに、テレンシオは安堵の笑みを浮かべた。

「俺たちまで失敗に終わるわけにはいかないからな」

「そうね」

 この2年で、多くの魔人が策を失敗して殺された。
 自分たちまで失敗したとしたら、運よく生き残ることができたとしても魔人の王であるバルタサールに殺されることになる。
 そうならないためにも、2人は夏まで全力で策を実行することを合意した。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

処理中です...