主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

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3学年 前期

第196話

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「グゥ……」

 テレンシオの蹴りを受けて吹き飛ばされた康則は、片腕を抑えながらうめき声を上げる。
 蹴りを受ける瞬間、左腕を上げてガードしたことにより、直撃を受けることは回避できたが、やはりテレンシオの攻撃力とんでもなく、骨が折れてしまったためだ。

「父さん!!」

「……大丈夫だ」

 康則の左腕がだらりとなっているのを見て、骨折していると察した道康は、心配そうに声をかける。
 こんな状態で何を言っても嘘になるとは分かっているが、康則は道康を安心させるような言葉を返した。
 
「ハハッ! 大丈夫なわけないだろ?」

 康則たち親子のやり取りを見て、テレンシオは笑みを浮かべながらツッコミを入れる。
 これまでだって自分に傷をつけられなかったというのに、片腕だけで今まで以上の攻撃ができるわけがない。
 明らかな強がりだと分かっていることを、わざわざ言うことで気持ちを逆撫でするかのような発言だ。

「くっ!」

 的確にこちらを苛立たせる発言をしてくるテレンシオ。
 その感情に任せて斬り殺してしまいたいところだが、奴が言うように片腕では斬り殺すどころか傷をつけることだって難しいだろう。
 そのため、康則は反論することができず、歯を食いしばるしかなかった。

『このままでは……』

 怪我がなくても勝つのが難しいかもしれないというのに、この状況では勝てる可能性はかなり低いものになった。
 そうなると、勝敗よりも考えるべきことが出てくる。
 そのため、康則は覚悟を決めなければならにと考えるようになった。

「……道康。お前は逃げろ……」

「……えっ!?」

 父からのあまりにも唐突な発言に、道康は信じられないという思いから聞き返す。

「そ、そんなことできるわけないだろ!?」

 聞き返した返答を聞く前に、道康はそもそもな話をする。
 傷だらけの父だけを残して、自分一人逃げるわけにはいかない。
 逃げるというのなら、せめて2人で出なければ意味がない。
 そのため、先ほどの返答を聞く前に、道康は当たり前のことを口にした。

「お前が殺されたら、鷹藤家はどうなる!?」

「っ!?」

 自分が殺されたなら。
 そんな言葉を言われ、僅かに冷静に慣れた道康は、その言葉の意味を考える。
 自分が死んだとしても、鷹藤家には兄がいる。
 兄の文康は、才能だけで言えば現当主の康義に優るとも劣らないレベルにある。
 ただ、気になることがある。
 とても名門鷹藤家を継ぐような人格ではないという難点を持っているということだ。
 その難点があったために、問題を起こして次男である自分が父の次に当主候補であるという地位に着いている。
 もしも、自分がこの場で死んで兄の文康が鷹藤家を継がなければならなくなったとしたら、名門鷹藤家の名は地に落ちるかもしれない。

「だけど……」

 鷹藤家のことを考えたら、兄に家を継がせるようなことになるのは避けなければならない。
 かといって、父を見殺しにして自分だけ生き残るというような選択をできるわけがない。

「いいから! 行けっ!!」

 道康の言いたいことは分かる。
 しかし、今できる最適な選択はそれしかない。
 そのため、康則は反論を許さないと言わんばかりに道康へ命令した。

「…………くっ!!」

 鷹藤家のことを考えるなら、どちらを選べばいいのか。
 それを導き出せるほどの時間はない。
 そのため、道康は康則の言葉に従い、踵を返してこの場から逃げ出すことを決意した。

「おっと! 逃がすかよ!!」

「っっっ!?」

 道康のことはこれまではほとんど無視していたが、逃げるとなったら話は別。
 そう言わんばかりに、テレンシオは道康の向いた方向に移動して逃走を阻止した。

「ハァッ!!」

「フッ!」

 逃走の邪魔をするテレンシオに対し、道康は魔力球を放って吹き飛ばそうとする。
 その攻撃を、テレンシオは笑みを浮かべてその場から動こうとしない。

“パンッ!!”

「なっ!?」

「その程度じゃ効かねえよ!」

 テレンシオが軽く力を入れただけで、魔力球は当たった瞬間はじけ飛ぶ。
 全くダメージを与えた様子はない。
 結構な魔力を込めたというのに攻撃が無駄に終わってしまい、道康は信じられないというかのような表情になる。
 そんな道康に、テレンシオは馬鹿にするように指摘した。

「言っただろ? お前らを逃がす気はないって……」

「くっ!」

 ゆっくりと近づいてくるテレンシオ。
 道康はもしもの時には抵抗しようと、持っていた刀をテレンシオに向ける。

“バッ!!”

「っっっ!!」

 道康のことなど相手にならないと思っているからか、テレンシオは地を蹴り、まっすぐに突っ込んでいく。
 テレンシオが迫る圧力に腰が引けそうになるのを何とか耐え、道康は迎え撃とうと気合を入れる。

「ハッ!!」

「おわっ!?」

 道康へ向けて、持っている槍で突きを放とうとしたテレンシオ。
 そんなテレンシオの死角から康則が襲い掛かる。
 振り下ろしの攻撃によって、テレンシオは吹き飛んだ。

「……フッ! やっぱり片手じゃこの程度だな……」

 吹き飛ばされて着地したテレンシオは、攻撃を受けた個所を見つめる。
 完全な無防備な状態で攻撃を受けたにもかかわらず、僅かに斬れただけだ。
 血も出ず、皮一枚といった怪我に、テレンシオは予想通りと言うかのように呟いた。

「くそっ!」

 やはり片腕では威力が足りない。
 せっかく隙だらけの所を攻撃したというのに、大した怪我をさせることができなかった。
 絶好の機会をふいにしてしまい、康則は歯ぎしりをした。

「じっくり甚振ってから殺すか、それともあっさりと殺すか……」

 康則の攻撃は危険だったが、片腕が使えなくなった今では2人とも脅威にならない。
 そんな2人をどう仕留めようかと考えるテレンシオだったが、色々と考えているうちにバルタサールの顔が頭をよぎった。

「……さっさと殺そう」

 思い浮かんだのは不機嫌そうなバルタサールの顔だった。
 一気に表情を硬くしたテレンシオは、余計な時間をかけることなく、2人を始末することを選択した。

「死ね!!」

 まずはボロボロの康則を。
 そう考えたテレンシオは、康則に向かって襲い掛かった。

“スッ!!”

「っっっ!?」

 康則を突き殺すつもりで距離を詰めたテレンシオだったが、先ほどの康則同様、死角から何者かが迫ってきた。

「お前……」

「シッ!!」

「がっ!?」

 自分に迫る者の顔を見た瞬間、テレンシオは驚きの表情へと変わる。
 そして、次の瞬間テレンシオの片腕が斬り飛ばされた。

「き、貴様っ!! なぜここにいる!?」

 腕を斬り飛ばされた痛みに苦悶の表情を浮かべながら、テレンシオはここにいるはずのない人間を目の前にして思わず問いかける。

「鷹藤康義!!」

 現れたのは鷹藤家現当主、康義だった。

「フンッ!」

 テレンシオの問いを無視するかのように、康義は刀に付いたテレンシオの血を振り拭ったのだった。

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