主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

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3学年 前期

第215話

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「…………」

 大和皇国の皇都にある鷹藤家宅の離れ。
 そこは、広いが一つの出入り口しかない部屋があり、トイレとシャワールーム、明かりと空気を入れ替えるためだけに存在している窓があるだけだ。
 その部屋には、一人の少年が正座をして瞑想をしていた。
 鷹藤家当主康義の孫であり、次期当主正則の息子で長男の文康だ。
 彼は魔闘師としては飛び抜けた才能が有り、同年代には敵なしと思われた天才と呼ばれていた。
 しかし、その才と鷹藤家という名家で生まれ育ったためか、傲慢になり、高校に入ると様々な問題を起こすようになった。
 1年の時には勝手に八郷家管轄領域に入り、魔物の討伐をおこなうという名家同士で決めたタブーを犯し、2年の夏合宿の時には大量の魔物を綾愛たちに送り込もうとしたりした。
 そこまでは、名門鷹藤家の力で揉み消すことができたが、去年の年末の対抗戦の時、綾愛との対戦を楽に勝利しようと伸を誘拐する指示を出したことは隠しようがなかった。
 文康は事件の教唆犯として逮捕され、現在保護観察処分中になった。
 鷹藤家としては、これ以上問題を起こさないようにするための処置として、文康をこの離れで暮らすようにさせたのだ。

「ハァ~……」

 かつては、を閉じ込めていたと言われる離れ。
 その部屋唯一の出入り口の前では、鷹藤家傘下の魔闘師たちが交代で番をしている。
 文康が、家の外に勝手に出かけようとするのを阻止するための見張り役だ。
 彼らに言えば食事や本などを用意してくれるため、生活に困ることなどないのだが、こんな部屋にこもりっきりでは息が詰まるのも仕方がない。
 瞑想を終えた文康は、大きくため息を吐いた。
 逮捕されて学園も退学になり、こんな部屋で過ごす日々。
 最初のうちは、どうして自分がこんな目に合わなければならないのかという、中身クズは相変わらずだったのだが、日が経つにつれ、瞑想をして自分と向き合う日々を送っているうちに、少しずつ自分の過ちによる結果だということを文康は受け入れつつあった。

「な、何だっ!?」

「ぐあっ!!」

「っ!?」

 軽く木刀の素振りができるほどに広いので、文康は訓練と暇つぶしを兼ねて木刀を手に取る。
 その次の瞬間、部屋の外から悲鳴のようなものが聞こえ、文康は反射的に出入り口の方へ木刀を構えた。

“バキッ!!”

「っっっ!?」

 木製とはいえ分厚い出入り口の扉が破壊され、見張り役の男が部屋の中へ飛び込んでくる。
 その男が気を失っていることから、何者かによって吹き飛ばされたことによるものだというのは分かる。
 そのため、彼の安否を確認した文康は、更に警戒心を上げて出入り口の方へ視線を向けた。

「……鷹藤文康だな?」

「き、貴様!! な、何者だ!?」

 伸のように探知能力が高いわけではない。
 祖父の康義のように経験則があるわけでもない。
 しかし、破壊された出入り口の前に立つ人間が、人間ではないことは理解できた。
 人間ではない人間なんて魔人以外考えられないが、どうしてこの場に現れたのかが理解できない文康は、声を詰まらせながら思わずその者に問いかけた。

「俺は魔人オレガリオ。めいによりお前をここから連れ出しに来た」

「……はっ? 何言ってんだお前!?」

 この部屋に閉じ込められ、クズ人間から脱却しつつある文康。
 いくら自分が犯罪者だとは言え、人類の敵である魔人に与するつもりなんて皆無。
 そのため、文康はオレガリオの言葉に嫌悪感丸出しで返答した。

「お前の意思などどうでもいい。痛い目に遭いたくなければ大人しくしていろ!」

「ふざけ……っ!?」

 この部屋にある武器は木刀しかないが、それでも魔力を纏わせればかなりの切れ味になる。
 魔人相手だろうと怯むことなく戦う意思を向けた文康だったが、実力が違い過ぎた。
 オレガリオは文康よりも速く襲い掛かり、拳による鳩尾への一撃を食らわせ、文康の気を失わせて黙らせた。

「フゥ~……、さすがに一日で3ヶ所の行き来はきついな」

 気を失った文康を肩に担いだオレガリオは、疲労の籠ったため息を吐く。
 それもそのはず、伸たちのいる八郷地区から鷹藤家別荘のある官林地区南部、そこから更に鷹藤家本宅のある官林地区北部への転移したことで、かなりの魔力を消費することになったからだ。

「バルタサール様もきつい命を出すものだ……」

 バルタサールから任務失敗、かつ捕縛寸前のカサンドラにテレンシオの始末の命令が出された。
 仲間を始末をしなければならないなんて、いくら魔人の自分でも多少躊躇う気持ちはある。
 しかし、バルタサールの命令は絶対のため、それに従って行動をしたに過ぎない。

「それにしても面白いことを考えなさる」

 バルタサールからの命令は、カサンドラとテレンシオの始末だけではなかった。
 カサンドラの所へ転移する前に、ついでと言わんばかりに文康を捕縛してくるように言ったのだ。

「おっと! 音に気付いたか?」

 魔力を消費したことで、かなりの疲労を感じる。
 そのため、もう少し休んでいたいところだったが、先ほどこの部屋の扉を壊した音が母屋の方にまで届いたのかもしれない。
 この離れに向かって、幾人もの足音が近づいてきている。
 この家にいるような魔闘師となると、鷹藤家の中でもかなりの実力者だろう。
 今の魔力量で戦うのは避けた方がいいと判断したオレガリオは、休憩を終了してここから去ることに決めた。

「っ!! いたぞ!!」

「っ!? 文康様!!」

 離れの外に出ると、オレガリオが思った通り、多くの魔闘師たちが離れに向かってきていた。
 そして、文康を担ぐオレガリオを見て、走りながら一斉に鞘から刀を抜いた。

“フッ!!”

「「「「「」っっっ!?」」」」

 あと少しで自分たちの間合いに入る。
 鷹藤家の魔闘師たちがそう思ったところで、オレガリオが消え去る。
 急に消え、探知にも引っかからないため、魔闘師たちは困惑の表情で侵入者の姿を探すが、数時間後に当主の康義が到着するまで犯人が魔人で、転移魔術の使い手だと気付くことはなかった。

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