主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

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3学年 後期

第223話

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「よっしゃーー!!」

 バスから降りた一人の生徒が、伸びをしつつ大きな声を上げる。

「……うるさいよ。石!」

「痛っ!」

 大声を上げたのは石塚だ。
 ホテルの入り口前で叫んだそんな石塚の頭を、伸がツッコミを入れるように軽く叩く。
 思った以上に良い音が鳴り、石塚は頭を抑える。

「みっともないから、はしゃぐなよ!」

「しょうがないだろ! お前らはみんな経験済みかもしれないけれど、俺は今回が初めてなんだから!」

「そういやそうか……」

 バスから降りた吉井が、伸に続くように文句を言うと、石塚は口を尖らせて反論する。
 毎年行われる対抗戦のうち、1年次には綾愛と了が代表で出場し、伸と奈津希がセコンドとして参加した。
 2年次は、綾愛・奈津希・了が選手として、伸と吉井がセコンドとして参加した。
 ずっと同じクラスで良くつるんでいる伸・了・吉井・石塚の4人の中で、石塚だけが一度も対抗戦に参加できないでいた。
 最後の年に、ようやく自分も参加できることになったことが嬉しく、テンション爆上がりなのは仕方がないため、吉井の後ろにいた了が石塚の反論に納得するように呟いた。
 初めて対抗戦に出た時は、石塚と同じようにテンション高かった了だが、3回目ともなると落ち着いたものだ。

「とはいっても、もうちょい落ち着け!」

「分かったよ……」

 テンションが上がる気持ちは分からなくはない。
 しかし、後輩たちもいるところで大声を上げるのは、見本を見せるべき上級生としては恥ずかしい。
 そのため、伸は石塚に抑えるように注意した。





「あれっ!? どうして新田先輩が……?」

 対抗戦の開催中、毎年八郷学園が宿泊するホテルに荷物を置いた選手とセコンドたちは、開会式に参加するために会場に向かう。
 そして、開会式の始まりともいえる選手入場前、伸たち八郷学園に近付いてくる者がいた。
 その者は、伸のことを見つけると意外そうに声を上げる。

「んっ? 鷹藤か……」

 去年までは八郷学園に通っていたこともあり、その顔は覚えている。
 声を上げたのは、鷹藤家の次男の道康だった。

「ここにいるってことは、代表に選ばれたんすか?」

「……まあな」

 開会式に参加するのは選手のみで、教師やセコンド役の者たちは観客席から見守っている。
 そのため、選手入場口にいるということは学園の代表に選ばれたということになる。
 それが分かっているにもかかわらず、道康は確認するように伸に問いかけてきた。
 それにいちいちツッコミを入れるのは面倒なため、伸は短い返事をするだけにとどめた。

「へぇ~、まさか先輩が代表に選ばれるなんて……」

 伸の返事に、道康は感心したように呟く。
 八郷学園の3年は、綾愛・奈津希・了の3人が上位に君臨しているため、今年も同じメンバーが出場するのあろうと道康は考えていたのかもしれない。
 いや、道康だけでなく、他の学園の選手たちも同じ思いなのかもしれない。
 何故なら、道康との会話を聞き耳立てているような空気が流れているからだ。

「どんな方法でその権利を手に入れたんですか? また何か裏技でも使ったんすか?」

「……まぁ、な……」

 話始めてすぐから思っていたが、道康の態度が上から言っているようで不愉快だ。
 しかし、通常とは違う方法で出場権を手に入れたため、裏技と言われるとあながち間違いではない気がするため、伸は頷くしかなかった。

「どんな方法で出場権取ったのか分からないっすけど、本戦では従魔は使えないっすよ」

「……分かってるよ」

「ハハッ! じゃあ安心だわ!」

 去年、道康は伸に決闘を申し込んで負けている。
 しかし、それは対抗戦では禁止となっている従魔を使用されての敗北だ。
 禁止されていないとはいっても、まさか男と男の勝負に従魔を使用するなんて思いもしなかった。
 最初から伸が従魔使いだと分かっていれば、負けることなんてなかった。
 だからこそ、あの決闘は卑怯な手を使われての敗北だと、道康はまだそう思っているのかもしれない。
 従魔がいようといなかろうと、今の自分なら伸に負けることはない。
 そんな自信があるからなのか、道康は伸の返答を馬鹿にしたように笑い声をあげた。

「…………」

「まぁ、今年は柊先輩の3連覇を阻止するのが目標なんでよろしくっす!」

 そろそろ我慢しなくても良いんじゃないかと伸が思い始めたところで、道康は側にいた綾愛に向かって話しかける。
 口調は軽く感じるが、宣戦布告ともとれるような物言いだ。

「じゃあ! 失礼します!」

 こちらの反応なんてお構いなし。
 言いたいことだけ言って、道康は官林学園の選手の列の方へと向かって行った。

「相変わらず生意気な奴だな……」

「全くだよ」

 道康が去ったところで、伸はため息交じりに呟く。
 その呟きに、そばにいた了も賛成する。
 
「俺のこと無視しやがったし……」

「馬鹿にされるよりは良いんじゃねえか?」

 道康は結局、一方的とはいえ伸と綾愛には話しかけていった。
 しかし、同じ出場選手だというのに、側にいた自分には挨拶すらなしだ。
 たいして話したことがないとはいえ、無視されるとイラっと来る。
 そんな了に対し、話しかけられたというより馬鹿にされたという方が正しい気がする伸は、まだマシだと伝えた。

「「っっっ!?」」

「~~~~!!」

 2人で話していたところ、伸と了は殺気を感じて身を縮こませる。
 殺気を放っているのは、綾愛だ。

「お、落ち着けよ柊……」

「そうだよ。お前が馬鹿にされたわけじゃないんだから……」

 さっきの道康の物言いが相当気に入らなかったのだろう。
 湯気が出そうなほど顔を赤くしている。
 先程まで聞き耳を立てていた者たちも、綾愛の殺気に距離を取り始めている。
 そんな周囲に気付いた伸と了は、今にも爆発しそうな綾愛を何とか落ち着かせようと声をかけた。

「だって!!」

 馬鹿にされた本人である伸がなんとも思っていないというのに、綾愛の怒りが収まる気配がない。
 今にも地団駄を踏みそうだ。

「大丈夫だって。あいつ程度大したことないんだから……」

「「「「「っっっ!?」」」」」

 馬鹿にされても別になんとも思ってもいない。
 何故なら、道康など眼中にないからだ。
 自分の実力を知っている綾愛なら、それで冷静になってくれるはずだ。
 そう思って発言した伸だったが、それを聞いた周囲の者たちは、それぞれ密かに驚きの表情をしていた。
 鷹藤家の人間を雑魚扱いしているからだ。

「そうだね!」

「「「「「っっっ!?」」」」」

 伸の思った通り、綾愛は冷静になる。
 そもそも、自分ですら道康に負ける気がしないのだから、伸からすれば眼中にないのも尤もだからだ。
 冷静になったのは良いが、綾愛がすんなり伸の言葉を受け入れたことに、周囲の者たちは再度驚いた。
 去年も出場していることから、道康はちゃんとした実力はある選手だ。
 そんな相手を雑魚扱いしているなんて、自分たちも同じく雑魚と思っているのではないか。
 そんな思いから、周囲の者たちはなんだか遠回しに喧嘩を売られたように感じがしていた。

『……こいつらバカップルか?』

「ハァ~……」

 綾愛が冷静になったのは良いが、無自覚に結構な爆弾発言をする伸。
 それを注意するわけでもなく、火力を上乗せする綾愛。
 そんなやり取りを冷静に見ていた了は、今の2人を現す適切な言葉が浮かんでいた。
 しかし、それを言ったら怒りの矛先が自分に向きそうなので、言葉にすることなくため息を吐くだけに止めておいた。

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