主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

文字の大きさ
230 / 281
3学年 後期

第229話

しおりを挟む
「また官林か……」

 2回戦で道康に勝利した伸は、翌日の相手を見てため息を吐く。
 可能性的には一番あり得た相手だったので驚きはしないが、道康に続いての官林学戦の生徒との試合になったことに、なんだか因縁を感じてしまう。
 鷹藤兄弟が筆頭にいたからか、伸としては官林学園との因縁なんて全くいらないのだが。

「お前も鷹藤同様、負けたらワーワー言うんじゃないだろうな?」

 試合の決着がついても攻撃してくるなんて、武道を学ぶものとしてあり得ない。
 まさか道康だけでなく、官林学園の人間はみんなそうなのかと疑いたくなる。
 そのため、伸は確認するように相手選手に問いかけた。

「……心配するな。あんな馬鹿なことするのは鷹藤だけだ。ったく。去年の兄に続き、まさかあんなことするなんて……」

 大和皇国の皇都がある官林地区は、この国で一番発展しているため、少数とはいえ他の地域の出身者を下に見ている雰囲気がある。
 そのため、官林学園の生徒も鷹藤兄弟のように自分たちが一番だと思っているのではないか。
 しかし、そんな伸の問いかけに、対戦相手は心外だとでも言わんばかりに否定した。

「……伊角だったか? たしかに鷹藤とは違うようだな」

 対戦相手である伊角の表情から、それが本心なのだと伸は感じとった。
 そのため、伸は相手への礼儀を示すために、真剣な表情で木刀を構えた。

「~~~っっっ!? これほどとは……」

 武器である木刀を使わず、最後まで左拳一本でねじ伏せられた。
 そんなのを見せられたら、伸がとんでもない実力だということは嫌でも分かるというものだ。
 分からない方がおかしいというもの。
 道康もそれは分かっていたはず。
 分かっていながら納得できなかったため、不正呼ばわりをしたのだろう。
 理由は何にしろ、勝敗が付いたのに背後から襲い掛かるなんて言語道断だ。
 兄のように退学はないかもしれないが、停学は確定だろう。
 それに、兄弟で2年連続問題を起こしていることから、来年出場資格を与えられるかも分からない。
 それはともかく、鷹藤家の人間だけあって道康はかなりの才能と実力を持っている。
 2年でありながら、3年である自分たちでも手を焼くほどなのだが、その道康が手を抜かれて負けたのを目の当たりにした。
 伸が構えを取った途端、伊角は一気に体が重くなる。
 それが、伸を前にした圧力だと理解し、伊角は冷や汗をかきながら思わず呟いた。

『最初から全力で行く!!』

 対峙した瞬間、勝てる気がしない。
 しかし、目の前の相手に、自分の全力がどこまで通用するのか。
 それを試すために、伊角は最初から全力で行くことを決め、時間をかけて魔力を練り始めた。

「……へえ~、なかなかやるな」

 少しずつ魔力を練り、その魔力によって身体強化を施していく伊角。
 そんな伊角を見ているだけで特に何をするわけではなく、伸はむしろ彼の魔力操作を褒めた。
 時間を掛けた方がたしかに魔力操作しやすいとはいえ、伊角はとんでもない量の魔力を身体強化に使用している。
 もしも操作をミスすれば、肉体に反動が来るか、せっかく溜めた魔力が霧散してしまうからだ。
 高校生でこのレベルに達しているのは、伸が知っている中でも数えるほどしかいないだろう。

「……ムンッ!!」

 これ以上はコントロール不可能。
 そこまで来たところで、伊角は武舞台の床を蹴る。
 小細工は一切考えず、一直線に伸に向かって突き進み、伊角は居合斬りを放った。

“カンッ!!”

「……ハハッ! 化け物だな……」

 自分の全身全霊をかけた一撃。
 せめて相手の武器を破壊出来たら御の字。
 そう考えていたというのに、伸が構えた木刀に自分の木刀が当たった瞬間、気の抜けたような音しかせず、全く手ごたえがない。
 それはつまり、伸が自分の攻撃の威力を受け流したということだ。
 自分が時間をかけて全力を尽くしたというのに、それをこともなげに受け逃すなんて、それだけ実力差があるということだ。
 それを理解した伊角は、悔しいと思うよりも笑うしかなかった。

「良い一撃だ。俺に当たらなければ、もっと上に行けたかもな……」

 攻撃を難なく受け止めた伸は、その攻撃を評価しつつ伊角に呟く。
 自分で言うのもなんだが、自分の実力で高校生の大会に出るのはチートに近い。
 それが分かっていても、やはり出場するからには優勝したい。
 そのため、伸は伊角に相手が悪かったと言わざるを得なかった。

“トンッ!!”

「っっっ!?」

 攻撃を受け止めた伸は、すぐに反撃に出る。
 流れるように木刀が動き、伊角の左肩を軽く叩く。
 全く痛くないが、全く反応できなかった時点で勝敗が決した。

「……しょ、勝者! 新田!」

 審判役の人間も大変だろう。
 伸の動きがギリギリ見えているくらいなのだから。
 高校生の試合だというのに、プロの魔闘師でも反応できるか怪しい動きをする伸に戸惑いつつ、審判は僅かに間が開いて勝者の名乗りを上げた。

「じゃあな……」

 勝者の名乗りを受けた伸は、伊角に短く声をかけてその場から去っていく。

「……ハハッ、完敗だよ」

 入場口へと向かう伸の背中を黙って見ていた伊角は、どこかスッキリしたような表情で負けを認める言葉を呟いたのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

処理中です...