主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

文字の大きさ
240 / 281
3学年 後期

第239話

しおりを挟む
「今年もかよ……」

 上長家の佳太けいたは、突如現れた魔人に立ちを見て愚痴るように呟く。
 当主で父の吉男に代わり、次期当主として2年前から対抗戦の観戦に来るようになったのだが、その年から魔人が毎年のように出現するようになった。
 今年は妹の麻里が出場することになり、いつも以上に楽しむことができた。
 だからこそ、今年こそはこのまま穏便に終わってほしいと思っていただけに、この現状にため息を吐きたくなる。
 3度目の正直と思っていたら、2度あることは3度あるといった感じだ。

「お兄ちゃん!!」

「麻里っ!? こんなところで何やってんだ!? お前は他の観客同様に退避しろ!」

 去年以上の数の魔人たち。
 その時点で生き残ることは絶望的に思える。
 それでも上長家の当主代理としてきたからには、1体でも多くの魔人を葬り去らなくてはと、佳太は気合を入れる。
 そんな佳太の所に、妹の麻里が駆け寄ってきた。
 観戦していた他の生徒と共に退避していると思っていただけに、佳太は驚きの声を上げる。
 妹の麻里は、1年でありながら実力はかなりのものがある。
 憧れの柊綾愛のいる八郷学園に通うになったことで、更に実力を上げていたのを見た時は、兄バカではないが嬉しく思えた。
 かといって、魔人を相手にするとなると、まだ実力が足りない。
 そのため、観客同様退避するように言う。

「私は上長家の人間よ! 一般の人たちより先に逃げるわけにはいかないわ!」

「クッ! 分かった! なら、観客退避のフォローに行け!」

「……分かった」

 3兄弟のうち、少し年の離れた妹。
 そのせいか、両親のみならず兄である自分たちも少し甘やかしてしまったため、少々麻里はわがままに育ってしまった。
 こうと決めたら、何を言っても聞く耳を持たないという良くない癖が、こんな状況で出ているため、佳太は頭を悩ませた。
 言い合っている時間も惜しいため、佳太はいつもは麻里に使わないようなきつい言い方で指示を出した。
 いつもと違う兄の口調に圧されたのか、麻里はその指示に従い、逃げ遅れている観客たちの誘導に向かって行った。

「ハァ~、もしかしたら今のが麻里と交わした最後の言葉になるのかもな……」

 自分から離れていく麻里。
 魔人の数を考えれば、自分が生き残れる可能性は低いかもしれない。
 そのため、麻里にきつい言い方をしてしまったことを少々後悔しつつ腰の刀を抜いた佳太は、転移の魔法陣から降りてくる魔人たちに向かって斬りかかって行った。






「おぉ! さすがこの国の名家の者たちだね。観客のために自分たちを犠牲にするなんて……」

 オレガリオが作り出したであろう転移魔法陣から次々と出現する魔人たち。
 その魔人たちが、まだ逃げきれていない観客に襲い掛からないように、特別観客席にいた名家の代表たち向かって行っている。
 そんな彼らを見て、バルタサールは感心するように呟く。
 しかし、表情は笑みを浮かべているところを見るに、恐らくはこの数の魔人たちを相手に勝てるわけがないと思っているようだ。

「……っ! いや……」

「えっ?」

 たしかに、いくら名家の代表たちであろうと、多くの魔人を相手に勝てる可能性は低い。
 自分が動ければ話は変わってくるが、バルタサールを放っておくわけにはいかないため動けない。
 どうすればいいか悩んでいた伸だったが、あることに気付き、バルタサールの言葉を否定した。

「っっっ!?」

 伸の否定の言葉のすぐあと、何者かが会場へと入ってきた。
 しかも、1人や2人ではない。
 その足音からすると、相当な数が迫ってきていた。

「腐っても鷹藤家ってところか……」

 姿を現した者たちの顔を見て、伸は小さく呟く。
 何人かの顔に見覚えがある。
 鷹藤家の分家の当主たちだ。
 2年連続と言うこともあり、今年もあり得ると予想していたのあろう。
 恐らく、康義がもしもの時のことを考えて、彼らを会場近くに配備していたようだ。

では難しかったからな……」

「何っ?」

 こんなに早く、鷹藤家の魔闘師たちが集まってくるとは予想外だった。
 しかし、それは嬉しい誤算だ。
 柊家当主の俊夫と共に話し合い、会場付近に配備していた柊家の人間だけでは、思っていた以上に出現した魔人たちに対応するには心もとなかったからだ。
 そんな伸の言葉の後にワラワラと現れた柊家の魔闘師たちを見て、予想外だったバルタサールは僅かに眉を顰める。

「おっと! も配備していたみたいだな……」

「なっ!?」

 配下の魔闘師を配備していたのは、柊家や鷹藤家だけではなかったようだ。
 数はそれほどだが、他の家の魔闘師たちも姿を現している。
 あっという間に魔人たちの数倍の数に増えた大和皇国連合ともいえる魔闘師たちに、伸はようやく笑みを浮かべた。
 自分が動かなくても、これだけの数がいれば魔人を町中に解き放つことは抑えられる。
 バルタサールからすると、配下の魔人を使って下調べをしていたにもかかわらず、ここまで多くの魔闘師たちが集まっていたことに気付けなかった。
 これでは、この国一番の目障りである伸を殺し、魔人たちによって皇都壊滅を計り、この国を魔人が世界を支配するための足掛かりにするつもりだった野望が崩れてしまう。
 完全に予想外の状況になってしまったことに、バルタサールからは笑みが消えていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...