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3学年 後期
第239話
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「今年もかよ……」
上長家の佳太は、突如現れた魔人に立ちを見て愚痴るように呟く。
当主で父の吉男に代わり、次期当主として2年前から対抗戦の観戦に来るようになったのだが、その年から魔人が毎年のように出現するようになった。
今年は妹の麻里が出場することになり、いつも以上に楽しむことができた。
だからこそ、今年こそはこのまま穏便に終わってほしいと思っていただけに、この現状にため息を吐きたくなる。
3度目の正直と思っていたら、2度あることは3度あるといった感じだ。
「お兄ちゃん!!」
「麻里っ!? こんなところで何やってんだ!? お前は他の観客同様に退避しろ!」
去年以上の数の魔人たち。
その時点で生き残ることは絶望的に思える。
それでも上長家の当主代理としてきたからには、1体でも多くの魔人を葬り去らなくてはと、佳太は気合を入れる。
そんな佳太の所に、妹の麻里が駆け寄ってきた。
観戦していた他の生徒と共に退避していると思っていただけに、佳太は驚きの声を上げる。
妹の麻里は、1年でありながら実力はかなりのものがある。
憧れの柊綾愛のいる八郷学園に通うになったことで、更に実力を上げていたのを見た時は、兄バカではないが嬉しく思えた。
かといって、魔人を相手にするとなると、まだ実力が足りない。
そのため、観客同様退避するように言う。
「私は上長家の人間よ! 一般の人たちより先に逃げるわけにはいかないわ!」
「クッ! 分かった! なら、観客退避のフォローに行け!」
「……分かった」
3兄弟のうち、少し年の離れた妹。
そのせいか、両親のみならず兄である自分たちも少し甘やかしてしまったため、少々麻里はわがままに育ってしまった。
こうと決めたら、何を言っても聞く耳を持たないという良くない癖が、こんな状況で出ているため、佳太は頭を悩ませた。
言い合っている時間も惜しいため、佳太はいつもは麻里に使わないようなきつい言い方で指示を出した。
いつもと違う兄の口調に圧されたのか、麻里はその指示に従い、逃げ遅れている観客たちの誘導に向かって行った。
「ハァ~、もしかしたら今のが麻里と交わした最後の言葉になるのかもな……」
自分から離れていく麻里。
魔人の数を考えれば、自分が生き残れる可能性は低いかもしれない。
そのため、麻里にきつい言い方をしてしまったことを少々後悔しつつ腰の刀を抜いた佳太は、転移の魔法陣から降りてくる魔人たちに向かって斬りかかって行った。
「おぉ! さすがこの国の名家の者たちだね。観客のために自分たちを犠牲にするなんて……」
オレガリオが作り出したであろう転移魔法陣から次々と出現する魔人たち。
その魔人たちが、まだ逃げきれていない観客に襲い掛からないように、特別観客席にいた名家の代表たち向かって行っている。
そんな彼らを見て、バルタサールは感心するように呟く。
しかし、表情は笑みを浮かべているところを見るに、恐らくはこの数の魔人たちを相手に勝てるわけがないと思っているようだ。
「……っ! いや……」
「えっ?」
たしかに、いくら名家の代表たちであろうと、多くの魔人を相手に勝てる可能性は低い。
自分が動ければ話は変わってくるが、バルタサールを放っておくわけにはいかないため動けない。
どうすればいいか悩んでいた伸だったが、あることに気付き、バルタサールの言葉を否定した。
「っっっ!?」
伸の否定の言葉のすぐあと、何者かが会場へと入ってきた。
しかも、1人や2人ではない。
その足音からすると、相当な数が迫ってきていた。
「腐っても鷹藤家ってところか……」
姿を現した者たちの顔を見て、伸は小さく呟く。
何人かの顔に見覚えがある。
鷹藤家の分家の当主たちだ。
2年連続と言うこともあり、今年もあり得ると予想していたのあろう。
恐らく、康義がもしもの時のことを考えて、彼らを会場近くに配備していたようだ。
「柊だけでは難しかったからな……」
「何っ?」
こんなに早く、鷹藤家の魔闘師たちが集まってくるとは予想外だった。
しかし、それは嬉しい誤算だ。
柊家当主の俊夫と共に話し合い、会場付近に配備していた柊家の人間だけでは、思っていた以上に出現した魔人たちに対応するには心もとなかったからだ。
そんな伸の言葉の後にワラワラと現れた柊家の魔闘師たちを見て、予想外だったバルタサールは僅かに眉を顰める。
「おっと! 他の家も配備していたみたいだな……」
「なっ!?」
配下の魔闘師を配備していたのは、柊家や鷹藤家だけではなかったようだ。
数はそれほどだが、他の家の魔闘師たちも姿を現している。
あっという間に魔人たちの数倍の数に増えた大和皇国連合ともいえる魔闘師たちに、伸はようやく笑みを浮かべた。
自分が動かなくても、これだけの数がいれば魔人を町中に解き放つことは抑えられる。
バルタサールからすると、配下の魔人を使って下調べをしていたにもかかわらず、ここまで多くの魔闘師たちが集まっていたことに気付けなかった。
これでは、この国一番の目障りである伸を殺し、魔人たちによって皇都壊滅を計り、この国を魔人が世界を支配するための足掛かりにするつもりだった野望が崩れてしまう。
完全に予想外の状況になってしまったことに、バルタサールからは笑みが消えていた。
上長家の佳太は、突如現れた魔人に立ちを見て愚痴るように呟く。
当主で父の吉男に代わり、次期当主として2年前から対抗戦の観戦に来るようになったのだが、その年から魔人が毎年のように出現するようになった。
今年は妹の麻里が出場することになり、いつも以上に楽しむことができた。
だからこそ、今年こそはこのまま穏便に終わってほしいと思っていただけに、この現状にため息を吐きたくなる。
3度目の正直と思っていたら、2度あることは3度あるといった感じだ。
「お兄ちゃん!!」
「麻里っ!? こんなところで何やってんだ!? お前は他の観客同様に退避しろ!」
去年以上の数の魔人たち。
その時点で生き残ることは絶望的に思える。
それでも上長家の当主代理としてきたからには、1体でも多くの魔人を葬り去らなくてはと、佳太は気合を入れる。
そんな佳太の所に、妹の麻里が駆け寄ってきた。
観戦していた他の生徒と共に退避していると思っていただけに、佳太は驚きの声を上げる。
妹の麻里は、1年でありながら実力はかなりのものがある。
憧れの柊綾愛のいる八郷学園に通うになったことで、更に実力を上げていたのを見た時は、兄バカではないが嬉しく思えた。
かといって、魔人を相手にするとなると、まだ実力が足りない。
そのため、観客同様退避するように言う。
「私は上長家の人間よ! 一般の人たちより先に逃げるわけにはいかないわ!」
「クッ! 分かった! なら、観客退避のフォローに行け!」
「……分かった」
3兄弟のうち、少し年の離れた妹。
そのせいか、両親のみならず兄である自分たちも少し甘やかしてしまったため、少々麻里はわがままに育ってしまった。
こうと決めたら、何を言っても聞く耳を持たないという良くない癖が、こんな状況で出ているため、佳太は頭を悩ませた。
言い合っている時間も惜しいため、佳太はいつもは麻里に使わないようなきつい言い方で指示を出した。
いつもと違う兄の口調に圧されたのか、麻里はその指示に従い、逃げ遅れている観客たちの誘導に向かって行った。
「ハァ~、もしかしたら今のが麻里と交わした最後の言葉になるのかもな……」
自分から離れていく麻里。
魔人の数を考えれば、自分が生き残れる可能性は低いかもしれない。
そのため、麻里にきつい言い方をしてしまったことを少々後悔しつつ腰の刀を抜いた佳太は、転移の魔法陣から降りてくる魔人たちに向かって斬りかかって行った。
「おぉ! さすがこの国の名家の者たちだね。観客のために自分たちを犠牲にするなんて……」
オレガリオが作り出したであろう転移魔法陣から次々と出現する魔人たち。
その魔人たちが、まだ逃げきれていない観客に襲い掛からないように、特別観客席にいた名家の代表たち向かって行っている。
そんな彼らを見て、バルタサールは感心するように呟く。
しかし、表情は笑みを浮かべているところを見るに、恐らくはこの数の魔人たちを相手に勝てるわけがないと思っているようだ。
「……っ! いや……」
「えっ?」
たしかに、いくら名家の代表たちであろうと、多くの魔人を相手に勝てる可能性は低い。
自分が動ければ話は変わってくるが、バルタサールを放っておくわけにはいかないため動けない。
どうすればいいか悩んでいた伸だったが、あることに気付き、バルタサールの言葉を否定した。
「っっっ!?」
伸の否定の言葉のすぐあと、何者かが会場へと入ってきた。
しかも、1人や2人ではない。
その足音からすると、相当な数が迫ってきていた。
「腐っても鷹藤家ってところか……」
姿を現した者たちの顔を見て、伸は小さく呟く。
何人かの顔に見覚えがある。
鷹藤家の分家の当主たちだ。
2年連続と言うこともあり、今年もあり得ると予想していたのあろう。
恐らく、康義がもしもの時のことを考えて、彼らを会場近くに配備していたようだ。
「柊だけでは難しかったからな……」
「何っ?」
こんなに早く、鷹藤家の魔闘師たちが集まってくるとは予想外だった。
しかし、それは嬉しい誤算だ。
柊家当主の俊夫と共に話し合い、会場付近に配備していた柊家の人間だけでは、思っていた以上に出現した魔人たちに対応するには心もとなかったからだ。
そんな伸の言葉の後にワラワラと現れた柊家の魔闘師たちを見て、予想外だったバルタサールは僅かに眉を顰める。
「おっと! 他の家も配備していたみたいだな……」
「なっ!?」
配下の魔闘師を配備していたのは、柊家や鷹藤家だけではなかったようだ。
数はそれほどだが、他の家の魔闘師たちも姿を現している。
あっという間に魔人たちの数倍の数に増えた大和皇国連合ともいえる魔闘師たちに、伸はようやく笑みを浮かべた。
自分が動かなくても、これだけの数がいれば魔人を町中に解き放つことは抑えられる。
バルタサールからすると、配下の魔人を使って下調べをしていたにもかかわらず、ここまで多くの魔闘師たちが集まっていたことに気付けなかった。
これでは、この国一番の目障りである伸を殺し、魔人たちによって皇都壊滅を計り、この国を魔人が世界を支配するための足掛かりにするつもりだった野望が崩れてしまう。
完全に予想外の状況になってしまったことに、バルタサールからは笑みが消えていた。
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