御伽ヒロイック学院 ーラノベ主人公科ー

もみじ

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第四章 素晴らしき野宿生活

プライドよりも大切なもの

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「朏、飯は食った方が良いぞ」

 正義はアンパンを一口齧るとそれをいくさに向ける。
 いくさは求人誌を見ながら一言、「いらない・・・」と答えた。

 休日の御伽公園は碁盤に碁石をばら撒いたように人がひしめいている。フリスビーで遊ぶ者、音楽を流してダンスする者、愛犬とじゃれ合う者からただいちゃつくだけのカップルまで、そこは人の声が雑音になるほどにぎわっている。そんな中、二人はベンチに座りひたすら一点だけを見つめる。正義は空を、いくさはバイト誌を、一緒にいても共通する話題は少ない。

「まぁ、怪人の持ってきた食い物なんて気持ち悪いだろうが飯は飯だ、食っとけ」

「そうじゃない!!」

 いくさは雑誌を勢いよく閉じる。

「消費期限切れた物よく食べれるね?お腹壊すよ??」

「いや、一日くらい過ぎてても壊さねぇよ」

「ねぇ、先生は何でホームレスなんてやってるの?」

 今までホームレスの事など知ろうともしなかった。子供の頃、公園や駅周辺でよく見かけた彼等はやる事も無くただ暇を持て余しているだけ、不衛生で鼻をつまみたくなるような異臭を放ち、髭はボウボウ歯はボロボロ、ゴミを漁ってその日食べる物を得る、そんな最低なイメージ。幼いながら同情はしても近づこうと思った事は一度もない、将来こんな風にはなりたくないなと他人事のように思っていた。だが今、正義と生活を共にして思う。彼等の事をもっとよく知りたい、こんなに卑しく、ひもじい生活に何故耐えられるのか?

 正義は酸味を利かせて答える。

「ホームレスになりたくてなった奴をオレは知らない、今の生活が不憫(ふびん)で無いと言えば嘘になる、少なくともオレはな。だから大抵の野良人間は仲間の過去には触れないもんだ、それが良い思い出でない事を知っているから」

「ごめん、私そんなつもりじゃ・・・」

「お前の気持ちはよく分かるよ、オレも昔はそうだった。人目がきつくていかにも普通を装った、外に出かけた一般人のフリを必死に演じた。最初はまだ金があったからそりゃあ意地も張ったさ、だが暫くしてそれも底をつく。そっから先は自尊心と空腹の掛け合い、スーパーの試食をつまんだり、自販機の釣銭を漁ったりとプライドのハードルを少しずつ下げながらここまでなら普通、ここまでなら誰でもやっていると自分に言い聞かせる」

「だけど、それでもどうしようもなくなったある時、ふと悪い考えが浮かんだ。今の平和があるのはオレのおかげなのにどうしてオレだけ惨めな思いをしなければならないのか?オレが皆を助けたんだから皆もオレを助けるべきだろ、それすら出来ない世の中に何故気兼ねする必要がある?その時は腹が減り過ぎて頭がおかしくなってたんだろうな、でもそんなオレに手を差し伸べてくれた人がいた、同じホームレスだった。世界を救ったヒーローがゴミみたいな人間に助けられたんだぜ、笑うだろ?

 その人はヤッさんって言ってな。周りが目をそむける中、唯一オレをずっと見てくれてたんだ。ヒーローと一緒でホームレスも縄張りには厳しいはずなのにヤッさんは何も言わず寿司をくれた。どこで拾ってきたか分からない寿司、とても食えないと思った。でもヤッさんは一つ自分で食って見せるんだぜ、大丈夫だって言いたげにな。流石に唾を飲んだよ・・・で、オレも食った。変な味がしたらすぐ吐き捨ててやる、そんな気だったのにどうしてか呑み込んだ。

 泣いたよ、

 滅茶苦茶美味かったんだ、高級寿司屋並みに美味かったんだ。腹が減れば何でも美味いって言うがそんなレベルじゃない、その時初めて人の優しさを噛みしめたような気がした、あの味は今でも忘れられない」

「そのアンパンもそうだって言いたいの?」

「いや、残念ながらオレにとってはただの消費期限の切れたアンパンだ。だがもし、この味の分かる奴がいるとしたらそれは・・・」

 正義は真っ直ぐ前を見た。その先には無残に服の裂けたわびしい姿のレゥ、どう声をかけたらいいか分からず戸惑った様子で一つパンを持ちポツリと立っている。

 物珍しい動物を食入るように見る正義といくさ。彼等もまたレゥとどう接すればいいか戸惑う。また先程の様に突拍子も無く殴られたら敵わない。正義はベンチ裏に隠した右拳を握りしめる。最悪の事態に備えいつでも能力汚染をお見舞いできるよう待機する。

 二人と視線が合うとレゥは何とも申し訳なさそうな顔で近づいた。

「あのさ・・・いくさ、腹減ってたら誰でもイライラするもんな。これ食って機嫌直せ」

 どこから持ってきたか分からないバタートースト。レゥはかすかについた土ぼこりに気づいて慌てて汚れた服でぬぐって無かった事にする。

「別にこれ捨ててあったり消費期限切れたやつじゃないから安心して食えるぞ」

 いくさは立ち上がると前に出た。

「レゥ、これどうしたの?お金持ってないのに買える訳ないよね?どこで貰ったの?」

 それが盗品である事は容易に察しがつく。きっと少しでも恩を返したいのだろう、だがそれは間違ったやり方である。気持ちは嬉しい、だが決してありがとうとは言えない。

「んな事気にすんなよ、ほらさっさと食っちまえ」

「くれた人の所に連れてってくれなきゃ受け取れないよ」

「何でだよ!何でそんなにより好むんだよ!!腹減ってんだろ?だったら食えよ。食いもんは食いもんだろうが・・・」

 レゥの腹がゴロゴロと唸って言葉を遮る。

 いくさはレゥの頭を無理矢理下げて抱きしめた。両腕で確り抱え、溢れる思いを胸に押し込め確信する。他人を思いやれるのに分かり合えないはずがない。

「返しに行こう・・・」

 てっきりレゥはまた手を上げるのかと思った、だがまるで叱られてしょぼくれた飼い犬の様に大人しくなる。そこに獣の姿は無い、もし彼女にあとほんの少しでも邪悪だったら今とは違う未来があったかもしれない。

 常識すら覆す二人の姿に正義の握りしめた拳がそっと緩む。




 そのまま自分の物にしてしまえば良いのにわざわざ盗んだ物を返しに行く、それは褒めるべき善行と言えよう。だがその先に待っているのは然るべき制裁である。

 おそらくレゥは随分な汚辱を味わったに違いない。下げたくもない頭を無理矢理下げさせられ、ひたすら相手の威圧に耐える。こんな事が他の仲間に知れたら間違いなく馬鹿にされる。怪人の面汚しとさげすまれる。でも隣で同じように頭を下げるいくさの顔は潰せない。命を救われ、養ってもらって、この上迷惑までかけられない。しかしどうしても自身の口から謝罪の言葉だけは出なかった。レゥにも怪人なりの面子がある、やはり虫けら同然の人間に謝るのはしゃくだ。

 だが盗人猛々ぬすっとたけだけしい態度は当然店側のかんに障るところ。たかが子供の万引きで「親を呼べ、でなければ警察に突き出す」と言われても仕方ない。仮にそれがいくさ達にとって不都合極まりなく、警察に捕まってレゥの正体がバレてしまうような事になっても身から出た錆。結果、この怪人がヒーローの肥やしにされようと正義には一切関係ない。なのに男は地面に額をつける勢いで深々と頭を下げた。

「本当にすみませんでした!」

 店主は顔を引きつらせる。

「今回は大目に見ます、ただし子供のしつけは確りして下さいよお父さん」

 なおも頭を上げようとしない正義に店主は嫌悪を滲ませた。寝癖をつけ、砂埃すなぼこりに塗れた小汚い男、見た目からして真っ当な人間ではない。きっと職にも就かず朝から飲んだくれてばかり、競馬やパチンコに時間と金を費やす日々。食うに困った子供がついに万引き・・・と一連の流れが自然と連想できてしまう。こんな親を見たら誰でも子供を不憫に思う、だがそれを救うだけの余裕も度量も現代人には足りていない。この少女がこの先道を踏み外さぬよう心から祈るばかりだ。



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