御伽ヒロイック学院 ーラノベ主人公科ー

もみじ

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第四章 素晴らしき野宿生活

本場ヒーローと怪物の戦い

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「やろぉ、舐め」

 レゥの口よりも早くスティレットが動いた。
 言うが早いか斬り飛ばされる。体勢を起こせばもうそこに魔法少女は居ない。
 背合わせに立つ二人。いつの間に回り込んだのか、いつから居たのか分からない。気がついたらスティレットはそこにいた。すでに刀は振り抜かれている、そして後から痛みだけがレゥを襲う。

“目にも止まらぬ速さ”とはまさにこの事、その速度は体を流れる電気信号よりも速い。

スティレットの姿が消え、前後左右、全方向から剣戟けんげきが飛ぶ。頬、肩、腹、脇、ももを手当たり次第に斬りつけられ、レゥは堪らず両腕をたたんで防御を固めた。

 しかしスティレットに容赦はない。斬殺できないなら殴殺する!
 速くなる、まだまだ速くなる。刃も通さぬ鋼の体が悲鳴をあげる。左右から同時に二撃、腕のガードがこじ開けられた。何と言う事か、連続攻撃の時間的ズレを失わせるほどの速度は事象の歪みすら引き起こす、最早その太刀は同時に二本、否三本。腹を打てば体が折れる。下がった顎を斬り上げれば喉笛を見せる。喉を突いて生意気な口を叩けなくする。
 たった一人による人狼リンチ。一方的な暴力。それはいくさが最も嫌厭けんえんするものだ。居ても立っても居られず彼女は正義に向かって訴える。

「先生止めて!このままじゃレゥが死んじゃう!!」

 正義は腕を組み、仁王立におうだちで答えた。

「分からないか朏、今のオレではあれを止められない。もって一秒」

「一秒?」

「オレが飛び込んで屍になるまでの時間だ」

「カッコつけて言うな!」

 クゥが笑う。

「あらあら先生、あの戦闘を見て怖気おじけづきましたの?まあ無理もありませんわね、ワタクシが育てた魔法少女ですもの。そこらのヒーローとは格が違くてよ」

「あんま調子に乗んなよ妖精!言っとくがオレのアクセルフォームの方が断然速いからな!」

「フㇷ・・・無限加速の神速剣、妖刀“イヅナ”。帯刀者のタイムキャストをただ縮めるだけの能力も動作にかける時間を限りなく奪えば過程は乖離かいりし結果のみが残る。因果すら断ち切るあの剣速より何が速いですって?」

「何言ってんだお前、頭大丈夫か?」

 そうやって正義がクゥとの会話にうつつを抜かしていると戦いは予想もしない展開になる。
驚くスティレット。刃に氷が纏わりつき重さで剣先が地につく。

「これは一体?」

 レゥは喉を押さえながらほくそ笑んだ。

「ケホッ、ケホ・・・やっと捕まえたぞ。どうだ、驚いたか?これがあたしの能力だ。攻めれば攻めるほどてめぇの刀は凍って重くなる。そんだけ氷塊ひっつけてりゃ流石にもう持ち上がんねぇだろ」

 スティレットはほんの少し刀を持ち上げるとまたすぐ落とした。

 レゥは意気揚々と指の関節を鳴らす。

「ばかすか殴りやがって、覚悟しとけよ。今までやられた分きっちり返してやっからな」

 腰を引き、拳を振り抜く。しかし今度はレゥが驚いた。

「何っ!?」

 なんと刀を手放した。
 間一髪、拳をかすめるスティレット。後ろに下がると鞘からさらに剣を抜く。しかも今度は両手に二本。

 舌打つレゥ。

「くそ!何本でも出せるのかよ!?」

 レゥが両拳を打ち付けると長さ50センチ程の氷の短剣が計6本、両手から伸びる。氷の造形、それがこの人狼の能力である。
 たかが氷柱も怪人の力で投げれば立派な凶器、鋭く尖った無数の氷剣が風を切ってスティレットを襲う。
 銃弾と違わぬ速さ、しかし剣の達人にはそれすら止まって見える。
 一太刀ひとたち、氷剣が溶断ようだんされる。熱波で草木は燃え上がり、レゥの体を炎が包んだ。

「あっつ!!」

 レゥは慌てて体を凍らせる。絶対零度の能力がなかったら今頃火だるまだ。
しかしそれに安堵したのもつかの間、身に纏った氷はすぐ溶けた。熱気を感じて前を見るとふところには灼熱を散らすスティレット、まさに居合の瞬間。
 そこで後悔する、亜光速で動く相手を前に一瞬でも気を反らしたのがいけなかった。

 “やばい!”

 もうそう思うしかない、だが何故かその速さに違和感を覚える。

 “太刀が見える?”

 目が慣れたのか?それともスティレットが遅くなったのか?どちらにせよ対応できる速度。思わずその剣を素手で掴むと衝撃が走った。

「痛ぃって!!」

 レゥは今まで感じた事のない痛みにたじろぐ。まるで鈍器に殴られたような感覚、電撃である。感電して腕が硬直する。

 クゥは正義達に向かってさらに得意げに語った。

「絶対熱の超温剣“レヴァンテイン”、絶縁破壊の放電剣“ブリューナク”。無限加速だけがスティレットのとりえではなくてよ。魔法少女の強さは起こせる奇跡の数にあるのだから」

 スティレットの太刀を右へ左へと避けるレゥ。氷壁を張ってもスティレットがレヴァンテインをかざせば跡形もなく蒸発してしまう。
 交わしきれぬ一撃を左拳で受けると再び稲光がほとばしりその雷撃に三秒ともたず退いた。

 素手で打てば打ち負ける、氷の武具も超温剣の前では無力、打つ手なく一旦下がろうとすると雷がレゥの足を貫いた。

 “そんなっ!”

 そもそも度を超えた電気エネルギーは空気すら伝う。ブリューナクに触れなければ感電しないなどと言う道理はない。

 放たれた雷がスティレットの周囲をうねり、レゥの五体をさらに貫く。
 全身が強張り全く動けなくなり、体からは焦げた臭いが立ち込めた。
 どんなに鍛えようと筋肉は電気を通す、そしていかに人狼と言えど内臓にダメージが及べば耐え難い苦痛となる。物理攻撃には滅法めっぽう強くても全ての臓器を握り潰されたような感覚には流石のレゥも苦悶くもんする。
 相手は麻痺して動けない。それを良い事にスティレットは存分に魔剣を叩きこんだ。
 胴に雷を浴びせられ、頬に焼印を押され、急所と言う急所を責められる。レゥは生まれて初めて反吐へどを吐く。
 
“あぁ・・・負ける” 

 ヒーローに戦いを挑んだ以上こうなる事も覚悟していた、しかし仇敵きゅうてきに一撃も与えられず死ぬなんてヴェアヴォルフの面汚し、なんと情けないことか。無念に散っていった仲間達に合わせる顔も無い。レゥは慙愧ざんきを噛みしめながらそっと目を閉じる・・・

 と、誰かがこの哀れな人狼を助けようと叫んだ!

「そうやってまた命を奪うのか!?ただ人と違うってだけで殺すのか?何で分かり合おうとしない?そこに許しは無いのか?それは裁かれないといけないほど罪深いものなのか!?」

 クゥが声を荒立てる。

「なんたる言いぐさ!相手は怪物ですのよ、倒さなくてどうするのです」

「そう決めつけてるのはあんた等妖精だろ!レゥは怪物なんかじゃない、一個の命、友達だ!もしレゥを殺したら私はあんた達を一生恨む!!」

 スティレットの動きが止まる。



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