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第四章 素晴らしき野宿生活
不意打ち
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別にいくさの言葉に心打たれたからでもなく、ましてや人狼に同情した訳でもない。戦う理由などとっくに乗り越えた道である。今とて悲しみの権化を消す事に躊躇いなどない。
だが世のため人のため、皆の笑顔を守ると決めた正統派魔法少女。人に恨まれたことなど一度たりともない。それ故その言葉が否応なしに剣を鈍らせる。
いくさはその一瞬の隙をついてレゥとスティレットの間に割って入った。そう、彼女は知っていた。正道なヒーローが生きた盾に攻撃できない事を。オトヒロで学んだことはなにも主人公になるためだけのものではない、時には対抗する手段にもなる。
スティレットは慌てて魔剣の力を弱める。レヴァンテインは最高十四溝度にも達する超温剣、ブリューナクは絶えず雷をまき散らす放電剣、双剣とも寄っただけで人を消炭にしてしまう。危うくいくさを殺してしまいそうになりスティレットは肝を冷やした。
もっともそれもいくさの考えに織り込み済みだ、こうなると踏んでいた。ある事ない事言って注意を引いたのは間に入る隙を作るため、間に入ったのはレヴァンテインの熱とブリューナクの雷を封じるため。そしてさらなる秘策がいくさにはあった。彼女は自分の携帯電話をスティレットに突きつける。
「スティレット、もしまだ戦うと言うのならさっき撮ったあなたの卑猥な変身をネットに流す、それが嫌なら剣を下ろして」
それを聞くとクゥのしかめっ面が綻んだ。
「何を言い出すのかと思えばあなた、まさかそれで脅しているつもり?賢明とは言えないわね。そもそもスティレットはワタクシの鍛えた剣、抜身を晒して折れるほどやわではなくてよ」
「自分の裸体を全国ネットに流されて嫌な思いをしない女の子なんていないよ、言っとくけど一度流した映像は絶対に消えないから」
「ならば見せてみなさい、その卑猥とやらを。どうせハッタリでしょう、あの状況で本当に撮れたか疑問だわ」
「ハッタリかどうかはスティレット、あんたが確かめてよ。そして判断して、この動画とレゥの命、どちらが重いかを」
いくさは携帯の画面を開いた。
スティレットはしばし沈黙するといくさの目を見る。出会って半年、彼女が嘘をつけないのは十分に知っている。目が泳ぐ、挙動不審になる、話を反らす。それは驚くほど分かりやすい。だが今のいくさにそれはない、それどころか自負すら感じる。決して生半可な気持ちではない。
スティレットは静かに剣を収めた。
「何をしているのですスティレット!この程度の辱め何ともないでしょうに?」
「クゥ、すみません・・・」
「まさかそんなにも破廉恥だったと?心配はいりませんよ、その恵体、ひけらかして自慢はしても恥じる事はありません」
それに正義が呼応する。
「おい妖精、全くフォローになってねぇよ!」
それにしてもあの勇ましい少女が引く程の映像、男として非常に気になるところ。一体どんなものが撮れたのか見たい、知りたい、手に入れたい。正義は唾を飲み、この切迫した状況で都留岐の透き通るような素肌を妄想する。
“いかん!・・・オレは一体何を想像してるんだ?”
頭を振って現実に戻ると正義は信じられない光景を目の当たりにした。
「朏ぃぃぃ!!!」
その声にいくさは一度振り返り下を見る。そして狐につままれたような顔をする。
「え?・・・」
巨大な氷柱が自分の腹を貫きスティレット目がけて伸びていた。背後にはレゥ。いくさの影に隠れてスティレットを串刺しにしようとしたのは誰の目から見ても明らかだ。だがスティレットは無傷だった。胸の玩具が光り、氷の先はすんでのところで見えない壁に阻まれている。
一部の戦闘魔法少女は敵の攻撃から身を守るため、時折「加護」と称したオートバリアを備えている。バリア自体はさほど珍しくない能力だが己が意思に反して勝手に発動するあたりはゆるいヒーローならではと言える。しかしこの能力があるとないとでは魔法少女の生存率も格段に違う。流石にB級ともなればそれくらい当然のように持っている。
結局レゥを庇ったいくさだけが殺されるという皮肉、こんな結末誰が納得出来ようか。どうしても割り切れずいくさはかすれた声で自問する。
「なんで・・・どうして・・・」
しかし答えは返って来ない。今のレゥに形振り構っている余裕などなかった、敵に一矢報いたい一心で氷を砕きいくさを盾に突進する。窮鼠猫を噛む、禽も困しめば車を覆す、溺れる者はわらをも掴む。正にそう言った状況。
剣を抜いていくさごと人狼をたたっ斬るか、避けていくさを見捨てるか。真っ当なヒーローにはどちらも選べない。スティレットは咄嗟にバリアを解いていくさを抱き止めた。
レゥはスティレットの左腕を引き寄せてその力こぶにかぶり付く。
スティレットの口から「うぐっ!」と苦しい声が零れた。
“噛まれた!?”
だが世のため人のため、皆の笑顔を守ると決めた正統派魔法少女。人に恨まれたことなど一度たりともない。それ故その言葉が否応なしに剣を鈍らせる。
いくさはその一瞬の隙をついてレゥとスティレットの間に割って入った。そう、彼女は知っていた。正道なヒーローが生きた盾に攻撃できない事を。オトヒロで学んだことはなにも主人公になるためだけのものではない、時には対抗する手段にもなる。
スティレットは慌てて魔剣の力を弱める。レヴァンテインは最高十四溝度にも達する超温剣、ブリューナクは絶えず雷をまき散らす放電剣、双剣とも寄っただけで人を消炭にしてしまう。危うくいくさを殺してしまいそうになりスティレットは肝を冷やした。
もっともそれもいくさの考えに織り込み済みだ、こうなると踏んでいた。ある事ない事言って注意を引いたのは間に入る隙を作るため、間に入ったのはレヴァンテインの熱とブリューナクの雷を封じるため。そしてさらなる秘策がいくさにはあった。彼女は自分の携帯電話をスティレットに突きつける。
「スティレット、もしまだ戦うと言うのならさっき撮ったあなたの卑猥な変身をネットに流す、それが嫌なら剣を下ろして」
それを聞くとクゥのしかめっ面が綻んだ。
「何を言い出すのかと思えばあなた、まさかそれで脅しているつもり?賢明とは言えないわね。そもそもスティレットはワタクシの鍛えた剣、抜身を晒して折れるほどやわではなくてよ」
「自分の裸体を全国ネットに流されて嫌な思いをしない女の子なんていないよ、言っとくけど一度流した映像は絶対に消えないから」
「ならば見せてみなさい、その卑猥とやらを。どうせハッタリでしょう、あの状況で本当に撮れたか疑問だわ」
「ハッタリかどうかはスティレット、あんたが確かめてよ。そして判断して、この動画とレゥの命、どちらが重いかを」
いくさは携帯の画面を開いた。
スティレットはしばし沈黙するといくさの目を見る。出会って半年、彼女が嘘をつけないのは十分に知っている。目が泳ぐ、挙動不審になる、話を反らす。それは驚くほど分かりやすい。だが今のいくさにそれはない、それどころか自負すら感じる。決して生半可な気持ちではない。
スティレットは静かに剣を収めた。
「何をしているのですスティレット!この程度の辱め何ともないでしょうに?」
「クゥ、すみません・・・」
「まさかそんなにも破廉恥だったと?心配はいりませんよ、その恵体、ひけらかして自慢はしても恥じる事はありません」
それに正義が呼応する。
「おい妖精、全くフォローになってねぇよ!」
それにしてもあの勇ましい少女が引く程の映像、男として非常に気になるところ。一体どんなものが撮れたのか見たい、知りたい、手に入れたい。正義は唾を飲み、この切迫した状況で都留岐の透き通るような素肌を妄想する。
“いかん!・・・オレは一体何を想像してるんだ?”
頭を振って現実に戻ると正義は信じられない光景を目の当たりにした。
「朏ぃぃぃ!!!」
その声にいくさは一度振り返り下を見る。そして狐につままれたような顔をする。
「え?・・・」
巨大な氷柱が自分の腹を貫きスティレット目がけて伸びていた。背後にはレゥ。いくさの影に隠れてスティレットを串刺しにしようとしたのは誰の目から見ても明らかだ。だがスティレットは無傷だった。胸の玩具が光り、氷の先はすんでのところで見えない壁に阻まれている。
一部の戦闘魔法少女は敵の攻撃から身を守るため、時折「加護」と称したオートバリアを備えている。バリア自体はさほど珍しくない能力だが己が意思に反して勝手に発動するあたりはゆるいヒーローならではと言える。しかしこの能力があるとないとでは魔法少女の生存率も格段に違う。流石にB級ともなればそれくらい当然のように持っている。
結局レゥを庇ったいくさだけが殺されるという皮肉、こんな結末誰が納得出来ようか。どうしても割り切れずいくさはかすれた声で自問する。
「なんで・・・どうして・・・」
しかし答えは返って来ない。今のレゥに形振り構っている余裕などなかった、敵に一矢報いたい一心で氷を砕きいくさを盾に突進する。窮鼠猫を噛む、禽も困しめば車を覆す、溺れる者はわらをも掴む。正にそう言った状況。
剣を抜いていくさごと人狼をたたっ斬るか、避けていくさを見捨てるか。真っ当なヒーローにはどちらも選べない。スティレットは咄嗟にバリアを解いていくさを抱き止めた。
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