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第一幕 転生
第五話
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「ニア!あそこにアップルパイがあるわ!」
「ほんとうだ!すごいつやつやだ!」
「おいしそうね!」
「おいしそうだね!」
厨房までの道のりは遠く、匂いにつられてやってきた場所は馬車から見た庭園の中心辺りだろうか。
「あら、やっぱり戻ってきたのね。セレニア、セレノア」
「お母さま、このおやつ食べてもよろしくて?」
「お母さま!このお紅茶もらってもよくって?」
「いいけれど、先にご挨拶してくれるとお母様は嬉しいわね」
テーブルの端から顔をのぞかせて、当たり前のようにアップルパイの持ち主である母に問いかけると、やはり怒った様子はなく優雅に紅茶を飲んでからそっと挨拶を促された。
その言葉に2人でお互いの服についた汚れを落として、くるりと母に背を向けてぺこりと頭をさげる。
「お初にお目にかかります、王妃様。エルフの母ミリアとエルディハース・クラークの娘、セレノア・クラークともうします」
「同じく、双子の姉セレニア・クラークともうします。王国の妃花に、ご挨拶をもうしあげます」
「あらあら。公爵が自慢するのも分かるくらい可愛らしいご令嬢達だこと。ご挨拶ありがとう可愛らしいエルフさんたち」
ほほほ、と笑った顔はなんとまあ無邪気な。お母様の真っ黒な笑顔とは大違い。でも、前世の私然り類は友を呼ぶとも言うし、きっと王妃様もただの清純な人じゃないんだろうなぁ。
「いはいです。おはーはま」
「あら、いけないわ。余計なことをを考えていた顔を見たものだから、つい手が伸びてしまったわ」
「ニア!すごくおいしいわ!」
「ノアが幸へほうなら、わたひも嬉ひーよ」
顔に出さずに考えていたはずなのに、母に頬をつままれ餅のようにひっぱられる。手加減されているが話しにくい上におやつにも手が出せないので、文句を言えば心内がモロバレしてて一瞬ビビる。そんな私と母のやりとりをまるっと無視して愛しのセレノアは先に着席してアップルパイを食べていた。
「公爵家のお姫様たちも到着したし、そろそろうちの問題児達も帰ってくる頃かしら」
「お母様!」
「あら、さすが。ベストタイミングね、レオ」
バタバタと騒がしい。土埃が舞ってアップルパイが汚くなると不機嫌になると母に頬をこねくり回される。あの、そろそろ私もおやつ食べたいんですが?
「紹介するわ、ご令嬢方。私の息子、レオアド。あちらの白い髪のほうが弟のリオン。末っ子のリエーフはまだお昼寝中ね」
うわーー!!美少年!!!と内心叫びながらも、ちらりと双子の妹の様子を盗み見てホッとする。
「むぐむぐ」
「セレノア、王子殿下方にご挨拶なさい」
「ニア!あなたも早く食べて!とてもおいしいわ!」
母の言葉はほっぺたにアップルパイを詰め込んだセレノアによってかき消された。うん…うちの妹は今日もかわいい。今の君のまま大きくなってくれ、と差し出されたフォークからアップルパイを食べていると、後から拭きこぼした声が聞こえて思わず頭に角が生えた(本物じゃないよ?(笑))
「フッ、これが公爵様が仰られてた公爵令嬢?」
「あん??」
「セレニア」
「レオアド」
諌める声が両母親から聞こえたが、今の私の耳にはなーーんにも届かない。このアホ王子。いま、私のセレノアを笑ったの???うちの可愛くて可愛くてちょっとおドジで天然で天使で可愛くって癒やしでこの世の中で一番素敵な女の子を馬鹿にした??
「…失礼。だけど、公爵も親ばかだったのが少しおかしうぁ!?!」
「言いたいことはそれだけか??」
「いきなりなにするんだ!!」
謝っているのに謝っていない様子に、頭の奥でプツーンと糸が切れる音がした。鼻で笑った様子で余裕こいている第一王子の足を払ってやれば無様に地面に倒れ込んだ。突然の襲撃に受け身も取れずに倒れた王子が、少し涙目で私を怒るがそれすらも頭に入らない。
「可愛くて天使でこの世の宝な私の妹を笑った罪は重い…天誅!!!!!」
「ぐぁ!!?」
ドレスを着ていることなど忘れ、王子に殴りかかる私に頭を抱える母と、息子が殴られているのに一向に助けずに笑う王妃。途中からやり返してきた王子に応戦しながら戦った結果は、父が用事を済ませて合流するまでの間続いたとか。
「流石、来る日も来る日も男女構わず襲ってくるエルスを守り続けたミリアの娘ね」
「うちのノアはかわいいのに。あのクソやろう笑いやがった。ノアが世界一なのに」
「妹のことになるとすぐ理性を失っちゃうのは困りごとね~」
鎮静しない怒りにノアにひっつきながら、うちのノアを笑った王子を絶対許さないと恨みつらみをいうが、大人たち等とても楽しそうだった。ちなみに、大人気なく叩き潰した第一王子は私と同じく細かな傷を大量におって泣きじゃくり部屋へと逃げていった。
「ニア、女の子なのにむちゃしちゃだめなのよ」
「ノア、女でも時にはたたかうときがあるんだよ」
「あら、男らしい」
完全に王妃様のツボにハマったらしい。上品に笑ってはいるがさっきからずっと笑っている。
「第一王子はゆるしませんが、王妃さまのえがおもとになったならやったかいがありました」
「ふふふふ!!!」
「反省なさい、あなたは」
ぺちりと母に頭を叩かれたが、ノーダメージ。王妃さまは今度こそ目尻に涙を浮かべるまで大笑いし始めたのだった。
「ほんとうだ!すごいつやつやだ!」
「おいしそうね!」
「おいしそうだね!」
厨房までの道のりは遠く、匂いにつられてやってきた場所は馬車から見た庭園の中心辺りだろうか。
「あら、やっぱり戻ってきたのね。セレニア、セレノア」
「お母さま、このおやつ食べてもよろしくて?」
「お母さま!このお紅茶もらってもよくって?」
「いいけれど、先にご挨拶してくれるとお母様は嬉しいわね」
テーブルの端から顔をのぞかせて、当たり前のようにアップルパイの持ち主である母に問いかけると、やはり怒った様子はなく優雅に紅茶を飲んでからそっと挨拶を促された。
その言葉に2人でお互いの服についた汚れを落として、くるりと母に背を向けてぺこりと頭をさげる。
「お初にお目にかかります、王妃様。エルフの母ミリアとエルディハース・クラークの娘、セレノア・クラークともうします」
「同じく、双子の姉セレニア・クラークともうします。王国の妃花に、ご挨拶をもうしあげます」
「あらあら。公爵が自慢するのも分かるくらい可愛らしいご令嬢達だこと。ご挨拶ありがとう可愛らしいエルフさんたち」
ほほほ、と笑った顔はなんとまあ無邪気な。お母様の真っ黒な笑顔とは大違い。でも、前世の私然り類は友を呼ぶとも言うし、きっと王妃様もただの清純な人じゃないんだろうなぁ。
「いはいです。おはーはま」
「あら、いけないわ。余計なことをを考えていた顔を見たものだから、つい手が伸びてしまったわ」
「ニア!すごくおいしいわ!」
「ノアが幸へほうなら、わたひも嬉ひーよ」
顔に出さずに考えていたはずなのに、母に頬をつままれ餅のようにひっぱられる。手加減されているが話しにくい上におやつにも手が出せないので、文句を言えば心内がモロバレしてて一瞬ビビる。そんな私と母のやりとりをまるっと無視して愛しのセレノアは先に着席してアップルパイを食べていた。
「公爵家のお姫様たちも到着したし、そろそろうちの問題児達も帰ってくる頃かしら」
「お母様!」
「あら、さすが。ベストタイミングね、レオ」
バタバタと騒がしい。土埃が舞ってアップルパイが汚くなると不機嫌になると母に頬をこねくり回される。あの、そろそろ私もおやつ食べたいんですが?
「紹介するわ、ご令嬢方。私の息子、レオアド。あちらの白い髪のほうが弟のリオン。末っ子のリエーフはまだお昼寝中ね」
うわーー!!美少年!!!と内心叫びながらも、ちらりと双子の妹の様子を盗み見てホッとする。
「むぐむぐ」
「セレノア、王子殿下方にご挨拶なさい」
「ニア!あなたも早く食べて!とてもおいしいわ!」
母の言葉はほっぺたにアップルパイを詰め込んだセレノアによってかき消された。うん…うちの妹は今日もかわいい。今の君のまま大きくなってくれ、と差し出されたフォークからアップルパイを食べていると、後から拭きこぼした声が聞こえて思わず頭に角が生えた(本物じゃないよ?(笑))
「フッ、これが公爵様が仰られてた公爵令嬢?」
「あん??」
「セレニア」
「レオアド」
諌める声が両母親から聞こえたが、今の私の耳にはなーーんにも届かない。このアホ王子。いま、私のセレノアを笑ったの???うちの可愛くて可愛くてちょっとおドジで天然で天使で可愛くって癒やしでこの世の中で一番素敵な女の子を馬鹿にした??
「…失礼。だけど、公爵も親ばかだったのが少しおかしうぁ!?!」
「言いたいことはそれだけか??」
「いきなりなにするんだ!!」
謝っているのに謝っていない様子に、頭の奥でプツーンと糸が切れる音がした。鼻で笑った様子で余裕こいている第一王子の足を払ってやれば無様に地面に倒れ込んだ。突然の襲撃に受け身も取れずに倒れた王子が、少し涙目で私を怒るがそれすらも頭に入らない。
「可愛くて天使でこの世の宝な私の妹を笑った罪は重い…天誅!!!!!」
「ぐぁ!!?」
ドレスを着ていることなど忘れ、王子に殴りかかる私に頭を抱える母と、息子が殴られているのに一向に助けずに笑う王妃。途中からやり返してきた王子に応戦しながら戦った結果は、父が用事を済ませて合流するまでの間続いたとか。
「流石、来る日も来る日も男女構わず襲ってくるエルスを守り続けたミリアの娘ね」
「うちのノアはかわいいのに。あのクソやろう笑いやがった。ノアが世界一なのに」
「妹のことになるとすぐ理性を失っちゃうのは困りごとね~」
鎮静しない怒りにノアにひっつきながら、うちのノアを笑った王子を絶対許さないと恨みつらみをいうが、大人たち等とても楽しそうだった。ちなみに、大人気なく叩き潰した第一王子は私と同じく細かな傷を大量におって泣きじゃくり部屋へと逃げていった。
「ニア、女の子なのにむちゃしちゃだめなのよ」
「ノア、女でも時にはたたかうときがあるんだよ」
「あら、男らしい」
完全に王妃様のツボにハマったらしい。上品に笑ってはいるがさっきからずっと笑っている。
「第一王子はゆるしませんが、王妃さまのえがおもとになったならやったかいがありました」
「ふふふふ!!!」
「反省なさい、あなたは」
ぺちりと母に頭を叩かれたが、ノーダメージ。王妃さまは今度こそ目尻に涙を浮かべるまで大笑いし始めたのだった。
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