悪役令嬢リティシア

如月フウカ

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誕生日パーティ編 その15

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「あぁ。お前の言いたいことはよく分かった」


「だったら早く婚約破棄を……」


「なぁリティシア。今までお前は俺のために生きてきてくれたんだよな。俺とイサベルを結婚させて、俺を幸せにするために」


 私の言葉を遮ると、アレクは突然そんなことを口にする。確かにそれは私が告げた事実だが、何故わざわざもう一度繰り返すのだろう。


「えぇ。何度もそう言っているじゃない」


 気恥ずかしいからあまり言わせないでほしいが、事実だから仕方ない。私は彼のために、彼のためだけにこの世界を生きると決めたのだから。


「だったら、もう一度だけ俺のために生きてくれないか?」


「え?」


「好きだよ。」


 彼は照れるでもなく、ただ真っ直ぐな瞳で私にその言葉をぶつけてくる。告げられたその瞬間、目の前が真っ暗になった。


 本当だった。アレクは私が好きだったなんて。でも……だから何?彼が私を好きであろうと関係ない。私の目標は何も変わらないんだから。


「だから……」


「やめて」


 決意が揺らぐ前に、彼の気持ちがこれ以上強くならないように、自分の気持ちに蓋をするように私は声を上げる。今までで一番冷たい声が、自分の口から飛び出た。


 拒否されるとは思っていなかったのか、驚いたように彼はこちらを見つめてくる。


「それ以上は聞きたくない。もううんざりよ。どれだけ私を苦しめれば気が済むの!?」


 私がイサベルだったら良かったのに。もしそうだったのならば、迷わずこの告白を受け入れることができたはずだ。でも違う。私はただの悪役令嬢なのだ。


「貴方のその気持ちが嫌なわけじゃない。嬉しいの。嬉しいからこそ辛い。だって私達は絶対に結ばれないんだから」


「……どうしてそこまで……」


「イサベルがいるからダメとかそもそもそういう次元の話じゃないの。私と貴方の魔力は相反する魔力な上に、とても強力。互いの魔力がやがて傷つけ合うようになり、永遠に眠りにつくことになるわ」


「永遠に……?」


 この設定さえ存在しなければ、私はもしかしたらこのまま婚約関係を続けてしまったかもしれない。知っていてよかった。これ以上余計に悲しむことがなくなるから。


「よく聞いて。貴方はイサベルと結婚するしかないのよ。私への気持ちもきっと同情か何かだわ。男主人公のアレクシスが悪役令嬢のリティシアを好きになるなんてあり得ない。だから……」


「リティシア、悪役令嬢の話はもう終わりだ。俺の気持ちは同情なんかじゃないし、お前は悪役令嬢じゃない」


「……何も知らないくせによく言うわ。私が悪役令嬢じゃなかったとしても、この設定がある限り私達は結ばれない。絶対に。」


 万が一にも二人が結ばれることのないように作った設定なのだろうか、あまりにも酷すぎる設定だ。それ程までに作者はリティシアを嫌っていたのかもしれない。


 ……正直に言おう。私はこの設定を作った作者のことを心から恨んでいる。


「リティシア。俺は小説の男主人公じゃない。ただのエトワール国の王子だ。イサベルのことは好きだけど恋愛としてじゃないし、彼女と結婚したいなんて思ったこともない。それでも……俺の幸せは彼女と結婚することだけだと思うのか?」


「えぇ。そう思うわ。だから私は今までずっとそう動いてきたんだもの。小説で決められた幸せが、貴方の幸せに決まっているわ」


「じゃぁお前はどうなんだ」


「……え?」


 アレクはふとそう呟く。その意味が分からずに私は聞き返す。


「俺の幸せじゃない。リティシアの幸せはなんだ?リティシア、お前は何を望んでる?」


 そこまで言われてようやく彼の言いたいことに気づく。問われた私は改めてゆっくりと自分の幸せについて考えてみる。


 この世界で処刑されずに生きること?元の世界へ……前世の世界へ帰ること?……いいえ違う。私が望むことは、私の幸せは……ただ一つだ。


 私は閉じていた目を開き、真っ直ぐに彼の目を見つめる。私のような悪役とは違う澄んだ美しい瞳を見るのは気が引けるが、これだけは胸を張って言わなければ。


「……そんなの決まってるじゃない。貴方が幸せになることよ。私はずっと……それだけを目指してきたんだから。」


「……リティシア、お前の幸せが俺の幸せなら……お前がすることはもう決まってるだろ」


「……だから、イサベルと……」


「違う。」


「私と別れて……」


「全然違う」


「じゃぁなんだっていうのよ……!」


 ことごとく否定されて膨れっ面になりながらも彼に聞き返す。彼の幸せはイサベルと結婚する以外ないはずなのに……それも違うって一体どういうことなのよ。


「この先もずっと俺の側にいてほしい。よく聞けリティシア。……俺の幸せは、お前が側にいることだけだ。他の幸せなんて考えられない。というか存在しない」


 ここまで彼が私に側にいてほしいと願う理由が分からなくて、でもそれが嬉しくて心も頭も大混乱に陥っていた。


 今まで信じていた彼の幸せが実はそうではなくて私にしか叶えられないものだったなんて……一体どこから物語の歯車が崩れたのだろう。


 もう彼が物語通りイサベルと結ばれることはないだろう。彼は間違いなく……私だけを見ているのだから。


 私はきっと初めからこうなることを望んでいた。小説なんて忘れて二人で幸せに暮らせたならってそう思っていた。でも同時に永久に叶わぬ夢だと思っていた。


 それなのに……私なんかが叶えてもいいのだろうか。彼の側にいることが許されるのだろうか。


「私は……悪役で、しかも異世界から来た人間で……貴方とは住む世界も何もかも違うのに……どうしてそこまで……」
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