彼と彼女の十月十日 ~冷徹社長は初恋に溺れる~

幸村真桜

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一夜のあやまち

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「……え?」

 一度で終わりだと思っていた秋良はそれに驚きの表情を浮かべる。そんな彼女を見て、冬磨はニヤリと笑った。

「あれだけで足りるはずがない。言っただろう、思いっきり啼かせると。今度はじっくりと、秋良の好きな体位も見つけないとな」

 くるりと身体をうつ伏せにされ、腰を高く持ち上げられる。恥ずかしがる間もなく、肉棒が突き立てられる。先程よりも深い場所を抉られて、信じられないことに秋良はそれだけで達してしまった。

「ああぁっ……はうぅ……うぅ、んん」

「うっ……もしかして入れただけでイッたのか?」

「あ、ふぅ……ごめんなさ……私……」

 快楽に弱い身体が情けなくてポロリと涙をこぼす秋良のことを、冬磨が背中から抱きしめる。

「謝る必要はない。かわいがりがいのある、最高の身体だ。君は素敵だよ、秋良」

 振り向いてキスをねだると、冬磨はそれを与えてくれる。ありのままの自分を受け入れてもらえた気がして、秋良は嬉しくなった。

「教えて、秋良。どこがいい?」

「あっ、奥……気持ちいいです。もっと、突いてください」

「ああ、もちろんだ。たくさん気持ち良くしてあげるよ」

 ずんっと腰を打ち付けた冬磨の手が胸に伸びる。弱い乳首を擦られながら奥を抉るように突かれるとまた熱が爆ぜそうになり、冬磨の陰茎を締めつけた。

「あああぁ、また、きちゃう、イッちゃうぅ」

「はぁ、俺もいい。何度でも、何度でも……イけ」

 ぐりっと先端を強く押し込まれ、頭が真っ白になり秘所からぶわりと蜜が溢れた。こんなのはしたないと思うのに、もっと愛されたいという欲求が止まらない。

「……っぁ、はあぁ……あ、冬磨さん、もっとくださ……」

 ビクビクと身体を震わせながら懇願する秋良に、冬磨は汗に濡れた髪をかき上げ恍惚とした表情を浮かべた。

「いくらでもあげるよ。はあ、なんてかわいいんだ……」

 うっとりと呟く声も彼女にはもう聞こえていない。秋良は冬磨がくれる悦楽に浸り尽くして、やがて意識を手放した。






*  *   *






「んっ……」

  ふいに目を覚まし、パチパチと瞬きを繰り返す。このところ心配事ばかりであまり眠れてなかったが、久しぶりによく寝た気がする。外はまだ薄暗いようだが、今何時なのだろうか。

  スマホで時間を確認しようと、いつも置いてある場所に手を伸ばす。だけど、見つからない。

 どこか別の所に置いてしまっただろうか。なんだか身体がやけに重い。まだ眠っていたい気持ちを振り払い、ゆっくりと身を起こす。

「きゃっ!」

 突然、 後ろから伸びてきたなにかに腰を引き寄せられ、驚いて小さな悲鳴が漏れる。

「ごめん、驚かせた?」

「あ……」

 振り返ると、冬磨が気怠げな様子で秋良のことを見つめていた。 少し掠れた低い声に、一気に昨夜の記憶が蘇る。

 なんだかひどく乱れてしまった気がする。昨夜のめくるめく快楽に思いを馳せ、朝だというのに身体が熱くなってしまう。

「おはよう」

  チュッと音をたてて額にキスされ、頬が熱くなる。彼が秋良を見つめる目が非常に甘い。

 一夜の関係の後というのは、もっとドライなものかと思っていた。これは大人の男性の余裕というものなのだろうか。

「赤くなってる。かわいいね、明良」

「か、かわいくなんて……」

「かわいいよ。昨日も、とてもかわいかった。少し無理をさせてしまったね」

  愛おしそうに抱きしめられて、身体が熱くなる。昨日と変わらぬ、いや、それ以上に甘い冬磨の態度にまだ夢の中なのかと思うが、そんなはずはない。

 一夜明けて、急激に現実に引き戻された秋良は、自分の大胆な行動がとても恥ずかしくなった。

「あの……ごめんなさい。わ、私、帰ります。昨夜のことは、忘れてください」

「え?」

 きっと、お互いにとってその方がいいはずだ。秋良は冬磨と過ごした夜のことをきっと忘れないが、彼はそうではないだろう。

 婚約者に捨てられてヤケになった女を抱いたことなど綺麗に記憶から消してしまった方がいい。急いでベッドから出ようとした秋良の腕を、冬磨が掴んだ。

「待って。昨夜のこと……後悔してる?」

 なぜか必死な顔をしている冬磨の言葉に、秋良は首を横に振った。後悔なんて、一切していない。自ら望んで彼に抱かれたのだから。

「俺も、してない。誰とでもこんなことをするわけじゃないんだ。信じられないかもしれないけど、君にどうしようもなく惹かれたんだ。だから、また会ってほしい」

 思いがけない彼の言葉に、驚いて目を見開く。今の言葉はどういう意味だろうか。

 冬磨のことはなにも知らないが、秋良のような地味な女を相手にするメリットはないように思う。また会いたいというのは、身体だけということだろうか。

 秋良もあれほど良かったのだ。身体の相性がいいのかもしれない。

 そんなことをグルグルと考えていると、部屋の中に聞きなれた電子音が鳴り響いた。それがスマホのアラームの音だと気づき、ハッと我に返る。

 今日は早番だ。一度家に帰ることを考えると、すぐに出ないと間に合わない。

「すみません。仕事の時間があるので、帰ります」

 急いでベッドを出て服を着る。軽く髪を整えて、部屋を出ようとしたところでバスローブを羽織った冬磨に肩を掴まれた。

「待ってくれ。これ、俺の連絡先。仕事が終わったらでいいから、連絡がほしい」

  冬磨が私に差し出したのは、名刺のようだった。裏側にボールペンで、電話番号が書いてある。突き返すことはできず、それを受け取って部屋を出た。

 素敵な人だった。自分があんな大胆な行動をとるなんて信じられないが、それだけショックが大きかったのだろう。

 とにかく誰かに傍にいてほしくて……それが彼で良かった。だが、正直しばらく恋愛はこりごりだ。

 こんなことをするのは、昨日だけ。これから先のことをきちんと考えなければいけない。

 まだ人のまばらな早朝の電車に乗った秋良は、冬磨から受け取った名刺をろくに見ずに鞄の中に放り込んだ。

 駅のホームで捨ててしまおうとしたのだが、個人情報的にまずいだろうかと思い結局捨てられなかった。いや、違う。本当は昨日のことを忘れないためにとっておきたかったのだ。

 我ながら小さい女だと思うが、これくらいは許されるだろう。

  車に揺られ、家に着くと一気に疲労感が襲ってきた。このままベッドで眠ってしまえたらどんなにいいだろうか。だが、こんなことで仕事を休む訳にはいかない。

 はあっとため息をつき、 冬磨の優しい手を思い出す。温かい人だった。きっと、彼とでなかったらこうなっていなかっただろう。 

 二度と、会うことはないだろうけれど。そう思ったら、なぜだか悲しくなって目尻に涙が浮かんだ。

 もう、夢からは覚めた。現実の秋良は婚約者に捨てられ、一ヶ月後には職なし、宿なしでお先真っ暗だ。

 まだ身体に残る彼のぬくもりを感じながら、ポロリと零れた涙を拭う。泣いている場合ではない。

 とにかく仕事に行かなければと、秋良は重い身体を引きずりながら準備を始めた。
 
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