彼と彼女の十月十日 ~冷徹社長は初恋に溺れる~

幸村真桜

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6章

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 あっという間に月日は流れ、八月になった。秋良は妊娠七ヶ月になった。あまり目立たなかったお腹も大分大きくなり、一目で妊婦と分かる体型になった。

「これが頭で、こっちが胴ね。赤ちゃんは元気だよ。推定体重が千二百グラム、順調です」

 二週間に一度の妊婦検診の日。秋良は腹部エコーを見ながら我が子の成長に目を細めた。

 遂に体重も一キロを超えた。付き添いで一緒に来ていた冬磨も真剣にモニターを見つめている。

「まだ逆子だけど、もう少し様子見でいいかな。……性別は……知りたい?」

「え! し、知りたいです!」

「……うん、女の子だね。間違いなさそう。性別が分かると、色々準備しやすくなるね」

 ついに性別が判明した。なんとなくそんな気はしていた。以前、見た不思議な夢のことがあったからだ。内容は朧げだが、冬磨に似た女の子が出てきたことは覚えている。

 あの子は生まれてくるふたりの子どもなのではないか。そんな確信があった。

「それから血糖だけど、微妙なラインできてるから継続して気をつけて。少し運動してもいいんだけど……お腹が張ったらすぐに休むように」

「はい、分かりました。ありがとうございます」

 検診を終えて、病院を出る。外に出ると、すぐに冬磨が手を繋いでくれる。車までの短い距離だが、秋良はこの時間が好きだった。デートしているようで嬉しくなってしまうのだ。

「女の子だったね。あの神社のお守り、大当たりだ」

「うん。今までも実感がなかったわけじゃないけど……よりそれが強くなった感じがする」

「分かる気がする。名前も考えられるな」

「あ、胎動が……」

 ふたりでそう話していると、赤ちゃんがポコポコと動いた。まるで私も話にいれてと言っているようだ。自分の話をしていると、分かっているのだろうか。

 あれから家も無事に引っ越した。少しの間美貴や浩太の影に怯えていたが、冬磨にふたりとももう近くにはいないから大丈夫だと伝えられた。美貴は北海道の親戚の会社で働くことになったらしい。

 浩太については秋良も事情聴取を受けたが、その後のことは詳しく知らない。冬磨に甘えて任せてしまっているからだ。

 どうなったのかは分からないが、もう秋良の前に現れることはないという彼の言葉を信じることにした。

 家に帰ると、冬磨が憂鬱そうにため息をつきながら着替え始めた。今日は取引先の会社の創業記念を祝うパーティーがあるのだという。

 社長ともなると、こういうものも仕事の一環なのだなと思い準備を進める冬磨を見つめる。

 パーティー用のスーツに身を包み、髪をセットした冬磨はいつも以上に美貌が際立っていてとても美しい。ぽおっとその姿を見つめていると、準備を終えた冬磨が秋良のことを見た。

「どう? 似合ってる?」

「うん、すごくかっこいい」

「秋良に褒められると、嬉しい。来年には、秋良にもパーティーに同伴してもらわないといけない」

 どこか他人事でドレスアップする冬磨を見ていた秋良は、その言葉に驚いて目を見開いた。彼女の反応を見て冬磨がクスリと笑った。

「俺、社長だからね。秋良は社長夫人。忘れてた?」

「そ、そうだったね。うっかりしてた……」

 よく考えればそうだ。今は出産を控えているから免除されているが、こういうパーティーには夫婦で出席するのが普通なのだろう。

 今さらながらすごい人と結婚してしまった。パーティーなどこれまでの人生で無縁すぎてどういうものなのか想像もつかない。

「お義母さんに、マナー講習をお願いしようかな……」

 ぽつりと呟くと、冬磨が片眉を跳ね上げた。それに気づかず、秋良はそれがとてもいい考えな気がしてひとり目を輝かせる。

 夕子はフラワーアレンジメントの講師をしているが、教室がお休みの日に指南役をお願いできないだろうか。早速、連絡してみようとスマホを持つとそれを冬磨が取り上げた。

「あ、どうして?」

「マナー講習なら、俺もできるけど?」

 呆気に取られて冬磨の顔を見上げると、彼がぷっと吹き出した。そして肩を震わせて笑っている。そしてひとしきり笑った後に、悲し気に眉を下げて秋良のことを見る。

「うちの妻はひどいな。こんなに愛しているのに、俺のことをひとつも頼りにしてくれない」

「ご、ごめんなさい。ちょっと、思いもよらなかったというか……」

「そうだろうね。ふふ……あの顔……鳩が豆鉄砲を食らうってああいうことをいうんだろうな。というわけで、マナー講師の役は俺に任せてくれないか? そうだ、週末は練習がてらレストランで食事をしようか」

 冬磨の提案にコクリと頷いた。冬磨の隣に立っても恥ずかしくない人間になりたい。これからもずっと冬磨の隣にいたいのだ。自分も変わらなければ。

「よろしくお願いします、先生」

「ふふ、もちろん。ああ、そろそろ時間だ」

 残念そうに呟いた冬磨が秋良のことを抱きしめた。それから唇を重ねる。当然のように滑り込んできた舌に、ビクリと身体を震わせる。反射的に逃げようとした身体を冬磨の腕が引き寄せた。

「逃げないで。キス、嫌?」

「嫌じゃない。冬磨さんのキス、好き。でも、いっぱいされると離れたくなくなっちゃうから」

「秋良……俺も好きだよ。はあ……抱きたい」

 ぽつりと呟いた冬磨が秋良のことを強く抱きしめた。そして深い口づけを落とす。すべて絡めとるような深いキスに、ただ翻弄され吞み込まれる。

 どのくらいそうしていたのか、突然、冬磨のポケットのスマホが鳴り出した。だが冬磨はそれを無視して、秋良のことを離そうとしない。

「ん、冬磨さん……山本さんが来たんじゃ……」

「うん、もうちょっと……」

 啄ばむようなキスを何度も繰り返していると、秋良のお腹がポコポコと動いた。

 密着していたからか、冬磨にも伝わったらしい。驚いたように秋良のお腹に手を当てる。
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