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まさかの再会
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しおりを挟む「あ……」
外に出た楓は、空を見上げて立ち止まった。
雲の切れ間から、光が地上に降り注いでいる。薄明光線といわれるそれは、美しい自然現象として知られ“天使の梯子”と呼ばれている。
神秘的なその現象に、目を奪われしばらくその場に立ち止まる。四年前、絶望に満ちたあの日にもこの空を目にした。
そう珍しい現象ではないのだが、あれ以来目にするのは初めてだ。
こんな災難続きの一日の終わりに現れるなんて、天使が楓を励ましてくれているのだろうか。そう思うと、ほんのり胸が温かくなって涙が出そうになる。
だが、こんなに人の多い場所で泣くわけにはいかない。そう思って、目に力を入れて歩きだそうとしたそのときだった。
「うわっ、ちょっと、あんた大丈夫か!?」
ドサリという音のあとに聞こえたその声に振り返ると、人が地面に倒れている。たまたま傍を歩いていたであろう男性がしゃがみこんで顔を覗きこんでいた。
これはただ事ではないと、走り寄って声をかける。
「どうしました?」
「前を歩いてたこの人が急に倒れて……。なにがあったかはわかんねぇんだけど」
動揺しているのだろう。年配の男性が視線を揺らしながらそう答える。それを聞いて、楓は倒れている人物に目を向けた。
スーツを着たその人は、胸を押さえたままの体勢で倒れている。その顔は苦痛に歪んでいた。
急性の心筋梗塞だろうか。もしかしたら、心臓に持病を持っているかもしれない。なんにしても、自分にできることをしなければ。
「私、看護師です。救助に協力していただけませんか?」
「あ、ああ、もちろん。俺ができることならなんでもする」
男性の返答にほっとする。協力者がいるだけで、ずいぶん心強い。
「助かります。まず救急車を呼んでください。それから、AEDを探して持ってきていただけますか」
「わかった」
楓の指示を聞いて、男性はすぐに動き出した。
それを横目で見送って、呼吸を確認する。かなり弱く、呼吸の状態もよくない。手首に指を当てて脈を確認すると、触診では触れなかった。
まわりを見渡して、目があった人に気道を確保するために協力をお願いする。幸運なことに、その人は救命の講習を受けたことがあった。
不運続きの一日だったが、ここでツキがまわってきた。
『目の前にある命を救うために全力を尽くす』
大切な人がいつも言っていた言葉を思い出しながら、楓は心臓マッサージを始めた。
「AED持ってきたぞ! 救急車も呼んだ!」
「ありがとうございます!」
しばらく心肺蘇生を続けていると、最初に協力してくれた男性が戻ってきた。受け取った機械を素早く装着し、音声に従い操作していく。
「離れてください!」
ドンッという音が響く。通電が終わったのを確認し、また心臓マッサージを始める。
「こ、この人大丈夫なのか?」
「今は、なんとも……」
救急車を呼んでくれた男性に聞かれても、そう答えることしかできない。今はとにかく、最善を尽くすしかない。
冬だというのに、額からは汗が噴きだす。乱れる呼吸を整えながら、必死に心臓マッサージを続ける。
どのくらいそうしていたのか、遠くから救急車の音が聞こえてきた。思わずほっとするが、まだ気を抜くわけにはいかない。
もう一度気を引き締めて、蘇生を続ける。
「こっちだ、こっち!」
そして救急隊が到着して、慌ただしく搬送の準備を始めた。
「CPAだ。アンビューだして! あ、AEDつけてくれたんですね。ご家族の方ですか?」
「いえ、通りかかった者です」
そう答えながら、額に浮かんだ汗を拭う。ここまでくれば、楓にできることはなにもない。ただ、倒れた男性の無事を祈るのみだ。
「その人、看護師さんだって!」
最初に声をかけていた男性が、救急隊員にそう叫ぶ。嫌な予感がして、楓は顔をひきつらせた。
「本当ですか? それなら一緒にきていただけると大変助かるのですが……。搬送先の医師への説明もありますし」
そう言われたら、断れるわけがない。仕方なく頷き、救急車に乗り込む。
「搬送先、横浜浅井総合病院が受け入れてくれるそうです」
「珍しいな。あそこ、なかなか急患とってくれないのに。あ、今日日曜日か」
「そうそう。例の救命の先生が当直」
搬送先も決まったようだ。横浜の病院のようだが、近くに公共の交通手段はあるだろうか。車内にあるモニターを見ると、どうやら心拍が戻ったようだ。
「血圧もとれてるし、呼吸も戻ってます。まだ安心はできないけど、本当に看護師さんがいてこの人ラッキーでしたね。救急の経験があるんですか?」
「はい。以前、急性期の病棟にいたので」
働いたのは二年ほどだが、いずれは救急救命に携わりたいと思っていたから必死に勉強していた。その夢は叶わなかったが、役に立つ日がきてよかった。
しばらく車に揺られていると、サイレンの音が止んだ。どうやら病院に到着したらしい。
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