死にたがりJCと占い師のアイスクリーム

四季苺

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DAY6-2 死ぬのは今日かも

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 ショッピングモールを出て最寄もより駅まで戻った後、私はふたた紅葉橋もみじばしにやってきた。もう死ぬからいいやとあきらめていたけど、やっぱりあの占い師にもう一度会って、死を回避かいひする方法を聞きたかったから。

 でも、やっぱりいない。
「どうすればいいの…?」
 ずっと我慢がまんしていたけど、一回泣いてしまうともう、なみだ簡単かんたんに出てきてしまう。紅葉橋のそばでくして泣いていると、ふいに肩をつかまれた。
「!?」
 おどろいて振り向くと、瀬名の心配そうな顔が目に飛び込んできた。
「…えっ、瀬名?なんでここにいるの?」
「…じゅく…」
 瀬名は息を切らせて短くそう答えた。ちょっとはなれた場所から私を見つけて走ってきたようだ。たしかに、紅葉橋の側には大手進学塾おおてしんがくじゅくがあった。
「なんで泣いてんの?」
「…っ泣いてないっ…」
 私は瀬名に背中を向けてごしごしと目元めもとをぬぐう。でも、涙は止まらなかったし、瀬名にもバレていた。
「…飲み物買ってくるから、そこで座っといて」
  瀬名は橋のそばにある階段を下った場所にあるベンチを指さした。
 え…どうしよ…こんなみっともない泣き顔見せたくないよ。帰っちゃう?
「帰んなよ」
 振り向きもせず、見透みすかしたような言葉が飛んできたので、私はおとなしくベンチに座った。

 なんでこんなことに…。

 見上げると、紺色こんいろの空にまばらに星がまたたいているのが見えた。スマホを見ると、五時半。暗くなるのも早くなってきたな。
「ほら」
 瀬名はペットボトルのミルクティーを差し出すと、私のとなりにドスッと座った。
「…ありがと…」
 パキッという音がした後、コーヒーのいいにおいがする。瀬名は缶コーヒーを買ったみたい。そっち向けないからわかんないけど。せっかくだから私もミルクティーをひとくち飲む。あったかくて、甘くて、心がほどけるような感じがした。
「…おまえ、どうしたの?」
 きた。
「ええっ、何がぁ?別に何もないよ?」
 私はいつもの「明るい凛々」をよそおって明るい声を出す。
「…そんなわけねぇだろ。泣いてたじゃん」
「………」
「昨日も今日もLINEに全く既読きどくつかねぇし」
 すごいガンガン聞いてくるな…。いつも距離きょり取っていろいろまないでくれるのに…。
「…えっと、昨日はずっとゲームしてて、今日は買い物に出かけてただけ」
「ゲーム?何?」
「気になるのそこなんだ?インクで相手陣地あいてじんち侵略しんりゃくするあのゲームだよ」
「え、マジ?オレもめっちゃやってる。オンライン対戦たいせんしようぜ」
「いいけど~、私強いよ?レベルSだからね?」
 実はゲーオタだってこと、瀬名には知られたくなかったけど、もういいや。私が死んでも悲しくないように、幻滅げんめつしてもらっておこう。
「なめんな。オレだってS+だからな」
「え!意外いがい!かなりやりこんでるじゃん」
「だって面白いし」
 瀬名はニッと笑って見せる。こういう表情ひょうじょうってあんまり見たことなかったから、ドキッとした。
「いつやる?オレ、今日は六時から九時まで塾だけど、明日と明後日の夜は時間ある」
 瀬名はゲームをする日程にっていを組み始めた。

 でも、明日私は死ぬんですよ。

「じゃあ…明後日…」
 できもしない約束に胸が締め付けられるような気がした。
「また泣く」
 にゅっと大きな手のひらが私の顔の横を通り過ぎたかと思ったら、私の顔は瀬名の胸の中にあった。瀬名が引きせたみたいだ。脈拍みゃくはく急激きゅうげきに早くなる。
「なっ…泣いてない…っ」
 明らかに泣いてるのが分かる涙声なみだごえで、私はそう答えるのが精一杯せいいっぱいだった。
反抗期はんこうきかよ。別に悪いとか言ってねぇだろ。心配してるだけだ」
「…ぅぐ…平気だし…」
 そう言いつつも涙はぼろぼろ落ちてきて、瀬名のパーカーはどんどんぬれていった。
「辛い時にまで明るいふりとか元気なふりとかしなくていい」
「そんな私、価値かちないじゃん…。明るくなくちゃ、面白くなくちゃ、『高坂凛々』じゃないじゃん」

 こんなこと、誰にも言うつもりなかったのに。
 瀬名の前では元気で明るい女子でいたかった。
 でも、もう無理。
 メンタルいっぱいいっぱいでこんな風に優しくされて、弱音吐よわねはかないでいられる人がいたら、教えて欲しい。

 ハーッと瀬名は長いため息をついた。
 そして、「そう思うやつもいるかもな」と背中をぽんぽんとたたいてくれた。
「確かに、お前のことただうわつらだけ見ていつも明るくて面白いヤツだって、からかって楽しいヤツだって思ってる人もいるよ。だけどさ、だからってそいつらも、お前が落ち込んだり泣いたりしたら嫌いになるわけじゃない。そういう面もあるんだなって思うだけだ。それに、実は繊細せんさいなとことか真面目まじめなとことか、お前のことよく知ってるヤツだっているだろ」
 私はぎゅっと瀬名のパーカーをにぎりしめて、考える。
「例えば?」
三菱みつびしとか、藤井とか…」
「うん」
「あとオレ」
「あははっ」
 つい笑ってしまうと、瀬名はムッとしたようだ。背中に両腕りょううでを回されてぎゅっと抱きしめられる。
「…瀬名っ」
「お前がいつも、んでほしくないみたいだったから言わなかっただけで、オレはいつだってお前のこと見てた。だからお前がどんなヤツか、ちゃんと知ってるつもりだ」
 瀬名の声がすぐそばで耳にひびいて、心臓が過去最高早鐘かこさいこうはやがねを打っている。インフルエンザにかかった時も、こんなにドキドキしなかった。

 死…死ぬ…。
 明日じゃなくて今日死ぬ。
 「死因しいん恋愛れんあいによる心臓発作しんぞうほっさ」!?カッコ悪!!
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