スナックの女➁~育成~

夢咲忍

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第1章

初めてのお客さん

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 私は星野みか33歳。結婚して中学2年生の娘がいて、都内の戸建てに住んでいる。夫とは仲が悪い訳ではないがセックスレスになっている。欲求不満というよりはしばらくセックスをしていなかったので、今では無いのが当たり前の生活になっているのだ。

 しかし、最後にセックスしたのはレイプされた時だ。嫌いな常連客だ。

 常連客とは、私は都内にある場末のスナックを経営している。場末と言っても悪い意味ではなく、繁華街からは外れるが地元のお客さんは多く通って来てくれている。落ち着く場所を求めて通ってくれているのだろう。

 従業員は3人。フロア担当は私を含めて3人。私は『みか』または『ママ』と呼ばれている。身長は168cmで女性の平均身長よりは高い。スタイルは毎朝のジョギングなどの努力の成果もあり自信がある。世間ではスレンダーと呼べるレベルだと思う。胸はEカップ。

 そして従業員の1人目は28歳の『ナナ』。私のキャバ嬢時代の後輩だ。私より背が高く、美人だ。モデルによく似た美人がいる。ナナはお客さんと下ネタをよく話す。声も大きく下ネタのオンパレードと言っていい程だ。

 2人目は23歳の『瑞希』。元OLで、求人を見てお店に来てくれた。元々接客が得意なタイプではなかったが、とても頑張り屋で可愛い。身長は低めで150cm程だ。

 そしてもう1人は調理担当だ。うちの店で唯一の男性だ。皆は『マスター』と呼んでいて、48歳だ。料理はお客さんのリクエストで材料さえあれば、大体それに応える。


 店内はカウンター席が8席とボックス席が3つある。照明は暖色系を使い、お客さんがくつろげる雰囲気にしている。その空間と楽しい時間を求めてやってくる。

 月曜日から土曜日の夕方6時30分に開店し、深夜0時に閉店する。そして片付けを済ませてタクシーで帰宅する。自宅に到着するのは1時前後だ。


 秋も深まり、日が落ちるのが早くなってきた。開店する頃にはもう外は暗い。

店のドアに掛けてある鐘が鳴る。

『カランコローン』

「いらっしゃいませ。」

「あ、どうも。」

40歳前後と思われる男性の2人連れだ。初めてのお客さんだ。1人は痩せ型で長身だ。色白でメガネをかけている。もう1人は小太りでメガネをかけ、無精髭を生やしている。

「こちらのお店は初めてですよね?カウンター席でよろしいですか?」

と私は席に案内する。2人は

「はい。」

と言って、それぞれカウンター席に座る。

「お飲み物決まったらお声をかけてくださいね。」

「あ、じゃあウーロン茶を。」

と長身のお客さん。

小太りのお客さんは、

「ハイボールをお願いします。」

と注文してきた。

私は笑顔で、

「はい。お待ちください。」

と言い、カウンターの中で飲み物を準備する。


「はい、お待ちどうさま。」

私は笑顔で飲み物を提供する。

「は、はい。どうも。」

2人はやや緊張した面持ちだ。チラチラ私を見るが、あまり目を合わそうとはしない。

 私は無理にお客さんと話そうとはせず、適度な距離を置く。まだ開店間もなく、空いている。何やらでコソコソと話している。その時は表情が豊かになる。

「思ったより美人だよな!」

「スタイルもいいし、来て良かったな!」

(お客さん、聞こえてるよ。嬉しいけどね。)

コソコソ話しているので、聞こえないふりをした。

 2人は1杯飲み終え、次の飲み物を注文した。同じくウーロン茶とハイボールを。


 少しすると徐々にお客さんは増え、店内は賑やかになった。あちらのボックスシートからはナナの大きな声での下ネタが聞こえてくる。瑞希も愉しげにお客さんと会話をしている。


 私はカウンターの中のいつもの場所で全体を見渡しながら、加熱式タバコを吸う。

2人は、

「タバコかなぁ。なんかいい香りがするな。」

とコソコソ話している。私のお気に入りはフルーツフレーバー系だ。


「あ、あの…」

「はい。」

「食べ物出来ますか?」

「はい。何か食べたいものがあれば言ってみてください。」

痩せ型の方が、

「じゃあ、ナポリタンを。お前は何にする?」

「えっと… 俺もナポリタンで。」

「はい。お待ちください。」

「マスター、ナポリタン2つお願いね。」

「はいよっ」

奥からマスターの声が聞こえた。


 少しするとナポリタンが出来上がり、お客さんに提供する。

「うん、旨いなぁ。」

「こんなに旨い食べ物出すお店なんだぁ。」

(嬉しいこと言ってくれるね。)


「お客さん、甘い物好き?」

「はい。」

2人は同時に答えた。私は一旦奥に引っ込んで、2人にレアチーズケーキを持ってきた。

「これ、サービスね。」

2人に笑顔を向けた。

「あ、ありがとうございます。いただきます。」

表情は硬いがきっと喜んでくれただろう。


 2人は追加でオレンジジュースとレモンハイを飲んだ。掛け時計は10時20分を指していた。

「ママ、ごちそうさまでした。」

「また、いらしてください。」

2人は会計を済ませて帰って行った。


 この日はそんなに混むことはなく、いつも通り楽しい1日となった。閉店時刻の0時前にお客さんが皆いなくなった。皆で片付けをし、色々と確認を済ませ、タクシーを呼んだ。タクシーは15分程で到着する。ナナと瑞希は1台目のタクシーで一緒に最寄駅へと向かう。終電には間に合うのだ。後から2台目のタクシーが来てから、マスターは私と一緒に店を出る。マスターは自転車で通っている。私はタクシーに乗り、自宅へと向かう。店に来る時は電車と最寄駅からタクシーなのだが、帰りはいつもタクシーでそのまま自宅へ向かうのだ。


 5分程走ると、60歳代と思われる男性運転手が、

「お客さん、このタクシーの後ろにずっと着いてきてる車がいるけど、誰か知り合いかい?」

と言ってきた。

「いいえ、知り合いではありません。」

「じゃあ、危ないから1度裏道に入ってやり過ごすかい?」

「えぇ、それでお願いします。」

タクシーは大通りから左折し、住宅街にある公園の脇に停めた。

「お客さん、数秒で通り過ぎるはずだからお待ちくださいね。」

と運転手が声をかけてくれた。
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