最恐 百物語

第２３話目 ワクちゃんの謎

「先生、この人形……誰かに踏まれたみたいなんです」
ある日、保健室の奥に置かれていた腹話術人形ワクちゃんが、顔を潰されたような状態で見つかった。

目の片方がなくなり、口も裂けている。
誰がこんなことをしたのかはわからない。
けれど、壊れたのに、なぜか目が合った気がした――そう話す生徒は、誰もいなかった。

　

──その日を境に、学校で“声”が聞こえるようになった。

　

「ねぇ、ぼくのこと忘れたの？」
「ワクちゃん、ずっと見てたよ」
「君がいちばん最初に笑ったんだよね」

　

教室の黒板に、赤いチョークで書かれる文字。
「痛い」「こわい」「ごめんなさい」
誰も書いていない。防犯カメラには何も映っていない。

　

でも、ワクちゃんはちゃんと見ていた。
あの日、ふざけて彼を蹴った生徒たちを。

　

それから――“加害者”の生徒が次々とおかしくなっていった。

・笑いながらひとりで話す少女（口が動いていない）
・机の中にワクちゃんの「手」があったという少年（先生が見たときにはなかった）
・毎晩「人形が首をねじってくる」と怯えて目を潰した子（理由は語らず）

　

ある生徒はこう呟いた。

「ワクちゃん、泣いてたよ。目のない顔で、泣いてた。
なのに、あいつら……笑ってたんだ。
笑っちゃだめだったのに……」

　

そして、最後のひとりがいなくなった夜、保健室の奥――
ワクちゃんの首が、ゆっくりと起き上がった。

　

顔は元通り。
目も、口も、元のまま。
けれどその「素材」が何かは、誰も知らない。

　

――先生の耳元で、声がした。

　

「ありがとう。これでまた、“遊べる”ね」