最恐 百物語

いつき

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第24話目 ワクちゃんの正体

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あの人形は、30年前から保健室に置かれていた。
本当の名前は「和久(わく)」といい、ある教師が使っていた腹話術用人形だった。
その教師は、生徒の心を開くために、人形を使って子どもたちと話していた。

けれど、ある日を境に彼は変わった。
授業中に急に笑い出し、何もない空間に話しかけるようになったのだ。

「ワクちゃんがね、また喋ってくれたんだよ」
「ワクちゃんが、あの子を嫌いだって言うからさ」

生徒を殴るようになり、最後には――自分の喉を裂いて死んだ。

 



ワクちゃんは処分されず、保健室に保管されたまま。
しかし、使われることは二度となかった。

ある日、現代の中学生・凛(りん)は、放課後の保健室でその人形と出会った。
ボロボロの姿なのに、目だけが妙に“生きている”ようで、見つめ返してきた。

「……動いた?」

彼女はそう思ったが、その日は何事もなかった。
だが次の日から、夢にワクちゃんが出てくるようになった。

「お姉ちゃん、ぼくの中を見てよ」
「ぼくね、ぎゅうぎゅうで苦しいの」
「中に……“あれ”が入ってるから……」

凛がワクちゃんの背中を裂いたとき、最初に出てきたのは乳歯だった。
乾いたカラカラという音――それは歯がぶつかり合う音だった。

けれど、そこまではまだ“人間の理解できる”恐怖だった。

 

彼女が縫い目をすべて解くと、中に「何かの膜」が見えた。
ゼリーのようにぬるぬると光る、半透明の球体。
それは鼓動を打っていた。

「ドクン……ドクン……」

凛がそれに触れた瞬間、膜が破け――
中から這い出してきた“それ”が、彼女の目を奪った。

 



◆その正体:

それは、人間の顔を継ぎ接ぎしたような塊だった。
10人以上の子どもたちの目・鼻・口がバラバラに張り付き、
「うふふ」「いたいよ」「こわい」「あそぼ」と、別々の声で同時に喋っていた。

骨と肉が混じった、蜘蛛のような8本の手足。
その指先には、子どもの歯でできた爪がぎっしりと生えていた。

そして、それは喋った。

 

「――でた……せかい、ひさしぶり……」
「もっといれて……もっとこどもを……」

 

その体は常に“変化”し続けていた。
誰かの顔が膨れ、破れ、次の顔が覗く。
口がいくつも開き、どこからともなく**「学校の声」**が聞こえてくる。

「せんせい……きょうもくる?」「あれ、だれ?」「ぼく、さわったよね?」

 

凛は震えて後ずさりしたが、そいつは喋るたびに近づいてきた。

「――こんどは、おまえのこえをもらうね?」

 

 



◆追記(その後):

凛は失踪した。
翌朝、保健室で発見されたのは――**新しい“腹話術人形”**だった。

形はワクちゃんと同じ。けれどその目は、確かに凛のものだった。
口元は笑っている。けれど、その口の奥には――
小さな顔がびっしりと並んでいた。
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