『辺境スープ屋、今日も異世界の胃袋を救います!〜追放された宮廷料理人、田舎で開いた小さなお店が大繁盛〜』

リーフレット

文字の大きさ
4 / 6
1章 1杯のスープが命を救う

噂と看板と、新たな足音

しおりを挟む
 翌朝、リュカが店の戸を開けると、澄んだ空気が顔を撫でた。
 朝霧はうっすらと地面を覆い、遠くで鳥のさえずりが響く。村の朝は、静かで、そして美しい。

 リュカは昨日と同じようにスープを仕込み始めた。
 鍋に薪をくべ、玉ねぎと干し野菜を炒める。コトコトと煮立つ音に耳を傾けながら、ふと、昨日の少女と妹の顔が浮かんだ。

(ちゃんと回復してるといいけどな)

 その時だった。
 店先に、ぱたぱたと小さな足音が近づいてくる気配がした。

「お兄さんっ、お兄さんいるっ!?」

 顔をのぞかせたのは、昨日の少女だった。頬は少し赤らんでいて、表情は明るい。

「おかえり。妹さんの様子は?」

「うんっ! だいぶ元気になった! 朝には起きて、お水も飲めてたよ!」

 その言葉に、リュカの胸がじんわりと温かくなる。
 少女はカウンターの前に立ち、鞄から何かを取り出した。

「これ、お礼……お金はないから……昨日、畑でとったばかりのキノコ! ちゃんと食べられるやつ!」

 差し出されたのは、ふっくらとした白いキノコの束だった。傷みもなく、香りも良い。確かに上質な食材だ。

「ありがとう。これ、今晩のスープに使わせてもらうよ」

 リュカが笑うと、少女は嬉しそうに頷いた。

「ねえ、ねえ……もしよかったら……お昼にまた妹と来ていい?」

「もちろん、歓迎するよ。スープをあっためて待ってる」

 そう言うと、少女はぱたぱたと走って帰っていった。

 午前中はまた、静かなままだった。
 だが、昼を少し過ぎた頃──

「ここが、その……スープ屋ってとこか?」

「噂は本当だったんだな。あの子、昨日の晩からずっと『スープで妹が元気になった』って言っててさ」

 野良仕事帰りの村人たちが、ぽつりぽつりと店の前に姿を見せ始めた。
 最初は遠巻きに見ていた彼らだったが、少女と妹が連れだって現れると、誰ともなく近づいてくる。

「……こ、こんにちは」

 椅子に座った少女の妹は、まだ少し顔色は悪いが、しっかりと立って歩いてきた様子だった。
 リュカは土瓶からスープを注ぎ、椀を手渡した。

「今日は昨日のと違って、少し塩気を増してる。体力が戻ってきたら、次のステップだ」

「……うんっ!」

 少女の妹が、にこっと微笑んでスープを飲む。
 それを見ていた村人たちは、何とも言えない表情で目を見合わせた。

「……一杯、もらえるかい?」

 最初に声をかけてきたのは、年配の農夫だった。
 ごつごつとした手に器を受け取ると、じっと湯気を眺めてから口に運ぶ。

「……ああ、これ……うまいな。体に染み込むってこういうのを言うんだな……」

 その一言が引き金となった。
 次々に村人たちが列に並び、スープを一杯、また一杯と受け取っていく。

 初日、誰にも見向きされなかった看板が、今日に限ってはまるで祝福のように風に揺れていた。

 リュカはカウンターの奥で、またひとつ、鍋に火を入れる。

 ──辺境のスープ屋は、静かにその名を広げ始めていた
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

元公務員、辺境ギルドの受付になる 〜『受理』と『却下』スキルで無自覚に無双していたら、伝説の職員と勘違いされて俺の定時退勤が危うい件〜

☆ほしい
ファンタジー
市役所で働く安定志向の公務員、志摩恭平(しまきょうへい)は、ある日突然、勇者召喚に巻き込まれて異世界へ。 しかし、与えられたスキルは『受理』と『却下』という、戦闘には全く役立ちそうにない地味なものだった。 「使えない」と判断された恭平は、国から追放され、流れ着いた辺境の街で冒険者ギルドの受付職員という天職を見つける。 書類仕事と定時退勤。前世と変わらぬ平穏な日々が続くはずだった。 だが、彼のスキルはとんでもない隠れた効果を持っていた。 高難易度依頼の書類に『却下』の判を押せば依頼自体が消滅し、新米冒険者のパーティ登録を『受理』すれば一時的に能力が向上する。 本人は事務処理をしているだけのつもりが、いつしか「彼の受付を通った者は必ず成功する」「彼に睨まれたモンスターは消滅する」という噂が広まっていく。 その結果、静かだった辺境ギルドには腕利きの冒険者が集い始め、恭平の定時退勤は日々脅かされていくのだった。

処理中です...