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1章 1杯のスープが命を救う
噂と看板と、新たな足音
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翌朝、リュカが店の戸を開けると、澄んだ空気が顔を撫でた。
朝霧はうっすらと地面を覆い、遠くで鳥のさえずりが響く。村の朝は、静かで、そして美しい。
リュカは昨日と同じようにスープを仕込み始めた。
鍋に薪をくべ、玉ねぎと干し野菜を炒める。コトコトと煮立つ音に耳を傾けながら、ふと、昨日の少女と妹の顔が浮かんだ。
(ちゃんと回復してるといいけどな)
その時だった。
店先に、ぱたぱたと小さな足音が近づいてくる気配がした。
「お兄さんっ、お兄さんいるっ!?」
顔をのぞかせたのは、昨日の少女だった。頬は少し赤らんでいて、表情は明るい。
「おかえり。妹さんの様子は?」
「うんっ! だいぶ元気になった! 朝には起きて、お水も飲めてたよ!」
その言葉に、リュカの胸がじんわりと温かくなる。
少女はカウンターの前に立ち、鞄から何かを取り出した。
「これ、お礼……お金はないから……昨日、畑でとったばかりのキノコ! ちゃんと食べられるやつ!」
差し出されたのは、ふっくらとした白いキノコの束だった。傷みもなく、香りも良い。確かに上質な食材だ。
「ありがとう。これ、今晩のスープに使わせてもらうよ」
リュカが笑うと、少女は嬉しそうに頷いた。
「ねえ、ねえ……もしよかったら……お昼にまた妹と来ていい?」
「もちろん、歓迎するよ。スープをあっためて待ってる」
そう言うと、少女はぱたぱたと走って帰っていった。
午前中はまた、静かなままだった。
だが、昼を少し過ぎた頃──
「ここが、その……スープ屋ってとこか?」
「噂は本当だったんだな。あの子、昨日の晩からずっと『スープで妹が元気になった』って言っててさ」
野良仕事帰りの村人たちが、ぽつりぽつりと店の前に姿を見せ始めた。
最初は遠巻きに見ていた彼らだったが、少女と妹が連れだって現れると、誰ともなく近づいてくる。
「……こ、こんにちは」
椅子に座った少女の妹は、まだ少し顔色は悪いが、しっかりと立って歩いてきた様子だった。
リュカは土瓶からスープを注ぎ、椀を手渡した。
「今日は昨日のと違って、少し塩気を増してる。体力が戻ってきたら、次のステップだ」
「……うんっ!」
少女の妹が、にこっと微笑んでスープを飲む。
それを見ていた村人たちは、何とも言えない表情で目を見合わせた。
「……一杯、もらえるかい?」
最初に声をかけてきたのは、年配の農夫だった。
ごつごつとした手に器を受け取ると、じっと湯気を眺めてから口に運ぶ。
「……ああ、これ……うまいな。体に染み込むってこういうのを言うんだな……」
その一言が引き金となった。
次々に村人たちが列に並び、スープを一杯、また一杯と受け取っていく。
初日、誰にも見向きされなかった看板が、今日に限ってはまるで祝福のように風に揺れていた。
リュカはカウンターの奥で、またひとつ、鍋に火を入れる。
──辺境のスープ屋は、静かにその名を広げ始めていた
朝霧はうっすらと地面を覆い、遠くで鳥のさえずりが響く。村の朝は、静かで、そして美しい。
リュカは昨日と同じようにスープを仕込み始めた。
鍋に薪をくべ、玉ねぎと干し野菜を炒める。コトコトと煮立つ音に耳を傾けながら、ふと、昨日の少女と妹の顔が浮かんだ。
(ちゃんと回復してるといいけどな)
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差し出されたのは、ふっくらとした白いキノコの束だった。傷みもなく、香りも良い。確かに上質な食材だ。
「ありがとう。これ、今晩のスープに使わせてもらうよ」
リュカが笑うと、少女は嬉しそうに頷いた。
「ねえ、ねえ……もしよかったら……お昼にまた妹と来ていい?」
「もちろん、歓迎するよ。スープをあっためて待ってる」
そう言うと、少女はぱたぱたと走って帰っていった。
午前中はまた、静かなままだった。
だが、昼を少し過ぎた頃──
「ここが、その……スープ屋ってとこか?」
「噂は本当だったんだな。あの子、昨日の晩からずっと『スープで妹が元気になった』って言っててさ」
野良仕事帰りの村人たちが、ぽつりぽつりと店の前に姿を見せ始めた。
最初は遠巻きに見ていた彼らだったが、少女と妹が連れだって現れると、誰ともなく近づいてくる。
「……こ、こんにちは」
椅子に座った少女の妹は、まだ少し顔色は悪いが、しっかりと立って歩いてきた様子だった。
リュカは土瓶からスープを注ぎ、椀を手渡した。
「今日は昨日のと違って、少し塩気を増してる。体力が戻ってきたら、次のステップだ」
「……うんっ!」
少女の妹が、にこっと微笑んでスープを飲む。
それを見ていた村人たちは、何とも言えない表情で目を見合わせた。
「……一杯、もらえるかい?」
最初に声をかけてきたのは、年配の農夫だった。
ごつごつとした手に器を受け取ると、じっと湯気を眺めてから口に運ぶ。
「……ああ、これ……うまいな。体に染み込むってこういうのを言うんだな……」
その一言が引き金となった。
次々に村人たちが列に並び、スープを一杯、また一杯と受け取っていく。
初日、誰にも見向きされなかった看板が、今日に限ってはまるで祝福のように風に揺れていた。
リュカはカウンターの奥で、またひとつ、鍋に火を入れる。
──辺境のスープ屋は、静かにその名を広げ始めていた
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