辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~

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第一章:エルフの聖女と、生きてる家

第六節:押し寄せる王侯貴族と、入国審査(植物選別)

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​ 行商人マルコが放った「一石」は、大陸の権力構造という静かな湖面に、あまりにも巨大な波紋を広げた。
 『死の谷に、あらゆる病を癒やし、若さを取り戻す聖域がある』
 その噂は、死を恐れる老人たちや、権力争いに疲弊した王族たちにとって、救世主の再臨にも等しい響きを持っていた。
​ 数日後。デス・バレーの入り口には、かつてない光景が広がっていた。
 砂塵を巻き上げ、豪華な装飾が施された馬車の列が、延々と続いている。
 自由都市の豪商、隣国の王太子、さらには教会から派遣された調査団。彼らは皆、黄金や宝石を積み込み、アルトという「無名の魔導師」の機嫌を取るために、この不毛の地へ集結したのだ。
​「……アルト様。大変なことになっています」
​ 世界樹の展望台から外を眺めていたシエラが、困惑した声を上げた。
 彼女の視線の先、アルトが設定した『緑の境界線』の向こう側には、入国を求める人々の群れがキャンプを張り、騒乱を巻き起こしている。
​「みんな、僕の薬が欲しいんだね。現金なものだよ。少し前まで、ここは呪われた土地だと言って誰も近寄らなかったのに」
​ アルトは特製の「精神安定ハーブティー」を啜りながら、泰然と構えていた。
 彼の膝の上では、いつの間にか懐いた小さな花の精霊(アルトが昨日、魔力調整のついでに生み出した新種)が、気持ちよさそうに眠っている。
​「どうなさるのですか? あの方たちの中には、大陸でも指折りの権力者が含まれています。無下に扱えば、外交問題に発展しかねませんが……」
​「外交? いいよ、そんな面倒なことは。ここは僕の庭だ。僕がルールを決める。……シエラ、『入国審査』を始めようか。ただし、書類はいらない。僕の可愛い『植物たち』に判断してもらう」
​ アルトは、境界線に群がる人々を前に、一歩前へ出た。
 殺気立った騎士たちや、我先にと叫ぶ貴族たちが、アルトの姿を見て一瞬静まり返る。
​「静かに。……僕の領地へ入りたいのなら、一つだけ試験を受けてもらう。この『真実のヒマワリ(ベリタス・サンフラワー)』の前を通るだけだ。それ以外の資格はいらない」
​ アルトが指を鳴らすと、地面から背丈よりも高い、巨大なヒマワリが十数本、急速に芽吹いた。
 その花の中心部は、不気味なほど真っ黒で、まるで巨大な「眼球」のように蠢いている。
​「この花はね、近づく者の『心の淀み』を感知する。下卑た野心や、略奪の意志、恩を仇で返すような傲慢さ……それらを持っている者が通れば、少しばかり手痛い歓迎を受けることになるよ。……さあ、誰から行くかい?」
​ 場が凍り付いた。
 貴族たちは顔を見合わせ、鼻で笑った。
「馬鹿馬鹿しい。たかが花に何がわかる! 私は自由都市連合の代表だぞ! 道を空けろ!」
​ 太った商人が、豪華な毛皮を揺らしながらヒマワリの間を通り抜けようとした。
 ――その瞬間。
​「ギ、ギギギギギッ!」
​ ヒマワリが、おぞましい音を立ててその首を曲げた。
 真っ黒な瞳から、ドロリとした粘液が溢れ出し、商人の足元を瞬時に固める。
​「な、なんだこれは!? 動けん、足が……!」
​「残念。君の心には、僕の技術を盗んで独占しようという『商欲』が詰まりすぎている。不合格だ。……ポイっとしていいよ」
​ アルトが命じると、地面から蔦が伸び、商人を荷物ごと境界線の外へと「放り投げた」。
 それだけではない。ヒマワリの周囲にある「探査草」が反応し、彼の持ち物の中に隠されていた「録音魔法具」や「隠しカメラ」を、容赦なく粉砕していく。
​ 次々と脱落していく権力者たち。
 ある者は傲慢さゆえに蔦に叩かれ、ある者は殺気を感知されて眠り粉を浴びせられる。
 その光景は、力こそが正義であると信じてきた者たちにとって、悪夢以外の何物でもなかった。
​「……次、君の番だ」
​ アルトが声をかけたのは、列の最後尾で、ボロボロの服を着て膝をついていた一人の老婆だった。
 彼女は高価な貢物など持っていない。ただ、病に苦しむ孫を背負い、死に物狂いでここまで歩いてきたのだという。
​ 彼女がおずおずとヒマワリに近づくと――。
 ヒマワリは、これまでにないほど鮮やかな「黄金色」に輝き、その花びらを優しく老婆の足元に敷き詰めた。
​「合格だ。歓迎するよ」
​ アルトは老婆に歩み寄り、その手に一粒の青い木の実を乗せた。
​「それを孫に。……代金はいらない。君のその『真っ直ぐな想い』が、この花にとっては最高の肥料になったからね」
​ 老婆は涙を流して感謝し、聖域の中へと招き入れられた。
 その様子を境界線の外から見ていた貴族たちは、憤怒に震えた。
​「狂っている! あんな貧民を通し、我らを選別するなど……! おい、お前たち! 力ずくで押し通るぞ!」
​ しびれを切らした一国の騎士団が、剣を抜き、魔法の詠唱を始めた。
 だが、アルトは冷めた瞳で彼らを見つめる。
​「……平和に、庭いじりをさせてくれって言ったはずなんだけどな」
​ アルトが地面に軽く片手を触れた。
 ――次の瞬間。
 境界線の外側に、見上げるほどの巨大な「サボテンの壁」が出現した。
 それはただの壁ではない。一つ一つの刺が、魔力を帯びたミサイルのように騎士たちを追尾し、彼らの鎧を紙屑のように貫いていく。
​「ぎゃああああ! なんだこの硬さは!」
「魔法が吸い取られる! 地面に根が……俺の足を食っている!」
​ アルトが改良した『捕食性魔導植物』の前では、人間に可能な戦術など無意味だった。
 戦うほどに植物は敵の魔力を吸って成長し、より強固に、より残酷に侵入者を排除していく。
​ わずか十分後。
 そこには、武装を解除され、命からがら逃げ出す権力者たちの姿しかなかった。
 
 しかし。
 混乱の極致に達した群衆の中に、一人だけ、全く異なる魔力を放つ影があった。
 帝国の隠密部隊『影の茨』の隊長であり、レオン皇太子から「アルトの暗殺、あるいは捕獲」を命じられた男、カインである。
​「(……なるほど。単なる農夫だと思っていたが、これは『世界を敵に回せる怪物』だ。だが、植物には植物の弱点がある)」
​ カインは懐から、一つの黒い小瓶を取り出した。
 それは、帝国が禁忌の術で作らせた『枯死の猛毒』。
 どれほど強靭な魔導植物であっても、その根源から腐らせるという、対植物用最終兵器だ。
​「(あの世界樹さえ枯らせば、この楽園もろとも貴様は終わりだ、アルト・リーヴァス)」
​ カインの姿が、影の中に溶け込むように消えた。
 彼は、アルトが作った「入国審査」の目を盗み、地中から世界樹の根元へと潜入を開始した。
​ その時。
 アルトは、ふと世界樹の幹に手を当て、微かに笑った。
​「シエラ。……どうやら、庭に害虫が紛れ込んだみたいだ」
​「害虫……? まさか、あの厳重な警備を抜けて?」
​「いいんだよ。わざと隙を作っておいたんだから。……ちょうど、新種の『食虫植物(インセクト・イーター)』が、お腹を空かせていたところなんだ」
​ アルトの瞳は、穏やかでありながら、獲物を待つ捕食者のような鋭さを帯びていた。
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