辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~

リーフレット

文字の大きさ
8 / 24
第一章:エルフの聖女と、生きてる家

​第七節:闇に潜む茨と、踊る食虫植物

しおりを挟む
​ 帝国の隠密部隊『影の茨』の隊長、カインは自らの実力に絶対の自信を持っていた。
 彼は影から影へと転移する「影渡り」の異能を持ち、過去に数多の敵対国の要人を、その寝首をかくことで葬ってきた。植物がどれほど強固な壁を作ろうとも、影がある限り彼の侵入を防ぐことはできない――。
​ カインは今、アルトの拠点である「生きてる家」の真下、世界樹の巨大な根が複雑に絡み合う地下空洞に潜伏していた。
​「(ククク……。おめでたい男だ。地上の防衛をどれほど固めたところで、足元がお留守では話にならん。この『枯死の猛毒』を世界樹の主根に流し込めば、明日にはこの楽園も灰色の枯野に変わる)」
​ カインは懐から、禍々しい紫色の液体が揺れる小瓶を取り出した。
 これは帝国が数十年かけて開発した、大地の魔力を強制的に「腐敗」に変える呪毒だ。一度発動すれば、その土地では百年は草一本生えないと言われている。
​ カインは影から手を伸ばし、目の前にある純白の太い根に、毒の針を突き立てようとした。
 ――その時だった。
​「……おや、そこで何をしているんだい?」
​ 頭上から降ってきたのは、あまりにも場違いな、のんびりとした声。
 カインは心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受け、反射的に影の中へ逃げ込もうとした。だが。
​「……!? な、なんだ……影に、潜れない……!?」
​ 異能が発動しない。
 見れば、地下空洞の壁一面に、淡く発光する小さなキノコたちがびっしりと生えていた。
 アルトが配置した新種、『沈黙の胞子茸(サイレンス・マッシュ)』。
 このキノコが放つ胞子は、空間内の魔力変異を一定に固定し、転移や隠密といった「空間・影属性」の魔法を完全に無効化する特性を持っていた。
​「残念だったね。ここは世界樹の根が直接魔力を循環させている場所なんだ。不純な魔力……特に『殺意』を持った魔力は、すぐにセンサーに引っかかるんだよ」
​ 根の隙間から、するりとアルトが姿を現した。
 その隣には、弓を構えたシエラが、鋭い視線をカインに向けている。
​「アルト・リーヴァス……っ! 貴様、いつから気づいていた!」
​「最初からだよ。境界線のヒマワリが、君の影にこびりついた『腐ったヘドロのような悪意』を教えてくれた。わざわざここまで案内したのは、地上で暴れられると、せっかく植えた花たちが可哀想だからね」
​ カインは毒瓶を握り締め、形相を変えた。
 正体が露見した以上、やることは一つ。
​「死ねぇ! せめてこの毒だけでも、貴様の宝物ごと叩き込んでやる!」
​ カインが毒瓶を世界樹の根に叩きつけようとした瞬間、彼の足元の大地が「開いた」。
​ ズチュ……。
​ 湿った、不気味な咀嚼音。
 カインの右腕が、地中から突き出した巨大な「花」に、肘から先をごっそりと飲み込まれていた。
​「ぎゃああああああああっ!? あ、腕が、俺の腕がぁぁぁ!」
​ それは、真っ赤なビロードのような質感を持つ、巨大な袋状の植物。
 アルトが品種改良した食虫植物、『鮮血のウツボカズラ(ブラッド・ジャグ)』だった。
 その内部には、金属さえも瞬時にドロドロに溶かす超高濃度の「魔力消化液」が満たされている。
​「あ、危ないじゃないか。そんな劇薬を振り回しちゃ。……ああ、その瓶は僕がもらっておくよ。毒の成分を分析すれば、新しい除草剤の参考になるかもしれないからね」
​ アルトが指を鳴らすと、カインの腕を飲み込んだままのウツボカズラが、器用に小瓶だけを吐き出し、アルトの手元へと届けた。
​「お、のれ……おのれぇ……! 帝国を……レオン殿下を敵に回して、ただで済むと思うなよ! 我が『影の茨』の精鋭が、すぐに貴様を――」
​「『影の茨』? ああ、君の部下たちのことなら、もうあそこで『踊って』いるよ」
​ アルトが壁の向こうを指差す。
 そこには、カインと共に潜入していたはずの五人の隠密たちがいた。
 だが、彼らの姿は無残だった。
 彼らの体からは色とりどりの「キノコ」や「蔦」が生え、自らの意志とは無関係に、奇妙なステップを踏みながら壁をぐるぐると回り続けている。
​「『操り人形の蔓(パペット・バイン)』だよ。神経系に微弱な電気信号を送って、強制的に筋肉を動かすんだ。彼らにはこれから一週間、不眠不休で僕の農園の『耕作ダンス』を踊ってもらう。いい肥料になるよ、土が柔らかくなって」
​「ひっ……ひいいいいっ!」
​ カインの誇りと理性が、音を立てて崩壊した。
 殺し、奪い、影に潜む。そんな自分たちの技術が、この青年には「農作業の道具」程度にしか思われていない。その絶対的な格差が、死よりも深い恐怖となって彼を支配した。
​「さて、カインさん。君には特別な役目がある。……これを、君の愛する皇太子殿下に届けてほしいんだ」
​ アルトは、カインの目の前に小さな「スイカ」のような実を置いた。
 ただし、その表面には、帝国の紋章が「逆さま」に刻まれている。
​「これは『記憶投影の実』だ。今、この場所で起きたこと。そして君が感じた恐怖。そのすべてを、レオン殿下の脳内に直接再生する。……彼がこれを食べた瞬間、僕からの返答が届く仕組みになっているんだ」
​「……な、何を……何を企んでいる……」
​「企んでなんていないよ。ただ、忠告しただけだ。……『僕の庭を荒らす害虫には、相応の殺虫剤を用意してある』ってね」
​ アルトが手をかざすと、カインの体を蔦が巻き込み、地上へと放り出した。
 
 数時間後。
 デス・バレーの境界線の外に、片腕を失い、発狂した状態で転がっているカインが発見された。
 彼の懐には、奇妙な紋章が刻まれた果実が一つ。
​ それが帝国に持ち帰られた時、アステリア帝国の崩壊は、もはや誰にも止められない最終段階へと突入することになる。
​ 地下空洞から地上へ戻ったアルトに、シエラが少し不安げな表情で尋ねた。
​「アルト様。……あんな挑発をして、本当に大丈夫なのですか? 帝国は、間違いなく軍を動かします」
​ アルトは世界樹の葉が風に揺れる音を聞きながら、穏やかに笑った。
​「いいんだよ、シエラ。……ちょうど、世界樹をさらに大きくするための『大量の魔力』が必要だったんだ。帝国が精鋭の魔導師たちを連れてきてくれるなら、それは最高の『液体肥料』になるからね」
​ その微笑みは、聖者のようでもあり、あるいは世界で最も恐ろしい魔王のようでもあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽
ファンタジー
人気ダンジョン配信チャンネル『勇者ライヴ』の裏方として、荷物持ち兼カメラマンをしていた俺。ある日、リーダーの勇者(IQ低め)からクビを宣告される。「お前の使う『重力魔法』は地味で絵面が悪い。これからは派手な爆裂魔法を使う美少女を入れるから出て行け」と。俺は素直に従い、代わりに田舎の不人気ダンジョンへ引っ込んだ。しかし彼らは知らなかった。彼らが「俺TUEEE」できていたのは、俺が重力魔法でモンスターの動きを止め、カメラのアングルでそれを隠していたからだということを。俺がいなくなった『勇者ライヴ』は、モンスターにボコボコにされる無様な姿を全世界に配信し、大炎上&ランキング転落。  一方、俺が田舎で「畑仕事(に見せかけたダンジョン開拓)」を定点カメラで垂れ流し始めたところ――  「え、この人、素手でドラゴン撫でてない?」「重力操作で災害級モンスターを手玉に取ってるw」「このおっさん、実は世界最強じゃね?」とバズりまくり、俺は無自覚なまま世界一の配信者へと成り上がっていく。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。 というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。 私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。 だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。 戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します

すもも太郎
ファンタジー
 伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。  その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。  出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。  そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。  大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。  今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。  ※ハッピーエンドです

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

処理中です...