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優弥と可奈
優弥と可奈 プロローグ
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「次は~、富士見ヶ丘~。富士見ヶ丘で御座います、出口は変わりまして左側です・・・」
「・・・・・」
千葉県北東部にある田舎町“富士見ヶ丘町”。
その辺り一帯を走り抜けては地域住民の貴重な移動手段となっている“鴨川電鉄”の車内アナウンスを聞きながら彼、“小川 優弥”は昔日に思いを寄せていた。
「・・・・・。はぁ~っ!!!」
(この辺り、マジで何一つとして変わっていないな。俺が出て行った時のままだ・・・)
電鉄の古びた座席に腰掛けながら、車窓の外へと視線を送る優弥は今から7年程前の今日、ここを飛び出して行ったのである。
その契機となったのが。
「・・・・・っ!!?」
「・・・・・」
「・・・・・」
実家の二階のベランダで逢瀬を交わしていた、3つ年の離れた兄“小川 翔弥”と同い年の幼馴染“相川 可奈”の姿を目撃してしまった事にあった、彼等は真っ昼間っから人目も憚らずに堂々とキスをしていたのである。
それを見た瞬間、優弥は全身の血が沸騰するかのような激感と激昂を覚えてしかし、頭の中は恐ろしい程に冷静だった。
(負けた・・・)
彼は思った、何故ならばこの時、翔弥と優弥は実の兄弟にも関わらずに同じ女の子を好きになり、どちらがその人を振り向かせられるのか、と言う勝負をしていたからだ。
その女の子と言うのが“相川 可奈”だった、可奈は可愛い系で良く整った顔立ちをした、清楚で大人しい雰囲気を纏った少女だった、だけど。
実際の彼女は芯が強くて自分が“こうだ”と決めたら絶対に揺るがない女性だった、凜としたその佇まいと理知的なオーラは何故千葉の片田舎にこんな美少女がいるのか、と思わせる程であり、みんなの憧れの的だったのである。
そんな彼女を翔弥と優弥は幼い頃から好きだったし、可奈もまた二人の事を誰よりも好いていた。
だけど。
「はあはあっ。か、可奈。ちょっと待ってよ・・・!!!」
「はあはあっ。あははっ、優ちゃんてば。早くおいでよ!!!」
まだ子供の時分の頃の話だ、優弥は可奈より身体も小さく、その当時は体力も無かった、一応は走ることが好きだった彼は子供にしては懸命に“自主トレ”に励んでいたがこの時、可奈は剣道を嗜んでおり、中々に二人の体力差は埋まらなかったのである。
ところが。
一方の翔弥は、と言えばこちらは小さな頃から地元のサッカーチームでエースストライカーを務めており体力も腕力も強く、また運動神経も抜群に良かった、そしてそんな翔弥に可奈は次第に惹かれて行き、とうとう決定的な瞬間を優弥は見てしまった、と言う次第であったのだ。
この時、優弥は15歳になったばかりで最初は何をしているのかが解らなかったがすぐにそれが“口付け”だと理解して、そしてー。
彼はそれから大声で泣き喚きながら町中を疾走した、悲しくて辛くて仕方が無く、“いっそ死んでしまいたい”とすら思ったが結局は死にきれなかった。
運が良いのか悪いのか、一頻り泣いて落ち付きを取り戻した優弥はそのまま逃げるように東京の全寮制高校を受験、辛うじて合格して以降は何があっても地元には帰らなかったのである。
「・・・・・」
そんな優弥は複雑な思いを抱いて実家の最寄り駅である“海津”に降り立った、海から3キロ程の高台にあるこの駅には微かに潮騒が聞こえて磯の香りが漂って来る。
「お~い、優弥・・・!!!」
「父さん・・・」
呼ばれて優弥がその方を向くと、彼の父である“小川 泰三”が白いセダンの窓から顔を覗かせていた、我が子を駅まで迎えに来てくれたのである。
「帰って来たか、いやぁ~。良かった良かった!!!」
「・・・お父さん、ちょっと老けた?」
「当たり前だろう、もうすぐ50だぞ?俺は。流石に歳を取ったよ・・・」
そんな事を言いながらも泰三は優弥をセダンの車内に招き入れ、一気にエンジンを吹かして発進する。
行き先は懐かしいハズの我が家だが実際問題として、ほんの数年前までは優弥にとってこの世で一番、近付きたくない場所だった。
だから4年前のあの日、“兄が死んだ”と聞かされた時も実家に帰らなかったのであるモノの、実兄である翔弥は交通事故により他界していて既にこの世にはいない。
それでも。
優弥は絶対に帰らなかった、ちなみに優弥は可奈の事が大好きであり、今となっては“自分はあの子を愛していたのだ”と理解していたが、それと同時に兄の事もとても尊敬していた、彼等兄弟は別段、仲は悪くは無かったのである。
だけどそれでも優弥は帰らなかった、その時の彼にはまだ“自分は可奈に棄てられたのだ”と言う思いがあったし、“兄に負けた”と言うコンプレックスもあった、だから物言わぬ姿となったとは言えども兄と対面した時に、何を言えば良いのか解らなかったし、何より。
可奈に会いたくなかった、もう全て忘れてしまいたかった、半ば自暴自棄となりヤサグレた時期もあったがそんな優弥のある種の危うさに惹かれたのか、はたまたそう言う態度や雰囲気が格好良く見えたのだろう、何人かの女の子と関係を持ち、それなりに続いたモノの結局は破綻して今に至る。
原因はやはり可奈だった、優弥はどうあっても可奈を忘れられなかった、他の女の子と居る時も、キスをしている時も、セックスをしている時すらもー。
どうしても可奈の姿がチラついてしまい、最高潮に到達する事が出来なかった。
(俺は可奈を忘れられないんだ・・・)
それをハッキリと自覚した時、漸く彼は吹っ切れた、この時に初めてそれまで自分に秘め宿されていた、可奈に対する一途さを理解して“それを胸に生きていこう”と決心したのであったがそう思ったなら心を覆っていたモヤモヤも晴れて、素直に可奈に対する思いを認める事が出来るようになったのである。
(例え誰を好きになっても、どんな風になったとしても俺は可奈が好きだ。大好きなんだ、それも掛け替えの無い程にまで・・・!!!)
“その思いに嘘は無い”、“それが愛と言うモノなんだ”と彼は同時に理解した、そしてここまで来た瞬間に、本当に一気に少年の日に傷付いてしまった心の痛みと蟠りとを乗り越えて癒し、可奈へのピュアな一念を取り戻す事が出来たのだ。
「・・・・・」
千葉県北東部にある田舎町“富士見ヶ丘町”。
その辺り一帯を走り抜けては地域住民の貴重な移動手段となっている“鴨川電鉄”の車内アナウンスを聞きながら彼、“小川 優弥”は昔日に思いを寄せていた。
「・・・・・。はぁ~っ!!!」
(この辺り、マジで何一つとして変わっていないな。俺が出て行った時のままだ・・・)
電鉄の古びた座席に腰掛けながら、車窓の外へと視線を送る優弥は今から7年程前の今日、ここを飛び出して行ったのである。
その契機となったのが。
「・・・・・っ!!?」
「・・・・・」
「・・・・・」
実家の二階のベランダで逢瀬を交わしていた、3つ年の離れた兄“小川 翔弥”と同い年の幼馴染“相川 可奈”の姿を目撃してしまった事にあった、彼等は真っ昼間っから人目も憚らずに堂々とキスをしていたのである。
それを見た瞬間、優弥は全身の血が沸騰するかのような激感と激昂を覚えてしかし、頭の中は恐ろしい程に冷静だった。
(負けた・・・)
彼は思った、何故ならばこの時、翔弥と優弥は実の兄弟にも関わらずに同じ女の子を好きになり、どちらがその人を振り向かせられるのか、と言う勝負をしていたからだ。
その女の子と言うのが“相川 可奈”だった、可奈は可愛い系で良く整った顔立ちをした、清楚で大人しい雰囲気を纏った少女だった、だけど。
実際の彼女は芯が強くて自分が“こうだ”と決めたら絶対に揺るがない女性だった、凜としたその佇まいと理知的なオーラは何故千葉の片田舎にこんな美少女がいるのか、と思わせる程であり、みんなの憧れの的だったのである。
そんな彼女を翔弥と優弥は幼い頃から好きだったし、可奈もまた二人の事を誰よりも好いていた。
だけど。
「はあはあっ。か、可奈。ちょっと待ってよ・・・!!!」
「はあはあっ。あははっ、優ちゃんてば。早くおいでよ!!!」
まだ子供の時分の頃の話だ、優弥は可奈より身体も小さく、その当時は体力も無かった、一応は走ることが好きだった彼は子供にしては懸命に“自主トレ”に励んでいたがこの時、可奈は剣道を嗜んでおり、中々に二人の体力差は埋まらなかったのである。
ところが。
一方の翔弥は、と言えばこちらは小さな頃から地元のサッカーチームでエースストライカーを務めており体力も腕力も強く、また運動神経も抜群に良かった、そしてそんな翔弥に可奈は次第に惹かれて行き、とうとう決定的な瞬間を優弥は見てしまった、と言う次第であったのだ。
この時、優弥は15歳になったばかりで最初は何をしているのかが解らなかったがすぐにそれが“口付け”だと理解して、そしてー。
彼はそれから大声で泣き喚きながら町中を疾走した、悲しくて辛くて仕方が無く、“いっそ死んでしまいたい”とすら思ったが結局は死にきれなかった。
運が良いのか悪いのか、一頻り泣いて落ち付きを取り戻した優弥はそのまま逃げるように東京の全寮制高校を受験、辛うじて合格して以降は何があっても地元には帰らなかったのである。
「・・・・・」
そんな優弥は複雑な思いを抱いて実家の最寄り駅である“海津”に降り立った、海から3キロ程の高台にあるこの駅には微かに潮騒が聞こえて磯の香りが漂って来る。
「お~い、優弥・・・!!!」
「父さん・・・」
呼ばれて優弥がその方を向くと、彼の父である“小川 泰三”が白いセダンの窓から顔を覗かせていた、我が子を駅まで迎えに来てくれたのである。
「帰って来たか、いやぁ~。良かった良かった!!!」
「・・・お父さん、ちょっと老けた?」
「当たり前だろう、もうすぐ50だぞ?俺は。流石に歳を取ったよ・・・」
そんな事を言いながらも泰三は優弥をセダンの車内に招き入れ、一気にエンジンを吹かして発進する。
行き先は懐かしいハズの我が家だが実際問題として、ほんの数年前までは優弥にとってこの世で一番、近付きたくない場所だった。
だから4年前のあの日、“兄が死んだ”と聞かされた時も実家に帰らなかったのであるモノの、実兄である翔弥は交通事故により他界していて既にこの世にはいない。
それでも。
優弥は絶対に帰らなかった、ちなみに優弥は可奈の事が大好きであり、今となっては“自分はあの子を愛していたのだ”と理解していたが、それと同時に兄の事もとても尊敬していた、彼等兄弟は別段、仲は悪くは無かったのである。
だけどそれでも優弥は帰らなかった、その時の彼にはまだ“自分は可奈に棄てられたのだ”と言う思いがあったし、“兄に負けた”と言うコンプレックスもあった、だから物言わぬ姿となったとは言えども兄と対面した時に、何を言えば良いのか解らなかったし、何より。
可奈に会いたくなかった、もう全て忘れてしまいたかった、半ば自暴自棄となりヤサグレた時期もあったがそんな優弥のある種の危うさに惹かれたのか、はたまたそう言う態度や雰囲気が格好良く見えたのだろう、何人かの女の子と関係を持ち、それなりに続いたモノの結局は破綻して今に至る。
原因はやはり可奈だった、優弥はどうあっても可奈を忘れられなかった、他の女の子と居る時も、キスをしている時も、セックスをしている時すらもー。
どうしても可奈の姿がチラついてしまい、最高潮に到達する事が出来なかった。
(俺は可奈を忘れられないんだ・・・)
それをハッキリと自覚した時、漸く彼は吹っ切れた、この時に初めてそれまで自分に秘め宿されていた、可奈に対する一途さを理解して“それを胸に生きていこう”と決心したのであったがそう思ったなら心を覆っていたモヤモヤも晴れて、素直に可奈に対する思いを認める事が出来るようになったのである。
(例え誰を好きになっても、どんな風になったとしても俺は可奈が好きだ。大好きなんだ、それも掛け替えの無い程にまで・・・!!!)
“その思いに嘘は無い”、“それが愛と言うモノなんだ”と彼は同時に理解した、そしてここまで来た瞬間に、本当に一気に少年の日に傷付いてしまった心の痛みと蟠りとを乗り越えて癒し、可奈へのピュアな一念を取り戻す事が出来たのだ。
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