メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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運命の舵輪編

追憶編1

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 一体幼馴染みとはどう言う関係を言うのでしょうか。

 例えば小学生の頃からの友人だとか、中学の時の同級生までを言うなど、人によって答えは違いますが、ここでは敢えて私の知人の説を参考にさせていただいております。

 曰く、

1、6歳~8歳(遅くとも9歳)の頃までに出会いを済ませており、

2、お互いが単なる顔見知り以上の関係であること、

3、二人の間に思い出として共有できるエピソードが一つ以上存在している事。

 これら3つの要件を全て満たしていれば幼馴染みと言えるのでは無いか、と言う事でしたが。

 皆さんはどうお考えですか?
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してそんなメンタルが作用していたのか魔法の腕前も中々のモノだった。

 特に、まだ幼い時分から最上級の火炎系魔法を自在に操り、鞭やナイフ等を使わせても大人顔負けの技量を有しているほどの、将来有望なファイターだったがそれだけでは無くて、利発でハキハキとした、実に可愛らしい女の子だったのだ。

 上質なミルクを垂らしたかのような乳白色の肌にお人形を思わせるような整った顔立ち。

 パッチリと見開いたその眼には青空色の瞳が宿り、日に光るハチミツのような、美しくて長い金髪を頭の両端でまとめていた。

 そしてそんなメリアリアのお気に入りだったのが。

「蒼太!!」

「メリー」

 綾壁蒼太と呼ばれていた、一人の日本人の男の子だった、メリアリアが他の女子達と遊んだり、家の都合(大抵は手伝いや修行)のある場合は別だったモノの、それ以外の大半を蒼太はこの二つ年上の、幼馴染みの少女と一緒に過ごしていたのだ。

 切っ掛けは、些細な事だった、ミラベルの下部組織である“セラフィム”の幼年部教育カリキュラムの合同演習で一緒になったメリアリアの話を、他の誰よりも一生懸命に聞いてくれたのが彼だった、と言う実に有り触れた理由から二人の関係は始まったのだ。

 感性の鋭い、ともすれば勝ち気な所もあるメリアリアは当時から普通の子供では気付けない色々な事に気付いたり、また様々な知識を持っていた(もっとも大半が家の手伝いや修行の中で得た気付きと、本を読んで得た知識であったが・・・)。

 それを茶化さずにキチンと聞いてくれたのが蒼太ただ一人だったのだ、デパートでの最初の出会いから僅か一週間後のこと、既に顔見知りではあった二人はその日を境にあっという間に意気投合して親密になっていった。

 蒼太は彼女の話にいつも耳を傾けてくれた、他の子供達が“そんなのありっこないじゃん”とか“バカじゃねーの?”で済ませてしまうような事でも蒼太だけは“そうなんだ”と言って頷き、“僕もそう思うよ”と同意してくれた。

 後から振り返って見ると、特別な事など何もないこの日常の風景がしかし、メリアリアにとってはとても大切で得難い時間に変わって行ったのである。

 遊んでいる時なども、無茶して遠くに行こうとするメリアリアに、何だかんだと言いながら付いて来てくれたのは蒼太だけだった、蒼太の前でだけはこの少女は素の自分を解放して思う存分、羽を伸ばす事が出来たのだ。

 そんなある日。

 メリアリアが8歳、蒼太が6歳になった一学期の、5月の第3金曜日の休み時間。

 少女が女友達と話していると、クラスのガキ大将グループが彼女達の前へとやって来た。

「ねぇ、何の話してんの?」

「どんな病気も治せる薬の話よ、昔の錬金術師達は自由に調合が出来てたみたいなのよ。それが今でも出来たらなって話をしていたの」

「あっははははははっ。バカじゃねーの?有り得ねーよ!!」

「なによ、それ!!」

「いいじゃん、メリー。放っておこうよ」

「どんな病気でも治せる薬なんて迷信だって。セラフィムの実験棟にだってそんなモノは置いて無いんだぜ?」

「そうだよ、それに薬の調合って勝手にやっちゃいけないんだって、先生言ってたじゃんか!!」

「ああ言うのって確か、センモンのセンセーが付かなきゃいけないんだよね!?」

「だから出来たら良いなって話だってば。別に今すぐするとは言ってないでしょ!?」

「ねえそんな事よりさ。俺らと遊ぼーよ、鬼ごっこしようぜ、この前の続きな?」

「嫌よ。だって貴方達ドロシーしか狙わないんだもん!!」

 と、またメリアリアが真っ先に拒否の姿勢を鮮明に打ち出すがドロシーと言うのは彼女の親友の一人であり申し訳ないけれどもあまり駆け足の出来る娘では無かった、要するに形を変えた弱い者狙いをして楽しもうと、このグループはしていたわけだ。

「なんだよ、別にいいだろ?そんな話なんかより絶対に面白いって、なあ!?」

「うん、別にいいじゃんよメリー!!」

「絶対に嫌。あんた達なんかと遊んであげない!!」

「なんだよ、それ!!」

「むかつくな!!」

「女のくせに、生意気だぞメリー!!」

「なにそれ!!」

「メリー、いるのかな?」

 そんな一触即発の自体の真っ最中に、その男の子は入って来た、“どうしたの?”と本気かわざとか解らない程の、普段と変わらない落ち着いた声で。

「蒼太・・・」

「なんだよ、このチビ」

「邪魔なんだよ、カスが!!」

「どけよ!!」

 と言ってグループの一人の少年が蒼太の胸ぐらを掴んで突き飛ばしたのだ。

「うわっ!!」

「蒼太!!」

 “何てことするのよ!!”とメリアリアは本気で怒った、蒼太とガキ大将グループの間に立ちはだかり仁王立ちして相手を睨み付ける。

「・・・なんだよ」

「やんのか?」

「女だからって調子に乗んな!!」

「・・・・・っ!!」

「あっ!?」

「なんだよ、こいつ!!」

 その少年達の前に、再び蒼太が立ちはだかった、年上で、しかも人数も多い相手に“止めろよ!!”と言って。

 今にもメリアリアに食って掛かろうとしていた少年グループは、その標的を蒼太へと変更して今度こそ本当に殴り掛かって来たのだが。

 何と蒼太はそれに臆する事無く応戦して見せたのだ、“メリー、逃げて!!”とそう言って。

「あ・・・」

「なんだよ、こいつ!!」

「すげーしぶといんだけど!!」

「こいつ、倒れろ!!」

 どんなにボコボコにされても蒼太は決して挫けずに立ち上がって行った、そしておそらくは少年グループのリーダーと思しき男子に組み掛かっては果敢に投げ飛ばそうとする。

 一方でメリアリアは動かなかった、いや動けなかったのだ。

 普段の利発で勝ち気な彼女は何処へやら、まるで恋人を見守る乙女のように祈るように胸の前で両手を重ね合わせ、事の成り行きを、もっと言ってしまえば少年の姿を凝視していた。

「でやあぁぁっ!!!」

「ぐわああぁぁぁぁぁっっ!!!」

「ああっ!!」

「ベイジル!!」

「先生、ここです!!」

「何の騒ぎですかっ!!!」

 殴られながらも蒼太が主犯格の少年ベイジルの服と腕とを掴んで投げ飛ばし、教室の床に叩き付けた、ちょうどその時。

 その喧騒は終わりを迎える事となった、運良く近くの廊下で別の教諭と話をしていた担当教諭を別の生徒が呼びに行き、事情を説明して急いで来てもらったのだ。

「また貴方達ですか!?いい加減にしないと親御さんに連絡して引き取りに来て貰いますよ!?それでも良いんですか!!」

「い、いてぇっ。いてててっ!?」

「大丈夫かよ、ペイジル・・・?」

「だってコイツが・・・」

「コイツって・・・。見た所下級生じゃないですか!?それを寄って集って叩くなんてどういうことなんですか!?今後何か問題を起こしたら、本当に罰則を適用しますよ!!?」

 凄い剣幕で捲し立てる教師の言葉にさすがの三人も黙りざるを得なかった、ちなみにこの罰則と言うのは色々あるが、このクラスの場合は姿を虫に変えられてその後三日間、虫籠の中で生きる事を余儀なくされる、と言う中々に厳しいモノだったからだ。

 ちなみにセラフィムでは生徒各人の人権は保障されているモノの、度を超える虐めや校律違反が見付かった場合はそれに応じた罰則の適用が教師連中にも許可されており、その内容もピンキリだったがこの少年グループ達の場合は他の生徒達からの訴えも多くて初等科の職員会議でも議題に挙げられている程だった。

「その子を離しなさい!!」

「だってコイツが・・・」

「言い訳無用!!」

 投げ飛ばした主犯格の少年の受けたダメージが思ったよりも大きかった事もあって、そんなすったもんだの挙げ句に蒼太は無事に解放されたのだが後でお詫びとお礼をしようとこっそり蒼太を呼び出したメリーは、傷と絆創膏だらけのその姿を見た途端に安堵したのと申し訳なさから思わず泣き出してしまった。

「うわあああああん!!ごめん、ゴメンね蒼太。私の所為でこんな目に・・・」

「えっ!?全然平気だよメリー、それよりメリーが無事で本当に良かったよ、あいつらメリーの事を殴ろうとしてたんだもん、黙ってられなかったんだ!!」

「うええっ、グスッ、だって蒼太が、蒼太があぁぁ・・・」

「メリー、僕なら全然大丈夫だから。いつもお父さんに鍛えられてるからね」

 メリーが無事で良かったと、蒼太は本心から言った、この幼馴染みの少女が殴られるくらいなら自分が殴られた方が良いと本気で思っていたのだ。

「だから心配しないで・・・?」

「・・・・・っ!!」

 その言葉を聞いた瞬間、メリアリアは蒼太にバッと抱き着いていた、そしてそんな少女の行動に最初はビックリしていた蒼太もしかし、次の瞬間にはその背中に腕を回して優しく、それでもしっかりと抱擁する。

 空き教室の中に、少女の嘔吐く声が聞こえる。

 誰もいない、二人きりの透明な空間で蒼太とメリアリアはしばらくの間、そのまま抱き合い続けていた。

 やがてー。

「うう、グスッ。ゴメンね蒼太、本当にごめんなさい・・・」

「良いんだってば。それよりももうすぐ日が暮れるよ?早く帰ろ・・・」

「ひぐ、グスッ。・・・うん、解ったわ。蒼太、一緒に帰りましょう。・・・また、一緒に遊んでくれる?」

「勿論だよメリー、ずっとずーっと一緒にいようね!!」

 少年の力強い声にようやく落ち着きを取り戻した少女は、まだベソを掻きながらも、それでも笑って“うん”と頷いて見せた。

 この日以降、少女の少年を見る目が一層熱いモノに変わったのは言うまでも無い。

 そうだ、メリアリアにとって、幼い日の蒼太はヒーローだったのだ、年下で背も彼女より小さいけれど、とっても暖かくて頼もしいヒーローだったのである。

 それだけではない、これはずっと後で気が付いた事だったが、メリアリアは三千年前、リュディア王国の首都“サルディス”において既に蒼太と出会っていてー。

 その時から、二人は再び巡り会う運命だったのである、魂同士が結び付いている、最高の関係だったのだ。
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