メサイアの灯火

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ガリア帝国編

メリアリア・カッシーニ編5

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「母さん!!」

「おばさん、有り難う!!」

「収穫は、あったのね!?」

 数時間後ー。

 蔵から喜び勇んで飛び出してきた子供達にそう声を掛けると楓は暑さ対策の為にと塩をほんの少しまぶしたスイカとヤカンで煮出した麦茶を出してあげた(もちろんキンキンに冷やしてあるヤツをである)。

「冷たーい!!!」

「おいしーい!!!」

「・・・良かった!!」

 そんな二人の言葉に楓はニッコリと微笑むと、お茶のお代わりを入れてあげて、“少し休んで行きなさい”と言っては冷房を入れてくれたのだ。

「ぷはーっ!!涼しいーっ!!!」

「蔵の中、暑かったもんね!!?」

 と、全身汗だくになりながらも子供達はクーラーの効いた部屋で横になり、一頻りグッスリと眠ってしまうが二時間程休んだ後に目を覚ますと蒼太は“またちょっと出掛けてくるね!?”と言い放ち、一方のメリアリアは御礼を述べて蒼太の家を後にして、一路メリアリアの邸宅への道を急いだ。

 先程蔵で見付けた“マイゼナー博士の秘薬の処方箋”を、ベアトリーチェに渡して復活させてもらうのである、夫であるダーヴィデと共にハイ・ウィザードの一員でもあった彼女ならば、必ずこの処方箋に書かれている事を読み解いてくれるだろうと、蒼太とメリアリアは考えていた。

「ママ、ただいま!!」

「おばさん、お邪魔します!!」

「あれ?蒼太にメリアリアじゃないか、今までどこに行ってたんだい?」

「う、うん。ちょっとね・・・!?」

「それよりおばさん、これを見てよ!!!」

「・・・なんだい?これは!!」

 と、蒼太が差し出した巻物(スクロール)に書かれている内容に目を通していたベアトリーチェの目の色が変わっていった、これは間違いなく、“マイゼナー博士の秘薬”、その処方箋についての覚え書きである。

「し、信じられないねぇ!!コイツをどこで見付けたんだい!?」

「蒼太の家の、蔵の中にあったのよ!!?」

「僕ん家、昔の記録が残っているんだ。だからもしかしたならと思ったんだけど、そこに本当に書いてあったんだよ!!!」

「そうかい。あんたの御先祖様が、記録を残していて下さったんだねぇっ!!」

 書面を見ながらベアトリーチェは頷いて答えるモノの、そこには調合に必要な薬剤の種類からその配合率までが事細かに載っており、挙げ句にベアトリーチェが探し求めていた“人の回復力を極大化する方法”までもが記されていて、聞き取りに余念が無かったのだ。

「助かるよ、こんなに詳しく書かれているのならば、研究所に提出してすぐにでも製薬してもらう事が出来る!!」

「パパの病気、良くなるの?ママ!!」

「ああ。これさえあれば、立ち所に治っちまうね、万々歳さね!!」

 そう告げるとベアトリーチェはニッコリと微笑むモノの、それを聞いて蒼太もメリアリアもホッと胸を安堵させた、良かった、これでダーヴィデを救うことが出来たのだと、心の底からはにかむが、しかし。

「おばさん。僕達も、おじさんが薬を飲む所を見てみたいんだけど!?」

「いいでしょ!?ママ。だって蒼太のお陰でお父さん助かったんだし!!」

「ああ。それは勿論、いいよ?ただし治験までには時間が掛かる、どんなに急いでも1週間は掛かるだろうけれど、それでも良いかい?」

「うん。全然良い、それでも良い!!」

「お父さんが元気になる所を、見てみたいわ!?」

 子供達のその返答に、ベアトリーチェも満足したようにもう一度頷いて答えると、早速“治験薬局”及び“保健所”、そして“ハイ・ウィザードの仲間達”に連絡を取った、“マイゼナーの秘薬の処方箋が見付かった”とそう言って。

 当然、ハイ・ウィザード達を始めとして関係各所は狂喜乱舞した、まさか自分達が探して止まなかった“マイゼナー博士の秘薬”の処方箋が大八洲から引っ越して来た一家の土倉の中に眠っていたとは、夢にも思っていなかったのだ。

「だけど一体、なんで家の御先祖様は“マイゼナーの秘薬”に付いての考察を、彼処まで詳しく残していてくれたのかなぁ・・・?」

「ひょっとすると」

 とその日、夜になって清十郎が帰宅して来た折に今日あった事を蒼太が話して聞かせていると、ふと蒼太自身が途中で疑問に思った事をそう口にするモノの、それを聞いた清十郎が静かに答えた。

「御先祖様はこういう日がいつか来る、と言う事を予感していたんじゃないのかな?それで万が一に備えて詳しい処方箋を手に入れ、書き記しておいて下さったんだよ!!」

「うん。それは凄く嬉しいよ。僕、とっても助かったもの。・・・だけど」

 と蒼太は更に言葉を続けた、“一体、どうやって、マイゼナー博士と知り合ったんだろう?”とそう言って。

「だって“マイゼナー博士”は、“ハイ・ウィザードの一人”だっだんでしょ?そんな人と御先祖様は、どうやって顔見知りになったんだろ?」

「たぶん、マイゼナー博士の事を個人的に尋ねたんだろうね。家は元々、正規に“ミラベル”なんかの組織に入って活動していた訳じゃあ無かったから、“アンダーグラウンド”的な情報網を使って何とか、博士の居場所を探し当てたのかも知れないよ?博士は普段から人付き合いがあんまり好きじゃ無くて、旧市街地に研究所を持っていたんだろう?だから掴まりやすかったんじゃ無いのかな?」

「ふーん、そっかぁ・・・!!」

「昔、自分のじいさま、つまりお前のひいお祖父さんだが、その人に聞いた事があったんだ。じいさまがまだ子供のころ、インフルエンザが大流行したらしくてね?それでじいさまの友達が、インフルエンザに掛かってしまったらしかったんだ。御先祖様はおそらく、その人を助けるために博士に接触したのだろう、そして今度はお前さん達の為にと、その処方箋を詳しくここに書き残しておいてくれた、と言う訳だな?」

「そっかぁ・・・!!」

 とそれを聞いた蒼太は思わずまだ御先祖に胸の内で手を合わせた、考えてみればもし、彼等が一生懸命に生き延びて、次の世代に命を繋いでくれなかったなら、人の縁を結んでくれなかったのならば、自分達が今、ここにこうして生きている事は出来なかった筈なのである、そう思うと自然と感謝の心が出て来たのであった。

(おじいちゃん達、有り難う・・・)

 今度のお墓参りに行く時にはちゃんと花束を買って持って行こうと決意する蒼太であったが、そんなこんなで1週間があっという間に過ぎて行き、いよいよダーヴィデに薬が試される時がやって来た。

「さ、あんた。これを飲んでおくれよ?」

「ゴホンッ、ゴホン・・・ッ!!あ、ああ・・・。ん、んぐぐ?苦いな!!」

「“良薬口に苦し”って言うだろう?良いから早く飲みな!!!」

 そう告げるとベアトリーチェは試験管に入ったままの、緑色の液体をダーヴィデに差し出すモノの、それをダーヴィデは覚悟を決めて一気にゴクゴクと飲み干していった、暫くすると。

 ダーヴィデの咳が止んで来て、土気色をしていた顔色も一気に良くなっていく。

 表情からも険しさが取れて幾分、柔らかなモノとなり普段のダーヴィデの顔にかなり近いモノとなって来ていた。

「・・・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!?」

「おお・・・っ!?」

「これは・・・!!」

「信じられん!!」

 その場にいた蒼太やメリアリアだけではなくて、お見舞いに来ていたハイ・ウィザードの一団達も思わず驚愕すると同時に感嘆の声を漏らすがそれは確かに秘薬に相応しい効能を秘めていたのであり、ダーヴィデは忽ちの内に元気を取り戻したのであった。

「本物だ、間違いない!!」

「治験薬局と保健所に連絡をして。早速大量生産に入ってもらおうか?」

「いいや、これは大量生産には向かない。まず人の回復力を最大限に発揮する術式が難しすぎて、我々ハイ・ウィザードでなければ生成は不可能だろう!!」

「いや、しかしあって困るものでは無い。早速、出来る限りで備蓄を始めるとしようか・・・?」

 集まった面々はそう言って頷き合うと、“とにかくダーヴィデ卿が無事でなによりです”と言っては彼の快復を祝福し、今後の経過観察と復帰後の仕事の打ち合わせに付いて二言三言言葉を交わすとその日はカッシーニ邸を後にしたのであった。

「蒼太君、メリアリア。有り難う。君達のお陰だな!!」

「ううん、おじさんが無事で、なによりでした!!!」

「本当よ!!もう、パパったら、みんな心配したんだからからね!!?」

「すまんすまん、メリアリア。許しておくれよ?いやぁ、それにしてもただの風邪だと思っていたなら気管支炎になってしまっていたとはなぁっ。家には色々と加護があると思って私も、よくよく油断し過ぎたようだよ!!!」

 “ハッハッハッハッ!!”と、わざと明るく笑って見せるダーヴィデであったが、彼の一番、苦しそうな状態の時を知っていた蒼太達は気が気でなかった、“またあの状態に、ぶり返してしまうのではないか!?”とどうしてもそんな考えが頭を過ってしまうのだ。

「まったく、あんたときたら!!だから言っていただろう!?いくら何でも“仕事もほどほどにしておきな”って・・・っ!!」

「いやいや、本当に済まんかった。申し訳ないね、蒼太君、メリアリア。そしてベアトリーチェ!!本当に心配を掛けた、この通りだ!!!」

 とベッドの上で上体だけ起こして謝罪するダーヴィデであったが、その顔は病人のそれでは決して無かった、もう立派に回復した、温和で知的な紳士の面持ちだったのである。

「いや、もう寝ていられないよ?すっかり気分も良くなったしな、何か取り敢えずは腹に入れたい!!」

「はいはい、なにか見繕って持って来てあげるよ。あんたはまだ寝てな、秘薬を飲んだとは言えども病み上がりの身なんだからね?」

 そう言うとベアトリーチェは“ちょっとごめんよ?”とそう告げて、ダーヴィデの為に、食事を作ってやろうとキッチンへと降りて行った。

「蒼太君、メリアリア」

 後に残されていた二人に再び、ダーヴィデが声を掛けて来た。

「本当に有り難う、君達のお陰で助かったよ、一時期は立って歩く事が辛くて仕方が無かった、いや、寝ている事もしんどいくらいだったのだ。それを助けてくれたのだ、本当に感謝しているよ。・・・そうだ!!」

 ダーヴィデが告げた、“なにか御礼をしなくてはな”と、“何が良いんだい?”とそう言って。

「おじさん、僕は別に・・・」

「待って!!パパ、聞いて欲しいお願いがあるのっ!!!」

 すると何事かを言い掛けた蒼太を制しては、メリアリアがダーヴィデに直談判を開始した。

「うん?なんだいメリアリア。言ってごらん?」

「私達、“セーヌ河畔の花火大会”に出席したいのっ。出ても良いでしょ!?パパ!!」

「なに・・・っ!?」

 それを聞いたダーヴィデはまた“ううーん”と唸ってしまっていた、セーヌ河畔の花火大会は毎年、愛娘であるメリアリアが楽しみにしているイベントの一つであり、去年も蒼太と一緒にテレビを通して見ていたのである。

 それを今年は大会自体に観客として直接参加したいと言うのだ、正直に言ってしまえばまだ僅か7歳になるかならないかの娘を、午後11時から始まる催し物になど、出席させる事は難しい。

「それは蒼太君も一緒に出たい、と言う事なのかね?」

「・・・・・っ!!!!!」

「・・・・・っ。は、はいっ、そうです。僕もメリーと一緒に出たいです!!!」

 と蒼太はメリアリアに促されるままにそう応えていた、正直に言ってしまえば彼はメリアリアと一緒ならば現場に行くのでもテレビを通して見るのでもどちらでも良かったのであるが、メリアリアは大会に直に参加したがっていたのと一応、彼自身にも花火大会を直接にこの目で見てみたいと言う思いもあった為に、それでメリアリアの肩を持ったのである。

「パパ、お願いっ!!蒼太と行かせて欲しいのっ!!!」

「おじさん。僕、メリーと一緒に行ってみたいんだ!!?」

「ううーむ、そうか・・・!!!」

 とダーヴィデは暫くの間、考えてから言った、“仮に行くのであれば当然、私達も同伴させてもらうよ?”と“それで良いかね?”と。

「それに、蒼太君の御両親にも連絡を取らねばなるまい。蒼太君にも家庭があるのだから、私の一存では決められん!!!」

 “まずは”とダーヴィデは言った、“蒼太君の御両親次第だな”と。

「清十郎殿や楓殿の話を聞いてからだな、私としては双方の家が納得の上で親が同伴ならばOKだ。ここがギリギリのラインだ、異論は一切認めん。それで良いかね?」

「・・・・・」

「・・・・・」

 それを聞いた蒼太はメリアリアを、そしてメリアリアは蒼太を見つめて互いに頷き合った、二人で現場に行くことが出来るのならば蒼太にもメリアリアにも異論は無い。

「・・・いいわ!!?」

「僕達は全然、それで・・・!!!」

「・・・・・」

 “決まりだな”とダーヴィデが頷くモノの、正直に言ってはダーヴィデ自身はなるべく娘の“やりたい”と言う事には力を貸してやりたいつもりであった、しかも。

 今回は自分は、蒼太やメリアリアのお陰で助けられた訳であり、そう言った事も手伝って尚のこと余計に二人に肩入れしてやりたいとする気持ちは強くなる一方ではあったのであるモノの、その一方で。

(正直に言って今回の事は、中々にしんどいなぁ!!確かにあの大会は年齢制限が設けられていて、蒼太君も今年はそれをパス出来ていると言えどもなぁっ!!)

 “子供達を真夜中の世界に放り出す事が、どれだけ危険な事なのか”と言う事に、ダーヴィデは思いを馳せずにはいられなかったがそれでも敢えて出席させる、と言うのであれば、安全確保の観点から考えるならば、我が家だけではどうにもならずに“蒼太君の御両親にも来ていただいた方が良いだろう”、と彼は判断していたのであり、あの二人が一緒にいてくれる事を思えば地に足が着く感覚と言うか、胸の奥が安心感でいっぱいになって来るのを感じていた、つまりはそれは“正しい”と言う事を意味していたのであった。

(蒼太君の家と二人がかりでやるのであれば、娘達を無事に守り切る事が出来るかも知れない!!!)

 そう言う事もあってダーヴィデは蒼太の両親も誘うようにと提案したのであるモノの、それにもし。

 これにはもう一つの思惑もあったのであるモノの、メリアリアには申し訳ないのだが、もし万が一にも蒼太の家の方が(即ち清十郎達が)“ダメだ”と言うことになれば、これはもうどうにもならない事を意味するのであり、この場合はいくら何でも諦めてもらわざるを得ないのである。

 そんな事を考えながらも後日、蒼太の家に電話をしてみると、意外な事に清十郎達の答は“YES”であった、つまり行かせても良い、と言う事であったのだ、ただし。

 それには条件があった、自分達も一緒に参加させてもらう事、これは外せないとの事でありダーヴィデ達もそれを了承した、こうして双方の一家総出となってしまった訳ではあったが何とかメリアリアの望んだ通りの、少年と二人で一緒に花火大会を見る、と言う夢は現実に向けて動き出して行った訳であり、二人の思い出をまた一つ、積み重ねる事が出来るに至ったのであるモノの、しかし。

(よく清十郎殿や楓殿が“OK”を出したモノだな?もしかしたなら、“NO”と言われるかも知れない、と覚悟していたのだが・・・!!)

 とダーヴィデは訝しがったが実を言えばこの時もう、清十郎も楓も、自分達が息子と一緒にいられる時間が残り少ない事を知っていたのである、自分達は子供達が大きくなるまで側にいてあげられない事も知っていたし、息子の晴れ姿が見れない事も、即ち三人の花嫁との合同結婚式にも自分達は出られないのだ、と言う事を、清十郎と楓は知っていたのであった、だからこそ。

 だからこそせめて、残された時間を精一杯に子供と共に生きようと、せめてこの子にありったけの愛を注いで生きて行こうと考えていたのであった、その為に。

 清十郎達は本当はその時間帯が危険である事を知っていながら、息子の事を、そしていつか彼と婚(くな)いでは義理の娘となってくれるであろうこの少女の事を、全力で守ろうとしていたのであった。

「家は別に、構いません。蒼太もお嬢様の事も、必ずやお守りしてみせますよ、どうぞ御安心下さい!!」

「そうですとも、二人にはいっぱいいっぱい思い出を作って行っていただきたいと考えておりますので!!」

「いや、そうですか。そうですな、蒼太君も家の娘もまだ若いのだから、思い出は作ってあげた方が良いかも知れません!!」

 そう告げると当日の細かい打ち合わせをしてダーヴィデは電話を切り、その結果を娘に告げた、“蒼太君の家でOKが出たよ?”とそう言って。

「いやったあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!本当に!?パパッ!!」

「ああ、本当だとも!!」

 それを聞いたメリアリアはまたもやウットリとした顔を見せた、あの子と、蒼太と一緒に夏の夜空を彩る花火の下を回るんだと思うと、自然と気持ちが上向いて来る。

「7月の14日よ?蒼太。聞いてるっ!!?」

「うん、聞いてるよ。嬉しいなぁ、まさか父さんがOKしてくれるとは思わなかったから!!!」

「本当よね、蒼太のおじ様、厳しそうだしね!!?」

 とメリアリアが口にするモノの、正直に言って“難しいかな?”等と考えていた蒼太にとってもこれは嬉しい誤算であった、父が今度の事で“OK”を出してくれるのは、余程の事がなければ不可能だと思っていたから、それは本当にありがたかったのである。

「でも良かったわ。これでまた、二人で遊べるねっ!!!」

 “蒼太ともっともっと、いっぱいいっぱい思い出を作りたいな!!?”とメリアリアは言う、“二人で色んな所に行って、色んなモノを食べて、色んな事をして、もっといっぱいっぱい二人で色んなモノを見てみたい”と。

「ねえ蒼太、良いでしょう!?二人でもっといっぱい遊びましょう!!?」

「う、うん。僕もメリーと一緒にいたいし、もっと色んな事をして遊びたい!!!」

 と蒼太はここでも本当の事を言った、別に他意は無い、彼だってメリアリアと一緒にいたい、もっと色々な事をして遊びたいと心底思っていたのだ。

「嬉しい・・・っ!!ねぇ蒼太っ!!!」

 “早く会いたいな”とメリアリアは告げて来る、こう言うときの彼女の声はいつになく弾んでおり、本当に会話を楽しんでいるのが良く解った。

「じゃあ7月の14日の夜、午後10時に“エッフェル塔前”で待ち合わせね?忘れないでね!!?」

「うん、解った。7月の14日の夜10時にエッフェル塔前だね?絶対に忘れないよ!!!」

 そう言って電話を切ったのが3日前の事であり、蒼太もメリアリアもワクワクしながらその日が来るのを待っていた、初めて二人で夜間外出をするのである、そう言った意味でも胸がドキドキと高鳴っていた。

「夜にお外を出歩くなんてドキドキしちゃう~っ!!!」

 登下校の際にこの話になると、メリアリアはそう言って燥いでおり、そんな彼女を見ている内にも蒼太もなんだか楽しい気分になってくるモノの、そんな日常を三日間繰り返して日付は7月の14日、午後9時半となっていた、蒼太は父に手を引かれて、楓に背中を守られながらエッフェル塔前へと向けて人混みを掻き分けながら前進して行った。

 と言っても何も本当に、エッフェル塔の目前にまで詰め掛ける訳では無い、と言うのはルテティアのエッフェル塔は旧市街地の東地区中央部に聳え立っており、そしてここはその手前の地形一帯が、ちょうど少し小高い丘になっていてそこが通称、“エッフェル塔前”と呼ばれている、絶景の花火景観スポットと化していたのである。

 そこにメリアリア達はいる筈であり、蒼太達はだから、その丘の上を目指して歩を進めていた、と言う訳であった。

「蒼太、蒼太っ!!!」

「メリーッ!!!」

 やがてー。

 殆ど同時にお互いを見付けた蒼太とメリアリアは急いで相手に駆け寄るとその身を抱き締め、喜びあった、二人ともこの日が来るのを心待ちにしていたから、その感動も一入(ひとしお)なモノがあったのだが、そんな子供達の逢瀬を余所に、大人達は粛々と挨拶を行い、握手を交わしていた。

「本日はお招きいただきまして大変、恐縮で御座いますダーヴィデ伯爵、ベアトリーチェ夫人!!」

「本日は精一杯、努めさせていただきますのでどうかよろしくお願い申し上げます!!」

「ハッハッハッ。いやなにこちらこそですよ、清十郎殿、楓殿。貴方方がいて下さる事は実に頼もしい事実でありますから・・・」

「今日は家のお転婆が全く、無理を言ってしまって。だけど本当にどうも有り難う、お陰様で助かったよ!!」

 ダーヴィデとベアトリーチェにそれぞれ返礼してもらい、清十郎と楓はもう一礼すると早速子供達の周囲を警戒し始めた、付近の人並みの混雑振りと熱気とは段々過密なそれになって来ており、しかも見ると自分達以外にも子供連れ親子の姿がチラホラと見受けられる。

(どうやら余所の家庭の子供達も、何組か来ているようだな・・・!!)

(このあたりだけで24組、家の子達を含めて35人と言った所か、今はこう言う所に、平気で連れてきちゃうのかしらね・・・?)

 清十郎と楓はそう思う傍らでもう、既に臨戦態勢を整えていた、清十郎は蒼太の左手を握り締め、そして楓はメリアリアの右手を握り締めていたし(で、蒼太とメリアリアは反対の手でそれぞれ、相手の手を握り締め合っていた)、ダーヴィデ達もその後ろから背中を固めて子供達を守るように立ち塞がる。

「ねぇねぇっ!!早く始まらないかな!!?」

「私もうっ、待ちくたびれちゃったわ!!!」

 子供達が話をしながら時間を潰すが、無理も無いだろう、彼等にとっての一時間と言うのは決して短いモノでは無いのだから。

(おそらく、今現在の蒼太とメリアリア嬢の時間は無限の時のように感じられているに違いない!!)

(一時間だもんね?でもこの位の時間から場所を取らなきゃ、他のお客さんに取られちゃうもの!!)

 清十郎と楓が思うがその間も子供達はしりとりをしたりクイズをしたりしながら過ごし続けてようやくー。

 その時がやって来た、会場にアナウンスが流れると同時に一斉に響めきや雄叫びがおき、それが収まるとー。

 ガリア帝国国歌が斉唱されて、いよいよ打ち上げである。

「蒼太、始まるよ!!?」

「うん!!!」

 メリアリアの言葉に、蒼太が頷き終わるか終わらないかの頃。

 ヒュルルルルルル~ッ。ドンッ、パパンッ、ドン、パン、パパンッと花火が連続して打ち上げられており、夜空を色取り取りの光が照らす。

 青、赤、ピンク、黄色、緑ー。

 ライトアップされたエッフェル塔を中心において、次々と打ち上げられる花火の光に、観客のテンションもヒートアップしてゆく。

 無論、蒼太達とて例外では無かったモノの、蒼太は実は途中から花火そのものよりもメリアリア自身に見取れていた、ふとした瞬間に鼻先を擽る彼女の体臭に、シャンプーの甘い香り。

 花火が夜空を彩る度に、その光り輝きを受けて少女の金髪が煌めいていた。

「・・・・・っ!!!」

(うわああぁぁぁっ!!?綺麗だ、メリーッ!!!)

 蒼太は思わずそう感動すらするモノの、それ程までにこの時のメリアリアは可憐にして幻想的で、まるで女神のような神々しさを放っていたのである。

「うわあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!綺麗ねぇ、蒼太っ!!!」

「う、うん。すっごく・・・っ!!!」

「・・・・・?どうしたの、蒼太。花火見ないと勿体ないよ?」

「う、うん。解ってるよ・・・!!!」

 そう言って蒼太はしかし、俯いてしまうモノの、その心臓はバクバクと鳴りっ放しとなってしまい、握り締めた掌に汗が滲む。

「あっ、また上がったよ?蒼太、見て見て?綺麗だよねぇ~っ!!!」

「う、うん。とっても!!!」

「ねーっ!!!」

 とメリアリアは蒼太と話す傍らで、心底楽しそうに微笑むモノの、そんな彼女を見ている内に蒼太は思った、“この子はいま、何を考えているのだろう”と。

 自分はメリアリアの事で頭がいっぱいだった、この子も僕の事を思ってくれているのだろうかと、そんな考えが頭の中を巡ってしまい、花火観賞に集中できないでいたのだ。

 そうだ、蒼太にとってメリアリアは不思議の塊だった、神秘の泉そのものだった、美しくて高貴な彼女が何を考えているのかを知りたくて、それが自分の事であったなら、こんなに嬉しい事は無くって、喜びで胸の内がいっぱいになり、蒼太は人知れず、ドキドキとして来てしまった。

「メリーッ。楽しいねっ、凄く楽しいっ!!!」

「あははっ、本当よね!?来て良かったわ。ねぇ?蒼太!!?」

「うん!!有り難う、メリーッ!!!」

 蒼太はそう御礼を言うと、少しだけ気分がすっきりとして後は花火に集中する事が出来ていた、その心はその日のルテティアの夜空のようにどこまでもどこまでも澄み渡っており、恍惚感と幸福感とでいっぱいいっぱいに満ち満ちていたのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
 後年ー。

 夫婦になった後で、メリアリアちゃんは蒼太君に尋ねるんですよ、“あのルテティアの花火大会の時に何を考えていたの?”とー。

 それで蒼太君が応えるんですよ、“君の事を考えていたんだよ”って、“凄い綺麗だったんだよ?メリー!!”とそう言って。

 そんな場面をイメージしながらこのお話しを作りました(ちなみに幼馴染の女の子のお父さんを、薬を持っていって助けるのはある作品のオマージュとなっております)。

 またちなみに、清十郎と楓はいつか書きたいと思っている“ハーレムルート”ではキチンと生存させます(何故かと言うと、彼等は本来ならば助かろうと思えば助かったんです、で、そうすればよかったのに、“死の流れ”を受け入れてしまったんですね、“それが運命だ”と思ってしまったんです、だからこの世界線では死んでしまうのです)←これが蒼太君やメリアリアちゃんだったならそんな事はしません(アウロラちゃんやオリヴィアちゃんも同様ですが)、彼等は人はより良く生きて行かなくてはならない存在である事を知っています、そしてその為には運命にも立ち向かって行かなくてはならない事を、運命を切り開いていかなくてはならないのだ、と言う事を知っている子達なんです(次の瞬間だってより良く生き続ける権利がある事を知っている人達なんです)、その辺りが清十郎達とは違ったんですね、彼等に足りなかったのはそこなんですが、ハーレムルートの清十郎達はちゃんとそれを子供達から学ぶのです(あとちなみにこのルートではオリヴィアちゃんも幼馴染となります)。

                敬具。

          ハイパーキャノン。
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