メサイアの灯火

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ガリア帝国編

メリアリア・カッシーニ編6

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 スタジアムに詰め掛ける観客の熱気に、鳴り響くブブゼラの音。

 はためくクラブ旗にサポーターの歓声。

 ルテティアのクラブチーム、“サンジェルマンFC”のキックオフの瞬間であるモノの、その様子をメリアリア達はスタジアムでは無くて、メリアリアの実家にある子供部屋の、中央部分の台座に備え付けられている薄型大画面テレビから観戦していた。

「ねえ蒼太?」

「なにさ?メリー・・・」

「サッカーって楽しいのかな?」

「ええっ!?うーん・・・!!!」

 テレビの画面を見つめながら、メリアリアが発した問い掛けに、蒼太は碌すっぽ答える事が出来なかった、彼自身、そんなにサッカーに興味がある人間では無かったし、別段楽しいとは思っていなかったからであるモノの、しかし。

「興味がある人にはきっと、楽しいんじゃないのかな・・・?」

「蒼太はサッカーに興味があるの?」

「ううん、別にそうでもない・・・」

 その言葉を聞くとメリアリアは“じゃあチャンネル変えても良いわよね?”と言うが早いかテレビのリモコンを弄くっては、局番をカートゥーンのそれに合わせてテーブルに置いた。

 ちなみにこの時にやっていたのはかつての日本の少女漫画原作のアニメーションであり、その再放送版ではあったモノの、これら所謂(いわゆる)“オタク・コンテンツ”はエウロペ連邦文化圏等では受けが良く、各国共にかなり大々的な放送が為されていてファンも多く付いており、単なるカートゥーンとは一線を画する出来だとして評価を受けていたのである。

「これもかなり面白いわよね!!?もう何度も再放送をやっているんだけど、何度でもみちゃう!!!」

「ううーん?僕はあんまり見たことがないや・・・」

「・・・蒼太っていつもお家にいる時、どんなテレビを見ているの?」

「・・・ポケモンとか、ドラゴンボールとか?あとはマジンカイザーとか。そんな感じのモノだけど?」

「ダメよ?そんな夢の無い、殺伐としたモノを見ていたら。・・・まあポケモンは私も見るから良いけれど、それでもやっぱり戦闘モノのアニメはダメよ?もっとこう言う文学的作品を見る事をお勧めするわ!!!」

 そう言ってメリアリアは蒼太へと眼差しを向けるモノの、それを一瞬、瞳で受けてから少年は床へと視線を落とした。

「うーん、でもさ?僕、大きくなったらお父さんよりも強くなって、お母さんよりも強くなって、いつか必ず二人を打ち負かしてやるんだって決めてるからなぁっ!!!」

「ええっ!?お、おばさんよりも・・・?」

 その言葉にビックリとしてメリアリアが思わず聞き返すけれども蒼太は至って本気である、そう言う決意の光を少年は、瞳にハッキリと宿して現していた。

「そうなんだ。家、お父さんも強いんだけど、お母さんも超強いんだよ?だから二人を超えるんだって、僕は決めてるんだ!!!」

 するとそれを聞いたメリアリアもまた、ソファの上で体育座りとなり、何事かを考えるような面持ちとなって視線を床へと落として呟いた。

「蒼太ったら本気でおじ様達に勝ちたいのね・・・?」

「うん。いつか必ず打ち負かしてやるんだって心に決めてるんだ、僕の目標だもの!!!」

「まあっ!!?」

 とそれを聞いたメリアリアは些か驚いた様な表情となりながらも再び蒼太を見つめて言葉を紡いだ、“目標なんて、難しい言葉を知っているのね!!?”とそう告げて。

「そっか。もう授業で習ったんだ・・・?」

「うん。この前先生がね?“目標を見付けて生きなさい”って言っていたんだ、だから僕も目標を作って、それに向かって努力する事にしたんだよ!!?」

 “そうするとやりがいがあるもの!!!”と蒼太はこれまた習ったばかりの、しかし自分で確かに感じたままの言葉をメリアリアへと向けて告げると、そんな幼馴染(ボーイフレンド)の姿がなんだかとっても可愛らしくって、おかしくって、だけど物凄く頼もしくて眩しく見えて、メリアリアは自然と穏やかな笑みが浮かんできた。

「おませさんね!!?でもそっか。蒼太ったら本気でおじ様達を超えるつもりなのね?」

「うん。僕どうしても、父さんと母さんに勝ちたいんだ!!!」

「・・・・・っ。偉いんだね、蒼太は」

「それに」

 と蒼太は続けた、“メリーにも勝たなきゃならないからね?”とそう告げて。

「僕、うんと強くなるよ?父さんよりも母さんよりも。そして必ずメリーよりもうんとうんと強くなるんだ!!!」

「まあっ!!?」

 それを聞いたメリアリアは最初は呆気にとられたような顔をしていたにも関わらず、次第に悪戯っぽいモノのしかし、どこか嬉しそうな笑みを浮かべてこう続けた、“私に勝つつもりなのね?”とそう言って。

「出来るかしら?“蒼太ちゃん”に!!?」

「出来るよっ。僕、必ずメリーに勝つもん!!!」

「はいはい。じゃあそう言う事にしといてあげるわ!!!」

 とメリアリアは心底喜びに満たされた表情でそう告げるモノの、事実としてこの時、彼女は闘志を漲らせており、内側から気力が充実して来てまるで張り詰めるかのような感覚と言うか、目の覚めるようなそれらを覚えて俄然やる気が出て来るモノの、正直に言って同じ意志の力を持ち、同じく志を立てる、と言うのであれば、目標があった方が上達は早いに決まっている。

 自分の目指す到達点の具体的なイメージや感覚を掴めた方がそれに向かって意識を集中させる事が出来るし、またもしくは“こうありたい!!”と言うか願望のあった方が、それに向かって方向性を定め、なり振り構わず力を込めて邁進する事が出来るようになるからなのだが実はこの時、メリアリアにもそれはあった。

 それと言うのは、他の誰でも無い、蒼太自身に関する事であり、彼の花嫁となって生涯を添い遂げる事こそが、否、その後も永遠の時を共に生き続ける事こそが彼女の目標そのものであって何者にも勝る願い、所謂(いわゆる)“心願”に他ならなかったのであるモノのこの時、まだ愛情や恋慕と言った“己の中に眠る確かさ”、“純粋なる暖かさ”と言ったモノを十二分に理解しきる前から既に蒼太の事を“自分の最愛の旦那様なんだ”、“唯一無二の人なんだ”とすんなりと、しかしハッキリと心の奥底で認識していたメリアリアはだから、彼の事を“何があっても守ってあげたい、決して失ってはならないモノ”だと己の根幹部分からつとにそう思うと同時に“掛け替えのない大切な人”だと直感してもいたのである。

 その為に。

 そんな彼を守る為にも強くなりたくて、本当に傷一つ付けさせたくは無くって、だからこそ訓練にも精を出していたモノの、要するに彼女の中では既にして、この幼馴染の少年の事は“生き甲斐”と化していたのであり、だからあの時。

 清十郎達の訓練が厳し過ぎるあまりにも蒼太が倒れて発熱してしまった際には、メリアリアは大の大人達に対しても(とは言っても蒼太の両親達に対してなのであるが)怒鳴り込むまでするに至っていたのである、“なんてことをするんですか!!!”と、“蒼太を殺す気ですか!!?”とそう言って。

 しかし。

 そんな蒼太が自分をも目標にしている、彼から意識されて追い掛けられているんだと認識された時には、喜びのあまりに胸がいっぱいになってしまった、意中の彼が自分を見てくれている、ずっと憧れていてくれたんだと思うと、それはやはりこの上も無く嬉しくて嬉しくて、仕方の無いモノであったのだ。

「まっ、精々頑張る事ね?でも蒼太、まだ私に一回も勝った事が無いでしょう?」

「うーっ!!?」

 “そんな事無いっ!!!”と、蒼太はムキになって叫んでいた、“僕は必ず、メリーに勝つんだ!!!”とそう告げて。

「ふふーんだ、お姉ちゃんに、勝てるわけ無いじゃない、“蒼太ちゃん?”」

「言ったな!!?」

 と蒼太がもはや、意地になってメリアリアに向き直った。

「勝負しよう?メリー!!庭に出て“模擬戦”をやろう!!!」

「ふふん、いいわよ?別に。でもまた私が勝っちゃうかも!!!」

「早く早く、庭に出て模擬戦、模擬戦!!」

 そう言ってこの年上幼馴染のガールフレンドの事を急かすと蒼太はメリアリアと共に庭へと出て行くモノの、この時の彼ではまだ、メリアリアの動きを捕らえ切れる訳でも無くて、アッサリと後ろに回られてはそのまま3連敗を喫してしまった。

「あ、あれっ。あれぇっ!!」

「はあ、はあっ。はい、私の勝ち、蒼太の負け!!」

 蒼太が半ベソを掻きながら、情け無い声を出すモノのこの時、彼は悔しさのあまりに思わず涙を流して“ちくしょう!!”とスラングまで吐いたのだった。

 強くなったつもりだった、一年前に比べれば、自分は間違いなく強くなったと思っていたし、その実感も現にあった、だからこそ“これはチャンスなんだ”と思った、神様がくれたチャンスなんだと、絶好の機会なんだと思った、これを活かさない手は無い、今度こそメリアリアに打ち勝って、自分の事を見直させる、そしてー。

 その上で“結婚して?”と改めて言うつもりだったのに、また勝つ事が出来なかった、メリアリアに負けたことも悔しかったが結婚の約束を勝ち取れなかった事も彼を大いに落胆させて、自分自身に失望させた。

「くそぅ。くそっ、くそっ!!」

「そ、蒼太ったら。そんなに悔しかったのっ!!?」

「当たり前じゃないか!!!」

 メリアリアの言葉に、蒼太が絶叫した。

「今度こそ勝って、メリーに僕が強いんだって事、見てもらおうと思ってたのにっ。勝ってメリーに告白しようって思っていたのに、それなのに・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!!!!」

 蒼太からもたらされたあの言葉に、メリアリアはビックリすると同時にまた嬉しくなってしまっていた、蒼太は一年前にしたあの約束を、まだ覚えてくれていたのだ、自分との約束を果たそうと、思いを紡ぎ合わさせようと必死になってくれていたのである、それを理解した時にー。

 メリアリアは蒼太の事を、強く強く抱き締めていた、“頑張って、蒼太!!”とそう言って。

「私の事、お嫁さんにしてくれるんでしょう!!?なら頑張ってよ蒼太、負けないで!!!お願い蒼太、諦めないで!!?必ず勝って?お願いよ・・・!!!」

「・・・・・っ!!!うん。僕、負けないっ。頑張るっ!!」

 涙を拭きながらそう言うと蒼太は立ち上がって“もう一度”と言った、“勝負して?”とメリアリアに告げるモノの模擬戦は基本的に3セット一回であるから、蒼太は記録の上ではまだ3回ほど負けただけである(つまり一番最初に“模擬戦”を行ってからは数えて九連敗中である)、だけど。

「そうよ、その意気よ?蒼太!!!」

 “頑張って!!?”と告げるとメリアリアはまたもこの年下の幼馴染(ボーイフレンド)の事を強くしっかりと抱き締めていた、正直に言ってメリアリアはガッツと根性のある子であり、尚且つ負けん気の非常に強い娘(こ)でもあったがしかし、そんな彼女が“蒼太にだったら屈服してもいい”、“この人のモノにだったらなっても良い”と紛う事無き心の底から、魂の底から本気で希(こいねが)って望むようになってしまっていたのである。

 それと言うのも勿論、あの最初の時に蒼太に感じた感覚と見た夢の影響から彼の事を意識していた、と言うのがあるにはあったがそれだけでは決して無かった、勿論、それらもかなり大きなモノではあったけれども全体を通して見た場合は所謂(いわゆる)一つの“切っ掛け”でしか無くて、本当は蒼太が自分が困っている時には親身になって寄り添い助け、その上更に、優しくエスコートまでもしてくれた、とっても勇敢で精神的にも肉体的にも強くて頼り甲斐のある、暖かみのある男の子だったからであったのだ。

 それだけでは無い、事実として蒼太はメリアリアの事を真剣に考えてくれていたのであり、その上で一生懸命に努力を重ねて来てくれた訳であったのだが、そんな彼から迸る、いじらしさに可愛らしさ、そしてなにより彼の自分に対する本当にピュアで裏表の無い、どこまでも一本気で純情なる“真っ直ぐなる優しさ”、その秘め抱きたる“確かなる暖かさ”に触れた瞬間にメリアリアはまたあの衝動が込み上げてきてどうにもならなくなってしまい、それに突き動かされるようにして彼に強く抱き着いたまま、身体を押し付けるようにする。

 蒼太の鼓動、蒼太の思い、そしてなにより蒼太の存在それ自体を感じた時には胸の内がいっぱいいっぱいにまで満たされた心持ちとなり、非常に深いトキメキを覚えて恍惚となってしまっていたメリアリアはだから、その上しかも、まだ未成熟で理解が充分に及んでいないとは言えども“霊性なる根源”の央芯中枢、その最深部分で少年の事をこれ以上無い程に深く激しく愛してしまっており、恋して焦がれて自分でもどうしようも無くなってしまっていた為に、尚更余計にその思いが態度や行動として非常に強く出るモノの、ただしもっとも。

 だからと言ってメリアリアは、わざと手を抜いて負けるつもり等は毛頭無かった、そんな小細工を弄(ろう)したり余計な駆け引きを前もって施したりするのでは決して無くて、あくまで五分と五分の条件で真正面からぶつかり合ってその上で蒼太に打ち負かされたいと切実なまでに願い続けていたのである。

 それに蒼太だったらそんな事等しなくとも、いつの日にか必ずや、自分を超えて行ってくれる、自分はただただ、それを一生懸命に生きながら、黙って待っていれば良いんだと、彼女はそう考えていたのであるモノの、一方でそれは蒼太も同じであった、やるからには正々堂々、真っ向勝負を行って、それでメリアリアに勝たなければならない事を、そうで無ければ意味が無い事を、この少年はちゃんと理解していたのであった。

 ただし結局この日、もう2回ほど模擬戦をやってみたモノの、蒼太はメリアリアに1回も勝つ事が出来なかったが、しかし。

「ふぅ、ふぅ・・・!!」

「はあっ、はあ・・・っ!!」

 それは3回戦までの戦いであったからであり、あともう2回戦もやっていたならどうなっていたのかは解らなかったが、それと言うのも蒼太の持久力及び体力と言うものが、群を抜いて強かった為である。

 その証拠に2セット(都合6回)戦い抜いたメリアリアは既に息が切れており、肩で呼吸をしていたというのに、彼女より2歳年下の筈の蒼太は(悔しさは浮かべていたモノの)まだまだ余裕の表情を見せており、長期戦になったなら彼の持つそれら長所が遺憾なく発揮される事が、否応なしに見て取れたからだったのだが、そうなのだ、自分よりも2つほどお姉さんの筈であり、つまりはその分早くにメリアリアの方が努力を始めて長く研鑽を積んで来ていた、と言うのにも関わらずにもう、この少年は彼女と殆ど遜色の無い精神力、身体能力を誇っていたのであり、普通に互角に戦えるだけの技量を身に付けていたのである。

 こちらの動きに十二分に付いてこられている上に、完璧に対応までできているのである、その反射神経や動体視力、意識力や直感力等に付いても十二分に目を見張るモノがあったがそれよりなにより一番、彼女を驚愕させたものと言うのが蒼太の持つタフネスさであって、正直に言ってこれは間違いなく、彼の方が彼女を上回っていると言っても過言では無かったのであった、事実として蒼太はまだまだ余力を残している、と言うのに自分は既にクタクタに疲れ切ってしまっており、しかも蒼太だって負けないくらいに早く強く動き回っていたのだから、決して彼が手抜きをしていたのでは無い事は、相手をした張本人であるメリアリアが一番良く解っていたのだ。

「・・・・・!!!」

(本当に凄い子。もう潜在的な能力値では、私を間違いなく追い越してしまっているわ・・・!!!)

 メリアリアはそう思うと同時に再び胸が奥から熱く疼いてくるのを感じていた、ただでさえ、蒼太の事を思うとドキドキとして止まらなくなってしまう、と言うのに、そこへ持って来てその張本人からこんなにも確かな力強さと逞しさとを見せ付けられてしまった以上、それこそ頭がおかしくなってしまうほどに、自分が高まって行くのを感じていたのであり、またもや己で己を抑え切る、と言う事が満足に出来なくなってしまっていた。

(蒼太・・・!!!)

「・・・・・!!?」

 蒼太はビックリしてしまっていた、メリアリアが再び抱き着いて来たからに他ならなかったが少年は今度も何も言わずにそれを正面から受け止めては自らも彼女をしっかりと抱擁して包み込む。

 二人はそのまましばらくの間、抱き合っていたのであるが、ゆがてどちらともなく身体を離すと腕を解(ほど)き、逢瀬はそこで終了するかに見えた、しかし。

「汗、掻いちゃったね・・・?」

「うん・・・」

「ねぇ蒼太・・・?」

「うん?」

 そんな簡単には、少女はこの2つほど年下の幼馴染(ボーイフレンド)の事を離そうとはしなかった、彼の名前を呼ぶと同時にメリアリアは再びの抱擁を交わして薄着でしっとりとした汗に濡れている、素肌同士を密着させる。

 その匂いは甘酸っぱくて高貴なバラを思わせるような香りがして、蒼太は思わず頭がクラクラとして来るモノの、それでも何とか自分を保ちつつも彼女をもう一度抱き止めては、その温もりと感触とを全身で感じて満たされるモノの、それは一方のメリアリアもまた同様だった、蒼太の少し塩っぱい蒸れた体臭はしかし、少しも不快なモノでは無くて、寧ろもっと嗅いでいたくなるような、触れていたくなるような、癖になるようなそれだったのであり、自分達が今、汗まみれのまま密着しているのだと言う事実と認識とが彼女の心に堪らない程の喜びを誘発させて一層、胸が高鳴って来る。

「蒼太、蒼太・・・!!!」

「・・・・・!!?」

 気が付くともはや、自分自身を抑えきれなくなってしまっていたメリアリアは再び少年に自らの肢体を押し付け始めていた、これ以上無い程にキツく抱き締め合った状態から、全身を更に擦り付けるようにグッグッと宛てがい、少しでも多く、少年の身体の感触を肌に、心に、自分自身に刻み込もうと試みる。

 蒼太はそれを黙って受け止め続けていた、彼女の思いが満たされるまでいつまでもいつまでもその場に立ち尽くしては、彼女を抱擁し続けていた訳であるモノの、やがてそれから20分近くも経った頃に。

 ようやくドキドキが収まったのか、メリアリアが身体を離しては赤く上気した頬とキラキラと輝いている青空色の双眸とを蒼太に向けてはホウッとした表情のまま彼を一心不乱に見つめ続けていた。

 二人の衣服はグチャグチャに乱れており、所々肌が露出していた、その状態で身体を重ねていた訳なのであるから当然、蒼太もメリアリアもお互いの温もり、体温を全身の彼方此方(あちらこちら)で感じていた、と言う訳であったモノのただでさえ、まだまだ幼くて拙いそれとは言えども既に少年に対して“確かなる愛情”を抱くに至っていたメリアリアはだから、その張本人である蒼太との逢瀬、邂逅が嬉しくて堪らなくなり、その挙げ句にそれらを通じて少しずつではあったけれどもハッキリとした“性”にも目覚め始めてしまっていた為に、こんなにも夢中になって彼を貪り続けていた、と言う次第であったのだ。

「蒼太・・・!!!」

「・・・・・?」

 一方で。

 自身を見つめる彼女の瞳がいつもより増して熱いモノになっている事に気が付いた蒼太もまた、戸惑いながらもそれでもやはり、何も言わずに彼女のことを黙って受け入れ、また抱き止めていた訳であったモノの、そんな彼氏の態度に余計に嬉しくなってしまったメリアリアは、誰もいないのを良い事に、更に10分間もの間、彼にしがみ付いてはその身を擦り寄せ続けていたのであるが、そうしている内にー。

「はあっ、はあっ。はあぁぁぁぁぁんっっっ❤❤❤❤❤❤❤蒼太っ。蒼太ああぁぁぁっっ!!!!!」

「はあはあっ、メリーッ。メリイイィィィッ!!!」

「お嬢様、蒼太様っ!?」

「はあっ、はあっ。はあっ、はああぁぁぁ・・・っ!!!あああっ!?い、いやあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!?」

「はあはあっ!!・・・?」

 誰かが自分達を呼ぶ声が聞こえて足音が近付いてくると、メリアリアが悲しそうにそう叫んで蒼太に一層、しっかりとしがみ付く、そして。

 辺りをキョロキョロと見渡すと抱擁を解かずに足だけを動かして蒼太を庭の奥へと誘おうと試みて来るモノの、その動きからどうやら隅っこの方で根を下ろしている木々の影へと移動したい様子である事に気付いた蒼太はそれに従って彼女と共に密着を解かないように注意したまま、庭の片隅に植えられていたオリーブやユニファーの木々の裏手に回るとそこで尚もお互いを抱き締めては逢瀬を堪能し続けていた。

 それから暫くして、漸く一頻りは満たされた彼等が互いの身体から腕を解いて見つめ合っているとー。

「メリアリア、どこにいる?蒼太君も・・・!!」

「さっきまでここで、遊んでいた筈だったんだけどねぇ・・・!?」

「・・・・・!!」

「・・・・・!?」

 今度はダーヴィデ伯爵本人と、その妻であるベアトリーチェが心配して顔を覗かせにやって来たものだから、流石の蒼太もメリアリアも出て行かない訳には行かなくなってしまい、乱れた衣服を整えると急々(いそいそ)と木陰から姿を見せた。

「なんだ、二人で隠れんぼをしていたのか!!」

「心配したんだよ?メイドが“二人の姿が見えない”って言うもんだから、何事かあったのかと思ってね・・・」

「はあっ、はあっ。はああぁぁぁ・・・・・っっ!!!!!ご、ごめんなさいっ。パパ、ママ!!」

「ぼ、僕達隠れんぼに夢中になっちゃって。それで・・・!!」

「ああ、まあいいさ。家はただっ広いからね?隠れる場所なんていくらでもあるさね!!」

「遊んでいる最中に済まんな。実はサッカー協会からサッカー観戦に付いての招待状が届いていてな?何でも今回はVIP専用席を用意してくれたらしいので、行かないのは勿体ないと思ってね?」

 “ただし”とダーヴィデは付け加えた、“招待人数は6人までとなっているんだ”とそう言って。

「どうだろう?蒼太君、君の御両親も誘ってみては。そうすれば家と君の所とでちょうど6人となる、せっかくの招待なのだし一緒にどうかと思ってね・・・?」

「まあもし、予定が付かないんだったら、私達も辞退すればいいんだから、あれなんだけれども・・・。取り敢えず一度、あんたんとこの御両親に聞いて来てくれないものかね?蒼太ちゃん・・・」

「・・・・・っ。サッカー観戦、それもVIP席で!?」

「ああ、そうだ。知人に大のサッカー好きがいてね?彼が何やら家の急用で行けなくなってしまったらしいのだ。それで代わりに行って来てくれ、と頼まれてな!!!」

「急で悪いんだけれども、あんたんとこの御両親とも既にして顔馴染みだし。私達もなんだかんだでお付き合いもあるからね、それに誘えば大抵、乗ってきてくれるから声を掛ける甲斐があるってもんさね!!」

「・・・・・」

 蒼太は思わず考え込んでしまっていた、正直に言って自分はあんまりサッカーに興味は無い上になによりかによりの話としては父親である清十郎の存在がある、蒼太はハッキリと言って父親の事を尊敬してはいたモノの、その厳しさについても熟知しており、そう簡単に“良いよ?”と言ってくれるかどうかは解らない情勢だった、この前の花火大会の時だって、奇跡的にOKを出してもらえたモノのしかし、今回は果たしてどうであろうか。

「どうだろう?蒼太君、お父さん達に相談してみてくれないかな。ちなみにクラブチームは地元の“サンジェルマンFC”だそうだ、見応えはあると思うぞ?」

「うーん・・・?」

「行きましょうよ、蒼太!!!」

 蒼太が迷っていると、メリアリアが横から口を出して来た、彼女はラッキーだと思っていた、正直に言ってしまえばそこまでサッカーに思い入れがある訳では決して無いし、ルールだって間違っても詳しくは無いモノの、しかし。

(だけど蒼太と一緒なら。この子とまた、夜にお出かけ出来るんだったら!!!)

 メリアリアは内心でそう思っていたのであり、その事に付いて胸を躍らせ続けていたのであるモノの、一方でそれは蒼太も同じであった、本音を言ってサッカーに付いてはよく知らないモノのしかし、メリアリアと一緒ならばどこに行っても楽しめるし、二人で燥(はしゃ)いで居られる気がしたのである。

「ねっ!?良いでしょ蒼太、ねえねえっ!!!」

「う、うん。解ったよ!!!」

 蒼太がすぐに頷いて答えた、“メリーがそう言うのなら”とそう言って。

「・・・嬉しいっ!!!」

 とメリアリアはそう告げると、思わずその場でジャンプをして見せた、“また一緒に遊べるね!!?”とそう言って。

「後はおじ様達に、許可を得なくちゃね?」

「うん。でもお父さん達が、許してくれるかなぁ・・・?」

「それは問題、無かろうよ」

 すると不安そうな面持ちで言葉を発する蒼太に対してダーヴィデが敢えて明るく答えて言った。

「聞けば清十郎殿達は、蒼太君の思い出作りに協力してやりたいと言う、出来る限りに色々な経験を積ませてやりたい、と言っていてな?それならば問題は無いだろう!!!」

「この前の花火大会も、何だかんだ言ってOKしてくれたからねぇ!!」

 と伯爵の発言にその夫人であるベアトリーチェまでもが頷いて答えるモノの、それを見てもまだ半信半疑だった蒼太が、それでも“メリーの為だ!!”と覚悟を決めて“サッカー観戦”の話を清十郎にした所、意外な事に、と言うべきか、彼はアッサリとOKを出してくれた。

「VIP席か、お父さん達も行った事が無い・・・」

「どんな所か、楽しみだわね?蒼太も嬉しいでしょう?」

「ええ・・・っ!?う、うん、うん・・・っ!!」

 二人の態度に寧ろ、蒼太の方が面食らってしまっており、困惑してしまうモノのそれでもメリアリアにこの事を伝えると、“嘘でしょう!?夢みたい!!!”と言ってまた喜んでくれており、メリアリアも相当に、心配していた事が伺えたがその反動で今度は電話口の向こうでベアトリーチェに“少し落ち着きな!!”と言われている声が伝わって来た。

「それで日時は何時なんだい?」

「う、うん。来週の金曜日。夜七時からキック・オフなんだ、ナイトゲームなんだって・・・!!!」

「そうか、その日はお父さんは早くに帰って来られるな。家族揃って伯爵の所にご厄介になるか!!」

「集合場所は、家で構わないかな?清十郎殿・・・」

「はい、よろしくお願い致します。伯爵、そして夫人・・・!!」

「息子共々、お世話になります!!」

 電話口でお互いに挨拶をして、その日は具体的な日時を決め、そして曜日はあっという間に金曜日となった。

 先の取り決めの通りにタキシード等に正装した蒼太達一行はカッシーニ家に集合した後、やはりドレスアップしたメリアリア達と共に大型のリムジン車を用意されて、それに乗って“サンジェルマンFC”のホームスタジアムである、“パルク・デ・プランス”に向かうのである。

 スタジアムに着くと専用の入り口から中へと入り、清潔清廉に保たれている室内型VIP専用席へと通されると、そこに座っていよいよサッカー観戦の準備が整った。

「パパ。私、蒼太と一緒にポップコーンを買いに行きたいのっ、コーラも。ねぇ良いでしょ?パパ、ママ?」

「うーん、あんまりジャンク・フードはなぁ・・・」

「それに買いに行く必要なんて無いんだよ、こっちに持って来てもらえるんだからね・・・」

「お父さん、僕もメリーと一緒に買いに行きたい!!」

「子供達だけではいけないな、それにやはりああ言ったモノを食べ過ぎるのは良く無いぞ?」

「ベアトリーチェ夫人の言う通り、こちらに持って来てもらいましょうね?せっかくなんだから・・・!!」

「むー・・・っ!!」

「・・・・・っ!!」

 と、メリアリアはソファに座ったままむくれてしまい、そんな彼女の横へと蒼太は心配そうに腰を降ろした。

「ねぇメリー・・・?」

「・・・・・」

「僕、メリーと一緒で楽しいよ?」

「・・・・・」

「だからあの、メリーも怒らないでさ。なんて言うか・・・」

「・・・・・」

「メリーにも楽しんで欲しいって言うか。なんて言うか・・・。楽しみたいな、メリーと・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “もう・・・っ!!”と暫く仏頂面をしていたメリアリアはしかし、次の瞬間、そう言って思わず相好を崩していた、正直、嬉しかった、蒼太が自分に気を使ってくれた事も、一生懸命に話をしようとしてくれた事も、何もかもが眩しくって、喜ばしく映ったのである。

「そうだね、せっかくなんだもんね。今日はいっぱい楽しも?蒼太!!!」

 そう言うとメリアリアはいつもよりも優しい笑顔を浮かべて蒼太の事を見つめて来た、蒼太も何処かホッとしたような笑みを浮かべてメリアリアを見返した、二人がそうやって微笑み合いながら見つめ合っていると、主審のホイッスルが鳴り響いた、いよいよ試合開始である。
ーーーーーーーーーーーーーーー
 蒼太君のメリアリアちゃんに対する気持ちには“いやらしさ”が無いんです、彼女とどうにかなりたい、彼女をこうしてやりたい、と言った“見返り”が無いんですね(“結婚”にしても“ずっと仲良くしていたい”、と言う程度の認識でしか無いんです。しかもそれだって顔が可愛いから、だとか、いい女だから、だとかそう言った事は一切関係ありません、他ならぬメリアリアちゃんだからこそ側にいて欲しい、一緒にいたい、と切実に思っているのです←ただし心の奥底では彼は、“結婚”の大切さに付いてはヒシヒシと感じて知っています、それがどれだけ誠意と愛情を賭ける行為なのか、と言う事を、よくよく理解しているのです、そして蒼太君はメリアリアちゃんがそれを知っている事もまた知っているのです、顕在意識では無くて、自身の“霊性的根源”の部分で感じて知っているのですね、その上で“結婚してあげる”と言ってくれたモノですから、凄く嬉しくなってしまったんです)、まだこの時は、一番真っさらな己自身、本質と言うのが非常に強く出る時期です、メリアリアちゃんは蒼太君の自分に向けられている、そう言った採算や駆け引きを度外視している真愛と真心の迸りを受けたのです、それで一番最初に彼に感じた“大きくなったらこの人と結婚するんだ”と言う思いや夢で見た風景等を切っ掛けとして蒼太君に少しずつ心を開き、かつ惹かれて行ったのですね(メリアリアちゃん自身が凄いピュアで一途な子なので、蒼太君のそう言う部分と同調もしまして、そんなお互いの照り返しで余計に二人の仲が深まって行くんですね)、そう言う事で御座います。

                 敬具。

           ハイパーキャノン。
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