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夫婦の絆と子供への思い

夫婦の絆と子供への思い 7

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 蒼太は“仕事”をする際には常に細心の注意を払うようにしており、現場に証拠や証人を残すような無様な真似はしない。

 それは彼の生まれ持っての用心深さに加えて魔法騎士団育成機関“セラフィム”や魔法剣技特殊銃士隊“セイレーン”に於ける研鑽や活動を通じて更に磨かれ、徹底されたモノとなっていた。

 だから。

 “ルグランジュ侯爵”をそのお抱えの馭者諸共に暗殺した直前直後にもそれは十二分に活かされる事となったのであり、周囲に人影が無い事を確認するのは勿論、自身の履いていた靴をわざわざ“仕事”をする際には履き替えて足取りを掴めなくする事までやってのけたのである。

 更に言うならば、宮廷からルグランジュ侯爵を追い掛ける時にも誰にも見られぬようにしたし、また何よりかによりの話として斬り捨てている最中に“返り血”を浴びないようにも心掛けたのだ。

 そう言った諸々の努力が実を結んだのだろう、彼のルグランジュ侯爵に対する“仕事”は一見、恙無つつがなく完了したかのように見えた、しかし。

 やはり幽霊でもない限りかは、行動の痕跡を完璧に消し去る事は不可能であった、その一つがルグランジュの体に刻まれている蒼太の“太刀筋”と“剣跡”であるモノの、もしこれらを念入りに、かつ徹底的に調べられてしまえば如何に万事抜かり無く行った事とは言えども蒼太への容疑が固まってしまうのは時間の問題と化してしまう所であったのだ。

 だが。

 彼にとって幸いだったのは、ルグランジュ侯爵の暗殺事件が未だに世間には発覚せずに3日経った今現在も“行方不明”扱いされていた点であり、しかも蒼太の仕事を疑ったのが彼の花嫁達であるメリアリアやアウロラ、オリヴィアと、彼女達の父母にして蒼太の義両親にあたるダーヴィデ伯爵夫妻、エリオット伯爵夫妻、そしてアルベール伯爵夫妻であった事である。

「蒼太君、ちょっと良いかね?」

「何でしょう?お義父さん・・・」

 ルグランジュ侯爵をやってから一晩経った次の日の朝。

 フォンティーヌ伯爵家の邸宅を囲んでいる庭園にて、自らが幼い頃に持ち込んだ草花に水やりをしていた青年の元を訪れたエリオット伯爵夫妻が、多少緊張した面持ちで彼に尋ねて来る。

「君に聞きたい事がある、詳しい話はここでは言えないから大広間まで来てくれないか?」

「・・・はい、解りました」

 義両親の顔付きと雰囲気から“ただ事では無い”と見て取った蒼太は水やりを中断して急いで大広間へと足を運ぶと、既にそこにはメリアリア、アウロラ、オリヴィアを始めとした、子供達を除く彼の家族達が勢揃いしていた。

 見るとエリオット伯爵夫妻のみならず、ダーヴィデ伯爵夫妻やアルベール伯爵夫妻の顔もあって、誰もが皆困惑と心配と、やや厳めしい表情を浮かべている。

「・・・どうしたのですか?メリーもアウロラもオリヴィアも。それにお義父さん達やお義母さん達も勢揃いして」

「率直に言おう、今朝方宮廷から少し離れた場所にある小川でルグランジュ侯爵の遺体が発見された」

「ルグランジュ侯爵に付いては、君も多分ある程度の噂は知っていてどんな人物かは推測が出来ているとは思うが・・・。正直に言ってあまり良い足跡を残している存在では無かった」

「そのルグランジュ侯爵が、斬り殺されているのが見付かったのだ・・・。私達が内々に放っている密偵達の手によってな」

「それだけではない。宮廷から自宅へと向かう小川に面している小道で彼のモノと思われる馬車も見付かっているのだが・・・。馭者も惨殺されていた」

「・・・・・」

「ハッキリと言おう。私達は予てよりルグランジュ侯爵を警戒していたのだ、だから常に彼の動向には目を光らせていた。・・・我がフォンティーヌ伯爵家に対しての宮廷工作や数々の妨害工作が明るみに出て以降は特にな・・・」

「なにもエリオット伯爵だけではない、我々もその横暴振りにはホトホト手を焼いていてね?しかも性格が性格だからいつ何時、どんな理由で牙を剥かれてもおかしく無かったから、普段からその言動や指針には神経を尖らせていたんだよ?」

「聞けば今回のフォンティーヌ伯爵家による宮廷晩餐会の饗応役の話も、そしてその為の食材の購入に際してもルグランジュ侯爵の横槍があった、との風聞があるではないか。彼は用心深い上に非常に狡猾で残忍、残虐でな。我等も内心では快く思ってはいなかったのだが・・・」

「・・・・・」

 蒼太は俯き加減となり、一言も口を利こうとしなかったのだが、義父達は足を組んでソファに腰掛けたままで彼を見据え、話を続けた。

「蒼太君、ズバリ聞こう。ルグランジュ侯爵をやったのは、君か・・・?」

「蒼太、正直に答えなさい。自分の真心と誠意に掛けてな?」

「別に婿殿を責めたりはせぬよ。ただ私達は事の真相が知りたいだけだ・・・」

 “今ならばまだ、誤魔化しも利くからな!!!”、“この事を知っているのは我々の手の者だけだからね?”と、代わる代わる述べ立てる義父達とは対照的に花嫁達はずっと蒼太の事を、何かを訴える様な眼差しで固唾を飲んで見守っていた。

 すると。

「僕がやりました。お義父さん、お義母さん・・・」

 もうこれ以上の言い逃れは出来ないと判断した蒼太が真実を口にする。

「・・・・・」

「やはりね・・・」

「動機は?」

 フゥ、と言う溜息を一つ付いたその後で、義父達が再び口を開いた。

「殺そうと思った切っ掛けはなんだい?その目的は?」

「答えなさい、蒼太。正直にね・・・」

「婿殿!!!」

「・・・・・っ。ハッキリと申し上げます、自分やメリー達。そして子供達やそれぞれの伯爵家を守る為です!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「フゥ・・・」

「もしあのまま、ルグランジュ侯爵を生かしておいたら次はどんな事を仕出かしてくるのか想像に難くありませんでした。ですから・・・!!!」

 すると再び一息を付いて宙を仰ぎながらダーヴィデ達は言葉を紡ぐ。

「・・・先手を打ってルグランジュ侯爵をやった、と言うのかね?メリアリア達を守る為に」

「・・・はい」

「我等とアウロラ達。そして子供達の為に、か・・・」

「ううむ・・・」

 ダーヴィデやエリオット、そしてアルベールらが一旦視線を宙に泳がせてから、改めて蒼太に目をやった。

「・・・我等も裏貴族として代々鳴らして来た家柄だ。その歴史の中では何度か怨恨この上ない政敵や国にとって不都合だと判断された者、また或いは手の付けられない極悪人の類いを闇から闇へと葬って来た事も確かにあった」

「その通りだ。だから今回の君の行為を責める事は出来ないし、そのつもりも毛頭ない・・・!!!」

「況してや今回の君の行動は所謂いわゆる“攻勢防御”や“正当防衛”に類するモノだ。しかもそれがルグランジュの毒牙から可愛い娘や孫達を守る為のモノとあらば、それに付いては特に何も言う事は無い。暗殺大いに結構・・・!!!」

 “しかし”と三人は三人ともが、口を揃えて娘婿に告げた、“それならば何故、やる前に一言相談しない?”と。

「不満があるとすれば、そこだな。蒼太、どうして事を起こす前に一言此方に報告しないんだ・・・!!!」

「今回は発見が早かったのと、真っ先に見付けたのがたまたま我等の手の者であったから、幸運にも最悪の事態は避けられたのだよ?」

「婿殿、“急いては事を仕損じる”と言う事もある。せめて一言、我等に伺いを立てて欲しかったな。そこだけが落第点だ・・・」

「・・・・・」

 柔らかな口調で届けられた、義両親達からのその言葉に蒼太は内心で驚愕してしまっていた、それというのも

 彼が誰にも告げずに事を運んだのは“秘密は知っている者が少なければ少ない程守られやすい”と言う事と、もう一つが“いざの際には自分一人で全ての責任を背負って姿を消そう”と思っていた為であった。

 ところが。

 蓋を開けてみると自分にはお咎めが無いばかりか、誰もが皆今回の判断と行動を支持してくれている様子である、これは一体、どうしたことか。

「・・・あの、お義父さん方。怒らないんですか?」

「・・・うん?なんでだい?」

「君はルグランジュの魔手から我が家や他の伯爵家、そしてアウロラ達を守ってくれたのだろう?感謝しこそすれ叱る道理は全く無いよ」

「それにハッキリと言ってルグランジュは殺されても仕方がない男だったからな。多分、殆どの者達が内心ではそう思っているだろうからね・・・」

「・・・・・」

「さてと、こうしてはおられん。急いでルグランジュの遺体を隠匿し、処理しなければな・・・」

「我が家の婿に捜査の手が伸びるのは断じて阻止しなければならん!!!」

「まだ事件は明るみに出てすらいないからな。今ならば内々に事を運べる筈だ・・・」

 尚も戸惑う娘婿に対して“蒼太君”とまずはエリオット伯爵が語り掛けた、“君は何も心配する必要は無いんだよ?”とそう続けて。

「君は私の、いいや私達全員の大事な息子だ。私達は君を信じているし、その心の有り様も行動の意味合いも理解しているつもりだよ?」

「君は優しくて暖かい人間だ。その君がこんな事をする位だったのだから、相当な覚悟と決意を持って事に臨んでいたのだろう?」

「私達や娘達を思っての行動、誠に痛み入る。その責任をだから、婿殿一人に背負わせはしないよ・・・」

 “それに”とダーヴィデを始め、エリオットもアルベールも口を揃えて言い放った、“今度は私達が君を救う番だ”とそう述べて。

「君は、私達を“父”だと言ってくれた。私達から見ても君は大事な息子なのだ、娘婿以前にな?父親としては息子の窮地を、黙って指をくわえて見過ごす事は出来ん!!!」

「お義父さん・・・!!!」

 “私達の力の及ぶ限り、全力で守り支えるよ?”と微笑みを浮かべつつも力強く断言してくれた義父達の思いを受け止めて、蒼太は深々と頭を下げるがダーヴィデやエリオット達がここまでこの、娘婿の青年に肩入れするのにはある理由があった。

 それは青年になってから出会ったアルベールはともかくとしても、ダーヴィデとエリオットの二人は共に幼い頃から蒼太を知っていて信頼していた事に加え、以前蒼太に救われた事があった為だったのだ。

 それと言うのはー。

 今から7年ほど前の事、ダーヴィデは帰宅途中に“交通事故”に巻き込まれてしまい意識不明の重体となってしまった事があった、その容態は予断を許さず極めて危篤であり、早急に手術をしなければ助かる見込みもない、と言う状況にまで追いやられてしまっていたのである。

 ところが。

「誰か、お願い。お父さんを助けて!!!」

 ある一つの問題が巻き起こった、手術中に輸血する為の血液が足らずに充分な量を用意出来なかったのだ。

 医療チームから説明を受けたメリアリアは涙ながらに訴えて親戚縁者に片っ端から電話を掛けていったのだが当時、皆海外旅行や仕事のかどで国外に出ていてとてもの事、このままでは間に合いそうに無かった。

 そこへちょうど任務が終わった蒼太が急いで駆け付けてきたのだが、幸いだったのは彼の血液がダーヴィデの型と一致していた事に加えて拒絶反応や副作用の出る確率が極めて少ない、理想的なモノだった事であった。

 しかし。

「ダーヴィデ伯爵は大分血を流されていましたから、蒼太さんには命の安全のギリギリまで血液を輸血していただかなくてはなりません。果たしてそれでも足りるかどうか・・・」

「義父の容態はどうなのですか!!?」

「・・・まだ何とも言えませんが。少なくともこのままいったら最悪の事態になる事だけは確かです。とにかく血液が足りないのです!!!」

「そ、そんな・・・っ!!?」

「・・・・・」

 悲痛な叫びを挙げるメリアリアに対して蒼太は、医者からの言葉を聞いた瞬間“取れるだけ取って下さい”とにべも無く言い放った。

 その瞳に怯えの色は些かも見られず、反対に彼は覚悟を決めたかの様な眼差しと表情で言葉を綴るが、それを聞いた医者達は度肝を抜かれただけでなく、皆が皆、反対する。

「それは極めて危険です、蒼太さん!!!」

「体の主要な部分に血液が行き渡らなくなる事で、蒼太さんにも何某かの後遺症が残ったり、副作用が出るかも知れません。下手をすれば命に関わるかも知れないのですよ?もしそんな事になってしまったら・・・!!!」

「構いません、だから義父を助けて下さい。血液があれば助かるのでしょう!!?」

「あ、あなた・・・っ!!!」

 医者や看護師からの制止を聞かされたメリアリアが愕然とした、それでいて不安そうな顔をするが、蒼太はあくまで毅然とした態度を貫いた。

「僕なら大丈夫です、義父をどうか助けて下さい。先生!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「ダメぇ、あなたっ!!!」

 “解りました・・・”とその鋼鉄のような決意を聞いた医者達が、自分達も覚悟を決めて手術の準備に取り掛かろうとする中、メリアリアが悲痛な叫び声を挙げる。

「止めてぇ、あなたっ。あなたまで失ってしまったなら私は一体、どうすれば良いと言うの!!?」

「・・・大丈夫だよ?メリー。僕は必ず生きて還って来るから、それも五体満足でね!!!」

「嫌よ、嫌ぁっ。私を一人にしないでっ!!!!!」

「・・・だけど、それじゃあ。お義父さんが助からなくても良いのかい?メリー」

「ヒッグ、グス・・・ッ。そ、それは・・・っ!!!」

 泣きじゃくって夫に縋り付きながらも、合間合間でメリアリアは必死に彼を思い留まらせようとするモノの、意志の硬い彼を翻意させる事は叶わなかった、否、それどころか。

 逆に実父であるダーヴィデの事を突き付けられてますます狼狽してしまう始末であったが自分の最も親しい存在である親を取るか、それとも最愛の伴侶を取るのかと言う究極の二択に愛妻淑女は答えを出すことが出来ずにその場で泣き崩れてしまった。

「僕なら大丈夫だから。メリー、待っててね・・・?」

「ウウッ、ヒッグ・・・。うん・・・!!!」

 結局はそうやって送り出すしか無かったメリアリアはそれから夫と父が手術室から出て来るまでの間、
神に懸命に祈り続けた、そしてー。

 その甲斐あってか手術は無事に成功し、また予想よりも短い時間で術式全体が終了した事により蒼太もその血液の3分の2以上を辛うじて保つ事が出来たのだ。

「あなたぁっ!!!」

「あはは・・・っ。ね?言ったろメリー、大丈夫だって・・・!!!」

 手術室から出て来た夫に涙ながらに飛び付いた彼女は心の底から“良かった・・・”と安堵の言葉を投げ掛けた、“もしかしたなら蒼太は死んでしまうかも知れない”、“そうなったら私はどうしたら良いの?”と彼女は半ば本気で思い詰めており、また考え倦ねていたのだ。

 続いて。

「あんたっ!!!」

「お父さんっ!!!」

 医者や看護師達に付き添われ、移動式ベッドに横たわったままのダーヴィデが運ばれて来るモノの医療チームからの“手術は成功しました”、“もう大丈夫です!!!”の声を聞くに付け、普段は強気なベアトリーチェは安心するのあまりに一気に気が抜けてヘナヘナとその場に座り込んでしまい、メリアリアは蒼太にしがみ付いたまま思わず宙を仰いで“はぁ・・・っ!!!”と胸の内から息を吐き出した。

 その後の経過は順調であり、持ち直したダーヴィデは意識を取り戻して暫くの間入院し、後日改めて精密検査を受けた結果“特に問題は無い”との判断が下されたので、無事に退院する運びとなったのである。

「有り難う、蒼太。本当に有り難う!!!」

「あはは・・・。大袈裟ですよ、お義父さん・・・」

 後日、カッシーニ邸に戻って来た後で、大広間でお茶を嗜んでいた折、来訪して来た蒼太に対してダーヴィデは改めて礼を言った、“君のお陰で命拾いしたよ、本当に助かった!!!”とそう告げて。

「聞いたよ?私の為に自分の命を危険に晒してくれたんだってな、ベアトリーチェとメリアリアが話してくれた・・・」

「・・・良いんです、お義父さん」

 するとまだ療養の身で、ベアトリーチェやメリアリアに付き添われたままソファに座った状態で語り掛けてくる義父に対して蒼太は静かに告げた。

「あなたはメリーにとって大切な人です、掛け替えの無い人なんです。この子の幸せを守るのが、僕の何よりの役目ですから・・・」

 “それに・・・”と蒼太は尚も続けた、“私にはもう、両親は居ません”と。

「私にはもう、父も母もいないのです。自分が小さい時に亡くしてしまったんです、お義父さん。この上更にあなたまで失う事になってしまったなら・・・。僕は一体、誰を“父”と呼べば良いんですか!!?」

「・・・・・っ!!!」

「ウ・・・ッ!!!」

 その言葉を聞いた瞬間、メリアリアとベアトリーチェは思わず涙ぐんでしまっていた、彼女達は蒼太が幼い頃に実の両親を亡くしてしまった経緯を知っているし、またその事でまだ少年だった蒼太がどんなに苦しんだか、どんなに悲しんだかも目の当たりにして来ているのだ、だから彼の言葉に込められた思いは解るつもりであった。

 そしてこれは何もメリアリアやダーヴィデ達に限った話では無くて、アウロラとエリオット達も、またオリヴィアとアルベール達も蒼太と言う男性に意識を向けた際にはどうしても考える事を避けては通れない事柄だった、皆この黒髪の娘婿の生い立ちを知っていたし、それに彼に助けてもらって来たからである。

 例えばアウロラの実父であるエリオットであるが彼は6年前に突然、白血病に罹患してしまい完全回復は最早困難であると、本人を含めてアウロラもマクシムも、フォンティーヌ一族の内で誰も彼もが疑わずに絶望のどん底に叩き落とされてしまった事があったがその際にも蒼太は己の故国である日本は九州にあると言われる、とある病院を紹介してエリオットを救いに導いていた。

 ここは通常のそれとは違い、“血液は腸内で造り出されている”と言う学説を採っており“白血病を完治させるメカニズム”を自己流で確立させている場所だったのだが、それが奏功してエリオットは短期間でモノの見事に復活を遂げる事が出来たのだ。

 またアルベール伯爵に関しては鍛錬の最中に誤って家宝の剣を折ってしまい、“御先祖や子孫に申し訳が立たない”、“死んでお詫びするしかない”と本気で考え、焦燥すると同時に意気消沈しているのを見かねて日本の京都にいる刀鍛冶を紹介して見事に剣を打ち直し、また彼の英気を取り戻させたのである。

 その際も蒼太は“有り難う”と言われた時に、ダーヴィデ伯爵に放ったそれと同じ言葉を口にしたが、これは何も彼が花嫁達の目の前で“格好を付けよう”として告げたモノでは断じて無かった、あくまで彼の真心から出た誠意の断片だったのである。

 蒼太は既に、実の両親を失ってしまっておりどんなに親を求めようとも彼等は手の届く場所には存在していなかった、話がしたい、恩を返したいと思ってもそれは二度と叶う事は無い夢でしかったのだ、しかし。

 そんな彼にも再び“親”と言える存在が出来た、言わずもがなメリアリアやアウロラ、そしてオリヴィアら花嫁達の両親であるダーヴィデ夫妻、エリオット夫妻、そしてアルベール夫妻である。

 蒼太は思ったのだ、“せめてこの人達に恩を返そう”と、“実の両親に果たせなかった分まで花嫁達と共に親孝行をして行こう”と。

(自分の目の黒い内は、二度と再び親を失ってなるものか!!!)

 そう考えていた蒼太はだから“義理の”とは言え、両親達に危機が迫った際には何とかして助けようと必死になった、勿論メリアリア達に対する思いから“なんとかして助けてあげたいな”との情意を胸の内に抱いた部分も否めないが、それより何より他ならぬ、自分自身の為にやったのであった。

 そしてそんな彼の本心は、気迫と覚悟のある行動を通じて何となくだがメリアリア達は元より、義両親本人達に伝わる事となり、それが故にダーヴィデ達は彼の事を“血の繋がりの無いだけで本当の息子である”と認識するに至っていたのだ。

 だからダーヴィデ達は彼を助けたのだ、単に恩返しの為だけでは無い、“全身全霊で蒼太に向き合い、彼を正しく理解する”、“見極める”。

 “その持てる魂の輝きを見出しては息子の事を信じて支える”、“彼の事を守る”と言うのは親として当然の役割であり、彼等の愛情の赴く先だったからである。
ーーーーーーーーーーーーーー
 これは後で物語中に詳しく出て来ますが。

 何で急にカッシーニ家やフォンティーヌ家、フェデラール家それぞれの当主に不幸が襲い掛かって来たのか、と言いますと、それは(直接的なモノでは無いにせよ)“大魔王ゾルデニール”と関係があるのです。

 あの戦いのラストで蒼太君は(ゾルデニールと彼の引き起こそうとした厄災を確実に葬り去る為に)カッシーニ家やフォンティーヌ家、フェデラール家に代々伝わって来た神宝である“光輝玉の金剛石”と“蒼水星の青煌石”、それに“銀水晶の黒曜石”の力を借りました(これら神宝はメリアリアちゃんやアウロラちゃん、オリヴィアちゃんの御先祖様達が大地母神“ガイア”から祝福と共に授けられた代物でして、メリアリアちゃん達一族に“神の力”を授けると同時に様々な災いや怨念から彼等を守り抜いて来たのです)。

 それらは役目を終えた後、再び元の場所に戻って安置されていたのですが、その力を著しく消耗してしまっていたのでした(完全回復には10年ほど掛かる見込みである事が解って来ました)。

 それで暫くはこれ以上、神宝に余計な負荷を掛けないようにするために悪目立ちして恨み事を買うような行動は一族各位の努力により避けられていたのですが、時既に遅く神宝の力が弱った所へそれまで防がれて来ていた筈の、“裏家業をやって来た事に対する報い”とでも言いますか、今まで始末されて来た人々の恨みや怒りと言った負の感情、所謂(いわゆる)“魔”が入り込んでしまったのです(それで一族を代表する立場である当主達が祟られて禍に襲われ、突然の病に耽ったり交通事故に遭ったりしたのです)。

 しかし蒼太君が命懸けでダーヴィデ伯爵達を守った事により“魔”は払われ、また10年の歳月を経て力を取り戻した神宝の高次元かつ強大なる光の波動の影響により、今では禍は完膚無きまでに打ち砕かれて遥か彼方にまで吹き飛ばされ、蒼太君達一族には安寧と幸せな日々が戻って来ている、と言う訳です(詳しくは後の話で出て来ますが、つまりはもう一波乱ある、と言う事です←今までの話に比べればちょっとしたモノですけどね。ちなみに蒼太君やメリアリアちゃん達よりも子供達が活躍します)。
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