メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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夫婦の絆と子供への思い

大甕星

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「これはこれは・・・。遠い所をようこそ」

 ルテティアから高速道路に乗りイタリア製の“ランチャー”を走らせる事6時間強。

 蒼太はガリア帝国の誇る国立アルヴ天文台群へと到達していた、ガリア帝国でも南方の国境地帯にあるここはアルプスの山々に囲まれた高地にあって、標高は高くまた空気も澄み渡っていたから365日24時間、極めて精度の高い天体観測を行う事が出来ていたのだ。

「あなたの噂はかねがねうけたまわっております、蒼太どの。なんでも若くして“聖人”の称号を得られ、そのかどで妻を3人もめとられたとか・・・!!!」

「・・・まあお陰様で。妻達とは仲睦まじく暮らしております、ジョセフソンさん」

 と蒼太は挨拶を兼ねて初老の紳士である天文台群の総責任者であるジョセフソン・バートリー氏に握手を返した、彼は今年で56歳になる生粋の天文学者であり、文字通り人生を天文学に捧げて来た生き字引であったのである。

 人柄は穏和で物腰は柔らかだが、しかし判断力は鋭く、かつ正義感に溢れる信頼に足る男だった。

「早速ですけど、ジョセフソンさん。あなた方の観測網には正体不明の暗黒惑星が引っ掛かっていますね?それも数年前からだ・・・」

「・・・・・」

「私も裏組織に所属している人間です、そう言った事は極秘情報として耳に入って来ています。ただそれを一般のマスメディアに流してしまえば国民達の手前、収集が付かない事態になってしまうために“暗黒惑星”の存在自体が伏せられている、と聞きました。今日はその件に付いてお伺いに来たのです・・・!!!」

「・・・・・」

「私にその詳細なデータを渡していただきたい。あなた方に決して御迷惑は掛けませんから・・・!!!」

「・・・・・」

 蒼太の話を瞑目しつつも落ち着き払った表情で聞いていたジョセフソンは、“ふうむ”と考える素振りを見せた。

「蒼太どの。確かにあなたの仰る事は事実だ、これはここだけの話としてもらいたいのだが・・・。くだんの暗黒惑星は確かに、私達の観測網に引っ掛かって来ている!!!」

 どうやらジョセフソンは嘘や隠し事が出来ない体質らしく、両腕を組みながら更に話を先に向かわせようとした、その時である。

「・・・・・っ!!!」

(あ、あれぇ・・・っ!!?)

 不意に蒼太が身に覚えのある人々数名の気配を感じて怪訝に思っていると直後に。

 キキィ・・・ッ!!!と数台の自動車の止まる音が響いてコツコツと女性のモノと思しき足音が地を伝わって来た、その次の瞬間。

「・・・・・っ。やっぱり!!!」

「ああっ。蒼太さん・・・っ!!!」

「こんな所にいたのかっ!!!」

 重々しい観測所の扉が開くと同時にメリアリアとアウロラとオリヴィアとがその場に姿を現した、彼女達は口々にそう言うが早いか蒼太に近寄り、そしてー。

 パァンッ!!!と蒼太の頬を次々に叩いていった。

「・・・・・っ。い、いてっ!!?」

「当たり前じゃないっっっ!!!!!」

 メリアリアが怒りを滲ませた、しかし涙を溢れさせた眼差しを彼に向けつつ訴えた。

「どうして黙って出て行くのっ!!?どうして1人で行っちゃうのっ!!!!!」

「なんで私達に相談してくれないんですかっ!!?蒼太さんっっっ!!!!!」

「そんなに私達が信用出来ないかっ!!?それとも私達が足手纏いなのかっっっ!!!!!」

「・・・・・っ。えええっ!!?ち、違う違うっ。違うんだってば!!!!!」

「じゃあどうしてっ!!!なんで私達になんの相談も声掛けもしてくれないのっっっ!!!!?」

 そう言って詰め寄る3人の愛妻達に対して蒼太は暫くの間、今回の事態の発端と己の心持ちとを説明し、かつ言い訳をしなければならなかった、曰く。

 “神様が自分の夢枕に立ってお告げを述べた”、“自分は事実の確認の為にここまで来た”、“もし事の正体が判明した暁には皆に説明して協力を仰ぐつもりだったんだ”とそう言って。

「別に秘密にしていた訳じゃ無いよ。だってまずは事態の確認をしないと、今後の対策も立てられないだろう?そう思ったからさ。まずは僕が行ってみて、様子を伺ってこようと思ったんだ・・・!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「それに、さ?メリーにもアウロラにもオリヴィアにも。いっぱいいっぱい無理させちゃっていたから・・・」

「無理なんて、そんなこと・・・っ!!!」

「無理させちゃっていただろ?」

 “だってあんなにイキまくって。アヘ顔をキメて乱れてたじゃんか・・・!!!”と蒼太が彼女達の耳元で小声で述べると3人はそれぞれに“エッチッ!!!”、“はしたないですっ!!!”、“いやらしいぞっ、蒼太っ!!!”と今までとは違った意味で再び顔を真っ赤にして怒り、夫にまたもや手を上げる。

「・・・・・っ。い、いててて!!!」

「も、もうっ。蒼太ったら破廉恥だわっ!!!!?」

「なんて事を言うんですか、反省して下さいっ!!!!!」

「いかに夫婦とは言えども言って良い事と悪い事があるっ!!!!!」

 そう言って恥じらいつつも憤りを隠そうともしない妻達を何とかなだすかしつつ、蒼太は10分程の時を費やして彼女達を落ち着かせる事に成功した。

 そして。

 事情を飲み込み、また自らの気持ちを汲んでくれたメリアリア達と共に改めてジョセフソンへと向き直る。

「・・・仲睦まじくてよろしいですな?」

「い、いやぁっ。あはははははは~・・・っ!!!」

 些か胡散臭いモノを見るような視線を向けて来るジョセフソンに対して頭を掻きつつわざと明るい笑みを浮かべる蒼太であったが、そんな彼等の人となりをみてジョセフソンは“取り敢えずは信用して良い人物達だ”と判断してくれたらしく、事の詳細を明らかにしてくれたのである。

 それによるとー。

くだんの暗黒惑星が見え始めたのは、実は今から10年以上前の話なのですよ・・・」

「えっ?10年以上も前なんですか!!?」

 流石に驚きを隠せずにいた蒼太達に対してジョセフソンは神妙な面持ちとなり頷いて続けた。

「当時は我が国だけで無く、合衆国ステイツのNASAやイワン雷帝国の宇宙科学局等がこぞってこの謎の暗黒惑星への興味をそそられ、政府主導の元で極秘裏に何機かの探査機を打ち上げたのですが・・・。結果は1機たりとも詳細な調査データを送る事無く“撃墜”されたのです!!!」

「・・・・・っ。“撃墜された”?制御不能で自壊したのでは無くて?」

「そうです」

 蒼太の言葉にジョセフソンは力強く頷いて応えた。

「何が起きたのか、その全容は解りませんが・・・。撃墜の瞬間、極めて強力な硬X線ビームの照射を確認しています。明らかに人為的なモノでした!!!」

「・・・・・っ!!!では博士はあの星に人類が居る、と?」

「恐らくは・・・。それも極めて高度な化学技術力を持つ、何者かが定住しているのでしょうね。ただし不可解な事もあります」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・不可解な事、とは?」

「探査機が撃墜される直前に送り込んで来たデータではあの星に生命反応は無く、またなによりかによりの話として生命が永住出来る環境下には無かったのです!!!」

「・・・・・」

「・・・・・?」

「それでは辻褄が合いません」

 その話を聞いて考え込んでしまう蒼太達に代わってオリヴィアが発言する。

「博士。あなたは今し方、御自分の口から“高度な文明を持った何者かが存在している”旨の事柄をおっしゃった。にも関わらず生命が永住出来ないとは、一体どう言う訳なのですか?」

「あの星の大きさや大気組成、そして大地の組成は火星に酷似しています。要するにあれは岩石惑星であり、確かに人が住もうと思えば出来ない事は無いのですが・・・。その為には幾つか条件があります、まずは星の軌道を連続生存可能領域、通称“ハビタブルゾーン”に固定させること。第二は大規模な“テラフォーミング”を実施することです」

「・・・・・」

「星の軌道・・・?それってもしかして」

「公転周期の事ですか?」

「その通りです」

 メリアリアとアウロラとが発した言葉に博士は静かに頷いた。

「調べて見たところあの星は極めて長大なる楕円軌道を回っています。もしかしたなら太陽の伴星かも知れないのです」

 “実は・・・”とそこまで普通に話していたジョセフソンが、声を落として話し始めた。

「私達天文学者の間では、かねてよりある星の存在が議論の的になって来たのです。“それ”はかつて“アヌンナキ”を生み出して地球上に“メソポタミア文明”を誕生させ、世界中の様々な神話や伝説の中にのみ語り継がれる星・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・謎の惑星“ニビル”ですね?」

 蒼太の言葉に博士は瞑目しつつも頷いた。

「伝説ではニビルは楕円軌道を描いていた、とされています。それだけではありません、かの星が回遊して来る度にその重力等の影響で太陽系の各惑星には多大な混乱と大きな爪痕が残されたと、記されているのです」

「・・・この接近している惑星が、ニビルであると言う確証は?」

「・・・今の所は、まだなんとも。ただし“可能性は極めて高い”としか言いようがありません。そしてもしそれが事実であれば、今回のニビルの接近が地球上にどんな影響をもたらして来るのか、想像も出来ません!!!」

「・・・あの、でも。だとしたならどうしてそれを皆に黙っているんですか?」

 そこまで話を黙って聞いていたメリアリアが少しキツ目な声で詰問した。

「そんな厄介な天体現象が起きているのならば、尚更私達や一般の国民達にも早期に知らせるべきだと思いますけれど・・・!!!」

「私達はこのままでは、早かれ遅かれ混乱の渦に巻き込まれる事になってしまいますわ?そうなってしまってからでは本当に手の打ちようが無くなってしまいます!!!」

「いかに混乱を押さえる為とは言えども、ここまで来ると隠蔽体質も度が過ぎると言わざるを得ませんね・・・!!!」

 そんな愛妻淑女の言葉にアウロラとオリヴィアも同調するモノの、そんな彼女達を尻目に蒼太は別の事を考えていた。

「・・・博士」

「・・・・・?」

「先程面白い事をおっしゃられていましたよね?あの星は到底、人が住める環境では無い、と・・・」

 “しかし”と蒼太は話を続けた、“ニビルからはれっきとした攻撃を受けている”と。

「その矛盾点を越えた所にある答えをいただきたいのです。あなたは多分、その答えにある種の確信を持っていらっしゃるんじゃないですか?」

「・・・・・」

 “ニビルは一種のコスモ生命体なのだ”とジョセフソンは言った。

「・・・・・」

「・・・・・?」

「なんですって?」

「コスモ生命体・・・?」

「そうです。皆様方も地球を一つの生命体“ガイア”として捉える思想があることは御存知でしょう?あれのニビル版です、ニビルは星自体が意志を持っているコスモ生命体なのです。そう考えれば辻褄が合います!!!」

「・・・・・」

「そんな、嘘でしょ・・・っ!!?」

「星自体が意志を持っているって・・・っ!!!」

にわかには信じられんがなぁ・・・っ!!!」

「全て事実です。恐らくニビルは星自体の自転と地磁気の地場の集約を利用して硬X線ビームを生成し、発射したのです。しかも探査機に対して正確にね、これならば生命反応が無かったあの星から攻撃を受けた理由にも納得がいきます」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「思えばニビルは昔から、世界中の人々の信仰の対象でした。昔の人々はやって来る度に絶大に過ぎる力で自然や地球そのものに大きな影響を与え、場合によっては深い爪痕を残して行くニビルを荒ぶる神と捉えたのでしょう。そしてその神を押さえて宥め、或いは封じ込める為に様々な儀式を開催し、それらを受け継いで行ったのです・・・」

「・・・日本にも“大甕神社”と言う神域がある。そこにも“オオボシカガセオ”と言う名前でニビルは祀られているんだ。いや、正確には“封じ込められている”と言った方が正しいのかも知れないね。昔の人々は確かに、ニビルを恐れていた。だからその厄災を被らないように必死になって神々に祈り続けたんだ」

「・・・あなた方はニビルをどうするおつもりですか?あの来る度に厄災をもたらす自由で気ままな破壊神を!!!」

「・・・そんなの、決まってるじゃないですか」

 そこまで涼し気な顔付きで話す蒼太にジョセフソンが尋ねると、彼は静かに、しかしニッコリと微笑みながらこう答えた。

「根性を、叩き直してやるんです。人間の側からの荒ぶる神に対する反抗と言いますか、挑戦と言いますか。ま、一種の物言いですね・・・!!!」

「・・・・・っ!!?」

「・・・・・っ!!!」

「か、神を討つ。と言うのか・・・?」

「僕達なら出来るよ。メリー、アウロラ。オリヴィア!!!」

 “大丈夫”と蒼太は言った、彼女達に不安を与えない様に、極力優しくしかし平然とした声で。

「僕の“龍神神威”とメリーの“絶対熱の極意”、アウロラの“星震魔法”にオリヴィアの“極閃呪文”。これらが真に一つとなった時ニビルは、オオボシカガセオは僕らの足下にひざまづく。ましてや神々が力を貸して下さっておられるんだよ?成し得ない事なんて何も無いよ!!!」

 “そうだろ・・・?”とまるで少年の日のような無邪気な顔をして述べ立てる夫に、些か呆れて脱力しながらも、メリアリア達は“やれやれ・・・”、“しょうがないかな・・・”と言った顔で微笑み返した。

「・・・ニビルを。星を、砕く!!!」

 それを受けて蒼太はハッキリと言い放った、“健御雷神も御笑覧ある”、“必ず成功させるよ”とそう続けて。

「だけど相手は荒ぶる神だ、相当な抵抗が予想されるけど・・・」

「・・・いいわ!!!」

 先程までとは打って変わってちょっぴり申し訳無さそうな面持ちとなってそう告げる夫に対して、メリアリアがまずは口を開いて怯む事無く頷いた。

「私は、あなたと共に生きる。そしてあなたと共に死ぬ!!!例え神様だって私達の絆を壊すことなんて出来ないわよっ!!!!?」

「その通りですっ!!!」

 その言葉を受けてアウロラが続く。

「私達はもう、どこまでも一つになっているんですもの。離れる事は永久にありませんわっ!!!!?」

「そうだとも。蒼太、私達はずっと一緒だ。今までも、そしてこれからもっ!!!!!」

 “私達は!!!”と強い決意の光りをその碧空眼に宿しつつもメリアリア達は異口同音に述べ立てた、“あなたと共にあるのならば例え地獄に堕ちても構いはしないわっ!!!!?”とそう続けて。

「だからやりましょう?神への反抗。人間だっていつまでもやられっ放しじゃないんだって事を、見せ付けてやりましょうよ!!!」

「私達がただ大人しく、破滅と混沌の時を迎えると思ったら大間違いです!!!」

「相手がなんだろうと知った事か。私達は全力で今、この瞬間を生きるだけだ!!!」

「・・・みんな」

 “有り難う”と蒼太はその場で頭を垂れた、そんな夫を妻達は心からの微笑みを浮かべて見つめていた。

「本気なのですね・・・?」

「ええ本気です、博士。こう言ったらなんですがうちの妻達はこうなったら強いですよ?例え相手が荒ぶる神であろうとなんだろうと手が着けられないですからね!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “解りました”と暫しの沈黙の後に、ジョセフソンは頷いた、彼もまた、蒼太に賭けてみようと考えたのである。

 蒼太自身は知らなかったが彼には昔から人を惹き付けると言うか、人をその気にさせてしまう何かがあって、そしてそんな人間としての魅力の影響をもろに受けていたメリアリア達は特に蒼太に対する限りない程にまで深い愛情や信頼と相俟って、底知れぬ位にまで強固な縁で彼としっかりと結ばれていたのであった。
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