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夫婦の絆と子供への思い

ブルボン・ジャパン株式会社

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「本日は我が“ブルボン・ジャパン株式会社”にようこそおいで下さいました、セザール公爵殿下・・・!!!」

「うむ・・・」

 日本に来てから八日目の、午前11時ちょうどにブルボン公爵セザールは漸く新潟県入りを果たして現地にある“ブルボン・ジャパン株式会社”の本社ビルを訪ねていた。

 実は事前連絡を受けていたブルボン本社ではこの日の為にと英語やフランス語が出来る社員をわざわざ東京を始めとする各地から呼び寄せ、またブルボン公爵一行やって来る、と言うので知識人よりガリア式の礼儀作法まで一通りレクチャーしてもらっていたのであったが、これらの内でコミュニケーションに関しては護衛兼通訳の蒼太達が同道していた事もあり、過剰な気遣いと言うか、大袈裟に過ぎる反応に終わった。

 また礼儀作法に関してもセザールはそれほど気にしている様子では無くて、“それよりも早く社内を案内してくれたまえ”と言った塩梅であったから、どうなる事かとハラハラしていたブルボン株式会社の役員連中は“これならば行けそうだ”と、内心でホッと胸を撫で下ろしていたのである。

 そんな中に於いて。

「・・・・・っ!!?」

「・・・・・っ!!!」

 セザール一行の出迎えに来ていた1人の女性役員の姿に、蒼太の足がハタと止まるがその人は見るからに外国人の女性であった。

 身長は163cm前後と言った所か、顔はエレガントな美人系でやや濃ゆい、ウェーブの掛かったストレートロングな金髪と群青色の両目が特徴的である。

 全体的にスラリとしていて細身な体付きだが、胸や尻など出るべき所はしっかりと出ており、腰は括れていてその上からビシッとスーツを決めている、まさに“現役バリバリのキャリアウーマン”と言った風貌であったモノの、しかし。

「・・・エリカ!!!」

「・・・・・」

 蒼太が目を見張ったのはそこでは無い、何を隠そう彼女こそはかつて“エリカ・ヴァンセン”と言う名で知られていた、エイジャックス連合王国の王宮直衛騎士団“レウルーラ”が誇る最高戦力、“超新星”の1人であったのだ。

 もっとも。

 彼女はこの世界の存在では無くて、パラレルワールドの一つであり飢えと戦乱の世界線である“ガイア・マキナ”の人間だったのである。

「・・・・・」

「・・・・・」

(どう言う事だ?なんでエリカがここに・・・。しかも見た目が若すぎる、アンチエイジングを施していたとしても既によわいは40を越えている筈なのに・・・!!!)

「・・・・・っ。蒼太?」

「蒼太さん?」

「どうしたんだ?蒼太・・・」

 場の空気がピッと張り詰め、蒼太が臨戦態勢に入るがそんな夫の姿を目の当たりにした妻達が怪訝そうな顔付きとなり彼を見つめるが、一方で。

 エリカもまた蒼太の存在に気が付いて明らかに動揺していたが、彼女本人は“戦いはゴメンだ”とばかりに戦闘態勢は取らずにサッと目を逸らして俯いてしまった。

「・・・・・?」

(どう言う事だ、奴はやる気が無いのか?戦闘の意志がまるで感じられないが・・・)

 “もしかしてこちらを油断させる為のポーズか何かか・・・?”等と蒼太はそこまで疑って掛かり、自然と妻達を庇える位置に立って密かに油断無く身構えるが、彼がここまでエリカを警戒するのには訳があった。

 “ガイア・マキナ”に於いて何度となく彼女と剣を交えた事のある蒼太は“超新星”としての彼女の強さを嫌という程にまで良く良く知り尽くしていたのだが、それだけでは無くてエリカは通称を“血塗れのエリカ”、“皆殺しのエリカ”と呼ばれる程にまで狂暴で凶悪な殺人気質の持ち主だったのだ。

 彼女がそれまで斬り殺して来た人数は敵味方合わせて実に3桁にも昇る、とも言われており、またその実力も確かなモノで“たった1人で小国の軍隊に匹敵する”と言われる程の戦闘能力を誇っていた。

 所が。

 彼女は確かに、優れた戦士ではあったけれども日々の生活や言動があまりにも血生臭過ぎた、そしてとうとうその残虐性と危険性を理由にレウルーラ内部で粛清されそうになった所を追撃隊を返り討ちにして逃走、以後消息不明となっていたのであるモノの、そんな彼女が何故に平和で豊かで幸せが満ち満ちている国、日本皇国に於いて安寧の内に暮らしているのであろうか。

「・・・・・」

(何だか知らないが・・・。エリカがここにいる、と言うのはあまりよろしい事では無いな。メリー達にも後で事情を話して警戒してもらう事にしよう・・・!!!)

 そう思いつつも蒼太はエリカのみならず改めて周囲に気を配るが、彼は常日頃から何か事が起きた場合はまずは、誰よりも何よりもメリアリア達愛妻の保護と救出を最優先事項として心に決めていた。

 要はそれだけ彼にとってはメリアリア達の存在が大きくて大切だった訳であるが、その次が子供達で最後が自分と一般人、と言う風に優先順位が形作られていたのである。

「ところで公爵殿下、日本は初めてで御座いますか?」

「ああそうだ、我が家はずっとガリア帝国に於ける最重臣の一角を為していたのでな?海外に来るのはかなり珍しい事だと言えるが。しかし・・・」

 そんな彼の目の前では何も知らないセザールが対応に来ていたブルボン株式会社社長や役員達と親しげに談笑していた。

「勿論、私だって海外に行った事が一度も無い訳では無いよ?用があればこの地球上の何処にでも赴くのはやぶさかではない。ただ私としては貴族達の長の1人としてなるべくガリア本国を離れないでいたかったのだ。だけどな・・・」

 “今回はそんな事を言っていられなかった”とセザール公爵は応対に出た役員の1人に気さくに、しかし何処かおごそかさを保ったままで応えた。

「まさか我が家の家号を冠した株式会社が日本にあるとは思わなかった。ガリア本国でも存在していなかったのでな、正直に言って予想外の事ではあったが。何でもお菓子の大手専門メーカーで聞けば業績も堅調に伸び続けているそうではないか、なによりのことである・・・」

「はは、お陰様でお客様の御支持を得ることが出来まして。今日まで右肩上がりの売り上げを記録させていただいております・・・」

「うむ、なんにせよ業績が黒字で繁栄していることは良い。特に我が家の家号を冠している会社は、やはりそうで無くてはならん。その点は全く気に入ったよ・・・」

 “ただし・・・”とセザールは続けた、“今後もそうであり続けるとは限らない”とそう言って。

「これからも延々と発展を続ける為には、やはり“運”が必要だ。そしてそれを呼び寄せるのは“人”であり、“人”を呼び寄せるのは企業の魅力に掛かっている、と言っても良い。この場合の魅力とは単に業績だけに限った話では無くて、社内環境や働きやすさ、そして賃金の支払い能力になにより経営理念が大切なのだ。・・・この会社の経営理念はどういったモノなのかね?」

「はい、ブルボン公爵殿下。我が社と致しましては創業当初から常に“おいしさ、思いやり、いつもいっしょに”を合言葉のもと、心と体の健康づくりの観点から“食”の提供と、“文化・芸術”“スポーツ”支援活動に取り組んでいます」

「ビスケットやチョコレートをはじめとする多様なカテゴリーでバラエティ豊かな商品や、未病対策として生活習慣病予防のための機能性食品、健康食品の開発も進めております」

「さらに、省資源などの環境保全活動、従業員の健康増進による生産性向上を推進する健康経営にも取り組んでいます」

「当社で実施する様々な活動を通して“SDGs”の達成ならびに『健康増進総合支援企業』として継続的な発展と社会への貢献を目指しています」

「各部門の連携強化と責任分担・権限の明確化とスピード化を図るため、製造保証本部、開発開拓本部、人智財本部、経営企画研究本部の四本部体制で活動しております・・・」

 この日の為にと馳せ参じた本社社長を始めとする役員達のみならず、“ブルボングループ”の吉田会長らが挨拶がてらに次々と社風や社内理念、自分達の取り組みに付いてセザールに丁寧に細かく説明してゆく。

「誠実な商品づくりを目指して私共はニーズの変化が激しい菓子・飲料・食品市場の中で、お客様に満足していただける商品を提供するため企画・開発において一貫した姿勢を大切にしています」

「“市場に熱い息吹を湧き上がらせる個性ある商品開発”、“1つの成果に200の努力”、そして“失敗を恐れない挑戦者精神”を合言葉とし、商品回転数と配荷率を指数とした活動を行っています」

「消費者ニーズ、流通・販売形態の変化に対応するため、さまざまな開発グループを置き、新商品を送り出しています」

「独自の製造技術開発とそれを可能にする独創的な製造機械開発。そしてその中で生み出された個性ある製品を商品につなぐ企画・デザイン開発。こうした努力がお客様の心に届くよう、私たちは日々、積極的に活動を続けています」

「うん、社風や企業理念に付いては良く解った。所で最近では顧客層に商品の安全性に付いての懸念や健康意識等の高まりが見られるそうではないか。それについてはどう対処しているのだね?」

「はい、公爵殿下。我が社と致しましては“安全性の確保”の為に商品設計、生産作業、工場施設・環境のチェック、自社が調達する原料まで遡った安全確認と、お客様が食されるまでの安全保証のための監査活動を実施しています。また、トレーサビリティの確立のため、各工程での記録の確保と、関係づけのための社内体制づくりに取り組んでいます」

「さらには全商品の低トランス酸化、具体的に申しますと1サービング40gあたり0.5g以下と、ポテト使用商品等のアクリルアミドの生成抑制など、健康面における低リスク化にも積極的に取り組んでいます」

「また原材料や商品の分析・検査の為に専用の分析室におきまして科学的分析による遺伝子組み換え食品、カビ毒、アレルギー物質、微生物、残留農薬等の自主検査システムを構築し、分析機器の充実とあわせて、より早く、正確な検査を実施しております・・・」

「そして近年の国際化、複雑化する食品安全問題に対応すべく、更なる分析レベルの向上に向け取り組んでいます」

「うむ・・・!!!」

 本社ビルや新潟県にある直営工場等を見て回りながら吉田会長らに説明を受ける内に、セザールは段々とこの会社の在り方の歴史とに感銘を受けていった、確かに勝手に“ブルボン”の名前を使用したのは許せる事では無いが、それとて悪気があった訳では無い様子だし、なにより彼等は信用して良い人物達だと頭の中で直感する。

「今日は有り難う、来て良かったよ・・・」

 一通りの見学を終えて帰路に就く直前に、最後まで礼儀を尽くしてくれた吉田会長以下ブルボン株式会社の面々にセザールは厚く礼を述べた。

「君達の誠意には、感じ入った。またこの企業の理念や取り組みに関しても思う所があった、大変な感銘を受けている・・・」

「ははっ。有り難う御座います公爵殿下・・・」

「後日正式に文章にしたためたモノを贈呈するがな・・・。君達は今まで通りに“ブルボン”の名前は使っても良いよ?」

「・・・・・っ。本当で御座いますか!!?」

「はぁ・・・っ!!!」

 セザールの口からその言葉を聞いた途端に役員は安堵して社員は喜びに包まれるが、しかし。

「・・・ただし。条件がある」

「は・・・、条件で御座いますか?」

「・・・・・」

「・・・・・?」

「そうだ。君達はこれまでにおよそ2207万枚の株券を発行しているな?それらをもっと増発させたまえ。そうだな、今現在の株券発行比率に対してあと1割程かな?それらを我々が全て買い占めさせてもらう・・・」

「ええっ!!?」

「な・・・っ!!!」

「い、1割をで御座いますか・・・?」

 それまでとは打って変わって威厳ある表情を浮かべてハッキリと言い放ったセザールに対して重役達は流石に動揺を禁じ得なかった。

「こ、公爵殿下。流石にそれは・・・」

「そ、即答は致しかねますぞ?公爵殿下・・・っ!!!」

「・・・なに、いきなり1割を取得する訳では無い。現有比率の1%ずつを毎月発行してくれれば良いのだ、大体10ヶ月間を掛けてな。それを我々が買い取ろうでは無いか。・・・双方にとって悪い話ではあるまい?」

「い、いやまあ。それは・・・」

「た、確かに。株券を増発してそれを買っていただけるのは、我々としても悪い話では無いのですが・・・」

「では決まりだな?一株の値段はその場その時のモノで買わせてもらうからな。なに、心配はいらんよ。基本的な経営戦略や会社の在り方については今まで通りに君達に任せる、それに我々が後ろ盾に入れば君達だって箔が付くだろう・・・?」

「・・・・・」

 大仰な態度で接してくるブルボン公爵セザールの言葉に重役達は明らかに動揺し、かつ困惑した面持ちを露わにしていたモノの、傍で話を聞いていた蒼太にも彼等の慌てふためく様子は充分に伝わって来た。

 現有株券から増発させて1割を取得する、と言う事は株式比率で現在トップの創業者一族や社員組合を抜いて一気に筆頭株主に躍り出る事を意味していた、そうなれば持ち株比率いかんによっては経営にもある程度の口出しも出来る上に業績が伸びれば伸びた分だけ収入を得ることが可能となる等、セザールにとってはまさに美味しさ満載な処置だったのだ。

「それではな、我々は帰るぞ?みんな後はよしなに頼む・・・」

「は、はっ。公爵殿下・・・!!!」

「き、今日はわざわざお越し頂きまして誠に有り難う御座いました・・・!!!」

 曲がり形にも自分の主張を100%飲ませた形のセザールは、ブルボン・ジャパン株式会社の重役達や社員全員に見送られながら、蒼太達を従えつつも意気揚々と東京は赤坂にある星野リゾートへと引き上げていった。

 その直前に、蒼太は再びエリカを凝視するモノの当の本人の彼女は無表情を装ったまま何食わぬ顔をして役員達の中に混じってお辞儀をし、結局の所で終始何をする訳でも無くセザール一行を素通りさせる格好となった。

「・・・・・」

(解らないな、一体なんでブルボン・ジャパン株式会社に入社しているんだ?エリカの奴は。第一アイツは根っからの殺人鬼で戦闘狂だった筈だ、間違ってもこんな平和な国で、穏やかに生きて行くなど出来はしない筈なのに・・・!!!)

「・・・蒼太?」

「うん?」

「どうしたの?さっきからずっと怖い顔をして、黙り込んじゃって・・・」

「そうです。蒼太さん、ずっと様子がおかしかったですよ?一体、何があったんですか・・・」

「なんでも打ち明けてくれて構わないよ?蒼太。私達はもう、一蓮托生なんだからな・・・」

 妻達に促された蒼太は早速、帰りのバスの中で事の真相と己が感じる疑問点とをセザール一行やノエル達には内緒にした上で詳細に話して聞かせていった。
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