トラウアンデ・レリック~最強の”第一世代”魔術師は迷宮都市で最期を飾る~

うどん米

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契約編

第4話・迷宮都市の迷宮へ

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 僕たちは迷宮都市ラビリンスに来た初日にクラン『トラーレンドン』を結成したのだが、それにかかった尊い白金貨3枚犠牲は決して無視できないものだった。

 それでも、もう一度祖母に会って話すためなら安いもんだ。


 そして、僕たちはクランを結成した後、まだ時間があったので肩慣らし程度に近くのBランク迷宮に挑むことにした。

(本当は、Aランクでもいいと思ってたんだけど。まさか、人数制限がかかってるなんて思わなかったな)

 最低でも五人以上は必要で、当然アフェしか仲間がいないので潜ることはできない。
 薄々わかっていたが迷宮都市の滞在は年単位になりそうだ。

「あれが、迷宮の入り口みたいね」
「へー洞穴じゃないんだ。すごく、景観に溶け込んでるな」

 着いたBランク迷宮の入り口は、レンガ造りの建物で囲まれておりしっかり街の景観に溶け込めている。
 逆に言えば、特徴が無く他の建物と大差がないので迷宮だと知らなかったら普通の建物と思っていただろう。

 そして、少し頬を撫でるくらいの魔力を放ち僕たちを挑発している。

「それじゃ、行きましょ」
「え、アフェも来るの?ていうか、戦えたっけ……」

 記憶を探るも彼女が戦っている姿なんて見たことがない。
 と言うか、僕は出会って1年ほどの間しか彼女のことを知らない。

「あんたと比べたら弱いかもしれないけど、それでもBランクくらいまでなら戦えるわよ」
「そ、そうなんだ。知らなかった」

 いや、知ろうとしなかったんだろう。
 自分の感情を処理することに必死になって彼女のことを見ようとしなかった。

 他人と関わろうとせずパーティーすら自分から組むことはなかった。

(本当に情けない奴だよ。僕は)

 自分で自分が嫌になりそうだ。

「アフェ」

 先に向かう彼女を呼び止めた。

「うん?」
「これまで、迷惑かけてごめん。それと、ありがとう。僕と一緒にいてくれて」

 きっと、この1年間はすごく迷惑をかけたと思う。
 毎回、死者と話す方法を聞いて去って行く男に付き合ってくれた彼女に精一杯の謝罪と感謝を伝えた。

 だが、彼女の反応は予想外のものだった。

「……そう」
「そう!?」

 別に大きな反応が見たいわけじゃなかったが、こんな淡白に返されるとは思わなかった。
 それどころか、振り向いてくれたと思ったらすぐにそっぽを向いて迷宮の入り口に歩き出している。

(ま、まあ、うん。別に、悲しくないし。うん、こういう反応が普通だよね。うん)

 別に気にしているわけではない。
 ただ、予想と少し違うだけだ。

 そういう風にごちゃごちゃ考えていたからか、彼女の頬が赤く染まっていることにも気づかない。

「……迷惑だったらあんたと一緒に来るわけないでしょ」

 その上、彼女の呟きにも気づくことはなかった。
 そのまま、僕たちはギルドで取得した通行証を使って迷宮の中に入った。

「外見は迷宮っぽくなかったけど、中に入ればいつもの迷宮だね。少しの暗さと、微かに漂う血の匂い、無駄に狭い通路。それに……」
「普通のゴブリンね。まあ、Bランクって言っても入ったばかりだしこんなものね」

 僕たちの前に現れたのは特徴的な緑色の肌をした人型モンスターであるゴブリン5匹だった。
 こいつらの相手は発見数が多いのでデュランクでもよくしていた。

 現状、僕が前衛で彼女が後衛にいる。

「で、どうする。こいつの相手?」
「あたしも肩慣らししたいし、一匹は任せて」
「四匹は僕かよ」

 そんな軽く役割分担の話をしていると、早速一体向かってくる。

「ケケッ!!」
「ほら、お前はお行き。じゃあ、背中は任せた」
「任せた」

 わざと殺さず道を開けて一匹のゴブリンを後ろに通す。
 彼女からの頼もしい応対を受けて、僕も一層気合が籠る。

 当然、僕は魔術師だ。

「食らえぇ!」

 迷いなく腰に据えた剣を抜き、ゴブリン四匹に突撃する。
 相手の武装は全員錆びた剣を装備している。

 何の問題もない。

「ケヒッ!?」

 魔術師に限らず、魔力を扱える人間はそれを纏うことで身体能力を上げることが出来る。
 そのため、体全身に魔力を纏った僕はゴブリンの反応できない速度で近づき一閃

 剣ごと首を切り落とした。

「ケケッ!?ケケケ!!」
「ふんぬぅ!」
「ケケェ!?」

 相手が振り下ろした剣を刃は触れないように腹を素手で受け止めた。
 その瞬間、圧倒的な万力を込め錆びた剣は粉々に粉砕する。

 そして、流れるように一匹、二匹、三匹と次々と僕の剣の錆に変わっていった。

「何、その剣」
「何って剣だよ。振れば切れる剣」
「そんなことはわかってるわよ!後ろから見てたけどあんたの剣が触れたところが切られているって言うか抹消されているように見えたんだけど」

 彼女の言う通り、僕の剣は切れ味が凄まじいのは当然として対魔物なら近づいただけで抹消する能力がある。
 それこそ、弱い魔物なら近くにあるだけで毒になってしまうだろう。

 体が消滅して魔石に姿を変えたゴブリンを拾いながら話を続けた。

「まあ、これ聖剣だしね」
「せ、聖剣!?……聖剣って、何?」
「なんかすごい剣。昔、騎士をしてた時に貴族の令嬢を助けた時にもらったんだ」

 剣は使うが、ルーツなどそこまで詳しいわけではないのでこの程度しかわからない。
 対魔物なら、巨大な土竜の首すら軽々落とすのですごく重宝している。

「へぇ……ちなみにその令嬢さんとは今どういう関係なの?」
「関係?たまに文通するくらいかな。でも、騎士を辞めてからは一回も会ってないよ」

 思い返してみればたまに来る手紙にも僕は結構淡白に返答していた。
 今度、手紙が来ることがあったらそのことも謝罪して、真摯に書こう。

「そ、そうなんだ。それにしても、アポロって近接強いんだね」
「そりゃあ、僕の弱点ってすごくわかりやすいからね。埋められるところは大体埋めてるんだよ」

 魔法使い全体の弱点として近接が弱いというのがある。
 第一世代の魔術しか使えない僕はより顕著に弱点となってしまう。

 そのため、肉体強化も併用しながらなら近接でも下手な戦士よりは強くなった。

「でも、あたしは魔術を使ってるアポロが見たかったな」
「破壊力だけなら使いやすいんだけどね。数が多いと剣を振るってる方がいいんだよ。って、雑談してたら来たね」

 暗がりから現れたのはゴブリンより少し大きな体格とわずかながら輝きを放つ剣を持つ。
 まさしく、ゴブリンの上位種であるホブゴブリンの集団であった。

 少し歩いて奥に行ったからか強力な魔物が出るようになったらしい。

「また五匹か。なら、せっかくだし魔術を使おうかな」

 指先を奴らに向け魔力を集中させる。

 魔法と魔術は違う。
『法』は物事を行うための定まった方法を指し、『術』は特別な技や技術を指す。

「『”風”よ……』」

 そして、法をその体に刻んだ者たちを第二世代以降で呼び、術しかない者を第一世代と呼称する。

「『我が指先の前方10ⅽm先に横5m、高さ3mm、縦1mの風刃を作り出し直進せよ』」

 詠唱が成立し、通路目いっぱいに風刃が展開され壁を削りながら直進していく。
 それを見て、ゴブリンたちは咄嗟に体を屈めた。

 当然と言えば、当然だが詠唱通りなら直進しかしないので回避は簡単に出来る。

「ほい」

 だが、僕は座標の指定を”指先”と言った。
 そのため、魔力の籠った指先を少し下げれば風刃も同様に下がる。

 結果、綺麗にホブゴブリン五匹の首が蹴散らされた。

「へえ、結構融通が利くのね」
「まあ、そこが唯一って言っていいメリットだからね」

 第二世代以降の魔法と比べて唯一勝っていると誇れるのがこのくらいの時点で少し悲しくなるが仕方がない。

「でも、戦闘以外なら結構便利そうだけど何で誰も覚えないの?」

 彼女の言う通り、詠唱すれば簡単に水や火が出るのは便利に見えるだろう。

「結構、扱うのが難しいんだよね。下手すれば暴発するし、覚えようとしても学校で教えてる所も少ないしね」
「そうなんだ。あたしも使えたら便利だなって思ったんだけど。そうだ、アポロがあたしに教えてよ」
「無理」
「ケチ!!」

 そう言われても、第一世代の魔術を学ぶというのは危険なことだ。
 僕の見ていないところで使われて事故でも起きたら、たまったもんじゃない。

「まあ、いいわ。それより、さっさと先に行きましょう。アポロがいれば今日中に最深部までたどり着けそうだし」
「そうだね。もしかしたら、僕のお目当てのレリックが手に入るかもしれんからね」

 適当に雑談をしながら、僕たちは迷宮の奥に向かっていく。
 道中のゴブリンの集団なんて敵ではない。

 軽々と突破していく。



 一方、奥底では叫び声が木霊していた。

 少し薄暗い部屋には、ホブゴブリンや通常のゴブリンとは比べ物にならない巨体のゴブリンが棍棒を振りかざしている。

「お、おい!逃げろ、逃げるぞ!!」

 その部屋の中で、男が巨大な盾を持つ女性戦士に叫ぶ。

「え、でも!!」
「隊長命令だ!!っ、クソ魔法を使うゴブリンキングだと……一体どうなってる!?」
「わ、私は……っぅ!」

 その時、ゴブリンキングの巨大な棍棒が振るわれる。
 間一髪でその巨大な盾で防ぐことができたが衝撃を逃がすことは敵わず壁に叩きつけられる。

 それを見た男性冒険者は彼女を見捨て外に走り出した。

「グオォォォォ!!」
「ひっ」

 ゴブリンキングの咆哮が部屋中を木霊する。
 思わず、怯えの声を出すとゴブリンはニヤニヤと笑いだす。

 彼女の目の前に絶望その物が立ちはだかっていた。

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