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契約編
第3話・クラン『トラーレンドン』結成
しおりを挟むアポロとアフェが去った後のクランで、先ほどまでの彼らの行動を観察しているものがいた。
男女の二人組で二階から覗き込んでいた。
「化け物だな。あの第一世代魔術師」
「だな。気持ち悪いくらい魔力操作と干渉力、Sランク冒険者って言うのも間違いないだろう」
化け物とアポロを形容した彼女は試しにもう一人の男の眼前に魔法を発動させようとする。
だが、魔力が練られると同時にはじき出される。
それこそ、これを成功させるためには助走をつけて針に糸を通すくらいの精密さが求められるだろう。
「やっぱりできないや。ザレクは雑魚だけど、それでも難しいだろうね」
「あいつも曲がりなりにも魔術師だからな。それにしても……」
男の方は今だに喚ているメリーとザレクを見下げている。
「ここも、もう駄目だな。あんな程度の低い奴が受付だなんてな」
「あの噂も眉唾だと思っていたけど、あの受付嬢を見るといよいよね。あんたはどうするの?もう、他のクランに行く気?」
「ああ、もう内定も得たよ。来月にはおさらばだな。フレムは?」
「あたしは今週末よ。ふっ、ここが大手クランって言われるのもいつまでかしらね……」
二人はこのクランの現状を憂いながら、泥船からの脱出を画策するのだった。
***
一方、僕たちは報復を警戒して少し走った後路地裏に身を潜めていた。
ちらっと顔を出し尾行されていないことを確認した後やっと一息ついた。
「ごめん、あたしのせいで……」
「いいや、アフェのせいじゃないよ。むしろ、君が怒ってくれてすごく嬉しかった」
「でも、あたしがじっとしてればアポロなら実力で黙らせて加入して、きっと今日には迷宮に入れたと思う」
彼女の言う通り、あの場で実力を証明する手段なんていくらでもあった。
そうすれば、僕の目的を達成するのにも大きく近づくだろう。
「ううん、いいんだ。ていうか、あんな人を馬鹿にするクランになんか入りたくないしね。あんなところにいくらいなら君の隣にいた方が何倍も楽しいよ」
「そうね。あたしも、そう思う。それにしても、情報が古かったのかもしれないわ。あんなのが大手クランなんて世も末ね」
「大雑把な手段をとるクラン。略して大手クラン。なんてね」
「ふふっ、言えてるわ」
少し顔色が悪かった彼女もこの冗談で笑ってくれた。
本当に、彼女の言う通りあれで大手クランと呼ばれているならその下はとんでもないことになるだろう。
「それにしても、あの女!今でもイラつくわ。あたしのアポロを散々馬鹿にしてきて、第一世代の何が悪いのよ!」
「実際、悪い事尽くめなんだけどね。第二世代以降と違って発動は遅くて、暴発の危険性も高いし、威力で負けることも多いから」
「で、でもアポロがやったみたいに座標を指定して相手の顔面にぶつけちゃえばいいじゃない」
「強みだけど、弱味でもあるかな」
僕のように相手の顔面ギリギリに魔法を出すなんて芸当は実力差があるからこそ成立するのだ。
座標指定も一目見て大まかな距離と大きさを測らなくてはいけない。
正直、第一世代だけのメリットと言うのはほぼない。
「特に人間相手だと、座標を口に出すから大体どこに魔法が出現するかバレちゃうんだよね」
「……第一世代ってもしかして良いところ全くない?」
「そんなことはないけど、わざわざ第一世代を使う必要はないかな。僕も使えるなら第二世代以降の魔法を使ってるよ」
それゆえに、同じ第一世代の魔術を使っている人は見たことがない。
あそこまで侮辱されたのは久しぶりだが、一般的に才能と生まれに恵まれない物の証でもあるため下に見られるのも仕方がない。
「それでも、あの受付嬢の対応はありえないわ!絶対にどっかで文句言ってやる」
「やめて、アフェ。問題事をこちらから起こす必要はないよ。それに……」
「それに?」
「悪は栄えるけれど、屑は衰退するのが世間のお約束だからね」
大手クランの看板を背負っておきながらあのような対応をした二人がどうなるか、それはある程度予想できる。
もし、クラン側がそれを罰せなかった時はクランも末と言う事だろう。
「よしっ、じゃあどうしよっかな。今日は適当な宿屋に入って休む?」
「いや、まだ日は昇ってるわ。それに、考えがあるの。ついて来て、あまりいい方法ではないけれど」
そのまま、彼女に言われるがままついて行くとこれまた一際大きな建物にたどり着いた。
だが、ルフトズのクランハウスとは違う白い壁と金のかかってそうな看板ははこの建物の高貴さを感じさせた。
「冒険者ギルド本部よ」
「本部!?そうか、ラビリンスにあるんだ。じゃあ、ここで依頼とか受けれるんだね」
「うーん。まあ、そうね。大体迷宮に入る手続きが中心だから個人の依頼を受ける人間は少数だけど」
確かに、個人の依頼は報酬を受け取られるが周囲に迷宮がたくさんあるならそっちに行った方がいいだろう。
だからと言って、個人の依頼を軽視すべきではないのだが
そこそこ重い扉を開けて中に入る。
その時、カウンターにいた筋肉を鎧のように着込んだ男と目が合う。
「へえ」
瞬間、こちらを品定めするような殺気が僕を襲う。
だが、何でもないように微笑みを返した。
「どうしたの、アポロ?」
「何でもない。どうやら本部は熱烈な歓迎を僕たちにしてくれたみたいでね」
あの男相当強い。
魔力の流れからして十中八九戦士で、送り込んできた殺気から考えて同じSランク冒険者ではないだろうか。
そして、男がこちらに歩み寄ってくる。
「お前名前は?」
「アポロ。魔術師だよ」
「お前が魔術師だと?だったら、なんだその剣と体は」
「いやいや、ちゃんと魔術師だから。剣はそこそこだし、体は鍛えてるだけだよ。貴方の方がずっとすごい」
魔法使いや魔術師とは違い魔力の流れを探ることはできないはずだが、それでも僕の戦い方に疑問を持った。
彼の言う通り、僕は純粋な魔術師じゃない。
だが、肉弾戦が中心と言うわけでもない。
「それはそうだ。だが、お前の戦い方には興味がある。よければ手合わせ願いたいが生憎これから迷宮に行く為、失礼する」
「はあ、そうですか。頑張ってください」
勝手に彼の中では話が進んでいたようだが、僕には関係ないので適当に応対する。
去り際に一睨みされたが、僕もにらみ返すと不敵な笑みを浮かべて去って行った。
(不味いな。挑発に乗ってしまった。あれは、後々面倒になるタイプだな)
殺気が向けられたとはいえ僕も迂闊に反応を返してしまったのは失敗だった。
「あ、そうだ。アフェ、結局ギルドで何するの?」
「クランに入れないなら、単純な話クランを作ってしまえばいいのよ」
「確かに手っ取り早いね。でも、それなら最初からそうしちゃった方が良かったんじゃない?」
組織に入るというのは予想以上に面倒なものだ。
ルールを守るのは当然のこととしてノルマが課されることもある。
生活が組織都合になってしまい親族の死に目に会えないこともあるだろう。
「それが、そううまくは行かないのよ。当然だけど、入るのと違って作るから仲間も集めないといけないし」
「そうだね。気の合う人がいるといいんだけど」
「それとね……」
何だか歯切れが悪い。
更なるデメリットが存在しているのかと直感して思わず顔をしかめた。
「クラン結成には大量の金がかかるの」
「なるほどね。一定のハードルを作っておかないと迷宮に行き放題だもんね。ちなみにいくらくらい?」
「……金貨300枚よ」
下手すれば故郷の街に一軒家が建ってしまう値段に、ちょっと世界が遠くなった。
耳と目からは情報が遮断され彼女の言葉を必死に脳内で咀嚼する。
「多いね。僕のマジックバックくらいするんだ」
「それで、どうする?あたしも半分くらいは払えるけど」
「大丈夫。僕が全額払う。舐めないで、これでもSランク冒険者なんだよ」
そう言ってマジックバックから一枚金貨100枚分の価値がある白金貨を3枚取り出す。
(さらば、僕の全財産!)
カッコつけながら白金貨を見せているが内心は全く穏やかではない。
最近、ちょっと大きな買い物をしてしまったせいでとにかく金がないのだ。
その上、物が嵩張るので昨日のうちに土竜を討伐した金と持ち金を両替して白金貨にしてきたのだ。
「だ、大丈夫?アポロのことだから、カッコつけようとしてるだけでそれが全財産だったりしない?こっち向いて」
「しないしない。僕を何だと思ってるの」
「よく顔に出る変な人。ほら、こっち向いて」
彼女の僕への解像度があまりにも高すぎる。
実際、彼女の言う通りこれが有り金全部なので予想は合っている上におそらく向いたらバレるので最後まで向かなかった。
「すみません。新しくクランを作りたいんですけど」
「はい。では、冒険者カードを拝見いたします」
先ほどと同様にSランクと書かれた冒険者カードを渡す。
それを、確認して何か操作すると僕に返してくれた。
「こちら、どうぞ。『最強の第一世代魔術師』のアポロ様ですね。本日は、ご利用くださいましてありがとうございます」
「は、はい」
二つ名を言われるとやはり背筋がこそばゆくなる。
だが、ここの受付嬢さんはルフトズの時とは違って態度が変わることはなかった。
冗談で大雑把な手段をとるクランと言ったがあながち間違いでもないのかもしれない。
「クラン設立のために金貨300枚を頂戴しておりますが、よろしいでしょうか」
「こ、これでお願いします」
僕は顔をぴくぴくと引きつらせながら、白金貨を震える指先で一枚一枚慎重に置いた。
それを、さわやかな笑顔で受付嬢さんが裏に持って行くのを気づけば物欲しそうな目で見つめていた。
「やっぱり全財産だったんだね。それなら、あたしにも払わせてよ」
「いい、いいんだよ。最後までカッコつけさせて、この後アフェから金貨を受け取ってたら本当に末代までの恥だよ恥」
ただでさえ、恥をさらし続けている人生だというのにおばあちゃんに会いに行く前にこれ以上恥を増やすわけにはいかない。
まあ、どうせ僕が末代なので子孫への恥は気にしなくていいと思うのだが
「それでは、こちらに記入をお願いします」
「はい」
渡された記入表に色々書いていく。
「クランハウス?」
「あ、それはあたしに任せて……っと、これで大丈夫よ」
彼女に渡して帰ってくると全く知らない住所が書いてあった。
特に気にせず、他の個所にも記入していく。
「クランマスターかぁ。これ、僕じゃなきゃダメなのかな」
「お金を出したのはアポロ何だからって言いたいところだけどちょうどあたしも同じこと思ってたわ。あたしでもいいわよ」
サラっと遠回しにクランを任せられないと言われたが実際そうなので、大人しく彼女の名前を書く。
「最後にクラン名か、レリック・ゲッターズ?」
「ぶん殴るわよ。奇をてらう必要はないの、単純なもので……そうね『トラーレンドン』なんてどうかしら」
「奇をてらってない?ていうか、どういう意味のなの?」
「意味なんて気にしなくていいわ。だけど、今のあんたにピッタリな名前よ」
別に僕にはクラン名に特別なこだわりがあるわけではないので、彼女の言うその名前にすることにした。
と言うことで、全て記入し終わったのでそれを受付の人に提出する。
「はい。受理されましたクラン名『トラーレンドン』ですね。ここから先の迷宮都市ラビリンスへの貢献を期待します」
「はい!」
クラン結成の証であるレリックを受け取り握る。
ここから、僕たちの迷宮都市ライフが始まった。
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