Lily and Roseー貴方が番だったからー

椎名さえら

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 コンコン、とノックの音が響いて、リリーは物思いから呼び覚まされた。

 ドアを開けたのは、先程の女刑事だったので、リリーは会釈をした。彼女が廊下に出てこれないかと身振りで示したので、そのまま椅子から立ち上がって、刑事の後に続く。


「――驚かれましたでしょう」

 女刑事が労るようにリリーに尋ねてくれる。
彼女は職務に忠実な印象はあるが、基本的にリリーに同情的で、親切である。彼女でなかったらリリーはもっと傷ついてしまっていたかも知れない。

 リリーはため息交じりに返事をした。

「正直に申し上げますと…はい」

「お姉さんとはあまり行き来がなかったのですね?」

 これは断定だった。刑事なのだから洞察力には優れているだろうし、そもそも少しでもリリーと話せば仲の良い姉妹ではないことはすぐに分かっただろうから、不思議でもなんでもない。

「仰るとおりです」

 リリーは肯定して、頷いた。

「けれど、姉がこんな目に遭えばいいと思ったことなんか今まで一度もなかったです…あまりにも可哀想で…」

 包帯を全身に巻いてあのベッドに横たわっている姉を頭に浮かべた瞬間、じわっと涙が浮かんできた。ローズはいつでも自信たっぷりで、堂々としていた。あんなに弱々しい姉は姉ではない。

「分かりますよ」

 女刑事の肯定が胸に優しく響く。

「これから私はジャック・タガーの聴取に参りますが、何か彼に聞きたいことはありますか?もしくは言いたいことでも」

 リリーは潤んだ瞳のまま、女刑事の理知的な顔を見つめた。
 彼女は分かってくれている。

「貴方とはもう別れます、と伝えておいて下さい。これ以上嫌いになりたくないので、言い訳は何も聞きたくありません、二度と私の目の前に現れないで下さい、と」




 女刑事が立ち去った後、姉の病室に戻る気にはなれず、見張りの警官に帰宅する旨を伝えて、リリーはその場を離れた。歩いて帰れる距離ではあるが、タクシーを捕まえてもいいかもしれない。とりあえず今は少し一人で考えたかった。

 深夜の待合室は誰もおらず、リリーはベンチに腰かけた。


 ジャックとはうまくいっていると思っていた――彼は穏やかな性格で、喧嘩ひとつしたことがなかったし、付き合い当初から結婚を意識していると彼は言っていた。そういえばここしばらくはそんな艶めいた話題は一切なかった。彼は生真面目なところがあったから、ベッドを共にしなくなったここ半年くらいで、姉に手を出されたのだと想像がつく。姉と寝始めたから、私と寝なくなったのだ。

 そういえば半年前、街で2人でいるところを姉にばったり会ったのである。姉を紹介したときはジャックは取り立てて興味を惹かれた素振りはなかったのに…勿論、姉のほうが華やかで美人で、男受けをするのは十分承知している。リリーとローズは二卵性双生児であり、双子と言われないとわからないかも知れないというくらいには容姿はあまり似ていない。

 心底姉が恨めしいが、姉にふらつくような男はこちらからお断りだ。相手が姉であろうがなかろうが、不貞行為には違いない。

「――ッ」

 色々なことが立て続けに起こりすぎて、心が弱くなっている。つつっと涙が溢れてきて、リリーは両手で顔を覆った。

「ご気分が悪いのですか?」

 落ち着いたバリトンボイスが響いた。

 リリーが潤んだ瞳のまま、両手をどけると目の前に白衣を着た、背の高い若い男が立っているのが分かった。
 彼の端正な顔に視線を合わせた瞬間。



――――ドクンッ


 鼓動が一際高鳴った。呼吸が自然に浅くなり、同時に百合のような花の甘ったるい香りが広がった。

(なに、これ…?)



 男も呆然としたまま、リリーを見ていた。彼の頬にも赤みがさして、瞳は熱い熱情が浮かんでいる。

「君…もしかして…?」

 彼の唇が言葉を紡ぎ出した。



 俺の、番?








 どうかしていた、としか思えない。

 リリーは今まで人生で一度も衝動的な行動に身を任せたことはなかった。

 けれどもあの日、あの時、あの瞬間、あの男がどうしても、欲しかったのだ。





 彼がリリーの腕を引っ張って、無人の診察室に引っ張り込んだ。彼がガチャンと扉のカギを閉めた後、呼吸も荒く、彼女の腕をゆっくり離していく。

「怖かったら、逃げて。俺の意識がまともなうちに。間違いなく、ひどくする」

 すごく久しぶりだから、と彼は告げたが、リリーは逃げる気などなく、そのまま彼に抱きついた。






 2人の情交は凄まじかった。

 男は診察台にリリーを慌ただしく寝かせると、洋服を脱がせもせず、スカートをたくしあげて下着をずらした。彼がほとんど触れないうちから彼女はしとどに濡れそぼり、さして愛撫もうけないまま、彼の屹立が突き立てられたが、リリーの膣は喜んで受け止めた。本当だったら痛みにひきつるような男の大きさでも、番だからか、凄まじい快楽しか与えられない。そのまま何回か腰を揺すると、男は中で射精した。

 わずかに残った理性がここは病院であると告げていたので、リリーはなるべく喘ぎ声を我慢するように唇を噛み締めていた――血が出るほど強く。それに気づいた男が彼女の唇を自分の唇で塞いだ。

「声、聞きたい…」

 しかし彼が唇を離してそういうのに、彼女はいやいやと首を横に振る。一度放出して柔らかくなっていた雄茎がみるみるうちに硬くなり、そのまま彼が抜き差しを始めると、胎に出された白濁がかき回されて、ぐちゅぐちゅと淫靡な音をたてる。彼の剛直が彼女の中で感じる部分をぐりっと抉ると、リリーは思わず声をあげてしまった。

「あぅ…あっ…!そこは、だめぇっ…」
「ここ、か」

 耳朶をかぷりと噛まれた後、耳の中を熱い舌で犯されると身震いするくらいの気持ちよさが体の奥から這い上がってくる。

「んふぅ…耳ぃ、だめぇ…ああっ…」
「耳、弱いんだな。可愛い」

 じゅるじゅると音を立てて耳を舐められながら、先程見つけた中の感じる箇所を重点的に突かれると、悲鳴に近い声が上がる。もう、誰かに聞かれるかどうかなんて頭から吹き飛んでしまい、ただただ中にいるこの雄をもっともっと搾り取りたいということしか考えられなくなった。辺りには彼女を追いつめる、甘ったるい百合の香りが色濃く漂い、リリーを狂わせていく。

 リリーが陥落したことを感じた男が、完全に捕食者の顔となり、彼女の太腿を抱えてぐっと漲りを最後まで中に押し込んだ。その態勢のまま前かがみになり、重いストロークを続けながらも、リリーの首筋を甘く噛んでいく。男の重みでより奥まで貫かれて、リリーは身悶えして震え、彼女のぐしゃぐしゃに濡れた中は彼の剛直をしゃぶりつくそうと蠢く。

「ううっ…んッ…はぁ…やぁ…」
「たまらない…」

 うっそりと恍惚の表情を浮かべて呟く彼に、そのまま3回立て続けに犯され、中に吐き出される度に彼女の胎は喜んで受け止めた。いつ洋服を脱がされたのか、彼が脱いだのか記憶にはない。深く唇を求められて、夢中で舌を絡め合っている間も彼は中に入ったままだったし、首筋から胸元にかけて甘く噛みつかれ、紅く色づいた乳首は腫れ上がるまで舐めしゃぶられ、紅い痕がそこここに散らされる痛みすらに快感を感じ、恍惚の表情を浮かべる。


 これは、愛、ではない。

 これが、番のセックスなのだ、と脳裏のどこかで感じていた。

 今までの経験とは全く違う、獣のセックス。

 そして姉のことで傷ついた自分にこれこそが必要だったのだ、とも。

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