Lily and Roseー貴方が番だったからー

１０

　ローズは少しずつ快復していった。

　レジーによると、目覚めている時間が増えていき、それと同時に潰された顔の治療も開始された。喉も潰されていたので、それが治るまで会話をすることは出来ないものの、意思は指の動きで示すことが出来るのだそうだ。声帯の傷つきようによっては声はもしかしたら元通りとはならないかもしれない。

　いざ治療が始まると、思っていたよりは顔の状態は悪くなかったのだけは、不幸中の幸いだった。多少の傷は顔に残ることが懸念されるが、目も鼻も、歯も無事だった。整形外科医も、肌の移植は必要ないと言っていたらしい。リハビリは必要になると思うが、体の機能も問題なさそうで、その点でもおそらく後遺症はほとんど残らないだろうと言われていると聞いて、リリーはほっと息を吐いた。

　とはいえまずは外傷を治すことが先決だと医者のチームは考えている。被害者であるローズの容態が変わることだけは避けたいと彼らは必死で治療にあたってくれていた。

　リリーたちの両親はしかし病院に顔を出すことがないのだと言う。これは女刑事の采配だとレジーからリリーは聞いた。両親は雲隠れしているリリーのことも心配しているだろうが、彼女にはどうすることも出来ない。

　☆

　ローズが襲われてから３週間が経った。

　リリーはその日、勇気を持って、息を潜めて隠れていたレジーの家から出ることになった。

　目深にかぶった帽子と分厚いレジーのコートを着込んで体の線を隠して周囲からの視線を避け、リリーはローズの病室へと向かった。ちょうど警備の交代時間なのか病室の前にある簡易チェアに警官の姿はなかった。リリーはするりとローズの病室へと忍び込むことが出来た。


　

　何本もの点滴をつけられているローズは、３週間前に比べると巻かれている包帯も薄くなっていたが眠っているようだった。

「ローズ」

　ベッド脇に立ったリリーがそっと声をかけると、彼女の指がぴくりと反応した。レジーからローズは指の反応が一番顕著だと聞いていたので注視する。右手の指を動かしたローズに、リリーは問いかけた。

「貴女は、ローズではないわね？イエスなら、指を一度動かしてくださる？」

　果たして指はぴくりと一度だけ揺れた。







　途端、病室の扉が開いた。


「さすがリリー、気づいたのね」


　リリーが振り向くと、そこには双子の姉のローズがにっこりと微笑んで立っていた。