転生した貴族令嬢は、辺境の森で魔女となる

椎名さえら

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6 Welcome home

「そんな諺ないだろ」✴︎テオ目線

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やっと愛しのユリアーナを手に入れることができる…

その日ラスムドルフ家に婚約を整える旨の挨拶に行き、シュナイダー家に戻ってきたテオは自室でひとり感慨にふけっていた。長かった…凄まじく長かった。いまだに信じられなくて心の震えがまだ止まらない。

18年前、クラウスにユリアーナを紹介され、彼女の溌剌とした笑顔を見て一瞬で恋に落ちた。そしてこの子はアウグストの婚約者だ」と言われた瞬間に電撃が走ったかのような感覚になって、気づいたのだ。



しかししばらくしてテオは思ったのだった。

(側にいられたらそれでいい)

幼い頃からユリアーナは活発で可愛らしく、テオを自然に笑顔にしてくれた。成長してからも彼女はいつでも彼にとって高嶺の花で、彼女のために何かすることはテオにとっては難しいことでもなんでもない。アウグストは高潔な人物でーーユリアーナは幸せになれるはずだ、自分は結婚などしなくていい、ユリアーナ以外の人を幸せにすることなど出来やしないだろうと早々に諦めた。三男という立場も両親からさほど期待されていなかったのも幸いした。

親友としてこれからもずっと側にいられたらいい、そうなんとか自分を納得させていたが、6年前の婚約破棄のあと、辺境の森近くの屋敷で毎日泣き続ける彼女の姿があまりにもかわいそうで、怒りのあまりアウグストの家に押しかけたことがあった。

テオはアウグストがユリアーナを愛していると信じていたから余計に厳しく追いつめたーーあんなどうしようもない貴族令嬢のためにユリアーナを捨てるなんてどういうことだ、と言うと、彼は黙ってしまった。

そしてテオは気づいたのだ、ーーアウグストは全然幸せそうではなくむしろ打ちひしがれているようだ、と。ラウラ某が本当に好きだったらもっと晴れやかな顔をしていても良いだろうに。アウグストは長い沈黙の後たった一言、「ユリアーナを頼む、」と呟いただけだった。

(もしかしてユーリャを…この婚約から自由にするために?)

ユリアーナからは破棄することは、敢えて自分が悪者になって?きっと彼は言わないだろう、自分には。ユリアーナの隣にいるアウグストを羨望の眼差しで見つめていた自分には。

テオが頷くと、アウグストは視線を上げてからちょっとだけほっとしたように笑った。そしてテオが彼の部屋を辞してから、アウグストと個人的に話したことはない。

それから6年の間にユリアーナの近くにいられてテオは幸せだったーー仄暗い幸せであった。一番はユリアーナの笑顔を奪ってしまった偶発的な(もしかしたら仕組まれた?)出来事により彼女が幽閉されているという事実があっての、側にいられるということだったからだ。段々ユリアーナが元気を取り戻し、笑顔になっていくにつれ、今こそ想いを告げたいと思う瞬間が何度もあり一度だけ実際に手を出しかけたが、何とかこらえたーーアウグストの高潔さに胸を打たれていたから同じ紳士として隙をつけ込むのだけはやめようと決めていたーーユリアーナが自分に目を留めて、手を差し伸べてくれるのを、テオはただ待った。希望が1%でもあるのであれば、一生待ち続けるのでも構わなかった。

「すごいなぁ、遂にユリアーナと婚約までこぎつけるとは。執念もしつこければしつこいほど大きい岩石をも砕くみたいな諺なかった?」

ノックもせずに兄のジュリアンが入ってくるなり、へらへらっと笑った。

「そんな諺、ないだろう」

「じゃあ今俺が作る、お前のために。意外に流行るかもよ?」

「諺に流行るも流行らないもないだろうが」

冷たくあしらうと、ジュリアンはへへへと笑ったが、すぐに真顔になった。

「良かったな、テオ」

兄が右の拳を突きだしてきた。
ちょっと揶揄いは鬱陶しかったが、兄に本気で心配されていたのはよく分かっている。テオは黙って兄と拳をごつんと合わせた。

「ジュリアンもそろそろ落ち着いて婚約者を安心させてやれよ」

「30年近く童貞のお前に言われると有り難すぎて、沁みるな」

テオはしれっとした顔の兄を見つめ、その足を思いきり踏みつけてやった。

______________________________

翌日には新聞にテオドール・シュナイダーとユリアーナ・ラムスドルフの婚約と結婚式の日取りが載せられた。オイレンブルグ家のことがなければもう少し婚約期間を置いて結婚式をちゃんと準備したかったくらいだが、何しろ天下のオイレンブルグ家である、こちらが下手をうつとユリアーナはまた奪われてしまうかもしれない。ユリアーナから、オイレンブルグ兄弟と交わした会話を聞いて、テオはアウグストはユリアーナのために婚約を回避するよう狂言を仕込んだのではという自分の仮説が正しいと確信した。


そしてテオには、併せてもう一つ彼女に告白しないといけないことがある。
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