シンデレラ、ではありません。

椎名さえら

文字の大きさ
3 / 20

2 頼りになる同期

しおりを挟む
「いい加減そのサイズ合ってない服やめよーよ」

就業後、会社近くのコーヒーチェーン店。
コーヒーを片手に席に着いた途端、会社の同期である亜紀に言われて、優美は思わず目を瞬いた。

優実の就職活動はうまくいった、と思う。

地元から離れようと決めた高校3年生の時、姉が就職するであろう地元にUターンすることは避けようと決め、大学は就職に有利であろう経済学部に進んだ。東京でいくつかの面接を経て、自分の能力に見合った堅実な会社に営業補佐として雇われたとき、一番最初に頭に浮かんだのは、これで地元へ戻らないことに後ろ指をさされないですむ、という安堵感だった。

会社は役員含め100人足らずの工業用ポンプを扱う会社で、社風からか老若男女問わず穏やかな同僚が多く、とても風通しのいい働きやすい環境だ。優美の年度は同期が5人いるが、前年の定年退職者との兼ね合いで異例の多さだと聞いている。通常は1-2名ほどしか新規採用されないとか。

秘書課の亜紀とは入社当初から馬が合って仲良くしているが、社外の人と会う機会も多い秘書らしく亜紀は頭のてっぺんから足の爪先までいつも小綺麗にしている。流行りを取り入れるのもうまく、華やかな装いが得意だ。

「せっかく今から合コンに行くのに…その服じゃ優実の良さ半減、いや全滅」

「全滅……合コンて…異種業飲み会じゃん」

「飲み会という名の合コンに決まってるじゃないの」

ふふんと笑う亜紀は今日も相当可愛い。白の薄手のアンサンブルニットにパステルブルーのふんわりしたプリーツスカート、エナメルのパンプスを合わせた彼女はお化粧もぬかりなく確かにこのまま合コンに行っても決して浮かないだろう。

対して、優実が量販店で買った白ブラウスとグレーのパンツスーツは若干サイズが合わないことに気付いてはいるが頓着しないため、もう2年は着続けている。このスーツの魅力は、値段が安いこと、座っても下着を気にしなくていいこと、動きやすいこと、ただその点につきる。

亜紀は3ヶ月前に前の恋人と別れたばかり。肉食の彼女は別れてからすぐ、積極的にいくつかの会社の若手有志で開かれる『異種業飲み会』に参加していて今や社外の友達も多い。今日は人数が足りないからどうしても来て、金曜で翌日の仕事にも差しさわりないでしょ、来週ランチを奢るから、と頼み込まれてまったく興味がないというのにも関わらず、しぶしぶ参加することになった。

「優実が久々に合コンにくるから、井上も今日来るらしいよ」

「井上くんが?」

その名前を聞くだけで、どきんと胸が高鳴る。

井上 雄大は同期で、同じ営業部のエースでもある。国立大学出身で、端正な容姿をあわせ持つ会社一のモテ男だ。正直彼ほどの人材が何故今の会社で満足しているのか不思議に思うこともある。大企業でバリバリ働いていても、まったく遜色ない男なのだ。同期だから気安く話しているが、同期でなかったら優美の性格では怖気づいて喋ることさえできなかったと思う。

さっきまで隣の席にいた同期の横顔を思い浮かべる。営業部のエースの彼はまだ残業中だろう。

「そ、井上~。今までどんなに誘ってもめんどくせえって言って絶対に来なかったのにさ、優実が来るよていったら即答だったよ」

亜紀は何故か前々から雄大が優実に気があると思っているようだ。雄大とは仕事のこともありよく話す。仕事の仕方を見ているとその人となりがわかる、とは誰が言ったのか。雄大の仕事は視野が広く、公平で的確。一緒に仕事をしているうち、いつしか優美は、彼の外見の華やかさではなく、彼の内面に惹かれていた。けれど彼が振り向いてくれるわけはないと、その気持ちには蓋をして、見ないふりを決め込んでいる。

「前から言ってるけどさ…ないって」

「あるったらある。同期飲み会でも井上絶対優実の隣に座るじゃん、会社の飲み会でも絶対優実の近くにいるじゃん、そもそもいつも優実のことばっか見てるじゃん!!あんなに分かりやすいのに、本人に伝わってないってある意味可哀そう…」

「同じ営業部だから話しやすいだけだって」

「ああいう男が目的もなしにそういうことはしない!成果のために最短距離を走るやつだよ、あいつは」

亜紀の口調に熱が入る。定時で仕事が終わった2人であるが、いろんな会社の有志が集まる合コンは遅めの開始時間が設定されている。始まるまでにまだ3時間ほどあるため、ひとまずこのコーヒーショップで時間を潰すことになったのだが、時間が来るまではずっとこの話を聞かないといけないのかもしれない…。

「その割には3年放置されてるけどなぁ…」

この話をもうこれで切り上げるべく、優実は冗談めかして、小さく呟いてみた。亜紀はにやっと笑って、

「それは優実に隙がないから、様子を窺ってるだけだって。試しにちょっとでも外見を変えてみたら他の男に取られる!って絶対に焦って寄ってくるって」

と、とんでもないことを言い出した。

外見を変える…

確かに優実は、外見を整えることに興味がまったく持てない。佳織が自分の美貌を生かす手段を知っているのとはまったく違う。なぜなら昔から優実がどんな髪形をしても、どんな服を着ても、どんな化粧をしても、誰からも何の反応もなく、結局みんな美しい佳織のことしか見ていないから、すっかり興味をなくしてしまっていた。それはずっと変わらず、地元を離れた大学時代も優実はいつも地味で目立たない恰好ばかりしていた。

「優実は肌めっちゃ綺麗で、瞳も薄茶色で大きいし、鼻筋も通ってるから、ちゃんとすれば絶対に3倍は綺麗になる!」

亜紀は出会った当初から言ってくれていることを今日も熱弁している。携帯を開いて何かを検索していたが、

「私がいつも行ってる美容院、今から飛び込みでいけるから、カットだけでもしてもらおうよ!ここから近いし、1時間くらいで終わるよ。クーポン出てて安くなるし」

「え・・・」

「てか予約しちゃった~よし行くぞ!今すぐ行くぞ!!」

「えええ」

謎の使命感に燃えている亜紀に半ば強引にひきずられて、コーヒーショップを出る優実なのであった…。

しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】遅いのですなにもかも

砂礫レキ
恋愛
昔森の奥でやさしい魔女は一人の王子さまを助けました。 王子さまは魔女に恋をして自分の城につれかえりました。 数年後、王子さまは隣国のお姫さまを好きになってしまいました。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?

江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。 大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて…… さっくり読める短編です。 異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

お姉様の婚約者を好きになってしまいました……どうしたら、彼を奪えますか?

奏音 美都
恋愛
 それは、ソフィアお姉様のご婚約を交わす席でのことでした。 「エミリー、こちらが私のご婚約者となるバロン侯爵卿のご令息、オリバー様ですわ」 「よろしく、エミリー」  オリバー様が私に向かって微笑まれました。  美しい金色の巻髪、オリーブのような美しい碧色の瞳、高い鼻に少し散らしたそばかす、大きくて魅力的なお口、人懐っこい笑顔……彼に見つめられた途端に私の世界が一気に彩られ、パーッと花が咲いたように思えました。 「オリバー様、私……オリバー様を好きになってしまいました。私を恋人にしてくださいませ!!」  私、お姉様からご婚約者を奪うために、頑張りますわ!

婚約者が肉食系女子にロックオンされています

キムラましゅろう
恋愛
縁故採用で魔法省の事務員として勤めるアミカ(19) 彼女には同じく魔法省の職員であるウォルトという婚約者がいる。 幼い頃に結ばれた婚約で、まるで兄妹のように成長してきた二人。 そんな二人の間に波風を立てる女性が現れる。 最近ウォルトのバディになったロマーヌという女性職員だ。 最近流行りの自由恋愛主義者である彼女はどうやら次の恋のお相手にウォルトをロックオンしたらしく……。 結婚間近の婚約者を狙う女に戦々恐々とするアミカの奮闘物語。 一話完結の読み切りです。 従っていつも以上にご都合主義です。 誤字脱字が点在すると思われますが、そっとオブラートに包み込んでお知らせ頂けますと助かります。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

処理中です...