無能な婚約者の代わりに領地を運営する私に婚約破棄を言い渡すなんて〜実家で悠々自適の生活を送らさせて頂きます

念願の再会

領館から飛び出した私達はひとまずサーニャが住んでいる家に向かった。

初めて見るサーニャの妹のモニカはキリッとした表情のサーニャとは打って変わって、とても儚げで可愛らしい少女であった。

モニカに事情を説明して、二人が生活するにはひどく狭い家から、必要なものだけを大急ぎで支度してもらった。

そうして3人の準備が整ったら、いよいよオンボロの馬車に乗り込んで町からでた。

幸運にも旅をしている間は天気が崩れることがなく、順調に道を進んでいくことができた。

そして、馬車の旅は5日で終わりを迎えた。

ついに私の領館がある町が見えたのだ。


先ほどから私は、私の生まれ育った町についてひたすら話していた。

どこの料理屋さんのどの料理が美味しいだの、服屋さんはあそこがおすすめだの。

町の外は一人では危ないけど、ちょっと30分ほど歩いたところに綺麗なお花畑や泉があってピクニックをするには最適だから今度一緒に行こうねだの。

自分でも久々の実家にはしゃいでいるのはわかっているけど、ちょっとだけ自重をしてもすぐに二人に自分の領地のいいところを紹介したくなる。

それをサーニャはもちろん、私よりも年下のモニカでさえも優しい笑顔を浮かべながら話を聞いてくれた。

特にモニカは家で療養している時間が長いから、余計にいろんないいところを紹介してあげたくなってしまった。

だけど、いよいよ町が視界に入ると先ほどまで饒舌に話していたのが嘘のように馬車が静まり返った。

私は町の門が近づいてくるのをただ黙って見続ける。

そうしていよいよ私たちがのる馬車が町の門へと辿り着いた。

初めはオンボロの馬車を不審そうに見ていた門番も、中から私が顔を出すと打って変わって私の帰郷を喜んでくれた。

門を抜けると、私が出て行ってからあまり変わっていない町を眺めながら実家への道をいく。

領館までの道のりを今か今かと思いながら馬車はゆっくりと進んでいく。

ここまできて急に不安に駆られる。

もし家族になぜ帰ってきたんだと言われたらどうしよう。

私のことよりもお金の心配をされたらどうしよう。

きっと大丈夫なはずだと思いながらも目をぎゅっとつぶって俯いてしまう。

そんな私の心情にも関係なく、馬車はついに領館に到着した。

不審な馬車に緊張感を高める門番に向けて、馬車を降りながら声をかける。

「ヘレナ・ブルームです。お久しぶりですねタルコット」

そう言って私が家を出た時から変わらず私の家を守ってくれているタルコットに笑顔を向ける。

「ヘレナお嬢様！」

私の突然の帰郷に驚くタルコットは持っていた槍を危うく落としそうになりながらも私に礼を行う。

そして大急ぎで私の帰郷を家族に伝えるため走り出していく。

門番はいいのかしら？と思いながら馬車から荷物を取り出し、サーニャとモニカを連れて我が家へと入っていく。

トーマスの領館よりも小ぶりだが温かみがある我が家のドアを開ける。

玄関に入ると、普段なら絶対にしないようなドタドタとした音が奥の方から聞こえてくる。

そしてドアを大きく開け放って私の名前を呼んでくれる人たちが現れた。

「ヘレナ！ヘレナ！！よく帰ったな！」

そう言って私のことを大きな腕で抱きしめて涙を流してくれるお父様。

そしてお母様も私のことを抱きしめ、頭を愛おしそうに撫でてくれる。

「お父様、お母様…ただいま帰りました！」

私の不安が間違いであったことは明らかであった。

何も言わずに突然帰ってきた私のことを、不審がることなくただ抱きしめてくれる両親に愛されていることを実感した。

再開をひとしきり喜び合っていると、奥のドアが開き車椅子の女性が現れた。

「テレザ姉様！」

両親のことを置いて、姉様の元に走る。

そして最愛の姉を胸の中に抱きしめ、ひたすらにテレザ姉様と呼び続ける。

「ヘレナお帰りなさい。あなたが帰ってきてくれて本当に嬉しいわ」

そう言ってテレザ姉様は私のことを優しく抱きしめてくれた。

胸の中から、ずっと会いたかった人が私の帰郷を喜んでくれている。

そして私の背中を小さい頃のようにゆっくりと撫でてくれる。

これまでトーマスの元で一人奮闘していた時はずっと張り詰めていた。

それが今、張り詰めた糸が解けるのを感じた。

気づいた時には私の瞼から1つまた1つ涙がこぼれ落ちていく。

テレザ姉様を抱きしめて、ようやく帰ってきたんだと実感する。

「ただいま、テレザ姉様…」

そうして幼な子のように泣きながらやっと姉様にただいまの挨拶を告げた。